※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編side)   作:夢枕 七変化

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アンタなら(クリマタクト)

 変な物を作らされたもんだ。これが、私が最初に聞いた人の言葉だった。

 何よ、それってまさか、私の事!?

 苛立ちを感じながら、でも文句言っても誰にも聞こえない事も知っている。剣とか刀だと妖刀とかって呼ばれる意志を持った武器として私は生まれたらしい。

 ……武器?

 私、武器なの?だとしたら、打撃用?

 そんな事を考えながら、人から人へと渡されて最後に辿り着いたのは美少女と呼ぶにも少し幼い、美幼女って感じの子供だった。渡された瞬間に嬉しそうに私を振り回して、突然私は自分から爆風が出て驚かされる。

 幼女は得意気に笑い、私を愛おしそうに抱き締めるから……その、暖かな手が、大切にしてくれるだろうと信じられた現実が、私には何よりも嬉しく思えた。私はそうして、嬉しいと言う感情を知った。

 周りからナミと呼ばれる私の持ち主は、少年達に私を絶対に触らせようとはしなかった。そして、少年達には、鈍器として私を使ってみせたけど……強いわ、この子。

 まだ足りない、まだ足りないと足掻くその姿は、何を持って足りないと言っているのか。私には、天使にしか思えないご主人様は私を私以上に知り尽くしていて、本当に手足のように自然と使ってくれる。

 そして、私を使い近海の主を倒す手伝いをしたナミは、私をその胸に抱いて泣き出した。涙は零さなかったけど、泣いているのが伝わって来たと言うのが正しいのかも知れないけれど。

 大好きなナミが大切に想うのは、今の私が知る限り7人。見た事の無い2人の家族と、三兄弟と、ナミをいじめ抜く2人の男。

 どうしてナミをボコボコにする2人をこんなにも慕うのか、私には分からない。立ったまま意識を無くしていた事も何度もある位なのに、どうして慕えるの?

 私を掴むその手が開く事も出来ないくらい酷使していた為に、意識を無くしても尚、私を落とす事も無かった。寧ろ私を落とすような感じにならないとダメだなんて鬼畜な事を言う男達に、何故ついて行くのか。

 そうして少年誘拐未遂事件から少ししたら、ナミは自ら大切な5人と別れる事を決断した。そして……いけ好かない奴がナミの持ち物として加わった。

 今までは私だけが大切にされてきたのに、まァ意志を持ってない扇子と笛と紐は別よ?

 でも、まァ、奴らも気に入らないけどそれはまだ我慢出来たの。でもね、短剣の奴は気に入らない。

 手にした瞬間から胸に抱かれて泣かれてるし、その後も何かにつけてナミは短剣を使う。蜜柑切ったり、林檎切ったり、まるで扇の代わりのように短剣を持って舞ったり。

 多分、ナミは舞ってるつもりは無いんだろうと分かるけど、舞い散る木の葉や花弁を切るその動きは美しい舞のようにしか見えなくて……腰に居る私は、それを共に舞ってるような気持ちで見ていた。それから更に少しの時が過ぎた頃、ナミの村が海賊に襲われた。

 ナミはその日、私では無く短剣を使った。覚悟を決めて、殺す気で挑むその哀しくも冷たい気迫に、斬られても、蹴られても、血や泥に塗れても戦い舞い続けるナミに、私を使ってと祈るように願う。

 お願い、私を忘れないで。私はここに居るよ。

 ナミが、誰かを攻撃する事を嫌うのを知ってるのよ。ナミが、誰よりも優しい事を知っているわ。

 だからお願い、私に貴女を護らせて。けれども私の声は届く事無く、村人を庇いナミは囚われ、心は血を流しながら悲痛な悲鳴を上げているのに、ただ……微笑む。

 この日からナミは、本当に泣かなくなった。戦いの他では、舞わなくなった。

 お金の為以外では、歌わなくなった。楽しそうに笑ったのを最後に見たのは、何時だっただろうか。

 私を使って器用に戦い、そして、身も心も傷付けられながら、その見た目と心が穢れを知らないかのように美しく成長して行く。そうして行くうちに、悲痛なる心の悲鳴も、いつの間にか聞こえなくなった。

 傷つき過ぎて麻痺してしまったその心が、何の痛みも感じ無くなったからと言って、成長した訳でも強くなった訳でも無いのだとナミは気付かない。凍らせきれない優しさ故に、時々揺れるその心が、まだ心が死んでない事を私に伝えて来る。

 そんなナミを変えたのは、心を生き返らせたのは、麦藁帽子を被った少年。それが、あの時の子供だとすぐに分かった。

 だってナミが、その姿を見ただけで心の氷を溶かしたから。愛しそうに、その無駄に育った胸に、抱き締めるから。

 無防備なウチの子を麦藁帽子が襲い、けれども途中で辞めたから許してやるかと思っていたら、別な男に泣かされるナミ。私を使って戦おうとするけど、こんな時こそ短剣を使ってイチモツを切り落としちゃいなさいよー!

 そんな叫びは届かず、私が遠くに飛ばされると私を求めて手を伸ばす可愛い子。コロコロと転がって、頑張って近付くけど、あんまり近付けない。

 悔しいわ。どうして、助けられないの。

 武器なのに、こんな時戦えないなんて。泣いてる主人を守れなくて、なんの価値があるって言うのよ!!

 そして、それから数日後……私は短剣に初めて同情する事となる。ナミが、自らの体を短剣で傷付けたから。

 幾度と無く振り下ろされるそれに、涙を流すナミに、けれども短剣は悲痛な悲鳴を上げる。短剣が泣いている。

 

 『嫌だ!僕は君を傷付けたくない!僕は……君を守る為に、存在しているのに……!』

 

 悲痛な声はナミには届かない。その短剣のそれよりも深い奈落のような地獄がナミを苛み続け、これ迄抑えていた感情を爆発させてとった行動だから、周りを気遣う余裕を無くしている。

 それを止めたのもまたあの少年で、だから……私はこいつなら良いよと思ったの。ナミを任せてもいいって、思えたのよ。

 優しくて、暖かくて、臆病で……マイナス思考で、自己評価最悪なナミだからこそ、幸せになって欲しい。悲痛なナミの声が、苦しみ喘ぐその声が、漸く助けを求められる程になったのだと分かり嬉しくなる。

 自分1人犠牲になれば全てが丸く収まると、そう信じている愚かな子。残酷な優しさを振りまき、誰にでも優しく微笑む事を辞めさせたい。

 ねェ、麦藁帽子のあんた、守れるんでしょうね。うちの子の事。

 勿論私も全力で守るわ。でも、あんたナミに惚れてんでしょ、なら、ちゃんと守りなさいよ!

 そう思ってたのに、沈められるダメな男に、それを庇って戦うナミに、早く幸せになってよねと心から願う。後に私は改良を繰り返され、ナミを守れる強さを高めて行くけど……敵が恐ろしく強くなっていて、不安になる。

 守りきれるかしらと、泣きたくなる。そんな時はいつも、麦藁帽子が助けに来るようになって、だから私はアンタならって思えるの。

 砂漠の国で私を使い勝利したナミに、揃って倒れる仲間達に、ゆっくり眠りなさいと思う。もしも手を出す奴がいたら、誤作動のフリして、電撃落としてあげるわと心の中で呟いた。

 短剣とは、今はもう喧嘩せずに、仲良くしているわ。きっと、どちらが欠けてもこの子を守りきるなんて出来ないと分かってしまったから。

 守り抜こう、総てを賭けて。愛し抜こう、愛されているその分をいつか返せるくらいに。

 私も短剣も、想う相手は同じ、ただ1人の愛しい主人。ナミの笑顔が、最高のご褒美。

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