波間の向こうを目指して(新・本編side) 作:夢枕 七変化
時間軸としましてはアラバスタ編30話〜空島1話(囚われの一味〜敵か仲間か)の所になります。
この話には、恋愛色は御座いません。sideキャラクターからも分かるかも知れませんが、内容は暗めとなっております。
宝玉の正体
独りで生きる事には、慣れているのよ。ただ、その中でも失われたその歴史の謎を……いつか……それだけを望んで生きてきたと言うだけの話。
「やっぱり綺麗。お母さんと瓜二つね」
突然聞こえたその声に、私に向けられたとは限らないのについ反応する。視線を向ければそれは知らない少女で、言葉を口にした筈のその子が余りにも美しく思えて、即座に自分とは無関係の平和ボケしてる民間人だと判断した。
それから暫くして、後方からDの少年の仲間と思われる気配が追ってきているのに気付く。隣にはサーも居るから、助ける事は出来そうにもないけれど……。
足音は無意識か何かでほぼ消えているのに、気配は消そうとする努力さえ見受けられない。恐らくは分かっていて気配を出しているのね。
「大切なお客様をここまでご案内して差し上げろ。この国の大切な〝お姫様〟だから、丁重にな」
サーの言葉に頷いて脇道から逸れれば、追いかけて来る気配はサーだけを追う形になる。それに対してサーの逆鱗に触れなければ、生きられるでしょうけれどと思う。
何せ追い掛けていたその気配は明らかに女のものだったから。サーは、男は直ぐに殺すけれど、女は基本的には余程の事がなければ殺さない。
害になるのは男だけとでも言いたげなそのやり方により、私は今も生きているのだと自覚はしているの。それでも、時にはそれが心から疎ましく思えてしまうのだから、私も我儘な女よねと思う。
お姫様を連れて戻れば、その場には先程私が民間人だと判断した相手がサー相手に大立ち回りしていて、そんな馬鹿なと思う。舞うように動くその少女は、お姫様を庇いながら、仲間の為にと剣を振るい、けれども傷付ける瞬間に僅かに動揺をする。
……甘い、甘すぎるわ。王女様と少女がサーに捕まり、サーが面白そうに少女を探す2人の七武海の存在を匂わせる。それ程に価値のある存在には思えず、けれども気高いその精神に視線が惹き付けられる。
信頼出来る仲間を守ろうとするその姿に、サウロの言葉が蘇る。……何を、馬鹿な事を。
彼はお人好しの馬鹿だった。夢を与えて子供が絶望するのを防ごうとしてくれただけで、仲間なんて、信頼なんてそんなものある筈も無い!
……分かっている、筈でしょう。そう己に言い聞かせようとするのに、目の前の少女がそれを阻害する。
だからこそ関わりたくないと、心の底からそう思わされた。強過ぎる光は、目眩を誘発するものなのよ。
その後色々あり、サーにより殺されかけた私を無理に救った少年は、私の言葉を無視して、どうしてお前の話を聞いてやらなきゃならねェんだなんて言い放つ。その妙に冷たい声が、けれども直後に1瞬揺らいだ。
「……ナミが、お前を気にしていた。大切そうに見詰めていた。だから、悪人じゃねェのは分かる」
「ナミ?」
「俺の、女。お前も会ってるぞ。オレンジの髪のお人好しだ。……女だからって、お前を攻撃出来なかった可愛い奴だよ」
あの子かと、妙に納得した。警戒心剥き出しで逃げる事に特化した優しい事だけが取り柄の少女なのだと、Dは語る。
その少女の話をする時だけ、優しい瞳と穏やかな声になっている事に、きっと気付いてはいないのでしょうね。そんなにも他人から想われる少女に、やはり生きる世界が違うのだと思わされる。
それから無理に助けられた私は、Dの船に潜伏して中を物色して回った。女部屋なのかそれとも書斎なのかさえ分からない1室の他は、普通の船で何だか気が抜ける。
料理の本と医学書は明らかに宝玉作の物が多く、他はあまりにも少ない。確かに宝玉のそれがあれば他はいらないと言う人も多くいるから、あながちおかしくも無いのでしょうけれど。
でも、この規模の海賊船にこれ程の本を貯蔵するだけの金銭があるなんて信じられない。そう言いたくなる程の本が、1部屋に押し込められている。
その本も大半が宝玉の物で……私の過去としか思えないような小説や〝白い町〟に関する作品等も小説として出していて、その為に世界から狙われている天才作家の物。そういった書籍だけは、出版規制が入っていて、入手困難だと言うのに。
その宝玉が出した全ての本が揃っている事に気付けば、農業の本とかいらないでしょうと本気で思う。楽譜の山もあり、音楽家も仲間にいるのかしらと思い悩む。
宝玉の本は他の作家のそれに比べると、比較的手頃な金額設定をされている。それは作家本人が子供や民間人でも手の届く価格にして欲しいと願ったからであると言うのは、本を愛する人達の間では有名で、それもあって幅広い層が手に取っている。
即ち新刊で出たそれを揃えるのは陸に住む人達でさえ難しい事である為に、海の上を動き回る海賊が全てを揃えるなんてのは基本的には無理な話。縄張りを持ち、その場所にて販売されるそれを入手しているのならば話は別でしょうけれど……。
ルーキーの中でも特にまだ億を超える存在が居る訳でもないこの1味に、縄張りがある筈も無い。では、どうやって……?
机に近付けば書きかけの原稿があり、まさかこの船には宝玉が乗船しているのかと手が震える。だとしたら誰が宝玉なのかしら。
麦藁帽子を被っているDにはそんな頭は無さそうで、それは緑頭の剣士さんも同じ事。ならばと思い浮かぶのは、サーに最後まで姿を見せなかったミスタープリンス?後可能性があるとするならば、お人好しの少女か他に知らないだけで仲間がいるのか。
王女様は有り得ないわ。これだけの事を書けるだけの知識があるのならば、こんなにも無謀な事はしなかったと思うから。
不思議な生き物と、鼻の長い彼のどちらかが作家なのかしら。でも、ここは女部屋のようだし……。
少し、様子を見るしか無いわねと女部屋らしいこの部屋にある服を借りて着替えた他に、部屋にある本を適当に読み漁る。嘘つきノーランドの真実と書かれたそれもまた、世界を震撼させた。
この人は、何者なのかしらねと心から思う。そうして暫くするとミスター2が乗り込んできて船を動かし始めて、その内本来の持ち主が帰ってきて、海軍と戦い始めたのを知る。
その間潜伏して様子を見ていたけれど、どうやらあのお人好しは航海士だったらしいと知れば、各役職が1人ずつしかいない現実に恐ろしくなる。この船、なんて危険なのかしら。
1人失っただけで機能しなくなる恐ろしいメンバー構成に、それならば確かに仲間意識も高まるわよねと小さく笑う。でも、考古学者なんて船には本来必要無いから、私はどう扱われるのかしらね。
そっとドアを開けて甲板に姿を見せると、1人を除き全員が落ち込んで嘆いている様子を見て、生ぬるいそれに苦笑しそうになる。風が髪を揺らすのを感じながら、いつ攻撃を受けたとしても大丈夫な距離を保ち声をかける。
「やっと島を出たみたいね。ご苦労様」
「あァ」
無意識で答えたのだろうその次の瞬間、侵入者である私にこぞって敵意を向けて来る面々。その上私は敵だったのだから、これは当然の行動。
「なんだ?」
冷静にDが問い掛けてきた事が不思議だった。だって、どう考えても1番冷静さを保てない人に思えていたから。
少し会話をしてみれば乗船許可がすんなりと降りて、私の方が動揺する。その動揺している自分を隠す為に少女を焦らせるか怒らせるかしようと視線を向けて、悪戯に笑う。
勿論声を掛けてくれたからと言うのもあったけれど。調べるには時間が足りなくて、情報が恐ろしく少ない美少女航海士に、ただの民間人にしか思えない善良さに私は怯えにも似た何かを感じている。
「ロビンはいつからこの船に乗ってたの?」
「ずっとよ。この服貴女のでしょ。借りてるわ」
さて、どんな反応するかしらと視線を向けて……まさかの優しい微笑みに呼吸が止まりかける。その瞳が、着られて良かったと言っていて、このお人好しが……!と叫びそうになる程。
やはり能力を買われて船に乗った平和ボケしてる民間人なのねと細く息を吐き出して、私と船長さんを優しく見つめる少女から視線を逸らす。長鼻くんと船医さんは少し対応してあげればすぐに打ち解けてくれて、本当に幼い少年達に恐ろしいとさえ感じてしまう。
コックさんのこれは演技なのかなんなのか。もう少し様子を見て判断するしか無さそうねと思うけれど、そうなると危険人物として素直に私へと殺気を向ける剣士さんが、この1味において考えれば1番共に居て楽かも知れないわね。
女部屋を共に過ごす事になりそうな相手だからと、多少の交流は持たなければとそう思う。だからこそ、苦手だとか言っていられ無いからと視線を向ける。
それに狼狽える事も無く、真っ直ぐに私を見詰め返した少女は、優しく穏やかに微笑んだ。それに心が萎縮するのを自覚してしまう。
汚いものなんて何も知らないと言うかのように、ただ清浄な空気を纏うシスターのように微笑むから。暖かいその眼差しから逃げるように、宝石を取り出す。
金銭管理は帳簿を見る限り少女の仕事だし、女は大半が宝石に目が無いから。そう思って言葉を紡ぐ。
「クロコダイルの所から、宝石持って来ちゃった」
「ありがとう助かるわ」
笑顔で近付いて来た少女に宝石を渡すと、その瞳を細めて真剣な顔でそれを手の中で転がしてから、ホッとしたように笑った。どうやら鑑定できるらしいと分かれば、本当に技能目当てでこの船に乗せられてるのねと思う。
明らかに戦えなさそうな雰囲気で、実際敵を傷付ける事に躊躇う少女。それが目の前に座れば、コックさんが飲み物を運んで来て私と少女がまるで友人同士のように見えそうな雰囲気に笑いそうになる。
「ロビン、どうしたの?」
疑いを持って見ていたのに、心配そうな顔と声を向けられては……私としても苦しいばかりで。泣きそうになるのを堪えて笑えば、少女は息を飲んで何も言わなくなった。
優しさは、時にこんなにも痛いのねと思いながら、私は少女に問い掛ける。あの時の言葉は、私に向けたのでしょう?
「私、貴方とどこかで会った事があったかしら?」
その会話の途中で、逃げられないように押さえてしまう私に、少女は穏やかで優しい雰囲気からキリリとした雰囲気に変わり知的な瞳を私に向けて来た。その瞬間に悟る。
彼女が宝玉だと。私と同じように世界に追われている宝玉は、博士や母の事を知っている可能性が高い。
船長さんを信じていると言葉の端々から伝えてくる他に、信頼と愛情を宿した瞳が船長さんに隙あらば向けられていては、私の方が言葉を紡げなくなる。その上で取調べのように追い詰める私を心配して色々言ってくるのだから、この少女に関しては警戒するだけ無駄であると悟ろうと言うもの。
少女はともかく船長さんは少女を想っているのがわかりやすく伝わり、そして……剣士さんとコックさんも少女を想っている事が眺めていれば分かる。そんな中で少女は笑う、無垢な笑顔で。
それを見て、場違いなのは私の方かしらねと内心で笑った時、空からガレオン船が降って来た。何が起きても不思議では無い場所、それが偉大なる航路。
こうして私は次の隠れ蓑を手に入れた。……この時私は既に、暫くの間だけでもいいから、この温もりに触れていたいと……そう思わされていた事だけは確かだった。
え?お前の作品は全体的に暗い?
そんな事ないさ、恋愛色強めのは明るいだろう!?
……基本的に明るいのとか書くの苦手なんだよ。許してくれよ……。