※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編side)   作:夢枕 七変化

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未来へ

 幾人ものゾンビを斬り伏せ、口内へと塩を投げ込み、けれども……目的の相手には未だ会えていない。そうして駆け回り続けていると、チラホラと戦闘中と思われる音が聞こえて来て、彼等もまたこの島に来てしまったのだと気付く。

 逃げてくれとは言ったものの、難しかったのかもしれません。物音の一番近かったその場所を目指し掛け出せば、そこにはあの船の大人二人組が囚われている姿がある。

 迷う暇も無く、躊躇う事も無く、身体が動く。彼等はあの少年達にとって、必要な人材。

 華麗に登場しようと思ったのですが、勢い余って落下してしまいました。そんな私に気付いたのは、ゾンビの方が早かったのですが……共に落下したゾンビは対処してからジャンプして戦いに参戦すべく剣を抜く。

 歌いながら姿を見せれば、驚きと共にいくつかの質問がなされる。それに対し返答をする為に、蜘蛛を斬り対処をしてから蜘蛛の糸は火に弱い事を伝えて対応を任せた。

 悪魔の実の能力により、影を切り取り生み出されるゾンビの話と、塩で対応できる事を伝えれば……何故か懐から取り出された塩。お二人のそれに無い目を見開き驚けば、困ったようにお嬢さんが口を開く。

 

 「ナミが、持って行くようにって……言ったのよ。だから、全員持ってるわ」

 「あのお嬢さんは……いったい……」

 「……世界が喉から手を出す程に求める天才であるのに、自らの価値を自覚しない愚かで優しい……うちの、航海士よ。それにしてもどうして……貴方までゾンビやこの島の事について詳しいの?」

 

 点から答えを導き出す賢き少女は、未来を知ってしまう時があるのだと二人は教えてくれる。途中何度かしばかれつつ話した中で、私はつい抑えきれない感情を剥き出しにしてしまった。

 それを感じ取った男性が、私に問い掛けたのは……ある意味当然の事だったのかも知れません。立ち去る事を許さずに、問い掛けられたのは……当然の疑問であり……心を抉る問い掛け。

 

 「……そうまでして生きて……果たしたいお前と〝仲間との約束〟ってのはいったい何なんだ!?」

 「ヨホホ、お節介な人ですね」

 

 そうして私は、ナミさんの話を聞かせてくれたお礼にと、語る。ナミさんの話は仲間しか、本来知ってはならないものだったのでしょう。

 それでなくとも、世界が求めている美少女。アレだけの能力を有しているのであれば、恐らく戦う事などできないのだと言われずとも理解できます。

 それでも、なくてはならない大切な仲間……ならば、護って当然。その公然とした秘密を教えてくれる程に、あの少年の言葉を重く受け止めてくれると言うのであれば、私もそれに応えなくては。

 過去を思い出しながら、語ったのは端的な過去の罪。小さく、ぴーぴー、きゅーきゅーと鳴いていた大切な仲間。

 

 「幼い鯨で、とても我等の危険な航海には連れて行けなかった……。もう、随分と大きくなったと思います……!!」

 「仲間って〝鯨〟なのか……!?」

 「……そうです。あれからずっと、私達を信じて待っているような気がしてならないのです」

 

 仲間達が、歌う声が脳裏に響く。我々は、歌う海賊団。

 泣く子も笑う、ルンバー海賊団です。可愛くも幼かったラブーンは、今……どれ程大きくなった事でしょう。

 

 「いつものように、陽気な音楽をかき鳴らして……大手を振って帰って来ると、思っているかも知れない」

 

 本来はブォー!と鳴く筈の種族です。ともすれば今はもう、そうやって鳴いているかも知れません。

 いいえ、鳴いている事でしょう。群れからもはぐれてひとりぼっちで……私達を待って、泣いているような……そんな気がしてならないのです。

 

 「無責任に死んでしまった我々を、彼が許してくれるとは思いませんけど、身勝手な約束をして、声も届かぬ遠い空から」

 

 船長の笑顔が、見えた気がした。お前の頭は、ラブーンみたいだと笑う仲間達の声が、聞こえる気がする。

 

 「死んでごめんじゃないでしょうに……!!!!男が一度……!!必ず帰ると言ったのだから!!!!」

 

 彼等はその先、何も声を掛けては来なかった。私はただ、先を急ぐからと言い残してその場を去ることしかできず、漸く見付けた相手には……歯が立たず打ちのめされる。

 腕を磨いた筈だった。一人でも、生きているのだから、成長できると信じて。

 生きて来た……影を取り戻し、ラブーンの元へ皆の歌声を届ける為だけに。だと言うのに……私は、身動きも取れず、ただ見ている事しかできなかった。

 私の代わりに彼と戦い、そして勝利を得たのは……無口な剣士。同じ剣士でありながら、半分なんて烏滸がましい程にしか生きてもいない少年が勝ち、そして……取り戻してくれたのです。

 ならばせめて、恩返しをさせて欲しい。私は、助けられるのを待つだけの弱者では居られないのです。

 そうして私が協力を申し出れば、心配そうにしながらも最後の戦いに参加させて下さる皆様。絶望的な体格差と、圧倒的な力の差を見せつけられても尚、彼等は引かない。

 剣士を倒せなかった私には、当然止めをさせるような事は無いでしょう。けれども、たとえ一太刀でも入れられれば次へと繋げられます。

 繋げる事ができる相手がいるのです。だからこそ、私は全力で入る。

 戦えないと思っていた小さな動物も、少女も、恐ろしい程の実力を発揮する。それでも打ちのめされて、吹き飛ばされて……掠り傷だなどとは口が裂けても言えないような怪我をしながらも、誰一人言わない。

 もう辞めようとは。勝てる筈もないと、逃げよう等とは……言わないのです。

 戦いの邪魔になるからと、離れた所で声援を送る私と同じような立場の人達。彼等もまた、声の限りに叫ぶ事で応援して、戦っているのでしょう。

 人の想いは強い。その想いを乗せて、少年は見事に巨大なゾンビを打ち倒し……自らの影を取り戻した。

 全てが終わったのだ……と、誰もが思った時、現れた新たな強敵。そんな中でも、戦いを辞めない少年達。

 情報を伝えるナミさんと、それを受けて尚恐れる事無く立ち向かう剣士さん。サポートするように挑み掛かるコックさんに、長鼻さん。

 勝ち目なんてどこにも見えない。けれどもその強敵が放った言葉に、誰一人頷く者は無かった。

 

 「さァ……麦藁をこっちへ」

 「「「「「「「「断る!!!!」」」」」」」」

 

 幾人の声が重なったのか、それさえも分からない程に同調した空気。それに残念だとこぼした敵は、声の調子を変える事さえ無く技の名を口にする。

 まだ歳若い彼が、ここまで多くの感情を隠せている事に驚かされる。さて、これはどうしたら役立てるのでしょうか。

 

 「熊の衝撃(ウルススショック)」

 

 その刹那、衝撃が襲った。それは間違いがない事でしょう。

 意識を失い、それが戻った時、私は動けない自分に気付いてしまう。だがもし、今動けたとして……私は、動いて彼等のように敵の目の前にその姿を晒す事ができたのでしょうか。

 自問自答したそれに、答える声は無い。ただ、目の前で自らの船長を守る為の戦いが繰り広げられていた。

 私の数倍強い剣士さんが、最後の力を振り絞り仕掛けた攻撃でさえ、少しのダメージも与えない現実。剣士さんが絶望して、そのまま命乞いをするのかと思った私は、愚かでした。

 

 「どうしても……!!ルフィの首を取っていくのか……!?」

 「…………それが、最大の譲歩だ」

 

 何処が譲歩なのでしょうか。未来ある温かな少年の命を奪う事が、どうして譲歩などと言えるのでしょう!?

 けれども、指先が震えるばかりで、身体は動こうともしない。これは恐怖が理由か、それとも……ダメージの蓄積によるものか。

 本来であるならば、声だけなら出せたかも知れません。しかし、それさえもできず、臆病にも見ているしかできない私の情けなさ。

 彼が勝てないのであれば、私なんかに勝ち目がある筈もないと諦めているからか、諦めて意識を沈ませようとする身体がある。けれど、それを許せない自分が意識だけは保ってしまうのです。

 

 「分かった。首は……やるよ」

 

 思いがけない言葉に息を飲めば、続いた言葉にハッとさせられる。その手があったと、遅れて気づいた所でもう遅い。

 己の船長を、最期まで信じきるその強い想い。それを無謀と思わせない強い輝きが、確かにあの少年にはあった。

 

 「ルフィは、海賊王になる男だ!!」

 

 若さ故か、挫折を知らないが故か、それとも……絶大なる希望故か。真っ直ぐに、迷いも淀みもなく、言いきれる青さに惹かれるのは……私にもまだ、その熱が残っていると言う事かも知れませんね。

 動かない腕を必死に動かそうとした時、コックさんが姿を見せて庇うように立つ。その後崩れる彼を見て、剣士さんが後生だと頭を下げるのを見た。

 けれども……その直後に響いた悲鳴のような声により視線は少年から離れまいとする少女に向く。ああして守っていたのだと、否応なしに分かってしまう。

 警告を無視したからなのか、少年から飛び出した何かが少女を貫くように抜ける。その刹那、響き渡る少女の悲鳴。

 これにより意識を取り戻した者もあるだろう。それくらいの絶叫。

 そして、そうあるべきだと分かる流血がその足元に溜まる。寧ろ、何故そうまでして離れないのかと問い詰めたくなる程の惨状。

 それは剣士さんの方が強く思っている事のようで、苦しそうに辞めてくれと乞い願う。悲痛なそれの中で、少女が愛おしそうに少年を見詰めて微笑むのを見てしまえば、誰かの応援等出来はしないと思い知らされる。

 歳若いが故に、生命を託せる程に敬愛する船長の愛する女でさえ、彼は諦められない。いや、ともすればだからこそ余計に想いが募るのかも知れませんね。

 

 「……俺にとっても、ルフィにとっても、ナミは自分よりも大切な存在なんだ!頼む!ナミだけは、これ以上傷付けないでくれっ!!」

 

 地を這うような言葉に、けれども少女はもう意識等既に無いのだろう。それでも尚、守る為にと身体を突き動かすのは強過ぎる愛情か。

 何処からそんな体力が生まれるのか。青白い顔で、少女は、けれども敵を迷い無く見据えた。

 

 「ルフィ……に、も、仲間……にも、手は……」

 

 彼女はどうしてか少年の敵を見定め、肉体が生命を脅かすその時まで抱き着いて、そして……堕ちた。自らの体液で作られた池の中に、雨でも無いのにそこに落ちたとわかる音を響かせながら。

 意識のある間、何物にも代えがたい程の美しさで魅せたそれは、彼女の持つひとつの能力か。平時に見せた儚さを伴う美しさでも、仲間の前で見せた幼い愛らしさでもないそれは……鋭さを伴う神々しい迄の気高さを有す。

 そんな事を考えて、血の海に沈む少女を見詰めていると、突然泣き叫んでいるのかと思うような声が響く。慟哭のようなそれは、剣士さんの心を違わず教えるもの。

 深く深く愛しているのだと、普段は敵に向けられるだろう激情をその時ばかりは少女に全て向けて叫ぶ。悲痛なそれが聞こえなくなった直後、代わりのように響いた剣士の絶叫。

 想像を超える痛みなのだろう。それを受けたからなのか、信頼と哀しみの綯い交ぜとなった眼差しを少女に向けて剣士は立ち上がる。

 そのまま姿を消したのを見送り、私は自らの意識が沈むのを感じた。

 意識が戻った時には、少年の楽しそうな笑い声が聞こえていて無事だったのだと分かりホッと息を吐き出す。けれどもその直後に血の海に沈む少女を見て、この犠牲があって初めて少年は無事だったのだと気付く。

 声を出す事も身動きする事さえできないで、その成り行きを見詰める。すると今度は剣士さんが運ばれて来て、その地獄絵図のような光景に身体を震わせる事しかできない。

 見ていたのに、私は、それを何処か現実として見ていなかったのです。意識の無い二人を見詰めて、瓦礫を殴る男性と必死に張り付くタヌキさんを交互に見詰めていました。

 治療が終わると、後は意識が戻るのを待つだけと言われて何も出来ない私は独りで仲間の船へと足を向ける。この島で得た棺桶でお揃いのそれに寝かせてある皆の骸は、けれども同じひとつの棺に多くの人が寝ているからどの骨が誰等は分からなくなってしまった。

 それでも、彼等との別れを決意するのは難しい。どちらにしても、この船で先に進める筈もないですから別れる他は無いのです。

 受け入れて貰いたい等、そんな烏滸がましい事を考えるより以前に……約束を、果たさなければ。ああ、それより前に、この船を直して頂けるか誰かに聞いてみなくてはなりませんね。

 一人では扱いきれないようならば、この船は破壊するしか無いでしょう。そうなれば途中までどなたかの船に同船させて頂いて、それから……。

 また、独り……約束を果たしに行きましょう。どちらにしても、待たせていた分、独りの辛さを訴える暇など存在しないのですから。

 

 「お?……こんな所にいやがったか」

 「貴方は……フランキーさん、でしたか?」

 「ああ。……これから宴になるらしい。ブルック、お前ェ音楽家だろ。演奏を頼むぜ」

 

 まだ意識が戻ってもない仲間がいるのに行われるという宴。けれどもそれは、生き残った者達がやるべき事でもあるのだと知っています。

 暗く落ち込んでいては、先へと進めなくなってしまう。この世界は、海は、そう言う場所なのです。

 

 「ヨホホ!影が戻ったお祝いですね!」

 「ああ……それより、この骨の山。まさか全部、お前ェの身体の一部だなんて言わねェよな?」

 

 少しばかり嫌そうに言われたそれに、仲間だと言葉少なに答えれば、埋葬するかと問い掛けられた。奇しくも同じ方面の土のあるここならば……そして、島とはいえ船である以上、海賊である彼等は満足してくれるような、そんな気がします。

 

 「そうですね。この船ごと眠らせてあげようかと考えていましたが」

 「もったいねェ!直せば使える船だ!まだ……生かしてやれよ」

 

 乗る人が変わろうと、増えようと、命尽きるその時まで、使命を果たしたいと願うのはきっと誰しも同じ。その事に気付いてしまえば、笑って頷いたのは通りと言えるでしょう。

 皮膚がない為に、笑っている事が伝わりはしないのでしょうが。だからこそ私は、声を出してそれを肯定するのです。

 

 「ヨホホ!宜しくお願いします!」

 

 まだ死ぬには早い。私達はまだ、役目を終えてはいないのですから。

 そうでしょう?と、心の中で船へと呼び掛ける。仲間と共に過ごし、船長としていた期間は短くとも、この船の主は……私でした。

 さァ……辛気臭い気持ちとはここでお別れ。楽しく明るく、宴を盛り上げる為、未来へと進む為にも、演奏して歌わせて頂きましょう。

 ヨ~ホホ~、ヨ~ホホ~ホ~。ヨホホホ~、ヨ~ホホ~ホ~。

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