波間の向こうを目指して(新・本編side) 作:夢枕 七変化
朝日が登り初めるのと同時にホテルを出たが、ナミの気配が島に無い。見聞色の覇気で探ってみても、捕えられる範囲に居ない事で舌打ちがもれる。
俺から、逃げたのか?
いや、連れ去られたと考えるべきか。鷹の目が脳裏で不敵に笑い、苛立ちが増す。
鷹の目を本気にさせる女か……確かに毛色の変わった女だとは思うが、そこ迄とは……。そう脳内で言ってみても、俺も求めている時点でどうにもならない。
「おい、鷹の目をこの辺りで見なかったか?」
通りすがりにいた海兵から話を聞いて回れば、夜が明けるより以前に可愛い船首の船が島を離れ、その船に鷹の目が女を昨日運び込んでいたとの目撃情報がいくつか入る。となれば、十中八九ナミでは無く鷹の目が連れ去ったと見るべきだな。
船の進んだとされる方向へ飛び出し、見聞色の覇気で探りながら進めば、大きな岩が突き出しているその近くを移動している船を発見した。確認してみれば既に鷹の目の気配は無く、弱った様子のナミだけが残されていると知る。
人が居ないからか、油断して弱さを見せているその姿に、何かが脳の奥でチラリと煌めいた気がした。それがなんなのか分からない為に苛立ち、船に近付くのと同時にナミの体を拘束する。
俺に気付いて視線を向けて来たナミは、既に先程の弱った姿では無く凛とした様子を見せている。平気なフリをする事が、弱さを俺に隠す事が……それが、気に入らねェ。
気に入らな過ぎて笑えて来た俺に、ナミは睥睨してみせるのだから大したものだと思わされる。気の弱ェ奴は、コレだけで失禁する奴もいると言うのに。
「……今日は俺との約束だったってのに、何故逃げた?」
俺の問い掛けにナミは1瞬だけ体を震わせ、直後に息を吐き出すと震えを完全に止めてふんわりと優しい笑顔を向けて来た。ただし、その瞳は笑って等居なかったが。
「私が船を出した訳じゃないのよ。それより、良くこの船にいるのがわかったわね」
「鷹の目は目立つからな。なら、船を出したのは鷹の目か」
俺の言葉に納得した様子を見せてから、ナミは頷いた。それから少し生意気そうな表情で笑う。
「……そうよ、気付いたら出てたから、慌てて現在位置を確認してた所。勝手な事しないで欲しいわよね」
「それで鷹の目は?」
「さぁ?起きたら居なかったのよ。それで……貴方はどんな理由で私の所へ?もう、ミホークさんは居ないし、宝玉については何も語るつもりは無いわよ」
何故ここで鷹の目に用事だと思えるのか。そして、それ以外の理由が〝宝玉〟探しだと、信じて疑わない様子に軽く驚かされる。
少しでは無く、恋愛事に関して鈍いナミに笑いが込み上げる。その上で〝起きたら居なかった〟とはな。
俺は胸に渦巻く黒い感情を持て余し、動けなくしてあるナミの唇に己の唇を重ねた。その瞬間、思い出す。
そうか……お前、ナミか。幼い頃の絶望の日々の中で、唯一俺の光だった女。
〝ドフィは賢いわね。ありがとう〟
〝その口調は直さないと、また狙われちゃうわよ〟
〝ドフィはいい子ね。優しいし、頑張り屋さんだわ〟
〝ロシーは優しいお兄ちゃんがいて、幸せね。仲良くするのよ〟
1気に戻って来る記憶に、こんなもの覚えていたら生きてこられなかったと痛感する。暖かくて、甘くて、優しい幸福な記憶。
だからこそ、あの時ロシーとローを庇ったのかと、見知らぬ女だと思っていたナミの行動が繋がる。もしも、あの時に思い出せてさえ居たならば、ナミを捕らえて飼い殺しにしていただろう。
だが……それは過ぎた事だ。過去を悔やんでみても、捕えられていない事は変わらねェ事実。
それでも、今からでも遅くはねェ……ナミは、俺のモノだ。連れ帰って、俺だけのモノにしてやる。
だがナミは、過去に俺達に宣言していた通り俺を覚えている節はない。その上で俺を睨み付け、舌を噛もうとして来た。
「俺を……拒むか?」
「当然でしょ。私は安くないのよ」
笑うその顔は明らかに昔と変わらない。そう言えばいつも会った時は誰かに乱暴された後の様相だったが……ナミは基本的にそれでいくと売り物だったのか?
共に居た期間は穏やかで優しく、そんな気配は微塵もなかった。俺と対峙していた時も気高く、だが確かに妖艶な笑みを浮かべていたと思い出す。
俺に視線を向けて不思議そうにしている今の様子は何処か幼く、そうだ……何かを考えている時は無防備になり幼くなるんだったかと思い出す。ならばカマでもかけてみるか。
「金で体を売るタイプには見えなかったが、いくらだ?」
「へ?」
駄目だ。何も聞いちゃいなかった。
そういう奴だったよな、確かに。変わらねェ……いや経過した時を考えれば〝変わらな過ぎる〟か。
だとしたら俺が幼い頃にナミが言った〝未来で会った時はそれは過去の私。だから、私は皆と会ったとしても覚えてないの〟と言う言葉は……真実か。
何があってそうなるのかは分からねェが、過去に遡るのか、ナミは。なら、これはまだ俺達を助ける前のナミか。
俺のモノになっていたから、俺を助けたのかと考えれば納得出来る。なら、この渦巻く黒い感情をぶつけて、俺のモノにしても問題はねェな。
「なら、言い換えてやる。鷹の目は幾ら支払った?」
「……確認して無いわ」
嘘だろ。これで支払われてなかったら、どうするつもりなんだ。
馬鹿な奴だと内心で笑いながら船内を歩けば、先程調べた時もそうだったが他に誰1人乗っている様子はない。それでも男が使っていた様子はあるから、謎過ぎる。
どうなっているんだナミと言う生き物は。そんな事を考えながら、机に遺されていたメモと鞄を見付ける。
ざっと目算で2300万ベリーって所か。にしてもこのメモ、あの野郎巫山戯やがって……ナミは俺のモノだってのに。
動きを封じていたから、甲板で立ったままの姿を見せるナミに1人なのかと問いかければそうだと言われる。何なんだよ、お前。
「仲間は」
「私に仲間なんて居ないわ」
冷たく言い放つナミは、直後にその瞳に暗い影を落とす。生きる事に絶望して彼岸を見据えてそちらへ行きたいと、そう叫ぶ者達とよく似た瞳だ。
もう殺してくれと、泣き叫ぶ男達の瞳と良く似ている。この俺が目の前にいるのに、何故そんな瞳をする必要がある。
少し会話をすると、その度にナミは自嘲するような笑みを浮かべたりするのだから、何をそんなに抱え込んで居るんだと思わされる。俺だけを見ていれば、あの頃のように笑ってくれるのか?
そっとその細腰を撫でれば、艶やかな声が発せられた。感度は恐ろしく良いな。
何処が弱いのかと服の上から確認していけば、逃げる事も出来ないナミは声を必死に押さえて、俺を睨み付けてきた。俺のモノだという自覚が足りねェな……。
その上で不快なのは鷹の目の好む香りがする事だ。どれだけ密着していたのか……。
「何も無かったにしては、随分鷹の目の匂いがする上に、敏感になったな」
「貴方に報告する必要は無いでしょう!?」
怒りに震えるナミに、何言ってやがるお前は俺のモノなんだから報告義務があるだろうと言いかけて、そういやまだ俺のモノになっていなかったかと思い出す。そうだ、コレはナミから見たら過去だったな……。
「いや……俺も同じだけ支払ってやるから、満足させてみろ」
言葉と共に拘束を解除すれば、怯えたような戸惑ったような顔で俺を見て、それから苛立たし気に俺に怒鳴りつけて来た。その様子に、本質的に素直なんだろうなと思わされる。
「お断りよ!ミホークさんとの事も、私の意志とは関係なく……」
そこまで言ってから失言に気付いたような顔で逃げ出すが、既に遅い。その上、足に力が録に入らねェ様子に押さえ込むのは恐ろしく簡単だった。
呻くナミは、それでも抵抗を辞めねェ。昔から何度も見て来た背中が、やけに小さく感じる程に体格差も力の差もついたというのに……。
「やっ……だ!辞めて!」
「鷹の目はそれで、辞めてくれたのか?」
「……だから、アンタに関係なっ」
俺に、逆らうなよナミ。つい、殺したくなるだろう?
切れる方の糸を首に巻き付ければ、ナミは漸く声を出さなくなった。抵抗の声等、聞きたくない。
俺が今聞きたいのは、あの頃と同じ慈愛に充ちた俺を呼ぶ声だけだ。ナミ、俺を拒むな。
「……賢いな。なら、今日はここで俺の為に、ストリップでもして貰おうか」
気の強い女は、その鼻っ柱を折ればいい。そうすれば従順になる事を、これ迄何度も見て来た。
気の強い女程、良い声で鳴く様になり、気位の高い女程、辱めた時の締まりが良い。外で、こうして辱めれば泣いて懇願してくるだろうか。
そうなったら、優しくしてやってもいい。生意気でもなんでも、ナミはナミだ。
そう思ったのも束の間、ナミは冷たい視線で俺を睨み付けてきた。操って脱がせている俺を、穢らわしいモノでも見るような眼差しで……。
それにゾクゾクとしたものが全身を駆け巡る。何をされたとしても誇りを失わないその精神に、俺の心が堕とされる。
「……どうしてとか、辞めてとか、体が勝手にとか、言うべき言葉があるんじゃねェのか?」
負けを認めたくないと足掻く俺の心がそんな言葉を紡ぎ出しても、ナミはそれに少しの反応も示さない。1糸纏わぬ姿にされて尚、毅然と俺を睨み付けるその担力に喉が鳴る。
欲しい……俺は、ナミの全てが、欲しい。歩かせて目の前に間で来させたが、腕を伸ばせば触れられる距離まで来た時に、待ちきれずにその体に触れる。
ビクリと反応する敏感な肢体に、けれども気高さを失わないその瞳に、魅入られる。何をしても、どこに触れても声1つ出さないナミに、何処の女王だよと笑いそうになる。
天竜人だと、貴いと言われている奴らの醜さを見ろ。九蛇の女帝だとて、ここ迄気高いかは分からねェぞ?
指を中に差し込むと、抵抗するように体が侵入を阻み更にナミが小さく呻いた。散々抱かれた後だとわかるだけの跡を遺されていながら、何故こうも俺に抵抗するのか。
「……キツいな。散々可愛がられた後だろうに……不思議な程、キツい」
「……っ!五月蝿いっ!」
「生意気な女は好きな方だが……ここまで気が強い女も珍しい」
反応を漸く返してくれた事が嬉しいのだとは、俺も随分と手軽だ。ナミこの際何でもいい、俺に感情をぶつけて来い。
中に埋め込む指を増やせば、息を詰まらせ微かに震える体。それを精一杯の優しさで抱きしめて、言葉を落とす。
「今入れたら、壊れそうだな……」
壊すつもりはねェんだが、俺としちゃ今すぐどうにかして欲しい状態なんだよな。荒い呼吸の中で体を震わせながら、動けないが故に受け入れているだけのナミ。
そう、俺を求めてはくれてねェんだよな……。今更、惚れてるとでも言ったところで、ナミ……お前ェは信じねェだろ。
幼い頃から何度も告げたそれを、私もよなんて言っていた陽だまりのような笑顔を1瞬思い出す。今の冷たい瞳とは正反対のそれを向けながら……愛しそうに〝ドフィ〟と呼んで抱き締めてくれた温もりを、俺は確かに覚えている。
「そう思うなら、辞めてくれない?国王様相手なら、自ら抱いてくれと縋る女が掃いて捨てる程居るでしょう」
「……フッフッフッフッフッ……いい、女だ。ますます、欲しくなった」
俺の体が限界を訴えた。それくらいに、ナミの高飛車な物言いと冷たいその視線に俺は堕とされている。
俺のモノの前にナミを跪かせれば、その表情が驚愕に彩られた。唇を噛む事で僅かな抵抗を見せるが、このまま中に入れたら殺しちまう。
俺はナミを殺したり、壊したりするつもりはねェんだよ。ナミがあの日、俺を助けに飛び込んできたその瞬間から……俺の女と決めていたんだ。
指をそっと引き抜き、顎を掴んで口を開かせればナミは、かなう筈もねェのに悔しそうにしながら俺の腕から逃げようとする。それを無理矢理抑え込み、喉の奥まで俺のモノを咥えさせると同時に声を降らせる。
「歯を立てるなよ」
そうは言ったが、ナミ反応的にまさか……初めてか?
この容姿で……?
「お前、口淫の経験は無しか。1から教えてやる」
呻き、嘔吐きながらその瞳に涙を浮かべたナミのそれが、生理的なものであるのはその強気な瞳の強さでわかる。だがな……今突っ込めねェからこうなってるんだゼ?
即ち、これはナミの為だ。体を慣らしてやる為に手を解放すれば、即座に抵抗しようとしてくるナミの非力さに笑う。
これなら抑え込む必要は無かったか……。これ程非力とは思わなかった。
下半身を責めながら、逃げられないように頭を押さえてやればナミはその非力な腕で俺を殴ったりしてみせる。この細く頼りない体で、俺達を守り続けていたのか。
適当に過去にした事を口にしながらナミの様子を眺めていれば、口内に埋め込んでいる己の熱がそれだけで高まり膨張するのが分かった。その瞬間、ずっと抵抗を見せていた手から力が抜けて行く。
どうしたのかと思えば、どうやら意識が飛びかけていると分かるが、それでも辞めてやるつもりはねェ。ナミの虚ろな瞳を見た瞬間、俺は高まった熱を口内に放出した。
それにより頭を押さえていた手を離せばナミはそれを吐き出して、咳き込む。その姿が頼りな気であるのに、恐ろしく淫靡なものに見えて、即座に放ったばかりだと言うのに熱を帯びる己に苦笑する。
「折角だ、飲んでも良かったんだゼ?」
俺の手を振り払い、ナミは挑発するように小馬鹿にした笑みを浮かべた。それは決して、敗者や弱者の持つべきものでは無い高過ぎるプライドをその瞳に宿した上で、ハッキリと拒絶の言葉を口にする。
「嫌よ。こんな不味いもの」
「よく、言った……」
言葉と同時に伸ばした手は容赦無くナミの足を掴み、爆発寸前の己を押し込む。その瞬間、ナミは甲高い悲鳴を上げた。
ここに来て初めての反応に、だがそれよりも意識を保っている奇跡に思わず呟き、そしてナミの中に己を全て押し込む。苦しそうに、痛そうに表情を歪ませて、けれども泣きもせずに耐える。
意識を失いそうになるナミに対して、その度にその豊満な胸に舌を這わせたり、指で弄ってやれば意識は此方に帰ってくる。何度中に出しても足りないと、俺の体はナミを求める。
名を呼ばれない事で、心が冷えて、飢えて行く。熱を中に放出する度に体は満たされるのに、心は渇いて行く。
意識を戻す度に、ナミは俺を睨み付ける。その気高い眼差しが、俺達を庇う為に島の奴らとの間に飛び込んできたナミの姿を彷彿とさせる。
……何故、こうまでされたナミが、俺達を庇ったのか。ナミは馬鹿でも愚かでもねェことは、良く知っている。
何故、俺達を庇い守り慈しんだ?
何故、そう迄してくれたのにも関わらず、今は俺を……愛さない。睨まれる度に、胸が妙な音を立てて軋む。
俺を、愛してくれ。あの頃のように、俺に微笑んで、もう1度俺の名を……。
ふとした瞬間、戸惑いと労りに満ちた視線をナミは俺に向けて来る。その刹那に俺は悟る。
コイツは、お人好しの馬鹿なんだと。強姦魔だと分かっていても、傷ついた者を見捨てられねェ。
未来に、過去の自分を犯すような人物なのだと知っていても、幼い子供が暴行されるのを見逃せねェ……俺から1番縁遠い〝善人〟と言う生き物なのだ。そうと分かって、それでも求める。
その甘さも何もかもそのままで構わねェから、俺のモノとして傍にいろ。そして、俺の名を呼べナミ。
「ドフラミンゴ……いい加減にっ!」
「ドフィだ。そう呼べ、ナミ」
「あっ……んゥ!……やだっ!そこやだ!」
「ここだな。分かった」
「きゃぁぁぁあァぁ!」
ビクビクと痙攣するナミの体を強く抱き締め、達している最中だと分かっていながら腰を動かす。その時だけは、ナミが哀願するように言葉を発するから……。
「やァっ今、イッて……から、おねが……!やめ……どふら……ンンっ」
「ドフィ、だ。ナミ。他の呼び方は、許してねェ」
「……アァッ!ドフラミンゴッ!やぁ……!」
「……っとに、頑なな奴だな」
何度でも、中に出してやる。甘い甘いお前なら、子供が出来ちまえば悩みながらも、心に沿わなくても、俺の元に来るだろう?
俺のモノになれよ。俺だけを、愛してくれ……ナミ。
「ドフラミンゴッ……も、やめ……」
「ドフィ……そう呼べと、何度言えば分かるんだ?ナミ」
まだ朝とも言える時間帯から、日の沈むその時まで……俺はナミを甲板で犯し続けた。1瞬も休ませること無く。
途中有りもしない船が近くに居ると言っては、見世物にしてやろうかと言葉でいたぶる。だが、その度にナミは抵抗の言葉さえ失い強くその瞳を閉ざしてしまうから、そう何度もは言わなかった。
気高すぎるその精神を、優し過ぎるその心を、どうしたら俺に向けさせられるのか。どうしたら、あの頃のように愛して貰えるのか。
繋がったまま、夜の海は冷えるからと船内にナミを連れ込み、行為を続ける。ナミの声が枯れて、だからこそ俺の名を呼べなくなったのだと自分に言い聞かせられるようになる迄。
鷹の目の遺した跡を打ち消すように、上書きするように、何度も何度もその体に跡を遺し続ける。生理的に流れ落ちる涙さえ、俺には尊く思えちまう。
身体中に俺の付けた跡がある状態になっても、己のそれを放ち続ける。その時、何度目とも分からないがナミは意識を失い、中をかき回そうと、突き上げようと、反応するのは肉体だけとなり意識を取り戻さなくなった。
何をしても意識を取り戻さなくなったナミから仕方無く己を抜き出せば、流石にやり過ぎたかと思う。力の入らない体を抱き上げれば、首の座ってない子供のようになったので慌てて能力で固定する。
近くにあった布で体を隠して風呂場を探せば、小さな船内だからこそすぐに見つかる。そこで対処してやると、左肩のそれがあの時とは異なると気付く。
その印を簡単にメモしてからしっかりと清めてやる。だが、お湯をかけた瞬間にナミから蜜柑の香りがして、お前妖精か何かかよと本気で思う。
意識のないナミを綺麗に拭いてからソファに寝かせ、その額に唇を触れさせる程度のキスをしてから、何してんだと思う。思いながらも、指先はナミの髪を弄っていたが。
意識の無いナミは、何度見ても、いつ見ても幼く見える。ナミを休ませてやる為にもとベッドを整えようと思うが……どうしたらいいんだ?
どん底の時はベッドは母上の物だったからよく分からねェし、その後は周りがやってくれていた。つまり、何をどうしたら良いのか分からねェ。
シーツを取り払ったその時、背後で人の動く気配がして振り向けばナミが震える体を起こしたところだった。普通なら動ける筈もねェのに、下手をすれば死んでもおかしくないギリギリのところまで抱き潰したと言うのに、体を起こすナミ。
「……そのままで良いわよ。自分でやるわ」
気怠気な様子で恐ろしい程の色香を振り撒きつつ、それでも動ける事に驚けば五月蝿いと言われる。見れば覇気を纏い無理に動いているのが分かり、何だって東の海なんかに居るんだと思わされる。
同時にだから俺達を庇っても死ななかったのかと、幼い日のそれを思い出す。そんな俺に、ナミは後始末してくれてありがとうと言う。
その言葉に驚いて視線を向けたが、ナミは振り向くこと無く移動してキッチンへ向かった。何故そこでお礼を言えるんだと、何をしてくれたんだと怒り狂うか怯えて泣くのが普通だろうが。
場合によっては狂ったケースもある。それくらいの事をした自覚はあるが、ナミが歩く姿を見て倒れるのではないかと心配になりそれの後に続けば、ナミが酒を俺に投げ渡してきた。
俺を〝覚えていない〟ナミだが、俺を〝知っている〟のだとわかるその酒に、少し泣きたいような気持ちになる。ならば、初めから築き上げていくのも悪くないような、そんな気がしてきた。
「ナミ、俺と来ないか。体の相性も悪くねェのは分かった事だし、な」
「……寝言は寝てる時に言ってくれる?それとも時間的に……寝てるのかしら?」
「フッフッフッフッフッ……。イイねェ、その反応。壊しがいがある」
壊せる筈もねェのに……俺には本気でナミを壊したり傷付けたりなんか……衝動的な事を除けば恐らくは出来ねェ。体をいくら犯しても、その心までは犯せねェのと同じように。
欲しいのは、その身と心の両方だ。心だけで良いなんて、そんな綺麗事言える筈もねェ。
……極上だった。何もかもが極上で、だからこそその体に宿る精神が甘過ぎる事に哀れみさえ抱かされる。
体から篭絡してどうにかなるなら、毎日でも犯してやるが……恐らくはそんな事をすれば余計に心は遠ざかるだろう。誰かの心が欲しいと思う時が来るとは、考えもしなかった。
「それで、何の用?言葉遊びをしに来た訳じゃないでしょ」
「賢いな、ナミは。……もし、本気で俺のモノになれと言ったらどうする」
俺の問いにナミは艶やかな笑みで応える。妖艶なそれは、まだまだ俺をガキだと言っているようにさえ感じられる。
それ故に不安になる。お前は、ただの美少女って事で放置して貰えるような女じゃねェだろうと。
善良すぎるが故に愚かにさえ感じられる。そんなナミを手元に置いて、世界から隠しておきたいと思う事の何が可笑しいのか。
「並外れた航海術を持ち、その美貌だ。これからも狙われるぞ。俺なら護ってやれる」
「守られたいなら、私が1人でここにいる事がおかしいとは思わない?」
「……確かにな」
あの日の穏やかな笑顔は、今のナミからは想像もつかねェ。だが恐らくはあちらが本質で、何かがあって今は荒んでいるのだろう。
荒んだ今が解決すれば、元の笑顔を見せてくれるのだろうか。俺はそんな事を考えながら宝石を投げ渡す。
約束した通り、二千万程度の価値はある筈だ。それに対してナミは即座に鑑定し、納得した様子を見せる。
鑑定するその顔は、あの頃と変わらねェんだな。あの頃はそうして手にした宝石等で、母上の為にと薬や食べ物を買ってくれていたが……。
今もあの頃のように、誰かの為なのだろう。そう思わされる優しげな笑みを微かに浮かべて、ナミは言葉を口にした。
「ありがとう」
「今回だけだ」
俺の言葉に微笑んでいたナミが、キョトンとした幼い表情を見せる。……あァやっぱり強がってるだけでお前の本質はまだまだ幼いのかと、その表情だけで分かる。
愛しさを込めて、ナミの唇を奪うと遅れて抵抗しようとしてくる。そんなもん、許すか。
俺に愛情を向けないのはまだ許せても、俺の愛情を拒む事はさせねェ。もう少しだけ、愛させてくれ。
そんな俺の舌を噛もうとするナミに、それが出来ないように更に深く口付ければ抵抗が無くなる。伝えても伝わらない想いを込めて、ナミを愛していると口付ける。
愛しくて、気が狂いそうな程だ。俺はナミに餓えている。
そう想いながらもそっと唇を離してやれば、荒い呼吸を必死で整えるナミがいる。これ以上続ければまた犯すだろうと自分で分かるから、その唇を離しただけで本当はまだまだ足りねェんだゼ?
「ナミ……今回だけだ、逃がしてやるのは。次の逢瀬があったら、逃がしてやれねェと思え。……望むなら、このまま連れ去ってやるが、な」
俺の言葉にナミは、強気に睨むという形で返事をして来た。明確なる拒絶に俺は楽しくなって笑う。
これがナミでなければ、無理矢理連れ去るか殺していただろう。だが、ナミが拒むのは何故かわかる気がした。
「……無理に連れ去れば、舌でも噛みそうだな。だから……今は逃がしてやる」
それでももう少し、俺をその身に刻む事を許せよ。そう思って首に跡を残せば、ビクリと震える体。
この先を再び行えば、恐らくはナミは死ぬだろう。限界を超えてるのに、気力だけで立っているのはわかり切っている。
「……ナミが死を選べなくなる道を見付けたら、逢いに来てやるよ」
「ほっといてくれて、構わないわ。私……貴方はタイプじゃないの」
これ迄生きてきて、1度も言われた事の無い振られ方に笑いが込み上げる。そもそも振られた事なんざナミ以外からは1度としてねェがな。
俺はこうしてナミと会話をする事さえ愉しくて仕方がねェ。声を聞ける事だけでも、幸福に思える程だ。
「俺を袖にする女なんざ、そう多くねェな。マスマス欲しいナァ……」
「私は玩具じゃないのよ。従うつもりは無いわ」
「ナミは何処まで知ってるんだかなァ?まァ、今はいい。またな……俺の花嫁」
俺を覚えていないのに知っているナミ。いや、知りすぎているナミ。
俺がその船室から外に出た瞬間、ナミが倒れたのが分かった。それによりそっと中に戻り、意識無く眠るナミの腕に体力増強系の薬を注射して、その頭を撫でる。
これで少なくとも死ぬ事はねェ筈だ。逆を言えば、これをしなけりゃ危険かも知れない程度には、犯し続けた自覚がある。
また次に会う時までに、俺も〝今のお前〟がどんな存在なのか調べてやるよと、髪をひと房持ち上げて口付けてから立ち上がる。今は休め、次はどんなお前に出逢えるか、楽しみにしている。
糸を雲に絡ませながら帰路についた俺は、ナミの情報を早く得たいと今はそれしか考える事が出来なかった。