波間の向こうを目指して(新・本編side) 作:夢枕 七変化
俺がガキだった頃、まだエースもサボも側にいて、ナミに守って貰っていた。そんな頃に、シャンクスに助けて貰わないとどうにもならなかった近海の主。
己の無力を痛感して、大切な人を傷付けて、そして多くの事を学んだあの日を思い出す。そんな記憶を呼び起こす相手を倒して、俺は海に出た。
そして、コビーと知り合い、友達になって……そして、ゾロと言う仲間を得た。でもよ、どっちも航海術なんて持って無くて……俺は鳥に連れ去られ、ゾロとはぐれちまった。
そんな時に再会したのが……探し求めていた大切な女、ナミだった。呑気な様子で、でも懐かしそうに俺を見て笑う。
相変わらず可愛い。願望から、妄想とかしてるんじゃないかなって思うくらい、可愛い。
でも、この無防備な感じと、蜜柑の香りが本人だって俺に教えてくれる。その香りと同じ果物を思わせる長い髪が風に揺れて、俺をただのガキに戻しちまいそうになるんだ。
「空を飛べるようになったの?」
「違ェよ!落ちただけだ!って、え?……まさか、ナミ、か?」
そして俺に手を伸ばしかけてから、動きを止めて、そして無言で走り去る。そのまま姿が文字通り消え失せれば、とりあえず幻説を疑うのも当然だろう。
元々目に追えない速度で移動出来るナミだから、本気で逃げられたらその時点で詰みだ。慌てて追いかけようとしたその時、俺の麦藁帽子を弾き飛ばした奴がいて、俺は即座に戦闘に入る。
だと言うのに戦いが終わるとナミが居なくて、麦藁帽子も無くて……本気で泣きそうになりながらナミと麦藁帽子を呼んでいた。そんな俺の近くでフワリと蜜柑の香りがして、帽子が俺の頭に突然現れる。
……もしかして、これ、ナミの技か?
そう思った直後に姿を見せてくれたナミは、冷静になって見ればあの頃より色々大きくなっていて、何より想像よりもずっと綺麗になってた。昔から可愛いとは思ってたけど、男なら放置できないような、いい女に育ってて……焦る。
それなのに少し会話したらそれだけで、俺を昔みたいに抱き締めてくるんだ。無防備に胸を押し付けるナミに、ニセモノなんかじゃ有り得ないと思う。
この体型で、この顔で、男を知らないなんて有り得ねェよな。ナミは確か、俺より歳上だし……。
その時ナミが誰かに鳴かされてる姿を想像して不愉快になる。ナミの、合意じゃ無かったら全員ぶっ飛ばしてやる……。
そう心に誓っていたのに、何も知らない様子でナミは逃げようとするから、強く抱き締めて絶対に逃がさないと意思表示する。そんな俺を誤魔化して逃げようとするから、余計に力を入れると少し眉が寄った。
ナミも……苦しいのかもな。でも、今力を緩めたら絶対に逃げる。
その状態で話を聞いてみればナミはシャンクスとは別行動で、今は1人だと言う。なのに、あの頃よりずっと強くなった俺にも、結局ナミは何も話してくれないし、俺に対して無防備過ぎる。
俺も、男なんだぞ。ナミの中ではまだ、泣き虫なガキなのかも知れねェけどさ。
俺の様子を不審に思ったのか、顔を覗き込んで来た無防備な唇を奪うように重ねれば、想像より甘い。ナミが抵抗するように動くと、ふわりと蜜柑の香りが漂って来た。
逃がすものかと再びキスをすれば、それだけで即座にナミが欲しくなる。近くの建物に連れ込めば、できるだろうか。
……それは、ダメだ。そんな事したらナミに怪我させちまう。
ちゃんと、柔らかいところにしないとダメだ。俺はナミを傷付けたい訳じゃねェ!
それでも譲れないものはある。大切だからこそ、忘れてもらっちゃ困る事があるんだ。
「ナミ……言っただろ。ナミは俺のもんだって」
今は耐えてやるけど、ナミは俺のなんだって自覚して欲しいと思って言葉を口にする。でもナミは離せなんて言うから、そして抵抗するから三度唇を奪う。
すると俺の舌を甘噛みするナミに驚き僅かに唇を離すが、そんな可愛い事されたら止まれる筈もねェ。そう思ってナミを見たら、怯えたような顔をして俺から逃げて行く。
力は緩めてねェのに……!
まだ、俺はナミに届かないのか。まだ、俺よりもナミの方が強いのだろうか。
そんな絶望とも焦燥とも分からない感情と共に、俺は明らかに高揚していた。相変わらずナミは、強い。
守らせて欲しいし、頼って欲しい。でも同時にナミを俺の手が届く範囲に留め置きたいと強く願わされる。
欲しい……と、強く思う。俺のものだと思ってるけど、確実に俺の傍に居させるにはどうしたら良いだろうか。
俺は、ナミが欲しい。まァ……そもそもナミは俺の女なんだけどよ。
そんな事を考えながらバギーとの戦いを終えれば、昔から強いとは思ってた。けど再会して、合流してからの僅かな時間で、ナミは本当に頼れる存在なんだと再認識させられる。
途中ゾロと合流したし、避難したり別行動も取ったけど……鈍い事も強い事も、甘い事も賢い事も変わってはいなかった。そして俺の仲間だからと、無償で治療してくれるナミに迷いや躊躇いはない。
なんでも出来るナミ。でも、俺を突き放そうと、嫌われようとわざと冷たく突き放してるのには気付いちまう。
何度も本気で勧誘してるのに、ナミは手を組むだけなんて言う愚かな所が本当に変わらない。でも、結局ナミはいつも俺の押しに負けるんだ。
分かってる。ナミは、俺に甘いんだって事は。
それを俺はちゃんと理解した上で、囲い込んでるんだ。逃がさない為に。
俺の存在自体がナミの弱点なら、利用しない筈ねェだろ。俺はヒーローなんかじゃなくて……海賊だぞ。
その後ナミは何も無いと言った無人島に行き、そこでナミが俺に対して余りにも無防備と言うか、挑発的と言うか……。だからつい、ナミを森の中で襲っちまった。
その時ナミの反応から未経験だと気付いて、必死の思いでそれを止めたんだ。それに、ナミは左肩に怪我してたから、怪我が治るまでは待とうって思ったのが大きい。
今でもシャンクスと連絡は取ってるとか、そんな事を平気で言う。無防備で、鈍くて、残酷なナミに何度泣きたくなったか。
その上何故か、マキノを好きだと思い込みそうになるしよ……。ゾロも流石に、そんな俺に同情的な視線を向けて来た。
そうしてヤソップの息子であるウソップと出会い、その村を守りたいと言うそれに応えて共に戦った。ナミとウソップは驚くくらい息が合った動きをすると思ったら、ナミがウソップをサポートしてるんだと途中で気付く。
そこで俺は、初めて気付く。ナミは元々サポート系なんだって。
俺達を守る為に独りで戦ってたけど、元々は……。そう気付いたら、なんか泣きそうになった。
その後村を助けてくれたお礼にって船を……メリーを貰った。ウソップを正式に仲間にして、俺の旅は順調に進んでいると認識していた。
そうして楽しくも騒がしい航海を続ける中で、ナミが何か隠してんのは気付いてた。でも、俺が言えばずっと傍にいるって思ってたんだ。
俺にナミは甘いから。俺の想いに応えられないって言っても、俺の傍から離れたら俺が遭難するのも知ってるから、飯も食えなくなるからって……。
実際、航海術、怪我や病気の対処、飯の準備、航海日誌、そういった事は全てナミが1人でやってくれてた。掃除だけは俺達に指示飛ばしてけど、基本的には全てナミにおんぶにだっこだったのは自覚してる。
そんな日々の中で、ナミが悲しそうな、苦しそうな顔で笑うのを見てた。どうしたら、ナミにあんな顔させなくて済むだろう。
ナミは、何をあんなに必死で隠してんだろう。俺……ナミが欲しいってだけじゃ駄目なのかな?
そんな事考えながら大砲の試し打ちしたりしてたらゾロの後輩ってのが二人姿を見せて、ナミがそれの病気を治した。大喜びしてゾロとナミを慕う二人。
勿論ゾロの上に立ってるってのと、仲間だからと言う理由で俺とウソップも慕ってはくれてたけどな。でも、俺はそれを〝仲間〟だと認めるつもりは無い。
俺に無いものを補ってくれたり、支えてくれたりして、そうでなくても俺が守るべき相手だと思えなければ、仲間にはなれない。1時的に1緒にいるだけの相手だと、俺はそう認識してた。
それでも人数が増えれば、他にちゃんと旅して来た経験があるのなんて居ないから、必然的にナミの負担も増える。なのにナミは、文句1つ言わないで俺を支え続けてくれるし、視線を向ければ優しく笑ってくれるんだ。
ただ、なんか遠くにある手の届かないものを見るような顔をされるのは、つらい。なァ……ナミに俺はちゃんと見えてるか?
俺が海軍の攻撃を弾いたらレストランにそれが落ちて、その結果俺は雑用を命じられた。やれと言われたからにはやるぞとやる気出してやってたのに、何してやがると殴れるのは……謎だ。
あれか、不思議な雑用だな!なら仕方ねェ!
食器洗いは辞めて床掃除してろと言われた俺が店に出ると、ナミが居た。勿論、ゾロやウソップも居たけどな。
面白いコックも見つけたし、こいつ仲間にするぞって決めて、それをナミに報告しようとしたらナミの様子がおかしいと気付く。泣きそうなのを我慢してるって分かる。
……その直後、ナミは俺に嘘をついた。演技を平然としてみせるナミのそれに、でも、その瞬間は嫌なものを感じただけでちゃんとはわかってなかったんだ。
わかった時には、もう……ナミの姿は無かった。メリー奪って逃げたと、ヨサクとジョニーが言うけど……ナミが俺が困るような事する筈ねェ。
やるなら何か理由がある。でも、他の海賊から襲われてる真っ最中じゃ、すぐは行けねェ。
誰かを見捨てたり、やるべき事をやらずに別な事に手を出せばナミは俺を許さない。俺もナミに顔向け出来ねェ事はしねェよ。
「ゾロ、ウソップ、ナミを連れ戻して来てくれ!」
「ほっとけ、あんな女」
「何言ってんだお前!」
「俺は、ナミが航海士じゃなきゃ、嫌だ!!」
ゾロは俺の言葉に1度は嫌がったのに、俺がそう言ってじっと見ていたら溜息落として頷いた。わかったよと諦めたように言ったそれに、任せたと告げて向かってもらう。
まずは……目の前の敵をやっつけないとな!ぶっ倒せばいいんだよな!
そうして俺はドングリを倒して、サンジを仲間に加えてナミの居場所を突き止めたと言って帰って来たヨサクと共に、ナミを迎えに行く事にした。サンジが皆にちゃんと別れを言わないで行こうとしたから、良いのかと確認したけど……必要なかったみたいだな。
その声は、ただ、ひとことだけ。名を呼ばれた、それだけでサンジはちゃんと挨拶して出発したんだから。
そしてナミを迎えに行きながら、ヨサクが長旅でした……。後を追うのが物凄く大変だったんです……。
と、まァ……そんな感じの事を言われるのを何となく聞きながら、サンジが作ってくれた飯を食っている。あ、この肉美味ェ。
……冷静になれば分かる。今向かってるのは、ナミが俺よりも優先するんだから答えなんて多くねェんだ。
ナミの家族だ。つまり、俺は今ナミの村へ向かっている。
その飯を狙って来た奴をぶっ飛ばして、ナミのいる村に向かう。それにより船が空を飛び、無事に到着する事に成功した俺は瓦礫の中から麦藁帽子を拾って被った。
さて次は……と、ウソップ達を探してナミを連れ戻さないとな。にしても……畑とか森しかねェな。
人は何処に住んでんだ?
そう思いながら辺りを見ていたら、瓦礫の中からゾロが出て来て文句を言う。……ゾロ?
「お前、こんな所で何してんだ?」
「お前こそ何してんだよ!?」
どうやらゾロは、いつもの不思議技で俺達と合流したらしい。探さなくて良くなったから、まァいいか!
「何ってナミを連れ戻しに来たんだよ。まだ見つかんねェのか?ウソップとジョニーは?」
「ウソップ……!!そうだ!こんな所で油売ってる場合じゃねェっ!!」
「ん?どうした!?」
頭から流れていた血を腕で拭うと、ゾロはそのまま駆け出そうとする。だけど、その様子に話は聞かねェとと思って口を開いた。
「あの野郎、今アーロンに捕まってやがるんだ!早く行かねェと殺さ……「殺されました!!」」
ゾロの説明に重なるように声が聞こえて、ゾロは言葉を無くして俺達は揃って声の主を見る。ジョニーは肩で息をしながら、涙ながらに言葉を続けた。
「手遅れです。……ウソップの兄貴は、もう殺されました!!……っナミの姉貴に!!」
その瞬間空気が凍る。……今、なんて?
人の死を、人との別れを、誰よりも恐れるお人好しのナミが、人を……それも、俺の仲間であるウソップを〝殺した〟だって?
……そんな事、ある筈が無い。なに、寝ぼけた事言ってんだ。
イケトシイケルスベテノ……みたいな奴なんだ。誰かを傷付けるくらいなら、自分が傷付く。
誰かの為にしか怒る事もできねェ女なんだ。それに、お前ら……ナミに助けて貰って、世話になって来たよな!?
俺はジョニーの胸ぐらを掴み、声を張り上げていた。それを止めるゾロの腕を振り払い、怒りの余り何をするか自分が制御できなくなりそうになった時、届いたのは蜜柑の香り。
これ迄、敵にしか向けてるのを聞いた事が無かったその冷たい声。でも……俺の名を呼ぶ時僅かに乱れたのには気付けちまう。
「誰が、仲間だって?ルフィ」
「ナミ……」
声の方に視線を向ければ、見た事の無い顔をしたナミが立っていた。それでも、ナミがいる事で肩から力が抜ける。
やっと見つけた。迎えに来たぞ、1緒に行こうな、ナミ。