波間の向こうを目指して(新・本編side) 作:夢枕 七変化
暇潰しを兼ねてカジノ船を動かせば、客に目玉がいた方が客を集めやすいかと気付く。それにより来る筈もないと分かっていて七武海や、四皇の中から万が一来られても騒ぎを起こしそうもない奴数人に、来ないかと試しに招待状を送っておいた。
……来るわきゃねェがな。来たらそれを、客寄せに使わせてもらえば良い。
今、ナミはどうしているのか。あの後あの位置から、空島に向かったんだよな。
だとすると、全滅か無事に全員で到着したかだろう。麦藁の小僧は、余程ナミの腕を信じているらしいとそれだけで分かる。
そうでなくて何故
俺はその瞬間目的地を定める。生きている姿を確認出来れば、とりあえずはそれでいい。
世界の全てを破壊したいと願うと言うのに、ナミにだけは幸福に笑っていて欲しいとは矛盾してると理解しているんだがな。変えられそうもない自分の願いに、笑っちまう。
その時妙な連絡が入り、流石に耳を疑った。……鷹の目が、この船に向かってるだと……?
そして本当に船に乗り込んできた小柄な男は、その小柄な体躯からは想像も出来ない程に尊大な態度で船内を案内も無しに闊歩する。それには流石に待てと思い姿を見せれば、露骨に嫌そうな顔をされた。
……お前が自分から来たんだろうが。招待したのは自分だというのは棚に上げて思えば、鷹の目は俺を静かに見据えて来る。
「本当に来るとは思わなかったナ」
「帰れと言うならば、帰るが?」
「言わねェよ。すぐに部屋を用意させる。……となると、他にも珍客が有り得るか」
「……今の情勢を思えば、そういう事も起こり得るだろうが、何とも言えぬな」
まともな会話になるとは思っていなかったのもあるが、何より素直に情報を開示して来たその態度に驚かされる。俺を……毛嫌ってる様子は、隠そうともしてねェ癖してなァ?
まァ、それこそお互い様か。ナミにアレだけ信頼されていながら、平然とそれを破壊してその身を抱いたこの男を好きになれという方が無理な話だ。
それに不快感を隠そうともしない鷹の目と睨み合う形となった直後、部下が鷹の目の為の部屋を用意したと言う。あの日、先約だと宣った鷹の目に引かなければ良かったと、どれ程思った所で過去は変えられねェ。
部下に案内を命じれば、鷹の目はそれに対して1切の躊躇いを見せず後に続く。その様子に俺は思わず、声をかけていた。
「ナミとは、その後どうだ」
「……主には、関係あるまい。それとも、同じ女を抱いたから兄弟だとでも言いたい訳か?」
「ンな、気色の悪ィ事ァ言わねェよ。だが……鷹の目がナミの恋人とは思えなくてな」
侮蔑を隠さない鷹の目に、俺も嘲るように言葉を向ければ鷹の目はそれに乗った。妙に静かな気配を纏うそれは、世界一の大剣豪としての風格か。
だが俺もそれなりに七武海として君臨して来た。威圧される事は、流石にねェよ。
「主が犯した事で、心が壊れているという様子は無かった。寧ろ、欠片も気にしては居なかったぞ」
「……あの後、会ったのか」
「幾度もな」
信頼を裏切る形でその身を得たお前が、平然としてる事が許せねェ。俺は元からマイナスの位置にいたが、鷹の目は違ェだろうが……!
俺が迷い無く殺気立つと、鷹の目は僅かにその瞳を開き驚いた様子を見せる。それから恐らくはナミを想ったのだろうとわかる、穏やかな笑みを浮かべた。
その後俺達は言葉を交わす事は無く、鷹の目はその場を去り俺もまた仕事に取り掛かる。厄介な男ばかり惹き付けてんじゃねェよと、その怒りの矛先をこの場に居ないナミに転嫁しながら。
目的地の変更には何かしら理由が必要で、救済なんて自分でも似合わないとわかり切っている理由でウォーターセブンへと船を向かわせる。そして船が到着したのとほぼ同じ頃、新たな手配書が1足早く届けられた。
どうせ大した変化もないだろうと思いつつそれを確認して行くと、先日も追加手配されたばかりの麦藁の手配書に混ざり、ナミのそれがあるのを確認する。
生け捕りのみとなっているそれに、世界政府は俺の言葉を受け入れたらしいと知る。〝宝玉〟を手配する際は、生け捕りのみとしろと圧力をかけておいたのが役立ったな。
まさか鷹の目も麦藁の元にいるオレンジ色の髪を持つ女は、生け捕りのみにするようにと言っていた事も、海軍本部で居場所を把握してないかと確認していた事も知らなかった。だからこそ俺は、自分のそれだけで反映されたのだと信じていたのだ。
ナミの肩にある刺青は、俺の知るものになっていて……もうすぐ幼い俺と会うのだろうかとその姿を見て思う。それにしてもナミは、どうやって俺の過去に関わったのか。
トキトキの実は図鑑に拠れば、時を未来に向けて飛ぶ事が出来るとあった。つまりは過去には飛べない。
ならば、いったいどうしたら過去に行けちまうのか。どうやって俺を助けたのか……。
答えの出ない問いに僅かに息が漏れる。そうして手配書を見れば、片眼を隠した金髪の男のそれに吹き出しそうになった。
写真、入手、失敗だ!?
特徴を捉えているのかさえ定かじゃないそれに、俺の腹筋は崩壊仕掛ける。こんな雑魚達の写真さえ入手し損ねるとはと、使えねェ奴等だよ嘲笑いながら他を確認すれば、鰐野郎の所にいた女の写真を見て、あれがニコ・ロビンだったのかと思う。
東の海で名を馳せた賞金稼ぎもそれに含まれていて、それなりに戦える奴もいるらしいと知る。東の海だからと嘲るには、あの海出身の奴らの底知れない強さが邪魔をするのだ。
海賊王も、海軍の英雄も、麦藁の餓鬼も、ナミも、出身は東の海だ。だからこそ、侮れねねェ海だよなと思いながらその手配書の中から、ナミのそれだけ抜き取り他は適当に投げ捨てる。
欲しいのは……お前だけだ、ナミ。そっと手配書をしまいこんで、それに鍵をかける。
後でこの手配書の写真や、他にも成功しただろう撮影された物を譲り渡せと圧力をかける事を内心で決意して、電伝虫に手を伸ばす。否とは言わせねェと
その足で先に通達していた通りにカジノへと向かう。そこで待ちに待った再会があるなんて事は、流石に想像もしていなかったが。
カジノまで後少しという所で、慌てた様子でかけて来るディーラーが見えれば珍しいなと素直に思う。俺に失態がバレれば、文字通り首が飛ぶ事も少なくはねェってのに。
「た、大変です!ドフラミンゴ様!」
「んぁ?」
「カジノの女帝が、この船に……!」
「まさか……どうやって潜り込んだ!?本物なのか?」
「恐らくは……見る度に姿が違う事でも有名な相手ですので、確実ではありませんが、
カジノを運営する者達の間で有名なその女は、髪の色さえ定かでは無い。ただ頗る付きの良い女である事と、負けた事の無い強運と頭脳を持つとだけ伝わっている。
運営する側としては、抱き込むか立ち入り禁止にしなければ、上がったりになるレベルで勝つ女だと言われている。とうとう……お目にかかれるって訳か。
自然と足が早くなりそうになるのを抑え込んで歩く。そんな俺に見えたのは、これまた想定外の大物。
厄介な事になりそうで、嬉しくねェな。招待はしたが、これ迄1度も来た事は無かった上に、来る筈もねェと思っていた。
その大物が俺に覇気を向けつつ庇う存在。……それが、カジノの女帝か……?
それにしては、ナミに、似ている。まさか、女帝もナミなのか?
有り得ねェ事も無いか。頗る付きのいい女である事と、頭の良さは間違いようがない事実で、残るは変装技術がどの程度かという所のみだ。
思わず赤髪に守られる女に対しナミなのかと誰何する俺に、赤髪は女の代わりに答える。ナミなら、自分で答えるくらいするだろうと思えば、違和感は残るが……。
「……俺の女だが……名を教えるつもりはねェ。何の用だ、天夜叉」
「招待客の中でも来る筈もねェと思っていた相手が、同伴者有りで姿を見せりゃ挨拶くらいしに来るだろ。その女……紹介しちゃ、くれねェのか?」
俺の声に微かに震えたのが、赤髪のコート越しにも伝わる。甘えているのか、縋っているのかは解らねェが抱き着くその姿が、しっかりとは見えないのに不快だ。
香りが……ナミだからだろうか。体格がナミだからだろうか。
どちらにしても、ナミと似ているだけでこれ程不快になるとは思いもしなかった。そんな俺に赤髪は言う。
「紹介するつもりはねェよ」
「そうか。だが、女は俺に挨拶したいんじゃねェのか?」
ナミであるのならば、赤髪の女ではあり得ない。だが……俺の過去であり未来のナミが言っていた事がある。
兄のように慕ってきた大切な人が居るのだと。実際弱さを隠すなんて、考えもしない相手だと言っていたのだ。
その相手が……今ならば赤髪と判断できる程度の情報は齎されている。だとするならば、あの震えている隠された女がナミである可能性は高い。
だからと思い糸を向ければ、赤髪が即座にそれを切り裂く。そして、珍しく真面目な声を出しやがった。
「俺はな、天夜叉……無駄に戦う事を好まねェ。だからこそ、大抵の事は笑って許してやる。だがな……俺は友人や仲間に手を出そうとする奴は、絶対に許さねェ!」
「その女はどちらに含まれてんだ?」
カマをかけるつもりで問いかければ、迷いも戸惑いもなく赤髪は言葉を返して来た。それは俺から見ると、少しばかり予想外だった。
「仲間に決まってるだろう。元々俺のクルーだ」
俺の女だと言っていた事を考えれば、赤髪の女は赤髪のクルーであると言う事になる。そうなると、自分のクルーとデキてんのか?
それなら、その女の名前も有名であるべきだろうに、名も存在も聞いた覚えながない。それに僅かに首を傾げつつ、俺は赤髪の様子を見て嗚呼と思い出す。
聞いた事があるな。〝赤髪の女神ちゃん〟と呼ばれる赤髪を袖にした女の話を。
「俺が見付けて、拾って、愛でて、育てて、守って来た大切な仲間だ。変なちょっかい出すなよ」
そう俺に言ったと思った直後、俺を見据えたままその声だけ優しくして腕に抱いてる女に言葉を向けた。それは、慈愛に満ちていて……本気で愛しているのだとこの場にいる全員に伝える程だ。
「……そうしてろ。確実に守ってやる」
赤髪の女神ちゃんが、カジノの女帝か。これがナミだとしたら、世界に狙われたくて産まれてきたのだろうとしか思えない女だなと小さく笑う。
そして、赤髪の女神は赤髪を袖にすると聞いていたが、この様子では袖になんざして無いだろと内心で突っ込む。幼過ぎて手を出せなかったから、そういう事にしていたという事か?
「……どうやら俺の女は疲れたみたいでな。休ませてもらう」
「フッフッフッフッフッ!この船は既に陸を離れている。部屋でなら、好きに過ごしてくれよ、VIPの招待客なんだからなァ」
そんな会話の後稼ぎを運ばせながら、俺にその姿をみせる事なく、大切そうに女を守りながら背を向ける赤髪を見送る。俺に背を向けても問題無く勝てると言う自信が、実力がそれから伝わり、その懸賞金額を思い出す。
……厄介な事に、なりそうだ。それでも俺には、その腕にいた蜜柑の香りを纏う女がナミのように思えて、どうにか確認出来ないものかとその場でしばし思案する事となった。
話が抜けてたと教えて頂きました。
教えてくださってありがとうございます。