※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編side)   作:夢枕 七変化

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この話は、暗いです。
暗い話が苦手な方は、ご遠慮ください。


麦わらの一味船医〝わたあめ大好き〟トニー・トニー・チョッパー
蜜柑と肉と煙草


 音が聞こえる。耳慣れない音だ。

 雪の降るこの国では、音は吸収されてしまうし、高い所にあるから音は中々届かない筈なのに。……知らない匂いもあるな。

 椅子から降りて外に出てみれば、蜜柑とよく似た何かの匂いと、煙草の臭いを強く感じて、近付くと肉の匂いがした。それらは山の頂上まで肉の匂いをさせてる奴が、素手で連れて登ってきたのだと分かる。

 仲間なんだと叫んだ肉の匂いの奴が倒れて意識を失った直後、そのまま落下しそうになったのを掴み引き上げると家の中に連れ込んだ。それに気付いたドクトリーヌに聞かれるままに答えていたら、処置の仕方を指示される。

 肉はお湯に、煙草は俺が手術を、蜜柑はドクトリーヌの指示に従いながら珍しい症例だからと傍で教えて貰いつつ治療して行く。その為に必要な事をしていたら、肉が大切な仲間なんだと言って震えて居るのを思い出して……何でかな、泣きそうになったんだ。

 俺はずっと、仲間が欲しかったから。独りでいるのが嫌だったから。

 ドクターとドクトリーヌ以外の人間は、怖い。拒絶されるのが怖い。

 叩かれたら痛い。撃たれたら痛い。

 体も勿論痛いけど、何より心が痛いんだ。俺は何もして無いのに、どうしてって何度も思ったけど、それに答えをくれた人はいなかった。

 ……いいな、仲間だって言って命をかけるこの肉の匂いする奴。1緒に居られたら、楽しいだろうな。

 ……いいな、仲間だって言って命をかけてもらえる煙草と蜜柑。俺も……仲間が欲しいよ。

 蜜柑の治療をしていたら、蜜柑がゆっくりと目覚めた。そして優しい微笑みを俺に向けながら、小さな声で問い掛けてくる。

 

 「ここは?」

 

 驚いて物を落とし、怖くて隠れる俺に蜜柑は優しく笑いながら言葉をかけてくれるそれに、動揺する。なんだろう、この暖かいものは。

 人間って、乱暴で凶暴で、残酷で、突然襲ってくる怖い奴だと思ってたのに。でも、そうだこれは患者だから!

 俺はそう思って体調の確認をする。それに対して穏やかにありがとうと言われて、ドクターとドクトリーヌ以外からは初めて言われたそれに、どうしたら良いのか分からなくなる。

 物を落として俺がドクトリーヌに叱られると、蜜柑は困ったように笑って俺を見て来る。甘いその視線に、怖くない人間もいるのかなって思ってしまう。

 その後蜜柑を助けようとしていた肉と、その肉が大切にしていた煙草に追い回されて、俺は城の中を走り回る。やっとの思いでそれらをまいて蜜柑の様子を見に行けば、動こうとしてるのが見えて病状を説明しつつドアを閉めた。

 蜜柑に話しかければ、優しくなんでも答えてくれて、それにより少し気を抜いたら突然抱き締められた。慌てて逃げようとするけど、その温もりが俺の体から力を奪う。

 その状態で蜜柑は1緒に来ないかと、海賊にならないかと言ってくれる。でも……俺は、トナカイだ。

 人間じゃない。なのに、トナカイとしても中途半端で、俺は……ただの化物で……。

 ポツリポツリと言葉を落とす俺に対して、蜜柑は静かにそれを聴きながら頭を撫でてくれる。その手の優しさに、抱き締めてくれる温もりに、泣きそうになるのを自覚した。

 

 「私を怖がらせたいの?」

 

 蜜柑は体に隙間を作り顔を覗き込んでくる。その眼差しが優しくて、俺は思わずそれから逃げるように俯いてしまう。

 

 「青鼻だし」

 

 それに蜜柑が答えようとしてくれた時、肉と煙草が姿を見せて、俺は蜜柑から離れる。そして駆け出した。

 それからワポルが帰って来て、それと戦い、でも俺は共には行けないからと突っぱねていたら、ドクターの旗を護ってくれた肉……ルフィが両手を広げて言う。

 

 「うるせェ!行こうー!」

 

 涙が溢れて止まらない。ドクターが大好きだと言った海へ、憧れてると言った海賊になって、行ける。

 独りは嫌だと、何もかもが怖いと思うのに、そんな俺の、でも護りたいものを共に護ってくれたルフィが誘ってくれる。未知なる海へ、共に行こうと言ってくれる。

 仲間が……欲しかった。独りはもう、嫌だった。

 苦しかった。悲しかった。

 痛かった。辛かった。

 でも、そうだ。それは全て〝かった〟と言える過去でしか無くて、でもその過去を、変えられないものを抱えて俺は立ち止まってる。

 

 「ドクトリーヌ、俺、海賊になる」

 

 決意を込めて話す。ドクトリーヌは優しいから、口は悪いけど優しいから、きっと笑顔で送り出してくれるって思ったのに……!

 馬鹿にされて、否定されて、刃物を向けられて……ただドクトリーヌから必死で逃げ出す。大切な人から、俺はまた、ただ逃げるしか出来ない。

 どうして、ドクトリーヌ。どうして、ドクター。

 治せない病なんてないんだろう?

 俺は、万能薬になるって決めたけど、でも、独りで俺が万能薬になったってなんの意味も無いんだ!大切な人を今度こそ喪わなくて良いように、俺は万能薬になるって決めたのに……!

 ドクター……幻想じゃないよね。あの時……ドクターの研究は完成してたんだろう?

 それとも、あれもウソだったの?

 そう言わないまま死んだら……俺が悲しむから……!?

 ドクロの旗を掲げた男に不可能は無い!!……もう1度言ってよドクター!!

 何処までも走る俺の耳に、爆発音のような物が聞こえてくる。それにより足を止めれば、ドクターの言葉が現実となって現れた。

 涙も泣き声も止める方法なんて分からない。ドクター……ドクトリーヌ……俺……。

 

 「ウォォォォォォォ」

 

 いいか……!!この赤い塵はな、ただの塵じゃねェ!コイツは大気中で白い雪に付着して……そりゃぁもう鮮やかな。

 

 「ウォォォォォォォ!」

 

 ピンク色の雪を降らせるのさ!!

 

 「ウォォォォォォォ!!」

 

 泣き続ける俺を、誰も止めない。俺の涙が自然と止まるまで、ずっと寒空の中で待っていてくれた。

 船に行くと宴だと言われて、驚く程に楽しい時間が始まった。経験した事の無い賑やかなそれに、俺は泣きそうになる。

 蜜柑はナミと名乗り、俺の傍にいてくれる。馴染むまでのつもりなのか、いつもこうして誰かに寄り添ってるのかは分からないけど、ナミは俺に優しくしてくれる。

 ドクトリーヌに殺されそうになったのに、笑って素敵な人だと言ってくれた。そして宴の席では歌ったり演奏したりしていて、音楽家だったのかと理解する。

 そして……その翌日ナミとルフィが〝恋人〟らしいと皆の会話から分かって、ナミがルフィを甘やかすだろうって分かったから、あんまり虐められないように守ってやらなきゃと思う。だってナミは、誰にでも優しい。

 様子を見ていたらナミは船の中の事は大半を1人で担ってて、いつも何かしてる。その中で皆を気遣ってるのに、その中でも特にルフィを甘やかしてる。……優しくしてるんじゃ無くて、甘やかしてるだよなァって俺が思うくらいに、ナミはルフィに甘い。

 そんな時ドクトリーヌにお願いしてたまに買ってもらってた好きな作家の本を、ナミから突然手渡された。見てみたらなんとそれは医学書で、とうとう医学書も出し始めたのかと驚いて中を見るとわかりやすく丁寧に纏められている。

 珍しい症例から、よくある病……似ていて勘違いされやすい病の見分け方等も書かれていて、それについて感動して褒めたら何故かナミが少し顔を赤くした。いつか会いたいと言っただけなのに……ハッ!熱が、ぶり返したのか!?

 安静にしてないからだぞ!

 それからルフィに誘われるままに冷蔵庫を漁って中身を食べたら、ナミとサンジが悲鳴をあげた。どうやらいけないことだったらしい。

 頭を抱えてナミが必死で食料調達の方法をって唸ってて、だから他に医学書とかあるかなって聞けなくてウロウロしていたらサンジに声をかけられた。

 

 「どうした?」

 「ナミにこの本貰ったんだけど、他に無いか聞きたくて。俺、宝玉の話好きなんだ!優しくて!それにこの本もわかりやすくて丁寧に作られてる。だから他にもあるなら読みたいんだ!……いつか、会ってみたいなァ」

 「宝玉に会いたいって……?何だチョッパー、聞いてないのか?」

 「何をだ?」

 

 俺が首を傾げるとサンジは煙草の煙を吐き出しながら、ナミさんが宝玉だと告げて来た。あの人照れ屋だから褒められて言い出せなくなったのかもななんて言うけど……ナミが、宝玉!?

 確かに、優しい話だった。文字も丁寧だった。

 頭もナミは物凄く良い。けど、いつも忙しそうにしてて、いつ書いてるんだ?

 言われてから様子を見てたら、本当にいつも動き回ってて、座ってても何か書いてて……書いてる?まさか!

 近くの台に乗って覗き込めば、書いていたのは航海日誌で何だと思ってでもさり気なく部屋について行ったら、宝玉の作品が沢山本棚に詰まってるのが見えた。

 

 「うわぁぁぁ!宝玉の本だ!」

 「え!?チョッパー、いたの?」

 「この本!」

 「好きな時に来て、好きな本持って行っていいわよ」

 

 優しく笑って許可してくれるナミ。その様子を見て、今しか聞けないと思った俺は、ナミに言う。

 

 「ナミ!次は何を出すんだ?」

 「そうね、予定では医学書を早めに出して行こうとは考えてるけど、とりあえず最近書いてないから譜面かな?」

 

 答えた後でハッとした顔をしたナミは、真っ赤になった状態でギギギッと音が出そうな動きで俺を見た。うん、本当だ、恥ずかしかったんだな。

 

 「チョッパー……」

 「サンジに聞いたんだ。会えて嬉しいよ、宝玉!あのな!俺宝玉に会ったら……」

 

 それから俺が話す事を顔どころか耳まで真っ赤にしながらも聞いてくれて、質問したら答えてくれて、分からない所は説明してくれた。俺はこの時まだ、何も知らなかったんだ。

 明るくて楽しいだけのメンバーだと思ってて、それぞれが何を抱えているのか知らなかった。その中でもナミがどうして大切にされてるのかも、何も分かってなかった。

 ただ、宝玉だから、船の事をやるから、優しいから、それぞれ大切にする理由になるし、どれかひとつでも守るべきだと思うけど。……結局はナミだから、守りたいんだ。

 優しいお姉さんで、強がりで、1人で抱え込んでて……それなのに、皆に甘くて、何でも出来て、だからルフィに時々虐められる。なら、いつも守ってもらってる分、今度は俺が守るんだ。

 何も知らない俺だけど、何でも知ってるのに、何も分かってないナミを守りたいんだ。だからまずは、俺の薬を警戒しないで飲んで貰えるように、信頼されるお医者さんになるぞと決意して、俺は今日もナミの所へかけて行く。

 

 「ナミー!この本は続き無いのかー?」




チョッパーの話は今の所これだけです。
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