※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編side)   作:夢枕 七変化

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白ひげ海賊団一番隊隊長船医者〝不死鳥〟マルコ
アラバスタにて


 何度も貰っていた手紙のおかげで、現在サッチは無事に生きている。それでも我慢できなかったらしいエースが、飛び出すのを黙って見ている事は出来ねェ。

 そんなエースの行動さえも、前もって手紙に記載されていた行動だからと念の為準備を進めていた。だから俺は、親父に視線を向けるとそれだけで行って来いと言われたのに頷く。

 サッチが襲われない事を願っていたが、準備を進めていたのはエースが家族になった事等を的確に示されていたからだ。そうして俺は、エースの無謀な旅に同行する事となった。

 エースとの旅は、まァ悪くもなかった。体を動かす事が嫌いな訳でもねェから、こうして書類から離れられる生活も楽しいと言える。

 その分親父が全てやってるんだろうと思えば、悪い事しちまってるなと思わなくもねェが……。いや待て、書類やってりゃ大人しく寝てるか座ってるしかねェから、結果オーライかもな。

 親父はすぐに動き回って体調崩すんだからよぃ。そう思ってつい重い溜息を落とすと、エースが妙な事を言い出した。

 

 「マルコー……なんか、ティーチの居場所ビビビ!ってわかんねェの?」

 「お前は、俺を何だと思ってんだよぃ」

 「不死鳥センサーとかねェの?」

 「ンなモンがあったら、お前をモビーから飛び出させてねェよぃ」

 

 そんな事を言いながらも、噂でアラバスタにティー……いや、黒髭がいると言うのは聞いてきたのでそこへ向かう事にはなっている。移動中エースから耳タコな勢いで聞かされているのは、故郷で共に過ごした兄弟の話だ。

 死んだ兄弟と、無鉄砲な弟、そして……優しい姉。その姉がどうやら手紙の送り主なのは色々な観点から分かっちゃいるが、その姉の居場所をエースさえ知らねェと言うのだから困ったもんだ。

 容姿の特徴を聞いても、それが10年前じゃ役に立たねェ。8歳児と18歳の女で、見た目が変わってなかったから怖いだろうがよぃ。

 まァだからこそ、世界政府はニコ・ロビンを未だ捕まえられずに居るんだろうがなぃ。子供の頃の情報しかないのならば、大人になった今、情報なんてのは無いのと変わらねェ。

 

 「明日はアラバスタに向かう。早目に寝とけよぃ」

 「マルコは?」

 「親父に連絡入れて、1杯引っ掛けてくる」

 「狡ィ!俺も親父と話したい!」

 

 騒ぐエースを殴って寝かせてから親父に連絡を入れると、酒場で適当な酒を頼む。ティーチがそれだと分かってから手紙を読み返せば、確かに情報が多い事に気付き、もう少し、手紙が欲しいところだねぃなんて思う。

 今正に、手紙が欲しい。何処にティーチが居るのか、その情報があるのならば欲しいと願う俺は、物臭なのだろうか。

 カウンターに置いたグラスの中で、氷がカランと音をたてるのを聞き、その場に金を残してエースの寝ている安宿へと帰る。明日からまた、飛び続ける事になるから、早く休むかねぃ。

 翌朝アラバスタへ向かい出発した俺達は、特に大きな問題も無く目的地に到着した。移動中の問題は弟の手配書を俺に見せながら、永遠と弟について語り続けるエースの扱いのみだった。

 アラバスタで情報収集をしようとした所で、折角だから弟に会いたいと騒ぐエースの為に、1旦別行動としておく事にした。エースの弟を待つとするなら、少しはのんびり出来るかねぃ?

 手配書を見れば、エースより随分と幼く見える少年が無邪気に笑っていて、手配書とは思えないそれに笑みが浮かぶ。情報収集をしていたら、何やら海軍が来ているとの話が飛び込んで来て、ここは英雄のナワバリだろうと思えば嫌な予感がした。

 総じて人間嫌な予感ってのは当たるもので、表に出ればエースが暴れているのが分かっちまう。海軍、七武海、四皇、クーデターか……出来すぎな感じがするねぃ。

 空へと飛び上がればエースに散々見せられていた少年を思わせる海賊旗が掲げられた船が見えて、エースはどうせここに来るだろうとそこへ向かう。その時、見付けたのは船に向かって恐ろしい速度で移動する女。

 鬼気迫る勢いで駆け抜けるその女は船に乗り込むと船内へと駆け込んだので、その間に少し船の様子を確認させて貰う。そして鬼も裸足で逃げそうな雰囲気で便箋に文字を書き殴っているのを見れば、何事かとそっとそれを覗き込む。

 見えたその内容に、俺は呼吸が止まるかと思った。エースが言っていた〝姉〟であり、俺がずっと探していた〝手紙の送り主〟がこんな小娘とは思わなかった。

 美しさだけを売りにして、何も出来ないお嬢様だと言われたら納得できそうな容姿でありながら、手を見ればペンだこがあり勤勉である事が分かる。ペンも年季が入って居て、最近趣味でペンを扱うようになったと言う風情でも無い。

 そっと船内を出て呼吸を落ち着けると、その間に表に飛び出して来た女が笛を吹いた。すると迷わずにニュースクーが飛んで来て、こりゃァ本物だとその細い手首を思わず掴む。

 その刹那回し蹴りが飛んで来て、物騒な女だなぃと内心で笑う。その手から手紙を奪い取り、蹴りを躱せば女は俺をようやく認識したらしい。

 認識と同時に顔色を変えた所を見れば、それなりに情報を集めては居るのだろう。ぐっと体に力を入れた様子に、俺を俺と認識して尚挑もうとする胆力に驚かされる。

 直後に挑みかかって来たその身軽さに目を見張る。その上動きが風に舞う花弁のように、掴み所がない。

 ……美しいねぃ。だが、狙いが明らかに手紙である以上、返すつもりは無いよぃ。

 

 「返して!それは……!」

 「……俺宛の手紙だろぃ?」

 

 そう言った途端に女は〝覇気を纏った棒〟で攻撃を仕掛けてくる。……これは、舐めてかかれば火傷じゃすまないかもなぃ。

 その上その棒は、何故か電撃まで纏っているのだから笑えない。棒術を恐ろしい練度で収めていて、立派な戦闘員だなと思うのと同時に、そのプライドをへし折ってやりたくなる。

 首、目、鳩尾、脛、人体の急所と言われる場所を迷い無く狙うそれは、女であるが故か。面白い子だ。

 若く美しいその容姿が理由でこれ程の強さを得たのかも知れないと思えば、護身術にしては行き過ぎなそれを押さえ込んで鳴かせてみたいと思わされる。……もう、若くもねェってのになぃ。

 この女が欲しいと本能が騒ぐ。だが、恐らくこの女はエースの……。

 そんな葛藤をしている為に、攻撃に転ずる事が出来ずに防戦1方になる。ここで攻撃に転ずれば、間違いなくその美しい体を傷付けるだろう。

 もう少し弱ければ無傷で終わらせてやれるんだが、中途半端に強いのが厄介だねぃ。だが、そろそろ手加減しつつでも反撃にと思えば、恐ろしく逃げ足が早くダメージを与えられない。

 攻撃が中の下だとしたら、躱すそれだけなら上の中の練度はあるだろう。それに……俺を傷付ける意図は感じられねェし、体力も少ない様子だねぃ。

 動く度に女から香るのは、柑橘類の香り。髪の色も相俟って、喰らい尽くしたくなる。

 気丈にも睨み付けてくるその表情に、俺の心は完全に堕ちたと自覚する。それでも、エースの想い人だと思えばこそ、本能に従い動こうとする体を理性で必死に押し留めた。

 女から戦いたくない、傷付けたくないと言う思いが伝わって来る。戦いに長く身を置いているからこそ、戦う相手のそれが伝わる。

 ……甘いねぃ。あァ、この甘さは癖になりそうだ。

 優しいなんてレベルでは既になく、ただ甘い。エースが優しくて暖かくてと言っていたのを思い出す。

 誰かを守る為、誰かの為にしか戦えないだろう甘い女。……よく、これ迄無事だったもんだよぃ。

 俺の手紙を燃やす事に専念した動きは迷い無く、内容は読んでいたからまァ良いかと燃やさせてやる。帰って来た仲間を見て即座に庇うような動きをするのを見たら、少し揶揄いたくなったのは俺の性格が悪いんだろうか。

 

 「お前ェ……その見た目で戦闘員だったのかよぃ?」

 「……見た目は関係無いでしょう。白髭海賊団1番隊隊長不死鳥マルコさん」

 

 だがしかし仲間達もまた迷い無く女を守ろうと武器を構える。……良いチームだ。

 

 「皆、辞めて!」

 

 見てもいないのに仲間の動きを察知するのは、見聞色の覇気の恩恵か。……欲しいねぃ。

 真っ直ぐに俺を見るその強い眼差しに囚われて、俺はもう抗えそうにない。何年も探して来た、胸に秘めてきた相手が俺を見据えている。

 

 「……無理よ、ロギア系とほぼ変わらない幻獣系の能力者相手じゃ、攻撃を仕掛けても無駄に終わるわ。お願い、落ち着いて」

 「回し蹴りして来た女の言い分かよぃ?」

 

 思わず本音がこぼれ落ちると、女はその瞳を眇めてフンってな勢いで言い捨てる。仲間がナミと呼ぶこの女は、どうやらこの船の中では大切な〝お姫様〟らしいと気付く。

 ……知らぬは本人ばかりなりってな所かねぃ。美しく、優しいだけの女なら、こうはならねェだろう。

 ……詳しく知りてェ所だが、さて……素直に吐いてくれるか。それとも、エースが来てからの方がスムーズだろうか。

 

 「突然手首を掴まれたんだから、それくらいするでしょ。関節技キメに行かなかっただけ褒めて欲しいわ」

 「確かにねぃ」

 

 俺を誰だか知らない海賊の女なら、そうだろう。だが、1般人はあんなに攻撃的でもないし、関節技を決めようなんて発想は持たない。

 そして海賊であるならば、俺を知っていれば普通は良くて戦う事を諦める。下手をすれば怯えられるんだがなぃ。

 

 「……俺宛の手紙を燃やした理由を聞きたいねぃ」

 「勘違いも甚だしいわ。大切なラブレターを他人に読まれたくなくて、燃やしただけよ」

 

 嘘ではなく、真実でもない言葉を口にして、天然発言をする仲間を背後に庇いながら、それでも俺と向き合う恐怖を押し殺して微笑む女の姿に、内心でエースに謝る。こんないい女目の前にして、遠慮なんか出来るかよぃ。

 これ以上怯えさせて嫌われたくなくて、今更優しいお兄さんぶって笑いかければ、女はそっと体から力を抜く。そしてどうやら、この船の幹部だったらしいその女が出航に関して指示を飛ばすのをのんびり眺めながら、仲間を説得したり説明したりするそれに耳を傾ける。

 その時聞こえて来た〝アーロンに支配〟と言うそれにゾワリとしたものが全身を駆け巡る。その名前は、ジンベエ親分の……!

 その上5歳から海に出て、赤髪の船に乗っていたと言うのだから他と違っていて当然かと思う。今の女の年齢が見た目通りだとするなら、その頃は赤髪が東の海で腕を駄目にした頃か。

 ……なら、この女が赤髪の秘蔵っ子〝女神ちゃん〟か。航海士だと自覚しろと、女の仲間が言ったのが決定打となった。

 これは……引き抜きたい。引き抜けたならば、俺の女にしちまおう。

 笑顔を向ければ、笑顔が返される。不死鳥と猫の化か試合。

 女神ちゃんの事について話せば、知らなかったのかキョトンとした顔になるが、それがまた妙に幼くてギャップに驚かされる。戦う時の苛烈さ、守るための甘さ、頭を使っている時の美しさ、普段の幼さ、万華鏡のように移り変わるそれに魅せられて、溺れ行く心に自嘲しちまう。

 そんな俺の目の前で、再びその様子が変わる。エースが弟を連れて戻ったのだから、優しく笑うのかと思えば阿修羅を思わせる気配で、羅刹を思わせる勢いで、エースを追い詰め始めた。

 これだから、海賊を止められねェ。こんないい女、そうそういねェよと内心で嗤いながら俺はその光景を眺めていた。

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