※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編side)   作:夢枕 七変化

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蜜柑の香り

 何とかナミが動ける体力を残して、俺は行為を辞めて宴に戻る為にと身支度を整える。自分の身体から蜜柑の匂いがする事が、何となく気恥しい気がして……でも、同時に大声で叫びたい程嬉しいし、興奮してる事を自覚していた。

 耳に何もつけてないナミだけど、俺の歯型が残ってるから、きっと後で気が付いて叫ぶだろうなと思う。それが何だか楽しみで……。

 ん?

 キッチンの机の上に堂々と置かれた紙を見付けて、その内容に今楽しかった筈の気分が吹き飛ぶ。……無防備って言うか、馬鹿って言うか……。

 本気で、二度と戻らないつもりだったんだな。そう思いながら他の奴等が見たら不味いだろうと、ナミの机にそれを片付けてから出発した。

 手紙の片方は、ズボンのポケットに突っ込んだけどよ。だって、ナミからの別れの言葉なんて、他の誰にも見せる訳にいくかよ!

 宴の会場には沢山の料理が並び、歌を歌い、踊り狂う人達がいる。それに混ざって飯食って過ごしてた。

 けど、ふと気付いた時にはサンジがなんか美味そうなもん食ってて、狡いと思う。それ食いたいって言ったら、もう無いって言われて、それでも諦めきれずに探したけど見付からない。

 

 「俺の生ハムメロンどこだ!?」

 

 そうして探し回っていたら、島の外れまで来ていた。生ハムメロン!と叫んだそれにより振り向いた二人を見て、生ハムメロンが無いから帰ろうかと思ったのに声をかけられちまえば俺も残るしか無い。

 

 「ナミは貴方の船に乗るのでしょうね」

 

 その声を聞いた時、ナミの母ちゃんなんだなって思った。優しい声の出し方が、ナミと似てる。

 その視線がリボンに向けられてるのを見て、首を傾げちまう。これは、いつか必ず必要になると思ったから、理由を適当につけて貰っちまおうとしてるだけなんだけど……。

 このリボンはきっと、ナミの背中を押してくれる。そんな気がしてるんだ。

 もしもいつかその時(・・・)が来たら、俺はリボンと共にナミの残していた、遺そうとしたこの手紙を見せてやるんだ。それが必要になると、俺は何故か確信してる。

 

 「もしお前らが、ナミの笑顔を奪うような事があれば、私がお前を殺しに行くぞ!」

 

 突然の言葉に息を飲む。それが不可能な事は誰の目にも明らかで、でも……ナミを愛してるのだと伝わるから、俺は気を引き締めて頷いた。

 任されたのだと、分かる。強がりで、頑固で、融通効かなくて……なのに、甘くて優しくて……そんなナミだから、守る人間が必要なんだ。

 それなら、ちゃんと約束する。俺は絶対ナミを守り抜く。

 

 「ナミは、貰ってく。んで、ちゃんと守る」

 「小僧……貴様、貰うとは何事だ!!」

 

 怒るオッサンが不思議だ。貰うって、なんか駄目か?

 ……でもなァ、俺航海術もねェし、料理も出来ねェし、剣術も出来ねェし、嘘もつけねェから……1人でも欠けたら進めねェもんよ。それにそもそも仲間って、俺のものって事だろ。

 

 「だってよ。俺、ナミいねェとこの先に進めねェもん。ナミは俺の指針だからな!」

 

 大切だから、傍にいて欲しいから、仲間なんだ。生きていて欲しいから、そして、支えて欲しいから仲間なんだよ。

 その中でも特にナミには、離れないで欲しい。あの愛を無くしたら、生きられる気がしないんだ。

 だけど、その愛の向かう先が俺よりも家族に優先されてるのも知ってる。俺の1番はナミなのによ……。

 

 「でも今んとこ、ナミの中じゃ俺ってそんなに重要度高くねェんだ。1番は昔っから〝ベルメールさんとノジコと蜜柑〟だからな。んで、次が〝ゲンさんとドクター〟で、その次に〝村の人達〟で、その次に俺なんだ。だから、おっさん達2人は俺のライバルだ!」

 「……多分、1番手強いのはもう既にナミの1部になってる蜜柑で、次はノジコよ。ナミを最初に助けたのはノジコだもの」

 

 その言葉で思い出すのは、俺が嫌いだと言ったのに助けに来たナミの姉ちゃん。多分……あの姉ちゃんのやり方見てっから、ナミは庇うような守り方なんだろうな。

 そういや、ナミの大切にしてる蜜柑って、俺食った事ねェな。今度くれって言ってみよう。

 大丈夫、ナミならなんでもくれる。ああ、そうなるとナミの1番って俺なのかもな。

 ふわりとナミからする匂いを思い出したら、ナミと蜜柑は同じ生き物なんじゃないかって思えて来た。ナミも……甘いし美味いから。

 

 「ん、それは知ってたけど……蜜柑はナミだから良いよ。それよりさ〝ベルメールさん〟って、お前だよな?」

 「そうよ」

 「聞いてた通りの人だな」

 

 誰よりも優しくて、美してくて、厳しくて、ナミを愛してる人。ナミを、育てて……今までその生命を繋いでくれた存在。

 

 「ナミを愛してくれて、ありがとう。こんな状態でもナミが壊れないで立ってたのは、やっぱりナミが愛して、ナミを愛してくれてた家族のおかげだと思ってる」

 

 独りなら、ナミは戦いもせずにどんな残酷な運命でも受け入れてたと思う。そして、独りなら……辛かった筈のこれ迄の道の途中で、その生命を簡単に捨ててたと思うんだ。

 俺達にまた逢えるかも……なんて、そんなのは引き止める材料どころか、命を捨てる材料にしかならない。ナミは、今も未だ俺を守ろうとしてるくらいだから、守る相手を増やさない為に、俺に何も知らせない為に、ひっそりと死ぬ事を選んだだろうと分かるんだ。

 だから、今度は俺が守る。その為にも、傍にいてもらわないと困るんだ。

 

 「ナミは貰ってく!ありがとう!」

 

 傍に居てもらわないと、守れない。だから傍に……常に俺の手の届くところにいて欲しいんだ。

 そんな俺にオッサンは怒り狂うけど、俺のナミだもんよ!誰にもやるもんか!!

 結局俺はその後、ナミを手に入れた。仲間として。

 武器の他はなんにも身に付けてなかったナミが、いつの間にか身につけてたのはひとつのブレスレット。村人に心配かけないように、何も変わってないし気にしてないと示すように、ナミはスリの技を見せつけた。

 

 「小僧ー!!約束を、忘れるなーっ!!」

 

 俺はそれに笑うだけで応えて、親指を立てる。オッサンをイメージしてる刺青に変わったナミの肩は、もう、隠されていない。

 隠す為にしていた左肩の包帯は、ずっと怪我してると思ってたけど、間違ってなかった。あの時ナミは、身体じゃなくて心が傷付いていたんだから。

 その傷が癒えたから、肩を見せてくれた。そして、陰りのある痛みに耐えた笑みではなく、穏やかな陽だまりのような優しい笑みを浮かべている。

 そうして俺の手配書が出たり、次の島に向かったりした。到着した島は海賊王の、エースの父ちゃんが産まれて、死んだ島。

 買い物のお金渡したり、指示出したり、そんな事をしながら笑う無防備なナミ。自分がどれ程可愛くて優秀で……美味そうなのか、そろそろ自覚して欲しい。

 自分しか女は居ないのに、家族に女しか居ないからなのか、距離感が近い。突然全員の身体を、ぺたぺたと触ったりするのを当然のようにし始めるナミに、俺はハラハラしっぱなしだ。

 俺が抱きしめても抵抗しないで笑いかけてくるし、それどころか腕を回して抱き締め返してくれる。……ナミは、どうしてこんなに甘いんだ。

 

 「仕方ねェのは分かるんだけどよ。……ナミが無防備で、俺としては心配だったりする」

 「……仲間に警戒するとか、無理だと思うのよ?」

 「そうだな。ナミはそのままでいい。今まで頑張りすぎだったんだ……少し緩いくらいが良いかもな」

 

 これ迄奴隷になっててそれなんだから、これはもう変わらない。そんなナミが好きなんだから、このままでいて欲しいと思うなら、俺が守ればいいだけだ。

 

 「とりあえず買い物だよな」

 

 そう言って歩き出せば、ナミが俺の背中に合わせて服を買ってくれる。それが少し擽ったくて……楽しい。

 ただ、ナミからいつもふわふわと漂う蜜柑の香りが気になる。ナミ、蜜柑食ってるにしても、そんなに普通蜜柑の匂いするか?

 

 「何か、気になる?」

 「んー?ナミってどうしていつも、蜜柑の匂いがするんだろうって考えてた」

 

 そうしたら、蜜柑食ってるだけじゃなくて洗剤も蜜柑だと教えられちまう。それじゃ仕方ねェか。

 頭を撫でるナミの顔が優しくて、気を抜くとすぐに親とか姉になっちまうナミか少し気に入らない。でも、ナミが笑うから、それでも我慢してやるよ。

 

 「ルフィ……前もこうやって、買い物に付き合ってくれたわね。ありがとう」

 「ナミは、無駄な事しねェから、でもって、なんでも1人でやるから、こっちから声かけるくらいしねェと……って思う。ナミは俺が守るって、決めてるから」

 

 俺の言葉の直後歩くのを辞めたナミに合わせて立ち止まれば、ナミが思い詰めたような顔をしていた。どうしたって言うんだろう。

 微かに震えるその肩が細くて、壊しちまいそうだ。不安に揺れる瞳が綺麗で、いっその事泣かせてやりたくなる。

 

 「私は、ルフィ以外の男に、ルフィからの告白受けてから抱かれてるのよ。それでもいいの?」

 

 言葉は聞こえたけど、俺は本気でナミの言ってる事が分からない。俺が告白したのは、俺がナミを好きだからで、その後ナミが何しても俺に対して何かってのは無いと思うんだよ。

 告白の返事貰ってなかったしよ。なのに何で、ナミは気にしてんだ?

 

 「……何が、問題なんだ?」

 

 不安そうに俺を見つめるナミの瞳。それが微かに濡れて揺れてるから、本気で不安なんだと分かる。

 だから、少し考える。どうしたら、俺の本心が伝わるのか分からないから。

 でも、考えても無駄だから、思ったままに言葉を紡ぐ。それしか俺には出来ないから。

 

 「俺達海賊だぞ。弱けりゃ奪われる。ナミは女だから殺されたり、大怪我させられたりしねェで抱かれた。んでもって、俺がそれを守れなかったんだから、もし誰かに責任があるとするなら、それは俺にある」

 

 あの手紙見れば、あの時のオッサンがナミを強姦した後で、金を置いて行かれたのは分かる。まァ……強姦されてる時に金を請求したらしいナミは、俺としては大歓迎な気の強さだけどよ。

 なのにナミはその気の強さを今は発揮しないで、不安に瞳を揺らし続ける。賢い癖に、阿呆なナミ。

 

 「……この先、だって、何があるか分からないのよ?私をこの間抱いたのだって……今の実力じゃかなわない相手で……勿論金銭の絡んだ合意ではあったけど……」

 「やっぱりな……」

 

 慌てて付け加えられた言葉が、俺にそいつと戦うなと言ってる。それは強姦した奴を庇ってんじゃなくて、俺を庇ってるのくらい簡単に理解できちまった。

 まだ、俺はアーロンと対等くらいだった。あのオッサンには遠く及ばねェ……!!

 

 「この先ナミが誰かに抱かれたとしたら、それは俺の責任だろ。ナミが望んでとか、俺と別れたくなったからって言うなら話は別だけどよ……違ェなら、守れなかった男の責任だ」

 「……そういう、もの?」

 

 きょとんとした幼い顔で聞かれて、ナミは本気でわかってないんだなと思う。女海賊は誰と寝ても責められないし、奪われたくないなら男が守り抜くしか無いんだって事、知らないんだ。

 なら、ちゃんと伝えてやらないと。俺はまだ、あのオッサンに勝てない事も認めた上で。

 

 「……鷹の目に、今勝てるかって聞かれたら俺は勝てねェよ。そんなの相手にナミが抵抗出来なかった事を責めたら、おかしいだろ」

 「それは……って、なんで……!?」

 「ナミの部屋の洋服、鷹の目のオッサンの匂いがした。それと、机の所に紙があっただろ。だから相手は鷹の目のオッサンと、鷹の目のオッサンが警戒してた奴だろ。そんなのからどうやって、ナミ1人で身を守れるんだよ」

 

 寧ろ、ゾロがあの扱いだったのに、良く生きてたよな。……警戒すべき相手が、増えちまったのだけが、俺としては不愉快だ。

 

 「その手紙、どうしたの?」

 「ナミの机に入れといた。流石に、キッチンのテーブルに置き去りだと不味いだろ」

 

 そんな俺の言葉に目に見えて落ち込んだけど、買い物とかはちゃんと済ませたんだからいい子だと思う。いい子過ぎるから、ちゃんと縛らないと何処かに連れ去られそうだけどよ。

 

 「ナミが別れたいって言うか、俺が死ぬまでナミは俺の女だからよ。……誰に何されても、ナミは気にしなくていい。それを理由に別れるなら、自分を責めるんじゃなくて、守れなかった俺を責めろよ。それだけは、守ってくれ」

 

 例え傷付けるのがナミ本人でも、俺はそれを許せねェ。俺はナミを傷付ける存在の全てを許さない。

 その時、ナミが少しの戸惑いを残して言った。ナミが不安そうなのは、俺を案じてるからなんだろうか。

 

 「ルフィ、私はルフィの事、ちゃんと好きよ。だから、ずっと傍に……居させてね」

 「当たり前だろ。俺と別れても、船を降りるのは許さねェからな!」

 「……降りたいって言ったらどうするのよ?」

 「地の果てまででも、海の果てまででも、追い掛けてやる。ナミは俺の航海士だ!俺の進路はナミなんだ」

 

 追い掛ける以前に降ろさせないけどな。ナミは優しいから、泣いて喚いて大騒ぎしたら残ってくれる。

 根本的な所でナミは男ってもんをわかってねェ。俺はしかも、海賊なのによ。

 

 「……あ!でもナミ、俺の責任だってのは分かってても、多分なんかあったらナミの事手加減無しで抱くから、それは忘れんなよ」

 

 そう言って話をしていたら、俺に手加減されてたのも知らなかったらしいナミが顔色をコロコロ変える。俺はその様子が妙に可愛くて、でも、俺から逃げようとするような事を言うからにっこりと笑ってやる。

 ……誰が逃がすか。ナミは、俺の女だ。

 

 「俺はナミが別れたいと言う事は許すけど、別れてやるなんて言ってねェって事、忘れんなよ。……ナミは俺のモノだ」

 

 言ったところで、可愛いもんだ。逃がしてやるつもりも、別れてやるつもりもない。

 そんなこんなで楽しい時間を過ごした後、処刑されかかってみたり色々しながら俺達は出航した。偉大なる航路へ向けて、互いの夢を語り合い、誓い合いながら……。

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