エースに助けられ、エースの航海士となり……その、色々あって恋人にもなった。突然襲いかかってきておきながら、泣きそうな顔してたのだけは今でも理解に苦しむけど……結局受け入れたんだから、私もエースの事が好きだったんだろうと思う。
白髭と戦うのだと意気込むエースに、ネックレスをプレゼントしてその時を待った。そうしてイザその戦いとなった時には、先に現れたジンベエ親分と5日の死闘を繰り返していて、私は泣きそうになるのを耐えるのが精一杯だったの。
エースが戦う姿を見ているしか出来なかった私達の前に、突如現れた白髭海賊団。それでも心折れる事無く挑み掛かる皆。
その中で、1人ずつ倒れるどころか1瞬で半数が戦えなくされて焦ったエースの声が、まだ耳の奥に谺してる。その後満身創痍のエースを庇おうとした私をエースは許さず、結局私達は全員エースに逃がされた。
その翌日、エースを奪い返す為にと無謀にも挑んだ仲間達について行き、皆と共に囚われた。男の中に唯一混ざっていた女の私については取り扱いで揉めた様子だから、申し訳無かったなと思う。
そして、エースの心が落ち着くまではと牢に押し込められていても、食事を運んでくれる人達に感謝しつつ過ごさせてもらった。それでも私はそれを口にする事が出来ずに衰弱して、運び出される事となったのだけど、奥にひっそりと座ってたから中々気付かれなかったのよね。
マルコさんに治療されながら叱られて、それでも食事を出来ない私にマルコさんとサッチさんがエースにそれを伝えようとしたのを必死で止めた。その事が、まるで昨日の事のように思える。
この海賊団の人達は、優しい。エースの周りには、優しい人が本当に多いわ。
あれから、どれくらいの時が流れただろう。エースがスペード海賊団全員と共に、白髭海賊団の1クルーとなったと聞かされたのは、今朝の事。
だからこそ、私は今病室を抜け出してエースの元へ向かっている。エースには、無事に生きていて欲しいから、これしか私には選べないの。
「ナミ?」
「エース、決めたのね」
「……なんで、そんなに痩せて……あ、食事が〝出来なかった〟のか!」
「ゴメンね、エース。食べようと、努力はしたのよ?」
その瞬間、エースに抱き締められて、その腕の強さに体が軋んだ気がした時私は弱りきっている自身を自覚した。だからこそ、告げなければいけない。
「エース、もう大丈夫ね。ここならばエースも片意地はらなくていい。だから、私の事は、もう忘れて……元気でね」
「何言って……」
「ここ〝白髭海賊団〟は女の戦闘員は置かない。そうなれば私は乗せてもらえないわ。それに、こんな状態じゃ邪魔にしかならない。だから、エースはこの先へ進んで」
「ナミ?」
「別れましょう。エース」
私の言葉にエースから覇気が発せられる。それによりグラつく視界の中で必死に意識を保っていたけど、どうやらそれは私にだけ向けられているようで……。
「エース!何してんだよィ!?」
「別れるなんて、離れるなんて許さねェ!ナミは、ずっと俺の……!」
何かを言わなくてはと思うのに、声が出せない。私は、エースの足枷にはなりたくないのよ。
比喩ではなくその身を燃やすエースにそっと手を伸ばして抱き着けば、エースが慌てたのが分かる。熱さより先に痛みが来るけど、モビーを燃やさせる訳にはいかないから落ち着いてとの思いを込めて抱き締める。
「ナミ!俺のこれは本物の火だって分かってんだろ!離れろ!」
「……ェ……ス……」
「ナミ、さっき喋ってたの、相当無理してたな!?そんな状態で何処に行こうって……!」
その時海水が頭の上から降ってきた。見兼ねた誰かが掛けてくれたらしい。
「エースは落ち着け。そして、ナミは病室に戻るよぃ」
「わた……し、は」
「喋る事もままならない位に弱ってて強がるなぃ!回復したら話を聞いてやるから今は治せ!船医として、それは譲れねェよぃ」
え?……マルコさん、船医なの!?
万能型だから、クルーじゃない私の事を任されたんだと思ってたので、それに驚かされる。そんな私にマルコさんが低い声で問い掛けてきた。
「喰わなかったんじゃなく、喰えなかったんだとエースは言ってたねィ。詳しく聞かせてもらおうか」
それに対して私が顔を背けると、エースがひょいと私を抱き上げて病室って何処とか聞いて運び始めた。私を抱き上げたエースの顔が泣きそうに歪んでいたから、私は抵抗する事が出来なくなってしまう。
結局私はエースに甘いのだ。エースが笑うなら、それが正解だと思ってしまうくらいには、エースが大切なのよ。
運び込まれた直後に寝かされ、マルコさんが私の治療をしてくれてるのを眺めていたら、エースが私の代わりに言葉を紡ぎ出す。トラウマがあって、自分で作った物じゃないと食べられないのだと。
それを聞いたマルコさんが私を労わるように見てから、エースを蹴り飛ばした。それにより壁に穴が空いてエースは甲板まで吹き飛ばされる。
「エー……ゲホッ」
「ナミは大人しく寝てろィ」
慌てて体を起こした私をマルコさんは簡単にベッドに押さえ込み、真剣な顔を向けてくる。それから1度だけ眼を伏せて、私に言う。
「エースの為に、死ぬつもりだったのかよぃ?」
私がそれに曖昧に笑えばマルコさんは私の額を軽く指で弾いて、そっと離れた。それから音を聞き付けて来たメンバーを見て、その中に混ざっていたサッチさんに言う。
「ナミには果物持って来いよぃ。詳しくは後で話す」
「了解。んで、この壁は?」
「エースにお灸据えてから直させるよぃ」
エースは何もしてないし、悪くないと声を出せない状態で唇だけ動かしたら、マルコさんが眉を寄せて言い聞かせるように言葉を口にした。それは、私達が取り返しに来たその日の内に、エースにはその事を伝えてあったのだから、私の事に関して気を使うべきだっただろうと言うもので……。
私はそれに首を横に振る。だってエースにとって、この船は最初敵船だった。
そんな中でエースの弱点たる私が食事も出来ないなんて、そんな言葉をエースが口に出せる筈はないし、エースの抱えているものを思えば全てを忘れてしまっても、不思議はない。だから、エースを責めないで……!
必死でそんな事を伝える私に、隊長達はエースと私を見比べて困ったように笑うとエースに大人になれと言って小突き始めた。それを心配しながら見ていたら、マルコさんにいい子に寝てないとエースをシバキ倒すぞと脅されて、私は安静に寝かされる事となった。
それから数日後、声を出せるようになった私が戦闘員の女は乗せないのでしょうと言ったら、私程度では戦闘員として見なせねェと言われてしまう。そのやり取りを聞いていたエースが、私を見て納得した様子を見せた。
同時に呆れたような、寂しそうな瞳で見つめられてしまったけれど。そうよね、私は〝子供として見れば強い方〟でしかなかったんだもの。
「ナミは俺の為に、この新世界で1人になるつもりだったのか」
「……それは」
「ナミが強いのは知ってる。1度も勝てた事ねェからな。でもよ、ナミは自分の価値知ってくれよ。俺がこれ迄どんだけ頑張って、隠して守ってきたと思ってんだ?」
いや、子供の頃はそうだったけど、今戦えば私負けるわよ?何度言っても、本気じゃないナミに勝っても勝ちにならねェなんて言われてしまうけれど。
エースの言葉は半分くらいしか理解できないけど、でも、エースにはここに居てもらう必要があるから。私は私の決断を間違っていたとは思えない。
そう思って顔をあげたら通じたらしくて、エースに無言で抱き締められる。そして、ナミが戦えるのは、黙ってろよなんて囁かれる。
「……多分、この白髭においてみれば、私の実力は知られても非戦闘員よ。冷静になれば分かるわ」
「……いやいや待てって、弱くねェんだぜナミって。それは自覚しろよ?」
「弱いわよ。もう、エースに勝てないし……」
「俺に勝てないと弱いとか、ナニソレ。俺最弱扱い?」
落ち込むエースにごめんねと思うけど、エースは他の隊長の誰よりも弱いのは分かってるから。でもこの時白髭海賊団の強さの最低基準が隊長格であった事が、大いなる間違いだとは、私は気付いていなかった。
それから私の扱いはエースがこれ迄書類仕事と航海士、測量士を1人でやってたと伝えた為に、マルコさんのサポートとして乗る事になった。寝室は個室の病室を明け渡され、住環境が変貌した。
結局は書類や本を置く為だとの事だけど、周り中からは女版マルコなんて言われて居るらしい。2人で仕事に明け暮れサッチさんとイゾウさんに叱られ、エースに泣かれる日々が始まるとは、この時はまだ知らなかった。
「ナミ、別れるとか、もう言うなよ」
「エース?」
「次に言われたら、俺はナミを多分、相当傷付けちまう。俺は、ナミを手放せねェ」
エースの部屋なんてものが無くて良かったと、真剣なその瞳を見て思わされる。それくらいその顔は真剣だった。
それが愛故であれど、きっと次があればエースはナミを殺してしまうだろうと、その会話を偶然立ち聞きしてしまった兄達は心配気に顔を見合わせる。その後エースが隊長に昇格する迄、エースはナミに触れられるチャンスが減り、つらそうにしている姿が時折見られたようだが、ナミはその事に全く気付いてはいなかった。