波間の向こうを目指して(新・本編side) 作:夢枕 七変化
途中で食料調達に寄った島で、あのツマミを赤髪に作らせようと決めて八百屋に向かったが、必要なのは種だけだ。実は要らぬとは打ち捨てる訳にもいくまいと思えば、どうしたものかと暫し考える。
その時南瓜料理を出す店を見付け、その店主に種を売ってくれと言えば要らないからと譲ってくれた。だが、それでは悪かろうと言えば、南瓜の天麩羅を少し食べて行くよう言われそれを食べる。
……この南瓜という物が意外と美味いらしいと知り、それの代金を支払ったが赤髪が天麩羅や煮物を作れるのか不安だった為、南瓜その物は買わずに種だけを抱えて帰った。船で寛いでいた赤髪にそれを差し出し、あのツマミを作れと言えば溜息を落としつつも素直に作り始める。
辿々しいその動きに作り慣れている訳では無いのだなと思うが、あれが食べられるならばそれで十分だ。それにしても、赤髪が料理とは意外だ。
「料理が出来るとは思わなかった」
「ならなんで俺に作らせようと思ったんだよ」
「俺は作れん」
「……教えてやろうか。簡単だぞ」
赤髪の言葉にそれは助かるなと思い頷けば、赤髪は俺もナミに教えられたんだがなァ……なんぞと言い出した。思い返してみれば、ナミの料理は確かに美味かった。
「成程。なんでも出来るな」
「……まさか、ナミの手料理食ったのか!?」
「あァ、夕飯としてシーフードパスタと果物の盛り合わせ、ワインとチーズを出された。朝はパンとスープと魚を揚げたものが出されたぞ。……あれは、甘いな赤髪」
「お前が憎い」
「何だ突然。……まさか、作って貰えていないのか?」
「人数が多いしコックさんいるじゃないって言って、基本レシピを教えるだけだったんだよ。たまにツマミは作ってくれたがな」
……そうか、あの時は2人だったから作ってくれたのか。そう思っていたら、目的の場所に着き、船は自ずと空島へと向かい始めた。
ギャーギャーと騒ぐ赤髪を五月蝿いと思いながらも、ツマミの作り方を教わる為に大人しく従っておいた。作り方が本当に簡単で、乾煎りした種を新聞紙の上に広げた所で空島に到着したので、帰ったら剥いて食べようと決める。
赤髪がナミの居場所を探り意気揚々と歩き出すのを見て、余裕だなと思う。俺がナミを奪うとか、戯れに殺すのでは無いかとは考えぬのだろうか。
空島では何やら小競り合いが起きているようだが、俺には関係無い。そう思っていたらまるでここが地上の陸地であると思わせるかのように、空からナミが落ちて来て華麗に着地した。
猫を思わせるようなその動きに変わらぬなと思う。だが、10年以上前に会ったきりだと言っていた赤髪が、躊躇い無くそれをナミだと認識した事は多少不快だ。
それにしてもナミの姿は卑猥だな。森の中でビキニ姿、その上腰に紐を巻いて武器を装着していると言う何とも言えない姿を晒しつつ、不安そうに空を見上げる美少女か。
そう思っていたら赤髪がナミを抱き寄せた。ナミが動いた事で蜜柑の香りが漂い、俺の麝香は少しも残っていないのかと少しばかり残念に思う。
その後2人は挨拶を交わし、そのままナミが甘えるように赤髪に涙を見せる。俺には、気付いてもいないか。
ナミが赤髪を分かるのは、まァコレが昔から変わらずガキっぽい故に仕方ないとして、赤髪は写真を1瞬見ただけであろうに。師匠と言って泣くナミは少し幼く、親に会うまで泣くのを耐えていた迷子の子供を思わせる。
その後俺の存在に気付いたらしいナミが固まるので、笑いそうになる。本当にナミは……愛らしいな。
俺とナミの出逢については、は南瓜の種を作りながら話していた為に、赤髪がナミに事実確認をする。それに動揺しつつも言葉を濁すナミに、赤髪の雰囲気が変わる。
……面倒な。赤髪に対しそう思い、真実を口にすれば赤髪が殺気立つ。
ふん、たかだか師匠でしかない立場で何を言っているのか。ナミは俺のモノとすると決めている、邪魔をするな。
「どう言う、意味だ?」
「……話さなかったか。ナミの〝ハジメテ〟は〝俺が奪った〟のだと」
「やめて!」
突如ナミが悲鳴のような声を上げた。それの理由が分からずに、ナミに視線を向ければ辛そうな顔をしている。
何を騒ぐのか。真実であろうに。
それに、この場でこれを話しておかねば、この先ナミが赤髪に責められかねんと何故分からぬのか。……まさか、赤髪の想いに気付いておらぬのか?
それによりつい鼻で笑えば、ナミは赤髪に甘えるように、頼るようにその身を預ける。その男の想いは分からずとも、頼り甘えられるのかと明らかな嫉妬の感情が渦巻くのを自覚した。
女はハジメテの男は忘れられぬと言うが……さて、どうしたらナミの最後の男になれるだろうか。ハジメテを奪ったのだから、残るは最後の男となる手段だろう。
「……ナミは嫌がっていた。あれは明らかに強姦だろう。後悔も罪悪感も無いがな」
「……ナミを、犯した?それも、はじめてを……だと?」
赤髪の声が怒りに震えるのが分かる。だが、主に怒る権利はない。
主とて俺と同じ穴の狢だろう。今は耐えられたとしても、主も泣かれたとて、止まれぬ時が来るだろう。
「あァ、泣いて嫌がり、貴様と副官を呼んでいたな。……もし孕んだなら言え。ナミごと貰い受けてやる」
ナミに似ていれば男でも女でも可愛いだろう。俺に似た息子でなければ、何でもいい。いや、それはそれで良いかも知れんな。
ナミが幼い自分を優しく撫でる姿を思えば、悪くは無い。うむ、ナミは想像の中でさえ可愛いな。
「……鷹の目、覚悟は、出来てるか?」
俺の未来予定の世界に赤髪の声が飛び込んで来る。……騒がしい上に、不快な。
「たかだか〝師匠〟が出しゃばるな。これは恋愛絡みの話で師匠でしかない貴様には関係なかろう」
「シャンクス、大丈夫だから!私、気にしてない!だから、やめて。お願い。ミホークさんも……煽らないで」
ナミのその言葉で、赤髪はその怒りの矛先を変える。俺としては何故俺には敬称がつき、赤髪には無いのだと言うところに不快感が抑えられぬのだがな。
ナミは赤髪の怒りを真正面から受け止める。並の男でも失禁するレベルのそれに、睨み返す胆力にやはり欲しいなと思わされる。
その後ナミは、春を思わせる穏やかな笑みを浮かべた。愛しいと、全身で示すそれは、赤髪に向けられたものだろうか。
「……私の男は、全てわかった上で気にしなくていいと言ってくれたわ。それに、ちゃんと上書きするように愛してくれてる。だから、もう気にしてないのよ」
幸せそうに、蕩けるように笑うその顔は恋する乙女そのもので……それに言葉を失う俺と違い赤髪はナミに問い掛ける。相手は誰なのかと。
そんな問いにナミはキョトンとした表情になってから、1人納得した様子で微笑む。愛しそうに、幸せそうに笑いながら。
「ルフィよ」
「……よりにもよって、ルフィか。……ナミ、俺にしとけよ」
「……?何を?」
その名は聞き覚えがある。そうだ、ナミが船を盗んだ相手であり、俺からライバルを奪った男。それと何故かナミは行動していると言っていたが、成程そういう事だったのか。
そう思っている間に赤髪はナミの唇を奪う。このまま襲うつもりかと思う程に、深く堪能するそれに呆れたものだと思う。
……俺は誰にも見せたくは無いが、赤髪は見せびらかしたいのかと気付き、どちらも違う形の独占欲だなと思う。この違いが、後にどのような事を引き起こすのか、それを俺は分かっていなかった。
だが、知っていても防げたかと言われればそれはその限りではない。目の前で抵抗している姿を見れば、助けるべきかと考えさせられるが、赤髪を攻撃すればナミは恐らく身を呈して庇うだろう。
愛らしく喘ぎながら、それでも恐らくは精一杯の抵抗を見せているのだろう。その直後急所を蹴り上げたかと思うと、呻く赤髪から見事な早業で逃げ出したナミを見て、賞賛してやりたくなる。
フルフルと震えながらも、赤髪を睨むその姿は正しく小動物だ。うーうー!と唸るその姿は既に兎にしか見えぬな。
その直後ナミが幼い行動をとり、それを見た赤髪の空気が弛緩した。その後毛を逆立てるナミを軽くいなし、得意の口先でその甘い思考を操ると自ら腕の中に飛び込むよう仕掛ける。
流石にこれはナミが哀れか。仕方あるまい。
「ナミ、信じるな。喰われるぞ」
思わず溜息を落とした俺は、ナミを真っ直ぐに見詰め言葉を向けてやる。それに対してナミは、ポヤっとした表情のままだ。
「主は、甘いな。赤髪はその舌先三寸で生きてきたようなものだぞ」
俺の言葉に赤髪は騒ぐが、間違ってはおるまい。そのままここに来た経緯を説明してやれば、ナミは理知的な顔で話を聞き、納得したように頷く。
そのままの勢いで俺の想いを伝えてみれば、やはり分かっていなかったらしく驚きをその表情に見せた。やはりナミは鈍いのだなと認識し、会話を続けていれば赤髪がまたも騒ぎ出す。
「赤髪、黙れ」
「なァ!鷹の目お前、俺に対する扱いが酷くね!?」
「五月蝿い」
それからナミから名を呼び捨てにさせる事に成功したが、それがまた甘美に思える。うむ、悪くないな。
名を呼ばれた事で機嫌の良くなった俺は、心のままに笑う。ナミはそんな俺の顔を見て、その顔を赤く染めた。
……このまま攫いたいと言ったら、泣かれるだろうか?
「……気は長い方でな。待っていてやる。何年でもな。だが……妙な抵抗をすればその限りでは無い。また会おう、ナミ」
そう言って背を向けた俺の名をナミが呼ぶ。それにより、思わず立ち返るとナミを抱き寄せ唇を奪っていた。
相変わらず甘美なそれを堪能していれば、ナミは嫌がり助けを求める。それには恐らく仲間であろう者達の名が連ねられた。
直後に俺に剣を向けた赤髪に、お前もやっただろうがと思うが、今は争うのも馬鹿馬鹿しい。それでも1応問い掛け、挑発する。
それに剣呑な空気で返すので、仕方のない奴だと思いつつナミに視線を戻す。ナミは相変わらず愛らしい。
「ナミ、帰らぬ方が良いか?」
「……気をつけてお帰りください」
そんな言葉を返したナミに、次は赤髪無しで会いたいものだと切に思う。そうして俺は赤髪をその場に残して先に船へと戻る。
俺がいてはナミも話しにくかろうと思ったからだが、赤髪に優しくしてやる義理はない。だが……そうだな2時間程は待ってやろう。
赤髪も10年ぶりに会ったというのならば、抱きたいだろう。2時間あればとりあえずどうにかできよう。
この後に帰ってきた赤髪がナミを抱いていなかったと知り少し見直した己を、後々切り刻みたくなる等思いもよらず、赤髪を親……否、副船長の元に帰し、放浪させるなと強く言い聞かせる。
「迷惑をかけて、すまなかった」
「ベック!?俺が迷惑かけたとは限らね「暫くは会いたくないものだ。大人しくさせておけ」」
「分かった。連れ帰ってくれて感謝する」
ベン・ベックマンがそう言って頭を下げたので、俺は1人船に乗り込んだ。その数日後に天夜叉からカジノ船への招待状が届き、遊ぶ気は無いが寛ぐ為に利用するかと、俺は無言で船を進めた。
ここ迄で現状書けているミホークの本編sideは終了です。
また続きを書きましたら、此方に掲載させて頂きます。