白髭の場所は掴んだ!確実に勝てるとは言わねェが、俺は奴を倒す為に海へ出たんだ!
そんな俺にナミは悲しそうな顔で反対するけどよ、俺は何がなんでも挑むつもりだ。そんな話をクルーにした2日後、ナミが姿を消した。
部屋に入った時、いつもの様に海図を描いているとばかり思っていたその背中が微かに違和感を俺に与えた。なんだろうと思い、その肩に触れた瞬間に掻き消えたナミの姿に俺が叫んだのは仕方無かったと思う。
残されているクリマタクトを見て、クルーは声を揃えて多分買い物に行ったんだろうと言うが……。俺が白髭に挑むと言ったから、見捨てて姿を隠したんじゃねェかと俺は不安になる。
「ナミ……」
「船長、多分ナミはあの島に居ますよ」
示されたのは視界に捉えられる所にある治安の悪い島で、でもなんでも揃うと聞いた事があった。そこへ行きたいと言われたのを、つい最近駄目だと答えた記憶がある。
……確かにあの島ならナミなら、文字通り空を飛んで行ける距離だろう。ただ、もしもその島に居なかったら……俺を捨てたのだとしたら、そんな暗い考えが脳裏を過ぎる。
「確認して来る」
「船長!ナミが本気で出て行くなら、クリマタクトを置いて行く筈は無いと思います!だからっ!」
「……ありがとう。そうだな、少し捕まえてから話してみる」
「早く連れ帰ってくださいね。ナミが居ないとサイクロンとか、色々不安なんですよ」
明るく見送ってくれるクルー達に笑って、俺はナミを迎えに行く。島の中を歩き出してみれば、食材や宝石が並んでいて、確かにナミは喜びそうだと思う。
本も見た事の無い物が並んでいて、ナミが瞳を輝かせて買い物している姿が見えた気がした俺はホッと息を吐き出した。捨てられたとかじゃねェなら、良いか。
その時ふとナミの匂いを感じて顔を上げると、ナミとはタイプの違う美少女が歩いていた。匂いは同じなのに、別人にしか思えない姿をしているから何だろうと思う。
しかしよく見れば、腕にナミが姉から貰ったと言っていたブレスレットをしているのが見えた。それにより変装してるナミだと判断する。
確かあのブレスレットは纏められた荷物の中に、手紙と1緒に入ってたと言って笑っていたな。そんな事を思いながら入って行った店の前で待てば、暫くして出て来たそれが俺を見て顔色を変えた。
無言で捕まえてやれば、どうして分かったのー?と騒ぐ。だが……その匂いで分かるし、何よりそのブレスレットだよなと思う。
シンプルすぎて他ではなかなか見ないそれをナミが外しているのは風呂の時位だろう。後は、俺が抱く時に外させるくらいか。
部屋に閉じ込めて反省を促してみたのは、口喧嘩になれば俺が負けるのを分かっているからだ。だからあえてあまり話さずに部屋に閉じ込めたが……大丈夫だろうか。
何か異変があれば騒ぐだろうとは思うし、それ程酷い海域でもない。それでも、ナミを閉じ込めた事で俺の方が不安になる。
そんな俺にクルーは笑うけどよ、仕方ねェだろ。ガキの頃から俺は、ナミに勝てた事なんかねェんだからよ。
夜になり部屋に戻ると部屋の片隅に巨大な箱が置かれていて、ナミは机に向かって海図を描いている。今度は本物で、インクと蜜柑の匂いがする事に少しホッとした。
部屋の隅にあるそれに手を伸ばせば、中身は小さな箱が大量に入っていて何かのイベントもあるのかと気付く。ナミは案外イベントとか好きだから、その為に買物に行ったのかと。
「ナミ」
物を書いてる時は聞こえない事も多いから少し不安だが、とりあえずと思って声をかけると手を止めてペンを戻すと俺をじっと見詰めてきた。それから困ったように笑って、スっと立ち上がると俺の頬に触れて来る。
「どうしたの、エース。怒られてるのは私の筈なのに、どうしてそんなに泣きそうなの?」
「そんな顔、してるか?」
「えぇ、私を初めて抱いた時みたいな顔してる」
……どんなだよ、それ。そんな情けない顔して抱いてたのか、俺は。
「私に嫌われるんじゃないか、泣かれるんじゃないかって、不安になって泣くの我慢してる顔だわ」
「……なんでも、お見通しだな」
「私はね、エースの事、ちゃんと好きよ。だから、そんなに不安にならないで。今回の買い物も、本当はエースに喜んで欲しくて出かけたのよ?」
どう言う意味かとナミを見ていたら、もうって笑ってからナミが机から大きな箱を取り出して来た。それをはいっと渡されて、素直に受け取ると中には玉となっているルビーが、数珠の様に連なったネックレスが入っていて……。
「……バレンタインの日に、渡そうと思ってたのよ。エースは火だから、赤い石をって思って」
「ナミ」
名を呼べば困ったように、照れたように笑ってからナミは窓の外に視線を向けた。その瞳が不安に揺れていて、俺は愛されているのだと知る。
「ルビーには、勝利と情熱の意味があるの。白髭と戦って欲しくなんか無いけど……でも、エースは戦う。だから、せめて何かできないかなって思ったのよ」
そっと抱き締めれば震える小さな体。いつの間にか、身長差も出来ている。
昔は頼もしかったその背中や肩は、小さく細くなり、弱々しい印象を与えるようになった。なのに、今も俺はナミに守られている。
肉体は俺が守れるようになった。でも、心はいつも、今でもナミに俺が守られている。
「ナミ……」
「……エースは、狡いわ」
そう言いながらも俺のキスを受け入れて、今夜も俺のそれを受け入れてくれる。それから、バレンタインはチョコだけで我慢してよねなんて笑う。
我慢も何も、先に貰っちまったんだから、チョコだって貰えるのがおかしいくらいだろうに。そう思いながらも、俺はナミを心ゆくまで堪能した。
それから数日後の朝、ナミは全員にチョコを配りながらニンマリと笑った。それに気付かずに受け取ったクルーは大喜びして、ナミを見て固まる。
「買物に行った時、エースの事宥めてくれてありがとう。でも、それとこれとは別問題。……皆、ホワイトデーは3倍返しよ!」
「「「ぬァにィー!?」」」
それからナミは悪戯に笑うと、エースもねなんて言いながら俺には皆より少し大きな箱を寄越した。……3倍のチョコを返せって事か?
首を傾げる俺に、クルーは笑う。優しく笑うナミは、俺が不安そうにしているとその度に包んでくれる。
俺は、幸せ者だな。そう思いながら笑えばそれが伝わったかのように皆も笑う。
その日の夜、近くの島に船を泊めた俺達は数人の見張りを残して街へと繰り出した。街の中でもチョコを渡したり貰ったりしているのが見えて、意外と広まってるんだなと思った時、1人で何処かへ歩いて行くナミを見付けて追い掛けた。
「ナミ!」
「エース?皆と呑みに行ったんじゃないの?」
「……ナミが、見えたから」
「馬鹿ね。エースが居ない船に私が残ると皆が〝船長と喧嘩したんですか!?〟って心配するから、宿取ろうとしただけよ。……1緒に帰る?」
「いや、1緒に泊まる」
そう言ってナミを担ぎあげれば、ナミも意味を理解したらしく真っ赤にその顔を染めて、小さく呟く。
「優しく、してね……」
「……努力、は、する」
今の言葉だけで痛いくらい元気になったんで、自信ねェけど。そんな俺にナミは、小さく膨れる。
「この間も〝もう無理〟って言ったのに、続けるから私次の日動けなかったじゃない!優しくしてくれないなら、1緒に泊まらないわよ!」
「……そりゃ、俺は悪くねェよ」
「なんでよ」
「ナミが可愛いのが悪ィ」
俺がこういう事を言うと、ナミは喜ぶどころかたまに悲しそうにする。顔は笑ってるけど、瞳が泣いてる時があるのには気付いてるんだ。
部屋に連れ込んでから、どう言えば伝わるだろうと思いながらその服を脱がせればナミもまた俺の服を脱がせてくれる。どうしてだろうな、ナミはいつでも俺に甘い。
「ナミは、可愛いって言われるのが、嫌いか?」
「そんな事ないわよ。この体可愛いもの」
……これだ。ナミはいつも〝この体〟と、まるで他人事のように言う。
なんだろうな、この違和感。どう言えば伝わるだろう?
「俺が可愛いって言ってるのは、その言動なんだけどよ……分かってるか?」
「へ?」
「ナミの、ちょっと抜けてる所とか、多分無意識でだろうけど俺を煽ってくる所とか、そういうのを可愛いって言ってんだ」
俺の言葉にナミは驚いたような顔をしてから、ジワジワとその顔を赤く染める。そして、俯いて、小さく喘ぐように言葉を口にする。
「顔が、可愛いのも、肉体が綺麗なのも、知ってるから……それだと思ってた」
「俺は、まァ見た目も好きだけどよ。俺はナミの眼にホレたんだ。……今は、ナミの全てが好きだけど、感情を隠せないその瞳に、優しい瞳に惹かれてる」
「エース……」
そう言ってナミは泣き出した。それは、下手な宝石よりも綺麗に思えて、俺は息を飲む。
「ナミを……愛してる」
もう、この先は言葉なんていらないだろう。そっと口付けた俺をナミは優しく受け入れてくれる。
その状態で胸を、腰を、そっと撫でればビクリと反応をするから俺は精一杯の優しさで触れる。指先から俺の想いが全て、伝われば良いと願いながら。
Happy Valentine……互いの心の枷を互いに壊して中に入り込む。もう、他の誰も見えないと言わんばかりの2人に、この先も幸せであれと空から月がそっと2人を照らし出す。