その日の航海は最悪の1言に尽きた。それでも何とか到着したその島で、私達は囚われてしまったのだ。
船が破損してしまったので、その衝撃は凄まじかったのは間違いない。その関係で抵抗する事は不可能だったと言うのが、正直な話。
皆は意識がない中で、私とエースは意識を早々に取り戻してたけど……。うーん、捕らえてる人達、どう見ても賊って感じじゃないわよね。
そう思って様子を見てたら、水にさえ困ってる様子のそれに少し眉が寄る。井戸を掘れば解決って話じゃ無いわよね、これ。
困ってしまうわ、どうしたらいいかしら。食料を漁られてるのにエースが何も言わないから、食料あげるのは構わないんだろうけど……。
飢えた村人達が食べたり飲んだりして、ひと心地着いた所で漸く、エースは縛られていたそれを己の能力で燃やして動き出した。それにより怯える人達を見ながら、私も紐を切り自由の身になると皆のそれを解放する。
そうしてからエースを見ていたら、村の人達の為にと盗みを働きに向かうのでそれを眺める。私はそれならと村の状態を確認しつつ、気持ちを落ち着けてからダウジングを開始した。
これは水脈探し等で使われる事の多い手法だけど、実は自分の直感を可視化する方法でしかないので、魔術的なものでは無いのよ。つまり、何か捜し物をする時いくら探しても見つからない時に、心を落ち着けて第六感を頼ってみれば見つかるかもって考えが基礎にあるものなので、その人に合った別な探し方がある場合もあるのだ。
ただし、この身体はナミちゃんのものだし、気象現象を感じ取れる肉体である為に水脈探しでこれを用いれば、百発百中となる訳。なので水場を探すとか、休めそうな洞穴を探したりするのに使う事が多い。
揺れる方向に足を進めてここかと思える所に到着すると、コタツがスリッと寄ってきた。良かった……無事だったのね。
エース曰く暖かいからコタツなんだって。エースのネーミングセンスって……いや、この世界の住人のネーミングセンスに問題があるのかもしれないわね。
そっとその頭を撫でてから、猫だけど掘ってくれるかなととここほれワンワンをお願いしてみると、素直に請負ってくれた。その様子にミハールが呆れた様子を見せつつ、皆に声をかけてくれる。
「あら、起きたの?」
「えぇ、少し前に。皆起きてますよ」
「先生!なんで突然穴掘りと石集め!?」
「ナミが井戸掘るって言ったからだ!働けー!」
「お願いだから、いい加減私にだけ丁寧に話すの辞めてくれる?」
解離性同一性障害を疑いたくなる程に、私にだけ丁寧な対応をする。元々別な海賊団に所属してたからなのか、エースの1番だと思っていた自分が兄弟の次だと知ったが故の嫉妬なのか。
それとも、エースの幼馴染だから……かな。……考えたくないけど、先日シャンクスと再会した時に言質を取られた〝恋人〟とか言うそれの効果とか、言わないわよね?
「ナミはうちの紅一点ですからね。もう1人いるのは女っぽい見た目の単なる猛獣で「誰が、女っぽいって?」」
そう言って喧嘩を始める様子に全くと笑いながら井戸を掘っていたら、エースが色々抱えて帰って来た。団子を配ったりしているのを見て、とりあえず水を作り出してそれも1緒に配るように言えば、助かるなんて言いながら太陽みたいに笑うのだから私は永遠にエースには勝てないだろう。
エースの仲間は総勢20人。エースを含めて21人という構成である。
その内1名、コタツを人と数えていいのかは意見が別れるし、私は本来ならいないからエース含めて20人が正式だけど。……私は知らなかったのだ、エースの仲間の名前とか存在を。
航海士として働いていたのは、本来なら船医でいるべきデュースと他1名と聞いた時の衝撃。それもどちらも本職と呼べない人だったのだから、そりゃぁ航海士の私を仲間に入れる事に皆が反対しなかった訳である。
皆が井戸掘りをしてくれて、エースが村の人達との交流を深めてる間に私は呑気に思い出した曲を譜面に起こして行く。その様子に皆が笑ってくれるけど、趣味だと思ってゆるしてくれてるのが本当のところだ。
その時スカルがそっと近付いてきて、不思議そうな顔をするから私まで首を傾げてしまう。なんだろう?
「その曲……聞いた事がある気がする……」
「え?あぁ、前に出した曲の返歌的なものだから曲調は似て「前に出した曲?」」
重ねられた言葉を受けて、しまったと思ったのは当然だろう。エースのところには賢い人が3人いる。
実質的な副船長であり、船医のデュースと、先程先生と呼ばれていたミハール、そして……今私の目の前にいるスカルだ。スカルの賢さはある意味特殊系だけど、だからこそ怖い。
誤魔化そうとした時、その3人に取り囲まれてしまえば、逃げ道なんて殆ど残されてない。1人ずつなら丸め込めるけど、3人いると誰かしらが痛い所を着いてくるのだ。
「「「エース!!ナミがまたなんか隠してる!」」」
3人の声が重なれば、やめてー!と叫ぶ他なく、叫ぶ私にコタツが虐めるなとばかりに近付いてきてくれるのでその影に隠れる。でもコタツが戦ってくれるのは、エース以外の相手の時である。
つまり、エースが来たらエースの味方になってしまうのだ。理由は簡単、エースが暖かいから。
でも、その気持ちは分からなくもない。エースは暖かいし、エースは優しいし、エースは強いし……。
「コタツの裏切り者ー……」
「ニャー」
見た目に似合わない愛らしい声が聞こえてくれば、私に勝ち目はない。でも、エースに撫でられてるのは狡い。
私もコタツをなでなでしたいよぉ!エースばっかり狡いぃ!
「くっ……可愛い……!!」
「ナミって本当にコタツに弱いよな。んで、今度は何隠してるって?」
そうして問い詰められてしまえば、故郷の為にとお金稼いでた延長で出版もしてたのだと話す事になった。ただデュースからは、ちゃんと話していてもらわないと困る内容だぞと叱られてしまう。
その流れで宝玉だと知られた私は、何故か先生……いやミハールに煌めく眼差しを向けられ、スカルからは遠い目をされてしまった。エースは隠して守らないとこれは不味いとか言ってから、はたと何かに気付いたような顔をする。
「ナミ、まさか……シャンクスは知ってんのか?」
「ん?何を?」
「ナミが宝玉だって事だよ!!」
「知ってるわよ。家族に相談してから宝玉として活動初めて、1年後にシャンクス達に会って……その時ベックに気付かれたのよ。シャンクスは音楽家としてクルーになれとか言うし、音楽家もコックも航海士も測量士も逃がさないって追い回して来るし……大変だったのよ?」
思い出したくもない程の大騒ぎだった。単なる子供だと連れて行くのに問題ありでも、作家なら言い訳になるので子供好きな彼等には美味しい案件だったのだろう。
でもあの頃は家族の事があったし、その後はエースに助けられた後だったのだから、仲間になる筈無かったのだけど。エースはそれでも不安だったんだろうな……だから、あんな妙な事言い出して繋ぎ止めようとしたのよね。
「それ、どうやって逃げてたんだよ。赤髪のクルーから船内で逃げ回れるって相当凄ェぞ?」
「ん?困ったらルーのところに行けば幹部だし、庇ってくれたわよ。ルーの影に入ると見えなくなるもん」
「ルー……って、ラッキー・ルウ?」
エースの言葉に素直に答えていたら、スカルからの突然の問い掛けだ。でも嘘を着く理由も無いのでスカルの言葉に頷くと、謎が解けたと1人で納得してしまうのだからよく分からない。
何がわかったのかは、きっと私には理解出来ない案件なんだろうけどね。なんと言ってもスカルは海賊オタクだ。
海賊に会う為に船に侵入しては見つかり、けれども殺される事無く生き抜いて見せた彼は本当に凄まじい能力を持ってると思う。それに船により雑用の仕事内容は違うから、それをこなせる彼は万能型と言える。
「ラッキー・ルウは仲間内でさえルーと呼ばれる事が多く、本人もその呼ばれ方を気に入っているらしいって聞いた事が……」
「ルーは、ルーでしょ?」
スカルは何を言ってるのか。よく分からずに首を傾げたら、エース、デュース、ミハールが声を揃えた。
「「「犯人はナミか」」」
「犯人って何!?人聞きの悪い言い方しないでくれる!?」
そうしてギャーギャーと文句を言い合っていたら、1人の少女が近付いてきた。どうやらエースに懐いたらしい。
話をしてみれば、お玉ちゃんと言うらしい。少し仲良くなってみれば共に行きたいと言い出したので、その頭を撫でて笑いかける。
ルフィを見てたシャンクス達は、こんな気持ちだったのかな。可愛いなぁ……。
海賊なりたいと、正確にはエースと共に行きたいと言い出して本気なんだと示すそれは凶悪に可愛い。その様子にエースは微笑ましそうに笑い、それを見てエースがお兄ちゃんぶりっ子してるわと小さく笑ってしまう。
どうやらそれは他のクルーも同じのようで、ニヤニヤと笑っている。私としても、どちらのエースもエースだとわかってるけどやはり……私のイメージでは悪戯小僧なのだ。
皆から見れば、普段は手のかかる船長で、何かあった時は頼れるって思ってるらしいけどね。皆の評価も、間違っちゃ居ないけど……ね。
「エース、ここにいる間くらい1緒に居てあげなさいよ。私達は船を直さなきゃ何処にも行けないけど、直すのに役立てる人と役立てない人がいるのは分かるでしょ。エースは役立てない人よ」
「酷ェ!!ナミが虐めた!なァお玉聞いたか?この姉ちゃん酷いだろ?」
「エースが子供みたいになったでやんす!」
「言ってろ……!ったく。じゃァ、少し村の手伝いしてくるわ!……あ!」
お玉ちゃんの言葉に不貞腐るようにしながらも、数歩歩いてから突然立ち止まったエースがくるりと振り向き、ミハールに言う。夢が叶えられるぞって。
それによりミハールが嬉しそうに笑えば、エースは今度こそ歩いて行く。その背を見送っていたら、コタツが擦り寄ってくる。
「ニャー……」
「あら……もしかして、エースが取られて寂しい?」
「ニャー」
是と言われてしまえばそうよねと頷く他ない。なのでその頭や喉を撫でてから、声を掛ける。
「なら、私のお手伝い宜しくね。何かしてれば、寂しくないでしょ」
そうして私達は村の人達が穏やかに安定した生活が出来るように可能な範囲で手を貸して、船を直して出航する事になった。どうしてもある程度の期間を共にすごしたので、双方名残惜しい感じにはなってるけど、連れて行く事も残る事も出来ないのだから別れるしかないのだ。
昔のだけど、故郷とよく似たこの島は……地獄だった。水も汚染されて、だからこそ魚が毒となり、それを食べて育つ獣も毒と化す。
井戸があれば、水だけはまともな物が飲める。他に提供できたのは、紫蘇の種とじゃがいも位なもの。
紫蘇はあれば栄養になるし薬にもなる。よく育つし、年々増えるのは間違いないけど、お腹にはたまらない。
じゃがいもが少し残ってて良かったわ。火を通さないと毒だけど、腹持ちも良いし、何とかなるもの。
そんな事を考えていた時、お玉ちゃんの声が聞こえて来た。視線を向ければエースに泣き縋る姿が見えて、やっぱり昔のルフィとシャンクスを見てるみたいだわと思う。
「エース!連れてってけろ!お願いでやんす!」
「そうだな……お玉が妖艶なクノイチになったら、連れてってやるよ!」
「エースお前、妖艶はいらねェだろ!」
「いや、1人くらい妖艶なのがいた方が良いだろ!」
くノ一が何なのかとか、色々野次も飛ぶ。それでもエースは笑ってそれを受け入れてしまうのだ。
その時誰かが言った。まるで当然のように。
「ナミがいるじゃねェか!」
「なァに言ってんだ!ナミは妖艶なんじゃなくて、凶悪に可愛いって言うんだよ!」
そう言って突然私の腰を抱き寄せるから、何事かと思った直後に重なる唇。深く、熱いそれ身体が熱を持ったけど、つまりそれはエースが上手くなってるって事だろうか。
人前で何すんのよと股間を蹴り飛ばして逃げた私は、エースが本気でそれ以上の事を望んでたなんて知らなかったのだ。まだ身体も出来てないからと耐えていただけだと知るのは、この日から2年近く未来の話。
宝玉だと4人に知られても、だからと言って特に何かが変わる訳じゃないと思っていた私は、その後話を聞いたそれぞれの分野のクルー達から追い回される事になるなんて知らなかったのだ。でも、皆がいて、皆が笑ってて……私達は漸く見付けた居場所で今という幸福を噛み締めていた事だけは間違いない。
いつかまた、必ず来るからと約したそれが叶うのかは……この日より4年後に、エースがその運命を変えられるかにかかっている。エースの約束した言葉が、もしもエースが叶えられなかった時、ルフィにより引き継がれるなんて事を知らないままに、私達は波間の向こうを目指して進み続けている。