※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

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バースデーイベント(光源氏18)side

 これ迄、ナミから貰ったものは多いのに、俺はビスタに選んで貰ったドレス位しか贈った事が無かったと気付く。それによりどうしたもんかなと思う。

 そう思うのは、ナミの誕生日が近いからだ。ガキの頃から、ナミは俺の産まれたその日を祝ってくれていた。

 勿論俺のだけじゃ無くて、兄弟分け隔てなく、産まれてくれてありがとうと優しく笑っての祝いだった訳だが。それでも、ナミは自分の誕生日を1度も祝わせてはくれず、それどころか俺には誕生日を教えようともしなかった。

 ナミに届いた手紙を偶然見ちまった事で、漸く知った誕生日。溺れる程に愛している家族からさえ、1度たりも祝われずに育ったのだと、その手紙で知り……親父に相談という形で話した。

 それに対して親父は、この人数全員の誕生日を祝ってやれねェからと、月に1度その月に産まれた奴らを祝う宴をやってるのが精一杯だと返されちまう。言われてみればそれは当然で、どうしたらいいだろうかと思い俯く。

 二千人近いクルー全員にそんな事は出来ねェし、ナミは隊長では無い。そんな事を考えて落ち込む俺を見ていた親父が、そっと笑いながら静かな声で言った。

 

 「まァ、7月の宴は3日に行えば良いだろうとは、考えてるぜ?」

 

 それに顔を上げれば、悪戯に笑うその瞳に泣きそうになった。愛されて、大切にされてばかりの俺は、きっとここで牙と棘を溶かされちまっただろうと自覚しながら。

 

 「俺、作れる物ってそんなにねェんだけどさ……」

 

 親父にそう言うと、親父は分かったと言って船を動かしてくれる。その向かう先にある島は人のいる島だが、長閑な田園風景が広がるような所だ。

 だからこそ、藁が存在する。親父は本当に俺とナミに甘いと思う。

 ワノ国に行った時、ナミは水を生み出して配ったりしていた。その他に水脈を見付けて井戸を掘らせたしてたんだから、凄いよなと思う。

 俺はその間中ただ、お玉と遊んで、帽子の作り方を学んでただけだったってのに。飯もナミが捕まえろと言った毒入りの獣を、ナミが綺麗な水を使い毒抜きをしてから提供していて、本当に女神かって勢いだったのを思い出す。

 ……親父が行くと言ってくれたら、また会いに行ってやりてェな。とはいえ……妖艶になるには時間が足りねェかと、当時の幼い姿を思い出して小さく笑った。

 そうして到着した島で暫くモビーの修理や物資の補給を兼ねた休憩をして、俺はその間に帽子を作って行く。モビーの1角に作られた蜜柑畑で作業する時、帽子があればもう倒れたりしねェだろうと思えば作るのにも力が入り……また燃やしちまった。

 燃えて消える帽子に、あぁ……と溜息を落としながら新たな藁を手に編み始める。そんな俺に、サッチが飲み物を運んで来た。

 

 「頑張ってるな。だが、少しは休憩しろよ」

 「サッチ、ありがとう」

 「ナミからだよ。何してるかは知らないけど、なんか頑張ってるみたいだからって言ってよ」

 「……まさか、ナミが作ってくれたのか?」

 「あァ……ナミの蜜柑で作ってくれたんだぜ?」

 

 ウインク1つ落としてそんな事を言うサッチから受け取ったそれは、アイスティーと蜜柑のタルトケーキ。そしてそのタルトケーキは当然のようにホールだ。

 食べやすいようにカットはされてるけど、俺用にって用意してくれたそれが嬉しい。それにより頬が緩んだ俺に、サッチが完成したら声掛けろよなんて言うから、頷いてサッとそれらを食べて、また帽子作りに戻る。

 漸く完成させてモビーに戻ると、部屋にそれを置いてからサッチの所へ顔を出す。するとサッチが俺を見て、丁度良かったと言って笑った。

 

 「なんだよ?」

 「そろそろかと思ってたからな。夕飯迄の繋ぎに食っていいぞ」

 

 そう言って出されたのはブートジョロキアペペロンチーノで、瞳を輝かせる俺に笑いながら他の奴らには言うなよなんて言って頭を撫でて来る。それに何すんだよと言って手を払い落とせば、頑張ったご褒美な!なんて言って兄貴の顔をされちまう。

 それに嬉しくなって帽子を深く被って顔を隠せば、それさえわかってるかのようにサッチは笑いながらお子様にはこれな、なんて言ってカフェオレを用意してくれた。チェッと言いながら食えばまたそれが美味くて、なんか泣きそうになる。

 その数日後、ナミの誕生日当日。部屋にその姿がなかったので、また倒れたら嫌だと思った俺は蜜柑畑へと足を向ける。

 そこで蜜柑蜜柑と嬉しそうにしているナミを見れば、自然と表情が緩む。けれどもそのまま歌い出したナミに、俺は動きを止める。

 ずっと俺の旅に付き合わせてきて、ナミの意思なんて聞いた事も無かった。奪うだけ奪い、与えられるだけ与えられて、だけど本当にナミが望んでいるのはただ、家族と共に蜜柑の世話をしている事なんじゃねェのかな?

 そう考えたらいつ帰りたいと言われるかと不安になる。ナミが傍から居なくなるかもと考えたら、それだけで目の前が暗くなるような気がして、歌が終わるのと同時にその身体を抱き締めていた。

 そんな俺にナミは甘えるように身を任せてくれるから、声を振るわせないように気を付けつつ言葉を向ける。なァナミ、何処にも行かないよな?

 

 「帰りたくなったか?」

 「何処に?」

 

 キョトンと言うか、キュルンと言うか、そんな視線を向けられて可愛いとか思った直後、俺は衝動的に唇を重ねていた。そんな俺に困った子なんて言いそうな様子で、受け入れてくれたナミに甘えるように深く口付ける。

 それにナミは抵抗せず、全てを当然のように受け止めてくれるから、つい本気になる。……そもそもナミは、キスが妙に上手いんだよなァ……。

 吐息ごと奪い、歯列を割って素早く強引に忍びませた舌で、口蓋の奥や舌の裏、感じやすい所は何処かと探る。飢えを満たしたくて奪い尽くそうとする俺の動きに、ナミはキスの途中で微かに笑った。

 新たな角度を求めて僅かに離れた隙間で、ナミが囁くような声で言う。優しい微笑みに、妖艶な色香を乗せて。

 

 「……ばかね……」

 「ん?」

 「私の帰る場所は、ここだけよ」

 

 その言葉の持つ意味と威力をナミはきっと理解してねェな。そう思うのと、力加減なんて忘れてその細い体を抱き締めるのはほぼ同時だった。

 それには流石に苦しいのか呻くが、抵抗する気なら覇気を使って殴り飛ばせるんだから、今はまだ許容範囲なんだと思う事にしてその温もりを堪能する。だが少しすると辛くなってきたのか、蜜柑の香りが強くなって来た。

 その時ハルタが駆けてきて、呆れた視線を向けて来る。ナミはそれに、真っ赤な顔になると同時に泣きそうなその表情を俺へと向けた。

 

 「エース、ナミが死ぬ前に解放してやって。そろそろ羞恥と混乱と呼吸困難で死ぬよ?」

 「それは困る」

 

 そう言って少し力を抜けば、ホッとした様子を見せたナミだった。だが、続いたハルタの言葉に首を傾げる姿のなんと可愛い事か。

 

 「エース、準備出来たから連れて来てよ」

 「分かった」

 

 答えつつ思わず本気で抱きしめたらナミの体から力が抜けて、意識が遠のいてると分かる。それにより慌てる俺は、その瞬間横から来た衝撃で1人吹っ飛ぶ。

 見てみるとナミをそっと優しい眼差しで見詰めつつ抱き締めているイゾウと、俺を蹴り飛ばしたらしいマルコがいた。体を起こした俺に、2人は呆れたような視線を向けて来る。

 

 「エースは少し、力加減を知れよぃ」

 「ついでにナミも、少しは抵抗しな。その内エースに殺されるぞ?」

 「エースになら、殺されてもいいわ」

 

 そう言って笑うナミに、イゾウは呆れたように溜息を落としてマルコに叱られ始めた。2人はナミの保護者枠だなと、こんな時思う。

 祝われた事が無いというナミと、同じ7月産まれのクルーが中央に引っ張り出されて祝われる。突然のそれにナミが混乱してるから、1度部屋に戻ってから急いでナミの傍に舞い戻った。

 その流れでナミに帽子を被せて、驚きそれに手を乗せるその姿に笑いながら少し腰を屈める。そうして視線を合わせて、心からの笑顔を向けた。

 いつかちゃんと言いたかったんだ。いつも愛されてばかりの俺だから、返せるならちゃんと返したいけど、きっとそれは何か違うって分かってるから、素直に俺の想いを音にして。

 

 「ナミ、産まれてきてくれてありがとう。俺はどうしたってナミに甘えちまうと思うけど、これからも傍にいて欲しい。愛してくれて、ありがとう」

 「エース……」

 「ナミには、麦藁帽子が似合う気がしたけど、本当に似合うな。……それがあれば、蜜柑に集中してても倒れなくなるだろ」

 

 それを願って作ったんだと、小さく言葉を添えたらふわりと動いたナミが、俺に抱き着いてきた。それを受け止めたら、微かに震えるナミが、聞き取れたのも不思議な程の小さな声で、ありがとうと言ってくれる。

 ……まだまだ俺は、あの人に遠く及ばないだろう。それでも、俺の愛する女は今俺だけを愛してくれている。

 だから、きっと守り抜くと……甘える事を知らない愛しい女を抱き締める。俺に存在しても良いと、産まれてくれたから出逢えたのだと微笑んでくれたナミに、俺は同じ言葉を返したい。

 Happy Birthday ナミ。産まれてくれて、出逢ってくれてありがとう。

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