※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編side)   作:夢枕 七変化

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砂漠の中で

 元は栄えた街があったと記憶しているが、今目の前に広がるのは砂漠の1部としか思えない廃墟だ。生命の息遣いが、全くと言って良い程に感じられない。

 それと……これ迄の言動等を見るに水色の髪の少女は恐らく、この国の姫だろう。呼ばれているその名も、偽名では無い所にお育ちの良さと警戒心の低さを感じさせる。

 確か、ここアラバスタのそれはネフェルタリ。つまりは、ネフェルタリ・ビビ第1王女。

 確か王位継承権の第1位は美しい王子であると記憶はしているが、恋人の1人も作らぬ堅物であると聞いている。自己評価の恐ろしく低い謙虚な王子は、けれども神童であると言われていたのを思い出す。

 それにしても良いのかねぃ?王位継承権が2位とは言え王族が海賊とこんなに馴れ合って……。

 と、思いはするが、おでんの事もあるから余計な事は言わぬが花だろう。この国の有様を見れば即座に理解出来る事を、少年達は理解出来ず、言葉にされたそれにより当てどない怒りを建物を破壊する事で抑えているのが伝わる。

 素直に、若いなと……思う。まだ見習いだった頃をふと思い出しながら、砂漠を進む。

 ゾオン系だろう少年が暑さに倒れれば、それを仲間がソリに乗せて進み、そこへ当然のように何かをぶつけるナミ。それが冷気だとわかれば、どういう事だと問い詰めたくもなろうというものだ。

 ルフィの言葉にうがァと言いそうな勢いで怒るナミは、成程ゾオン系の少年……チョッパーをどうやら甘やかしていたらしい。それが気に入らないと、全身で表現するルフィのその幼さと素直さに苦笑がもれる。

 だがその時、エースがチョッパーよりもルフィの方が甘やかされてるだろと言えば、おい待てと流石に思う。砂漠で昼間涼を取らせるなんて不可能を可能にしているような甘やかしよりも、上のランクの甘やかしとなると、既に想像も出来やしない。

 そうして動揺する俺の目の前で、当然のようにルフィの頭を愛しげに撫でて、構えなくてごめんねなんて言っているのを見れば、コイツらどうやって今まで生きてきたんだと問い詰めなくなる。……無駄な事だからしないがねぃ。

 進むにつれて、少年達が余裕をなくし喧嘩を始めるのを心配そうに見詰めているナミだが、その顔色は悪い。この国出身の姫と、ワノ国のサムライを思わせる少年、火であるエースは兎も角、他には確かにキツいだろう。

 そっとナミに影を作るようにしてやれば、少し困った様子でありがとうと呟かれる。誰かに何かをして貰う事に不馴れな様子は、常に守側にいる者の宿命かとさえ思う。

 だからこそ、少しでも何か気を紛らわせてやりたくて視線を少年達に向ける。すると、何だかんだと言いながらも血の繋がらない筈のエースとルフィは、恐ろしく似ているなと思わされた。

 

 「エースと、本当に良く似てるよぃ」

 「……義兄弟でも、案外似るものですよ。私と義理の姉も……似てると言われます」

 

 嬉しそうに、愛しそうに話すそれにより、相当姉が好きなのだと伝わって来る。それにふっと笑いそうになった時エースが騒ぎだす。

 それにより思わずナミと視線を合わせて笑い出せば、エースは不機嫌そうになったがこればかりは仕方ないだろう。他愛無い会話をポツポツと繰り返しながら、ナミと歩いていればいつの間にかルフィが全員の荷物を運んでいた。

 そんな中で顔色を真っ青にして、強がりながらもルフィの心配ばかりをするナミにチョッパーが話し掛けた。成程……頭痛か。

 

 「ナミ、その頭痛……ちゃんと診察させろよ。治せる筈ないとか言ってねェでさ。俺、治せるように頑張るから」

 「ナミ、その時俺も立ち会うよぃ。これでも船医やって長いんでねぃ、地域性のものなら情報共有しておきたい」

 

 俺の言葉に即座に反応したのはチョッパーで、告げられた言葉にわかるよぃとばかりに返答すれば、ナミが宝玉その人であると告げられる。思わずナミに視線を向ければ、挙動不審で顔色を更に悪くさせるから、嘘でも勘違いでも無いと理解した。

 ……成程ねぃ。ならば、あの本の説明もつくな。

 ダメな本も戻さずに手元に残して、修正等を行ったのだろう。真面目な作家先生だねぃ。

 

 「ナミお前、ちょっと止まれ」

 

 感心していた所に突然の言葉。それに合わせて俺も同時に足を止めると、剣士は迷い無くナミを抱き上げる。

 こういった事はよくある事なのかと思わされた直後、今度はエースがそれを奪い、横抱きにしていた。だが本人は驚き硬直しており、いつもの事では無いらしいと気付く。

 1瞬助けてやろうかと考えたが、ナミの顔色も悪いからそれの方が早いかと納得した所で、本人は納得いかないとばかりに騒ぎ出す。その言葉に反応したのは、これ迄比較的まともだと判断していた長鼻君……ウソップだった。

 

 「エース、そのままナミを運んでくれ。ナミの自分に関する大丈夫ほど、この世に信用出来ねェ言葉はねェから」

 「……ナミ、お前何したんだよ」

 

 エースの言葉に内心で同調すると、ウソップはナミの事を静かに語り出した。それは、軽く言ってはいるが……相当なものだぞ。

 

 「ナミは故郷を救う為に8年奴隷になっててさ、そうとは知らずにナミを連れ戻そうとした俺達が迷惑かけちまったんだ。そうしたら俺達が巻き込まれると判断したナミが、自分の身を犠牲にして俺やゾロの命を助けてくれてよ……」

 

 その言葉にナミを見ても、聞こえないもん!とでも言いたげな様子で視線を遠くに向けている。だが、だからこそそれが真実だと分かり、眉間に皺が寄るのを自覚しちまう。

 

 「村人と家族に裏切り者として迫害されながらも、彼等を守る為、救う為にって頑張っていたんだ。……なのに結局このままだと守る事が無理だと判断したら、自分の人生を投げ捨てて彼等を守ろうとした」

 

 怒りを滲ませ、ウソップは低い声で言葉を続ける。それに先を歩く少年達は反応を見せない。

 

 「死ぬ事で解決するなら死を、生きて奴隷でいて解決するなら奴隷として生きる事を決意して、1人で解決しようとしやがってよ。その後でナミを突き放してた村人達はナミが、いつ自分達を見捨ててもいいように、冷たく当たっていたと知ったナミは……その関係で限界超えちまって、そうなって漸く助けを求めてくれたんだ」

 

 助けを求めるのが遅すぎるだろうと思ったのは、どうやら俺だけではなかったらしくナミの過去について初めて聞いたメンバーは、全員似たような顔をしている。それでもウソップは忌々しそうに言葉を重ねた。

 

 「だがよ。そう思ったら、今度は俺達庇って大怪我して、死にかけてなァ……。俺達はまた庇われちまって……もういいからなんて言われた時には流石になァ……」

 「ナミ、それは信用されなくなっても仕方ねェと思うぞ?」

 

 チョッパーがそう言えば、それに俺とエースは無言のままに同意する。……これは可能な限り守ってやらねェと、ナミの自己価値が低過ぎて、簡単にその命を文字通り擲つだろう事は容易に想像出来た。

 呆れてものが言えねェよぃ。これ程に価値の高い存在が、世界から求められている存在が、何よりも自分自身を不要なものとして扱ってやがるとはねぃ。

 知らず溜息が落ちるが、地蔵のように大人しくなっているナミは、知らぬ存ぜぬを貫き通した。その様子に苦労するなと、ルフィに視線を向ければ特に変化も無く歩く姿に〝エースの弟〟だなと色々な意味で痛感する。

 その後岩場にて休憩する事になれば、その時には呼吸しているのがやっとの様子になっているのに、ナミはルフィルフィと、心配そうに繰り返す。それ程ルフィが可愛いのかと思いながらも、無意識でナミを奪うチャンスを探っている己に気付く。

 それ程迄に欲しいのかと己に問い掛けて、明確な答えを出す事を拒む曖昧な自分に溜息を落とす。そんな時ナミを荷物のように受け渡しつつ、休憩ポイントとなる岩場に向かった。

 何も無い空間で水を生み出して、それを配る姿は天使か女神、もしくは魔法使いとしか言えない。けれどもそれを配るだけで己は休憩もせずに居る事を、お姫様とチョッパーに叱られては、ナミも渋々ながら休む事を選択したらしい。

 休憩しつつ水を生み出して、それを元に何かを作ろうとしたナミからサンジが材料を奪い、ナミの指示に従いスポーツドリンクを作る。そうして配られた飲物は、恐ろしく飲みやすい。

 それに驚きつつナミを見れば、顔色は余り改善していないと気付く。それの確認の為に額に触れるが、熱は無いから熱中症では無いとわかる。

 軽く指先で押して見ると、脱水の気配も無い。本来肌を摘むのが1番だがねぃ……。

 

 「……熱中症の症状はないねぃ。それにしても、知識量だけは本当に多いな。生きる辞書ってところかぃ?」

 

 俺の言葉に苦笑したナミは、ルフィ達が怪物を引連れて戻るのを見て頭を抱えたが……ここには女子供しかいねェってのに、何してんのかねぃ。そう思い、動けないであろう3人を庇う為に立つ。

 

 「……マルコさんは、行かないんですか?」

 

 心底不思議そうに問い掛けられては、この子は全くと思う。何かあった時、恐らくは我が身を犠牲にするのだろうと分かってしまうから、余計に。

 

 「病人と、女子供に護衛無しって訳には行かねェだろうよぃ」

 

 俺の言葉に驚いてますって顔をするから、いつも見守りつつ必要な時だけ手を貸しているのが伝わって来る。これを世間では、母の愛とでも呼ぶのだろうか。

 そうして倒された生物に関して、食べられそうかを確認するナミは、財布を預かる母の顔にしか見えない。その後楽しそうに調理するエース達を眺め、食事をしながら今後の行軍についての話し合いを開始する。

 知的な眼差しで、真剣な顔で説明したりしていたナミが突然虚ろな瞳になった直後、ルフィとエースが悲鳴を上げた。見ればナミは1人で何やらブツブツと言い始め、その様子に成程と納得する。

 天才と呼ばれる者の宿命だろうか。無防備なその姿に、少し微笑ましくなる。

 その後こちらに帰って来たナミと話をして、朝一での出発を決定する。その過程でお姫様を気遣い優しく笑いながら説得する姿は、何処か儚い。

 素直に……欲しいな。その賢さも、知識も、優しさも、強さも……何より、強く在ろうとするその弱さが愛しい。

 他人の為にしか動こうとしないナミを、俺は腕に抱き締めて泣かせてやりたいと願ってしまった。そして、僅かな時さえその思考を止める事が出来ないとでも言いたげに考え込むナミを見て、素直に綺麗だと思う。

 その姿形だけではなく、その瞳と心が綺麗だと思えてならない。……曖昧だったそれが、明確になるのを自覚して細く息を吐き出せば、何かを吹っ切れたような気持ちになる。

 食事を終えたと思うと、仲間2人と何故か俺に意見を求めるのでそれに答える。どうやらナミの中で、賢い人に俺は分類されているらしい。

 そうして生み出された水を元に2人が行動を開始すれば、ナミは少し休むと言って岩陰へとその姿を消した。それぞれが、それぞれの出来る事を行う中、エースは寝ていて自由だなと思う。

 この先に待つ戦いに備えているのだろう。そういや……ルフィの姿が見当たらねェな。

 何か問題を起こされても困るが、見聞色の覇気を使う程でも無いだろう。そう思いつつ岩場に向かうと、押し殺したような声が聞こえて来て足を止める。

 

 「……声、抑えねェと皆に聞こえるぞ」

 「んっ……」

 

 そのまま外は嫌だと言う声が聞こえ、助けに入るべきか逡巡する。だが、直後に誰が来ても辞めないと宣言した声の本気さを感じ取れば、下手に手は出せないなと思う。

 大切なクルーで、惚れてる相手なら虐めるなよと思いながらも、他の誰かに見られないよう仕方なく腰を降ろす。ここに俺がいれば、エース以外は俺が1人になりたいと判断して近付いては来ないだろう。

 だがルフィが弱った姿を恋人に晒して甘えているだけだと気付けば、ナミはそれを受け止めるのだろうなと素直に理解しちまう。動揺するルフィの声を聞けば、ナミが何をしているのかはだいたい想像がつく。

 ナミのあの顔色では、そんな事をすれば動けなくなるだろうが……。止めるのは無粋だろう。

 誘うように、艶のある声でルフィを誘惑しているように、恐らくは演技をしているだろうと、震える声から判断する。だが、実際大切なのはそっちでは無いのだろう。

 

 「ルフィ……私は、ルフィ以外に自分からこんな事しない。力とかでかなわなくて、他の男に何かされたとしても……私が愛してる男は、ルフィだけだもの」

 「……俺に、それを言う為だけに、慣れねェ事したのかよ。ナミは本当に……俺に、甘ェ」

 

 続いたルフィの台詞に、強がりに気付いていたらしいと分かればホッとする。ナミを任せて後悔しない相手で無ければ、奪っちまいそうなんだよぃ。

 そんな事ナミは望まないだろう。これ程強く、深く、愛しているのならば、他の男には触れられる以前に、想われるのさえ、苦痛だろうと推察できる。

 だからこそ、2人の甘やかな声を黙って聞く以外、今の俺に出来る事は無かった。そうして時が経過して、食事が出来たとの声が聞こえてくれば、2人の身支度が終わるのを待ち、俺が迎えに行く事にする。

 さり気なくでもフォローしてやらないと、ナミが倒れそうだと判断した。理由はまァ、幾つかあるが言わぬが花だろう。

 全員と合流を果たした後、産まれたての子鹿以下の様子で足を震わせる姿に、思わず大人しくしてろと言えば、チョッパーがルフィを連れ出した。その顔と様子から、叱っているのが分かり、良い船医だと思う。

 何かあった時、クルーと船長のそれを見て、船長を叱れるのは貴重な存在だ。特にこういった案件では、女が悪いと判断されがちなのだから。

 それにしても、ナミは覇気を珍しい使い方してるよぃ。こんな使い方もあるのかと思えば、こういった経験が多いのかと思い至り軽く頭痛がした。

 考えてみればどちらも十代だ。ナミの体型では、盛られる事も少なくはねェだろう。

 

 「覇気をそんな使い方するとは思わなかったよぃ」

 「……これやると、体力を恐ろしく消耗しますけど、それでもその場を取り繕えますし、逃げ出す時にも便利なんですよ」

 「……女海賊ならでは、だねぃ」

 

 ……逃げ出す時、か。だとしたら、ナミは他の男に触れられた経験があるらしい。

 何も汚い事も、辛い事も、苦しい事も知らなさそうな様子で居るが……だとするならば逆に、それらを超えすぎてしまったのだろう。過ぎる程に経験し、それでも尚その甘さや輝きを失わねェのならば、これは天性のもの。

 本当に貴重な生き物だねぃ。そう思った時ナミが穏やかに、けれども本当に可笑しそうに笑った。

 

 「男の人の方が、急いで逃げないと大変な事になりますよ。休ませなきゃいけない日も無く、間違いも起きない。自尊心を折る事も出来るし、死ぬ事は不名誉を残すだけとなる」

 「……ゾッとしないねぃ。確かに、有効過ぎる拷問だよぃ」

 

 想像したくも無いが、実際そう言った経験をしている者は少なくない。元々海上には女なんぞ少ないのだから、そう言った道に走るのもよくある話であるからだ。

 だが、正しい知識を持たずに致そうとして、重い感染症にかかったり、抜けなくなってその姿のまま医務室に運ばれる馬鹿を思い出せば、疲労感は果てしない。本で読んだからと、通常の蝋燭を用いたSMごっこ等で火傷を負い、運ばれて来た中にナースが居た時の絶望感迄も連想ゲームのように思い出した俺は、溜息を抑える事が出来なかった。

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