元々病室だった部屋の1つがナミの為の部屋になったと言うのに、俺がその部屋でナミを抱く事は出来ずにいる。……個室だぜ?
普通なら、可能だろう。だが、その部屋には大量の本と資料がある。
その上ナミが宝玉だと知った隊長達が、当然のように入り浸っている。更にはマルコと顔を突き合わせては難しい話をしているのだから、不可抗力と言えるだろう。
そうなると夜だからと部屋に行っても、資料が燃えるといけないからと言ってナミが部屋から出て来ちまう。ただ……たまに無理に部屋に入り込んでナミを寝かせないと、ナミが〝眠れない〟現実は変わってねェから1緒のベッドに入る訳だ。
だが、結局そんな弱ってるナミを抱ける筈も無くここまで来た。……体だけが目当てな訳じゃねェが、俺は健全な若者な訳だよ。
惚れた女が近くにいて笑ってるのに、1緒のベッドに入っても抱けねェ所かキス1つするのも難しいとか……本気でキツイ。そんな状態でマルコとかイゾウとかサッチとかハルタとかその他諸々と、楽しそうに難しい話してるの見るとだな……。
苦しい溜息が溢れたその時、ナミの部屋にニュースクーが入るのを見て、俺も部屋に向かう。部屋には確かに俺が少しでも慌てたりして能力の制御に失敗したら、中にいる人間は俺やロギア系の人間以外は死ぬだろう。
そう思わされるような量の紙が置かれているから、ナミの心配も分かるんだよな。実際目の前に積み上げられている資料は、崩さない為には呼吸さえ止める事を余儀なくされそうな程だ。
崩さねェように緊張しつつ気を付けつつ進めば、ベッドが見えて来てそれに腰掛ける。ベッド以外が、紙に埋没してる部屋ってどうなんだよ。
冷静に部屋を眺めれば、ベッドと机、窓の他は壁は全て本棚でその本棚の前には資料が積まれているのだから、恐ろしいものがある。そんな中でナミはニュースクーに菓子を渡してその羽を優しく撫でていた。
ニュースクーは慣れたもので、この部屋の中でも問題無く行動しているのだから、俺も見習うべきなのかも知れねェな。……俺も、構って欲しいとか言ったら、ナミはどうするだろうか。
そのまま少し様子を見ていれば、ニュースクーが居なくなったのにナミは俺に気付かずに箱を見ていて、どうしたのかと思う。だが、その箱にノジコと書かれているのを見れば全てを理解出来る。
〝ナミを泣かせてやって〟
そう言っていた姉の姿をよく覚えている。アレが相手じゃ、今の俺に勝ち目なんかねェよなぁ……。
そんな時俺の唇にナミの指先が触れて、同時に押し込まれた物を無意識で噛んでいた。柔らかい上に甘い。
「特別よ。私がノジコから貰ったマシュマロなんだから」
ここで、別に欲しいとか言ってねェとか言ったら、悲しませるのは火を見るより明らかで……とりあえず礼に聞こえそうな言葉を向ける。それにそうでしょーと笑うから、適当に頷くとナミがカップを差し出して来た。
それに口を付けるとなんとコーンスープで……。キッチンとか、この部屋に無いよな?
紙に埋もれたこの部屋で、どうやって用意したんだと聞こうとして視線を向ければ、窓の外を眺めて楽しそうに雲を眺めるナミがいて声を失う。いつもそうだ、ナミは海とか山とか、森とか、空とかそんな当たり前の風景を魅入られたように見詰める。
……俺を見ろよ。俺は、ガキの頃からずっと……ナミしか見てねェぞ。
カップを机に置いて俺は部屋を出た。このままこの部屋にいたら、ナミを泣かせそうな気がしたから。
外に出ると自然と溜息が零れ落ちて、そんな俺にイゾウが声をかけてきた。少し心配そうに、同時に我儘な子供を見るような眼差しで。
「ナミの部屋から出て来たにしては、暗い顔だね」
「そりゃ……な」
「1昨日もナミと1緒に寝てただろ?何が不満だね。ナミはお前さんには優しい超えて激甘だろ」
「……激甘だよ。俺が望めば多分、迷わず死んでくれるくらいにな。でもよ……だからこそ手を出せねェんだよ」
その瞬間イゾウが黙り、暫くの後変な声を出した。その声も、表情も真剣で俺は嘘をつく事も誤魔化す事も出来ないと悟る。
「エース、詳しく聞かせろ。まさかお前ェさん、ナミを抱いてねェのかい?」
「抱けるかよ。寝かせなかったらナミが死ぬ」
「比喩じゃ無さそうだが、そりゃどういう事だね?」
「ナミは、1人だと寝れねェから……ここに来る前は常に1緒のベッドだったからさ、顔色の悪くねェ時に求めて来たんだけどよ」
そう言って言葉を切れば、イゾウは無言で続きを促して来る。それに肩を竦めて俺は言葉を続けた。
「今の部屋だと俺が感情乱したら、ナミ毎全て燃えて無くなっちまうから、そうもいかねェ。だから……ナミの顔みてヤバそうだと部屋に入って1緒には寝るけど、手は出せねェよ」
俺の言葉にイゾウはそれはと言って黙り、そのまま少し考える様子を見せる。どうしたのかと様子を見ていたら、イゾウが言った。
「……親父に話して食糧補給に島に向かって貰うから、数日耐えな」
「なんだよ、数日って」
「……ホワイトデーだよ。お前さんがここで暴れ始める直前に、バレンタインの日にチョコ貰ってるだろ?」
「貰ったけど?」
「その返礼をする日さね」
「……あ!3倍返しだ!」
ナミがそう言っていたのを思い出して声に出せば、じっと俺を見てから、何を貰ったんだと聞かれた。それにネックレスとチョコだと答えながらそれに触れたら、ホテルでも連れてってやってゆっくりして来るといいなんて言われる。
ルビーの玉でできたネックレスなんざ、いくらするのか考えたくも無いなんて言われれば確かにと今更思う。ナミが俺に適当な物を渡すとも思えねェもんな。
だけどそれからもナミは基本的にいつもマルコ達といて、忙しそうにしているからなんとなく話しかけるのも難しい。……俺のせいで死にかけたりとか何度もさせたし、我儘言える状態じゃねェのは分かるんだけどよ。
そんなある日、マルコの部屋に用があって行くとソファで丸くなって寝ているナミを見付けて、衝撃を受ける。今までは俺の傍でしか寝なかったのに……。
「エース、どうしたぃ?」
「ナミが、寝てる……」
「隈が酷かったから、飲み物に1服盛っただけだよぃ」
「え?薬!?」
「仕方ねェだろぃ。まぁ、眠る直前に俺の炎見てエースって言ってたから、相当限界だったんだろうがねぃ……」
寝る時、俺を呼んだのか。それが嬉しいような切ないような気分になって頭を撫でれば、マルコがナミの生体について教えろなんて言ってくる。
同じ人間だと言う俺に、既に普通の人間じゃねェよいと叱られた俺は、ナミについて説明する。ナミは鎖の音で情緒不安定になる事と、俺が近くにいないと眠れない事、何かに集中すると飲食忘れる事、更には信頼出来る相手からの物しか飲み食いできないと言う事を伝えた。
それによりマルコは大きく頷くと、ナミの部屋を1度整理してやるから基本的に夜は1緒に使えと言われた。それは船医としてであり、隊長としての判断だと表情と気配から理解出来て拒めねェ。
でもよ、それって不味いだろ。不味いよな!?
俺、襲うぞ。流石にただ抱き締めて毎晩寝るだけとか無理だぜ!?
俺の理性は現在風前の灯だぞ!俺はナミを傷付けたく、ねェよ……。
そんな俺の様子にマルコは少し驚いたような顔をした。何だと思ったら、妙に感心した様子で声を出されちまう。
「ナミの部屋に入ってくお前には気付いてたが、まさかナミを眠らせてただけなのかよぃ」
「当然だろ。その為に1緒の部屋にいたんだからな」
「その若さで良く耐えてたなぃ」
「……え、まさか毎回襲ってると思われてたのか?」
俺の言葉にマルコが頷くから、襲えてねェからもうひと月近くお預けだよと項垂れると肩を叩かれた。……どうやら、慰められたらしい。
その日の内にナミの部屋は資料部屋からナミの部屋に変わり、俺が入ってもとりあえずは雪崩が起きたり燃やしたりするリスクを軽減された。それから俺は夜ナミと寝る事が義務付けられた。
だが陸に着くまで耐えろと、期限を切られて言われているので、何とか理性を保てている。無期限ならもう、襲ってるだろうな。
その2日後、ナミの隈が落ち着いたその日にモビーが島に到着した。それにより俺がソワソワすると、ナミが腕の中で身じろいだ。
「ん……?エース?」
「あァ、起きたか。これから出掛けるぞ」
ハルタからこの島で使える宿泊券を貰っていた俺は、寝起きのナミを急かして表に出る。島に着いたから出掛けようと言えば、ナミは優しく笑ってくれた。
俺はそんなナミの笑顔が好きで、それが見られるならそれだけでいいと思えたが……そろそろ俺、限界なんだよ。そう思いながら書かれているホテルに直行すると、ナミが驚いたような顔をした。
「ここ、高いと思うけど大丈夫?」
「……3倍返しだろ?」
「え?あ、まさか今日、ホワイトデー?」
「おう!だから部屋行くぞ。……ナミが欲しい」
「それ、私が結局あげてるんじゃ?……まぁ、良いけど」
後半は蚊の鳴くような声で言われて、その項まで赤くなってるのを見れば俺に理性が残ってる筈もなかった。宿泊券を見せて部屋に案内して貰うと、温泉がついてるらしいと知りナミは喜ぶけど……。
「後にしてくれ。俺は、ナミが欲しい」
「エース……」
「いつも隊長達といて、俺と過ごしてくれねェし、ナミの事抱けねェし……つらかった」
「ごめんね。気付いてなかった」
素直にそう言って俯くナミは、俺の事を気遣ってくれていると分かる。それに対して俺も、気付いてないだろうと思っていたさと脳内で呟いてから、そっとその唇を塞ぐ。
それに対してナミは、抵抗する事無く俺の好きにさせてくれる。そんなナミをベッドに運んで覆い被されば、ナミは恥ずかしそうに顔を背けた。
そんな些細な仕草にさえ俺は煽られて、その首筋に吸い付く。全身から蜜柑の香りがして、確かに普通の人間じゃねェかもなと思わされる。
ホワイトデーは恋人達の日と言われるが、この日ばかりは耐え続けた末の弟が干からびぬようにと、兄達は離れた船で笑い合う。大切な家族の心と体がいつまでも健康である事を、兄達は願っている。