バレンタインには、俺を守るようにとの願いの込めたネックレスをくれた。ホワイトデーは〝兄達〟が全てお膳立てしてくれて、その上でただナミを貪った。
……俺からナミに、何かをしたって訳じゃねェ所が正直つらい。ナミに何かを、返したい。
俺の中ではナミはずっと理想で憧れお姫様で、なのに戦えば強くて、同時に脆い心を抱えていつも苦しんでる事を知っている。いつも何かを守り、慈しみ、その身を犠牲にして微笑むナミに……俺はもう、何も犠牲にして欲しくないと願っているんだ。
そんな事を考えながら甲板に転がっている俺の頭を、ナミが優しく撫でた。蜜柑の爽やかな香りがして、それに癒されつつ微睡んでいたらナミが小さく囁く。
「愛してるわ」
傷付けて、苦しめて、我儘を言ってばかりだと自覚してる俺にはそれに応える権利があると思えなくて口を閉ざす。俺は……ナミの負担になってねェか?
そんな俺の心に応えるように、ナミはそっと俺の額にキスをしてくれる。それから抱きつかれて動揺しちまう。
ヤバい、心臓の音聞こえてねェかな。って、俺はガキか!?
何度も抱いたのに、何度もその肌に触れて、甘さを知っている筈なのに。ただ、抱きつかれただけで熱が暴れそうになる。
そんな俺に気付かないのか、ナミは甘えるように擦り寄り、寂しそうな声でお休みと囁き眠ってしまう。
……あれ、俺これ動けない系か?
はたと気付いて眼を見開いてみたが、現状ナミは夢の世界にいる様子で、見れば隈が出来ているから起こす事も出来ない。そんな俺の顔に影がかかる。
「何してんだい?」
「……寝てたら、ナミが来て、俺の上で寝たから動けなくなった」
「……寝たフリなんかしてるからさね。ナミを部屋に運んでやんな」
イゾウは呆れたようにそう言うけど、動くのもつらい。それに気付いたのかイゾウは呆れを隠さずに俺を見てから、艶のある笑みを浮かべた。
「俺がナミを寝床まで運んでやっても構わねェが、どうするね?」
「……ナミに触んなよ。なんか、そのまま食われそうだ」
「弟の女に手は出さねェさ。だが、別れたら貰ってやるよ。……頗るつきのいい女だと思ってはいるからねェ」
そう言って揶揄うように笑ってから、1枚の紙を目の前に出され、それを手にするとそこにはオレンジデーと書かれていた。内容を理解するのと同時に、ナミを抱えて部屋に急ぐ。
ナミが起きたら、ビスタに相談に行こう。女の喜びそうな事知ってそうだし。
それからナミが起きるまでと思って襲いたくなるのを耐えて、結局俺も1緒に寝てたらナミが腕の中でもがいてるので目が覚める。離してと言われて、抱き枕みたいに抱くと言うより絡み付いてたと自覚して、ついでだからとそのままナミに襲いかかった。
「あっ……エース!」
「食事までまだ時間あるだろ」
「そう言う問題じゃ……!」
そんな事を言いながら拒まないナミに、結局俺は荒ぶる熱をそのままにナミが気絶する迄堪能した。それから数日後、ビスタにナミの邪魔をしてはいけないと叱られながらオレンジデーならば、その色の服でも贈れば良いだろうと言われる。
「男が服を贈る理由は、ナミなら分かっているだろうしな」
「……なんか、意味あんのか?」
「エースは可愛いな。だが少しは本も読め。……明日、服を選ぶのは付き合ってやろう」
そんな事を言ってビスタは笑いながら去って行き、残された大量の訂正書類に俺はちぇっと言いながら部屋へと戻った。翌日無事にナミへの服を購入出来た俺は14日っていつだっけと思ってカレンダーを見たら、明日だと気付く。
あ、危なかった……。それにしても、明日何処に連れてったら喜ぶかな。
1人で唸っていたら、ハルタがお腹でも痛いの?と声をかけてきて、事情を説明したらなぁんだとつまらなそうに言ってから、じっと俺の顔を見て来た。
「なんだよ」
「エースって、テーブルマナーちゃんと出来る?」
「は?」
「……出来るんなら良いけど、無理ならナミが恥かくからなァ」
「ちょっと、ハルタさん?」
1人で完結しないで俺にも教えてください。そう何故か敬語になる思考と口調のままに思って、声をかけたけど無視された。
そして、立食ならいけるかなんて言ってから、俺を無理矢理説明もなしに着替えさせられると、俺は肩の凝りそうな服装になった。それが嫌でボタンを外して前を開けると、ハルタが低い声を響かせて来る。
「明日前開けたら殺すよ。……明日の目的地はここ。この場所で立食パーティやるから、2人で食事楽しんできなよ。その後2人になってからは脱いでもいいけど、それまでは前閉めてきちっとしてるように!」
地図を見せられながら言われて、よく分からないままに頷けば呆れたような視線を向けながら大丈夫かなと呟かれる。そうして直後に明日また着替えさせてあげるからと言われて開放されたけど、何だかなァ?
そうして迎えた当日。ナミに服をやったら嬉しそうに微笑まれて、着替えたら出かけるぞと言ったら可愛く頷かれた。
それから俺も着替えさせられてナミを迎えに行くと、サッチに花のひとつ位用意しとけよと笑われたけどよ。俺はその言葉に首を横に振る。
「んな事したら、花が可哀想だろ」
「は?」
「ナミが綺麗すぎて、どんな花でも、花が見劣りする」
その瞬間ナミが湯だり、サッチが嫌そうに顔を歪めて、マルコにさっさと行けよぃと蹴られた。そうして出発する時、ナミが綺麗すぎて誰かに取られそうな気がした俺はその体を抱き上げて歩く事にする。
でも、ナミは恥ずかしいとか言って抵抗するから、困っまう。だって、攫われたらどうすんだよ。
「ナミが綺麗すぎて、攫われる気がして不安なんだ。抱いていったら、駄目か?」
「……か、会場の、入口に着いたら、降ろしてね……」
「おう!」
許可を貰えたので頷けばナミは俺に抱きついて、その顔を隠しちまう。でも、確かにそうしていれば狙われにくいかもなと、少し思う。
会場でナミを降ろして、2人で立食パーティとやらを楽しんでいたけど、ナミが離れるのが不安でナミを見たら困ったような顔で常に隣にいてくれた。それからナミは俺に言う。
「今度、テーブルマナーを教えるわね」
「え、いいよ。食えればなんでも」
「良くないわよ。親父様が誰かに呼ばれてそういう席に行く時、親父様がエースのせいで恥をかくかもしれないでしょ。出来るのにやらないのと、出来ないのは違うのよ」
その言葉に親父の為ならと頷けばいい子と言って頭を撫でて来る。少し背伸びしてぽふぽふと撫でられたそれに、気恥しいような気持ちになった俺はおかしくは無いだろうと思う。
オレンジ色のドレスを着て、オレンジ色の髪を揺らして、ナミは笑う。そして、俺に言う。
「帰ったら蜜柑で何か作ってあげるわ」
「え?」
「エースがオレンジデーを知ってると思ってなかったから、帽子直してあげる予定しか無かったのよ。なのに、ドレス貰っちゃったし、デートとか、なんか、初めてだなぁって……だから、何か食べられる物も用意してあげるわね」
何だこの可愛い生き物。でも、こんなに喜んでるのに、連れ去って脱がせたら悲しませそうで出来ねェ。
Happy orange day……君が笑うなら乾涸びても構わないと男が言えば、いつも好きにしてるんだから1日やそこらで大袈裟よ、と照れながら怒る女に男は笑う。今日は1日、のんびりするのも悪くないかも知れないと思いながらも、明日はその分覚悟しろよと呟いた。