波間の向こうを目指して(新・本編side) 作:夢枕 七変化
これ迄もナミの話を聞いて、嘘だと思った事は無い。それでも、俺の中の何処かに燻ってた疑念を打ち払うようにメリーは滝を登る。
そして小さなハプニングはあったけど、もう大丈夫と言える状態から、今度は降りていくのだから楽しくもなる。ただ、変な音が聞こえるなと思ったら、メリー毎俺達を食おうとする巨大な物に驚きつつも戦闘態勢に入った。
これをナミが聞いていたら〝臨戦態勢〟でしょとか言いそうだけど、俺の場合戦闘態勢でいいと思うんだ。大きなものがクジラだとナミに告げると、辛そうに頭を押さえたから、ここは俺が何とかしないとと思う。
そうして俺がクジラと戦い始めたら、ナミから向けられた言葉。今無理にメリーに戻らなくても、また会えると断言されたそれに信頼を込めて頷けば確かにナミは笑った。
その後色々あって、海に落ちないようにだけ気を付けながら戦ってたのに、気が付いたらクジラの中にある通路の中にいた。その後ヘンテコな海に沈んでいく俺を、はぐれた筈の仲間達が助けてくれてメリーに無事に帰れたって訳だ。
……ナミって、本当にすげェ。まァ、無茶ばっかするし、変な隠し事するのはダメなとこだけどよ。
それでも水により減った体力を理由に荒い呼吸繰り返してたら、ナミが言った。その表情は少し強ばってたけど、俺はそれに逆らおうって選択肢そのものを持たなかったんだ。
「とりあえずその2人を気絶させて貰える?」
「おゥ、わかった」
それから変なおっさんを楽しそうだからと仲間に誘ってみたりしながら、案内されるままに外に出る。その後オッサンがクジラ……ラブーンの事を教えてくれた。
それを聞いて悲しそうに顔を歪めるナミと、見捨てるように言い捨てながらも苦しそうな表情のサンジを見ると、胸にモヤモヤしたものが広がる。それを発散させようと動き出せば、突然背後からナミに殴られた。
って、すげェ速度だな!?
「メリーを壊すな!大馬鹿者がっ!やるなら自分の拳を使え!」
「ってェー!なんでわかったんだよ!?」
「私は覇気を使えるからよ!」
ハキって何だろう。そうは思うけど、ナミの説明って端的過ぎて分からねェ時と、長くて眠くなる時と、雑なのしかないから今回は聞かないでおく。
そんな訳で俺がラブーンと拳で喧嘩を始めれば、皆は俺を好きにさせてくれる。ラブーン……お前さ、待つ理由が無くなっちまって、信じきる事が出来なくなって、苦しいんだよな。
信じる事が出来ない自分が嫌で、なのに信じたい自分がいて、だからグチャグチャして、壁を破壊してその奥へ……皆の居る可能性がある所へ行きたいんだ。ただ、大切な仲間に会いたいと、願っているだけなのは分かる。
でもよ、もう……お前の仲間は居ないんだ。死んだんだよ。
認めたくないのは分かるけどよ、それだと誰も救われない。なら、俺と次の約束をしよう。
信じたくても、信じられなくなった自分が何より憎くて……悲しいんだろ。待つ意味を失う事が、何より怖いなら……待つ理由……俺が作ってやる。
「引き分けだ!!」
ラブーンは俺の動作と言葉を受けて、動きを止めた。不思議そうに俺を見るその姿は、まだまだ子供なんじゃねェのかなって思わさられる。
「俺は強いだろうが!!」
強くなったんだ。今度は俺がナミを守る為に。
今もナミは悲しんでる。見ず知らずの海賊の為に、ここにいるクジラの為に。
だから、俺はその悲しみからもナミを守りたい。俺は約束を必ず守るから、ラブーン……自ら死を選ぶなよ。
「俺とお前の勝負は、まだついてないから、俺達は、また戦わなきゃならないんだ!!
ラブーン、拳をぶつけ合ったんだから、俺達は友達だ。俺は、友達を見捨てない。
オッサンがラブーンの傍にずっと居る。だから俺と次の約束して、その存在を思い出したらいいんだ。
すぐ傍にいる大切な人の存在を、そうと認識できなくなるのが孤独な時間の始まりなんだと俺は思うんた。だからこそ、俺と約束しよう。
「俺達が
そうして俺とラブーンの〝戦いの約束〟をその傷の上に刻む。ラブーンには、そのマークを消さないように言い聞かせて、サンジの作る飯を待つ事にした。
ふと振り向けば、ナミが穏やかに笑っていて、どうやら間違って無かったらしいと分かる。優し過ぎるナミを、俺は守りたいと思うんだ。
この時サンジが用意してくれた飯は、エレファント本マグロってやつらしい。鼻が美味い。
その時ナミが何か欲しがってて……そういや、拾ったな。そう思い出してコレか?と聞いたら何故か殴られた。
「なんで殴ったんだよ!?」
「拾っていてくれてありがとう、ルフィ」
「おう!!どういたしまして。……じゃなくて!殴った理由!!」
そうして問い詰めようとしたけど、既にナミは俺の事を意識から外しててなんにも聞いてねェ。目の前にいる筈なのに……遠い。
……そういや、ナミってこういう奴だった。気にしたら負けだぞ、俺。
その後ナミは何かオッサンと色々話をして、物を貰ったりしていた。難しい事は分からねェけど、ナミは作家らしくて……有名人らしい。
本なんか貰っても食えねェのによ。ナミは大切そうに抱き締めてる。
……なんか、気に入らねェ。抱くのは俺かぬいぐるみにしとけよ。
あ、想像したら、ぬいぐるみ抱いてんの、似合いそうだな。……やっぱり、ナミは俺を抱いてたらいいと思う。
そうして出航の準備を進めてたら、ナミが妙に気にしてた二人が船に乗せてくれと言ってきた。別に仲間にはしたくねェけど、乗せるだけなら構わねェぞ。
そんな訳で人数を増やして出航した俺達は、ラブーンとの別れを経てヘンテコな海に振り回される。そんな中で、ナミだけが妙にカッコイイ。
……まるで、全てを知っているかのように、海と対話するかのように、ナミは先を見据えて指示を飛ばす。それに従えば、そう、どんなに長い航海も終わりはあるのだと証明された。
「島が見えたぞー!」
叫んだ直後に乗せてやった二人が消えて、俺は心から思う。ナミが仲間に居てくれて、本当に良かったって。
俺達だけなら、山超えられたかも分からねェし、まずここの海を越えられなかったもんな。俺は本当に、仲間に支えられてる。
到着した島で大歓迎の宴をされて、食って、寝て、起きたらゾロと喧嘩して……迷子のお姫さまを家まで届けてやる事になった。困ってるみたいだしよ、ナミもそれを望んでるから。
……サンジも喜ぶだろ。女だから。
そうして出航した俺達は、のんびりとした時間を過ごしてる。俺の麦藁帽子をナミが直してくれて、何かいつも書いてて……皆の為にって休みなく動いてるのには気付いてるんだけどよ。
うーん。でも、そうなると、ナミは……。
「……いつ、寝てんだ?」
「ん?どうした?」
「ナミ、村を出てから、寝てねェ気がする」
「……気を付けておく」
俺の言葉にゾロがそう言うから、ありがとうと頷いた。ビビが乗ってから、ナミは今までよりも強がりになったし、姉とか母親みたいな様子を見せる事が増えたと思う。
どうしてナミは、いつも誰かを甘やかしちまうんだろう。どうしてナミは、自分の事を蔑ろにするんだろうな。
そんな事を考えていた時、時聞こえて来たのは優しい笛の音。そう言えば、ナミは昔サボと1緒に歌ったり演奏したりしてたな。
懐かしくて、少し切ない。そんなナミに甘えるビビを見て、その場所は本当は俺の場所だぞとの気持ちで割り込んでみる。
「ナミ歌うのか!楽しみだ!」
「私、あまり歌は得意じゃないのよ。だから、ごめんなさい」
困ったように笑うナミを見て、俺は安心させようと思って頷く。上手くなくても良いんだ。
それに、ナミは歌上手いぞ。自信もっていい!!
「そうか!歌ってくれるのか!」
「ありがとうナミさん!」
そのままビビと楽しみだなって話してたら、ナミは困ったような顔をしてから諦めた。ナミって案外押しに弱いんだよな。
そう思ってたら、ナミが歌わないで笛で終わらせようとするからついその手を掴む。駄目だ、俺はナミの歌声が聞きたい。
「俺はナミの歌が聞きたい!」
そしたら、音を確認するだけだと、歌が始まる前の前奏だけだと言われて頷いた。サボがいると、なんでも楽器演奏してくれたから、ナミはただ歌うだけだったのにな。
優しいナミの歌声と、波の音色が心を落ち着かせてくれる。俺の幸福は、今ここにあると痛感して笑った。
俺の我儘を受けて、ナミは笛で色々聞かせてくれる。途中疲れたみたいだったから、オッサン所から貰ってきた楽器をナミに届けて、他にも演奏してくれとせがむ。
そんな俺にナミは応えてくれてたけど、途中で本当に疲れた様子を見せた。だから俺は、ナミの傍をそっと離れる。
そうしたらビビと何か楽しそうに会話を初めて、その時にナミの恋人について話してるとわかった。けど……何か楽しそうに隠してるし、今は教えなくても良いか。
そんな事を考えながら、俺達は船を進めて行った。そうして到着したのは太古のジャングルって感じの、恐竜とかのいる島だった。
巨大な虫を見て悲鳴をあげるナミが可愛いとか思うよりも先にワクワクして、俺はその島へと繰り出した。そうやって少し離れた間に……サンジがナミに手を出したのに気付く。
……俺の事気にして、言わねェんだな。煙草の臭いがナミについてるし、ナミの匂いがサンジからするのに気付かない筈があるかよ。
宴してくれた島では、鷹の目のオッサンに会ってたみたいだしよ。ナミって、何か変なもん出してんじゃねェかな。
世間ではモテる女を自慢したい……なんて奴もいるって聞くけど、俺はナミがモテるの嫌だぞ。ナミが、悲しむから。
姉の顔とか、母親みたいな顔する事もあるけど、これでナミは案外一途だ。俺しか見てない事を知ってるから、俺が本当は守らないといけないのにな。
巨人のオッサン達と仲良くなって、オッサン達との会話を楽しんで、宴みたいなのをナミがさせてくれて……それから出航した。ゾロは大怪我したし、魚にまた食われたけど……巨人達が助けてくれたし、やっぱり冒険は楽しい。
知らない世界が俺達を待ってる!知らない相手がこの先に沢山いるんだ!
本当なら二年もあの島に居ないと行けなかった所を、何とか出発できたからと喜んでいたら……なんか、ナミの様子が可笑しいと気付く。慌てて支えた時、恐ろしく熱いナミにそれを指摘するのにそれを認めようとしない。
意識を失うその瞬間までビビを気にして、意識が戻ってもビビを案じて……なァ、そんなに自分をすり減らして……誰がナミを守るんだ。誰かを守るだけじゃなくて、守られる事を少しは覚えてくれよ。
「その体温計が壊れてるのよ。熱中症とかその辺りでしょ。私は大丈夫だから。予定通りアラバスタを目指しましょ」
そんな事を言って立ち上がったナミは、俺達の視線を受けて微笑んだ。つらくない筈も無いのに、優しく微笑むそれはいつものそれと何も変わらない。
いや、寧ろ……。いつもより慈愛の強い瞳で、俺達を諭すようにしている。
「心配してくれて、ありがとう」
そうして甲板に向かうナミの表情は真剣で、天候が荒れてる時みたいな様子。つまり、臨戦態勢なのが分かれば……余計な事は言えなかった。
少しするとナミとゾロの言い争う声が聞こえて、どうやらナミに任された事をゾロができてなかったらしいと知る。そんな時、ゾロの号令が聞こえて来た。
「おい、てめェら出て来い!仕事だ!」
「ナミさん、何事だい?波も静かでいい天気だよ」
「風。真正面から大きな風が来る。……たぶん」
たぶん……なんて曖昧な事を言うナミに、大丈夫かと手を伸ばす。すると火傷しそうな程に熱い。
「ナミ!あちィぞ!?」
「何言ってんの。これが私の平熱よ」
「そんな訳あるかよ。抱いてて体温上がっててもここまでじゃ無かったぞ……」
荒い呼吸と、焦点の合わない瞳。なのにその顔は真剣で、俺達を守ろうとしてるのが分かる。
動けない癖に、苦しい癖に、いつも人の事だけ。確かにナミがいなかったら困る事も多いけどよ、少しは……頼ってくれよ。
その時船室からビビが出て来た。重苦しい空気を纏って、思い詰めたような顔で。
「皆に、お願いがあるの」
甘ったれてるだけのビビじゃない。そんな気がした。
だから誰も何も言わずにビビを待つ。言葉を遮らないように。
「船に乗せて貰っておいて……こんな事言うのも何だけど。今、私の国は、大変な事態に陥っていて、とにかく先を急ぎたい。1刻の猶予も許されない!!だからっ」
苦しそうに言葉を詰まらせる。それには微かな迷いが見える。
風でビビのな髪が揺れた。苦しそうな呼吸を繰り返しながら、ナミは焦点の合わないその瞳でビビの事を静かに見詰めている。
「これからこの船を〝最高速度〟でアラバスタ王国へ進めて欲しいの!!」
「当然よ!約束したじゃない!!」
ビビの言葉に反応して、真赤な顔で、無理して笑うナミ。汗を滝みたいに流して、なのにビビを気遣う。
サンジがそれにより、不愉快そうに顔を顰める。女相手にそんな顔するの、珍しいな……と、それを横目で見ながら思う。
ゾロは眉間に皺が寄って、今にも暴れそうな空気を出す。俺はその言葉が不満で、ナミが心配で声も出せずに見守る。
ウソップだけは、俺の位置からだと表情が見えなくてよくわかんねェ。でも、多分ナミを心配してんだろうって事はわかるんだ。
「……だったら、すぐに医者のいる島を探しましょう。1刻も早くナミさんの病気を治して、そしてアラバスタへ!!それがこの船の〝最高速度〟でしょう!?」
「そおーさっ!!それ以上スピードは出ねェ!!」
ここでビビがナミを見捨てて国民を優先していたのなら、きっと俺達は揃ってビビを見捨てていた。ただ乗せてやってるだけのお姫様と、大切な仲間なら俺達は仲間を選ぶ。
それよりも、自分の事しか考えられない奴なんかいらねェ。こんなんなっても、俺達の事だけを考えるようなナミの傍に居させたくねェもんな。
「いいのか?お前は王女として国民100万人の心配をするべきだろ」
「そうよ!!だから早くナミさんの病気を治さなきゃ!!ナミさんを治すのが最高速度よ!」
「よく言ったビビちゃん!!惚れ直したぜ、俺ァ!!」
「……いい、度胸だ」
ウソップの心にもない言葉を受けてのビビの返答で二人が頷く。その直後、ビビとナミは何かを会話して……そのままナミが崩れ落ちた。
慌てた様子でナミを支えたビビを見て、助けに行こうとして……今までいた辺りにデッカイ何かがあるのを見つけちまう。もし、ナミが言わなければ、ナミがつらいからって休んでたら、俺達は死んでた。
皆が大騒ぎする中で、ナミの意識は完全に沈んでいた。意識があっても誇る事はしないだろう謙虚なナミだけど、なんだろう……泣きたいような気持ちになったんだ。
俺達は進む。波間の向こうを目指して、ナミを治せる医者を探す為に。