波間の向こうを目指して(新・本編side) 作:夢枕 七変化
釣りを命じられた俺達は、海へと視線を向けていた。ナミが何か一人でやってて、それに気付いたサンジが協力して網漁ってのをやり始めたらしい。
これまでは夜だけだったそれを日中も始めた事で、少しは魚も手に入るとか何とか言ってた。力仕事はナミも流石にやろうとしなくて、ゾロがその役割を担ってるらしいのは気付いてたけど、ならなんで俺を呼んでくれないで俺には釣りをさせるんだろう。
そんな時に暇過ぎて思い出すのは昨夜の事だ。ビビに兄貴がいるって話から、その兄貴がナミに憧れてるってのが聞こえて、耳が大きくなる。
なんだってナミは、誰かの兄貴ってのに好かれんだよ。ナミは、俺の女なのによ……。
「お兄様の憧れていた宝玉先生がナミさんだなんて……!これは運命よ、そうに違いないわ!だからお姉様、お兄様と結婚しましょう!」
それに対してサンジは壊れて、ゾロが殺気立つ。ビビにナミは俺のだと言いたくなるけど、ナミはきっとそんな事言われたら困っちまうよな。
そう思って笑うだけに留めたけど……今思い返しても、良い気分にはならない。ビビに悪意は無いのも分かるし、ナミを慕う気持ちから離れたくなくて言ってんだと理解してるけど、やっぱり嫌なものは嫌だ。
ナミとサンジは魚と蜜柑だけで料理するのは限界が……とか言いつつも、色々やってくれてる。そんな二人を見れば、流石に悪い事したなと思うけど……。
チョッパーに確認したら、このタイミングでナミは運動が可能になったらしい。サンジとの事も気になってるし、ビビの件でも苛立ってる。
今問い詰めたら、いじめちまうだろうな。それでも、ナミは許してくれるだろうか。
分かってるんだ。ビビは、俺とナミが付き合ってる事を知らなくて、ナミは何故かそれを隠してるって事を。
それでも、恋人に別な男との結婚が勧められたら……良い気はしない。……少しくらいなら、ナミを泣かせても良いだろうか。
あの日、ゾロの手当てをした筈のその後……ナミから煙草の臭いがした。そして、サンジから、蜜柑の香りが。
隠してるつもりなんだろうけど、ナミがサンジに対して少しビクついてるから分かっちまう。……ナミを、サンジが、襲ったんだって。
仲間を傷付けられないナミだから、受け入れるしか無かったんだろう。頭じゃ分かっていても、苦しい事に変わりはない。
そんな鬱々とした気持ちを持て余していた俺の傍を、無邪気に何かを抱えて動き回るナミの姿。チョッパーと話してたかと思うと、海図を描いたりする。
そうかと思えば、次の瞬間にはビビに連行されてきて漸く飯を食ったと思ったら、風呂へと向かう。つまり、全く会話をする暇なんて無かった。
風呂から出後、部屋に行く為には通るしか無い甲板の位置で待っていたら、眠そうな顔で歩いて来るナミ。俺に気付いてもいない様子に、流石に苛立つ。
なので、先回りして女部屋に入ったのは当然。今夜は、ビビが見張りだ。
「お帰り」
部屋に入るのと同時に声を掛ければ、俺の顔を見て、視線をさ迷わせ、視線を落とした事で俺の股間がどうなってるのかに気付く。それによってか、少し頬を染めてからドアノブに手を伸ばすから、それをさせない為に細い身体を強く抱き締める。
もう、我慢はしない。今夜は、逃がしてやらねェよ。
「皆に見て欲しいとか、聞かせたいって言うなら……止めねェけど、ナミそんな趣味あったのか?」
「……まずは、話だっけ?」
逡巡し、少し脅えたように言葉を紡ぐ。それだけであれば、甘やかして抱こうと思ったのに……潤んだ瞳で、上目遣いに俺を見る俺の可愛い恋人。
ふるふると震える睫毛が、小動物を思わせる。呼吸さえ止められそうなその破壊力に、深く息を吐き出して冷静さを取り戻したのは誰かに褒められたくなる程の自制心だと思う。
「計算してやってねェところが厄介だ」
俺の言葉を受けて、小首を傾げる。本気で、分かってねェ……!
分かってない事が、計算じゃ無い事が分かるからこそ、ここは無理に押し込む訳にもいか……肩が、濡れてる。髪から落ちる雫を見て、人の事はできるのになんで自分の事はできねェんだよと溜息を落としちまう。
ナミが手にしてたタオルを奪い取って頭を拭きつつ、ベッドに座らせれば少しナミの空気が和らいだ。……泣かせたい訳でも、怖がらせたい訳でもねェのに上手くいかねェな。
「ナミはなんでも器用にできるのに、どうして髪だけこんなに拭くの下手なんだ?」
「……出来なくても、死なないもの」
「いや、船がカビたら死活問題だろ」
どうしても海の上にあるのが船だから、どうしたって船内はカビやすい。甲板は空気が常に動いてるから、カビる事はまず無いけど、下手な事したら腐って抜け落ちるから、皆で掃除したりしてるんだもんな。
そうなると船内を彷徨いてるナミから水が落ちるとカビるリスクもあるし、こう言えばナミも納得して髪を拭くのが上手くなるような気が……んん?
髪を拭き終わったからと様子を見ていたら、ナミは真剣な様子で何やらブツブツと言っている。その内容はよくわかんねェけど……。
「シリカゲルを作れば……その場合原料は……そうよ確か石英やケイ砂などのSiO2だった筈」
何を言ってんだ。こいつ。
ナミって航海士だよな。んで、多分だけどこれは航海士とは掛け離れた内容だろ。
「NaOHやNa2CO3のような塩基と反応させて、ケイ酸ナトリウムを生成する必要があって……足りないわ。何が抜けて……この場合シリカゲルにするには……いや待って、この理屈なら……」
「ナミ、今お前髪を上手く拭く方法じゃなくてカビさせない方法考えてないか?」
「なんでわかったの!?」
届かないかと思っていた俺の声は、ちゃんと届いたらしい。驚き振り向いたナミの様子に、呆れちまったのは不可抗力だとして認めて欲しいと思う。
ナミは、頭良いからこそ、馬鹿だと思う。ナミって、天才と馬鹿が同居してる感じがするんだよな。
「ナミがブツブツとケイサンナンタラがとか言ってたからだよ。明らかに髪を拭く方向性見えねェだろうが」
俺の言葉を受けて、また何か思考が飛んだ。ナミは昔から、信頼できる相手がいるとこの状態に陥りやすい。
思考の海に沈んでも、助けて貰えるから安心してるんだって……副船長は言ってたけど。なんだろう、嬉しくねェ。
だから、あえて声を出す。俺の元に、戻ってきて欲しくて。
「終わったぞ」
「ありがとう」
笑って言ったナミが髪を梳かす。その姿が、昔から変わらなくて……でも、そうなるとその長さから変わらないように切り揃えてんだろうな。
嫌だ。……例えナミが自分でやってるのだとしても、ナミの一部でも損なわれるのは、なんか嫌だ。
「髪、切るなよ」
「……なんで?」
「俺が、ナミの髪好きだから」
「……わ、かった……わ。極力、切らないようにする」
俺の言葉に目を見開いて、瞬間的に赤くなっていくナミの顔。可愛いけど、納得してやれないのは俺の心が狭いからかもな。
心はゴムみたいに簡単に伸ばして広げられねェけど。それでも、ナミには、本当は優しくしたいんだ。
「極力ってなんだよ」
「戦いの途中で1部でも切れたり焼けたりしたら、切り揃えないとおかしくなるじゃない」
その言葉に、ハッとする。ナミは戦いを好まないから、すぐに逃げるけど、それでも髪をダメにするなら……それ程強い相手か、誰かを庇っちまったかだ。
戦うと決めた時、ナミの髪が失われる事は有り得ない。でも、誰かを庇う時は身を呈しちまうから……。
分かったと呟いて、うねる髪を手にする。この髪が切られる時は、失われる時は、ナミが傷付いちまう時だから……。
そっと髪にキスをして、誓うように言葉を口にした。大切で、失いたくないなら、守れば良い。
二度と、サボの時みたいな思いをしたくないから。力不足に嘆くのが嫌で、必死で強くなったんだ。
ガキの頃から、守りたかったのは、欲しかったのは今目の前にいる少女。弱くて小さいのに……強がりで、気高すぎる、甘い果実。
「なら、髪も含めて俺がナミを守れば良いんだな」
「……まぁ、そうね。よろしくね、キャプテン」
困ったように笑うナミに、俺は視線を合わせる。そろそろ本題に入らせてもらいたい。
これは、ビビの件より重要。ナミを、サンジが泣かせたな。
「なァ、ナミ。ゾロの手当したあの日、何があった?」
問い掛けた瞬間に顔色が変わった。罪悪感じゃないそれは、明らかな怯え。
……サンジの奴、やっぱ合意無しだったんだな。まあ、ナミは恋人がいるのに他で遊ぶとかできない性格だから、そうだろうとは思ってたけどよ。
賢くて、優しくて、演技力も戦闘力もあるのに……近しい相手には、それを発揮できなくなる。そんなナミが小さく震えた。
「あの日、ナミの様子おかしかったから気になってた。んでもって……サンジも、な」
「……そう?私ちょうど病気の元をそこで貰ったから……その関係で、体調悪かったのかもね」
「ヘェ?」
繕ってるのが、わかる。ナミは、時に大馬鹿者だ。
怒りが一周まわって、悲しくなったら自然と口元が笑う。ナミの腕を掴んでそのままベッドに抜いつければ、強がりなナミの瞳が震えていた。
唇を奪えば、ナミが震えた。それでも、拒まないのは、俺を好きだからだろうか。
甘く喘ぐナミは、けれどもその瞳に悲しみを宿す。そんな行動が……拒まれるより、胸に来るんだ。
「ナミ……あの日、サンジに何された?」
惚けようとするナミを、俺は許してはやらない。そんな事したら、ナミは勝手に自分を責めて俺から離れようとするだろう。
服を剥ぎ取り、逃げ場を奪う。ナミの居場所は、俺の傍だけだ。
「サンジから、ナミの匂いがした。……もう1度だけ聞いてやる。何を、された?」
俺の問いに、ナミは捨てられた子猫のように瞳を揺らす。許してニャー……怒ってるのかニャー……?って、見えるようなそれに顔が熱くなる。
それに追い討ちをかけるように、ナミは俺を呼ぶ。なんで猫耳生えてねェんだろうとか考えて、思わず頭を抱えた。
「だから卑怯だろそれ」
名前呼ぶだけ。表情一つ変えるだけで、簡単に俺を翻弄する。
このままじゃ押し負ける。なら、もう、我慢せずに食うしかない。
「……前に話しておいたけどよ、手加減は出来ねェから、それだけは覚悟しろよ?」
「なっ……ルフィ!」
「待たねェし、辞めねェよ。……それとも、お仕置きされたいのか?」
意地悪く笑って問いかければ、縋るような視線で俺を見て、そっと両腕で抱き着かれた。震える腕で抱き着いて、ホッとしたように息を吐く。
その吐息が俺の首筋を掠める。そして、首の角度を変えて耳に向けて吐息と共に言葉が紡がれた。
「優しく、して……」
「……ホント、卑怯だよな」
壊せなくなる。傷つけられなくなっちまう。
なのに、虐めたくなる。泣かせたくなるんだ。
怯えてるのに、受け入れる。怖がってる癖に、信頼して身を預けるから……。
身体に指を這わせれば、可愛く反応を示す。弱い所を狙って弄れば、フルフルと震えながら必死で声を耐える姿。
それでも足が震えると辞めて別な所へと指を動かせば、それだけではイケる筈もない。荒くなる呼吸に合わせて、色気を増すナミの表情。
「イキたいか?」
「も……いじわる、しないで……」
「優しくしてるだろ?痛みは無い筈だ」
虐められてるのは、寧ろ俺の方だ。こんなにも俺を誘惑して、俺の仲間をも骨抜きにして、なのに無自覚。
指だけでは俺を求めてくれないから、舌も使う。そうしてイク直前で辞めるのを繰り返す。
視線が絡む度に笑いかければ、ナミの瞳が潤む。もう、嫌だとその瞳が訴える。
後少しだと思った時、ナミが唇を動かす。恥じらいからなかなか言ってくれないから、こんな時本当に滾るんだ。
「ルフィっ……お願い、もう……」
「ん?」
「挿れて……」
犬じゃあるまいし、俺には〝待て〟はもう限界だった。許しを得たんだから、多少壊しそうになっても許されるだろうと己を沈める。
そんな俺に強く抱きつき、名を呼んでくれる。甘えるように、愛おしそうに。
「甘えてくれるのは、こんな時だけなんだよな。今は、まだ……」
俺の言葉は聞こえてないのか、腕に力が入って限界が近いのがわかる。爪先をピンと伸ばして震えるナミを感じながら、腰を動かし続けた。
イッてる途中なのに刺激してるからか、ナミはつらそうにするけど……やめてやらねェ。サンジの入れた全てを、ナミがイク事で自力で全部出させてやる。
俺のモノだ。ナミは、俺の。
上書きして、刻み付けて、注ぎ込む。俺の慕情と愛情と、妄執を。
俺の熱を、欲望を、全て注ぎ込む。そう思って腰を動かせば、その細腰が悲鳴を上げてるとわかるのに、辞めてやれない。
空が白む頃、ナミが力尽きた。呼吸するだけで精一杯なナミを見れば、もう無理はさせられないと気付く。
そっと頭を撫でれば、甘えるように手に顔を押し付けて来た。その仕草が、猫にしか思えなくて……本当に可愛いと思う。
「とりあえず、少し寝てろ。後はやっといてやるから」
俺の言葉にナミは僅かに唇を開いたけど、そのまま深く眠ってしまう。流石に少しやり過ぎたかと思ったが、その後清めてやるのは反応が無くても楽しかったので頬が緩んじまった。
そんな俺に気付いたチョッパーが俺を叱り飛ばし、サンジには蹴られた。それでも、今回の事はサンジが原因だぞと思いながらも、今は何も言わずにチョッパーに叱られている。