※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編side)   作:夢枕 七変化

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血濡れの女神

 悲しい時、嬉しい時、限界を超えたそれだけは泣けるものの……苦しい時や痛い時には泣けない。そんな大人になっちまった俺達は、その罰か試練でも受けているのだろうか。

 飛んでも飛んでも、情報を集めている間に馬鹿な弟は姿を消しちまう。時に電伝虫でモビーにいる家族と連絡を取り合っていたが、今の所有力な情報をは無い。

 

 『マルコ、ひとついいかい?』

 「イゾウ?」

 『あの馬鹿の事だ。折角だから……と寄るとしたら何処だと思うね?』

 「……折角だから?……あァ、成程ねぃ」

 『可能性でしかないが、問題の尽きない1味なんだろ?なら、賭けてみるのも有りかと思っただけさね』

 

 そんな事を言って電伝虫の通信は途絶えた。それから俺は〝弟達〟のいる場所へと向かって羽ばたく。

 ログを辿っているならば、ウォーターセブンにいる筈だと判断して向かったが、それはアクアラグナが始まった頃の到着になっちまった。そんな中では流石に騒ぎも起こせやしないだろうと思いながらも、1応聞き込みは行う。

 何せ相手はエースの弟と、その仲間達だ。何が起きても可笑しくは無いからねぃ。

 すると奇妙な事が起きた。エースらしき存在の目撃情報と、その弟達が率いる既に俺達から〝家族〟と認定されつつある1味の謎過ぎる情報が入ったのだ。

 

 「何がどうなると……この規模のアクアラグナの中で海を渡るんだよぃ?」

 「ガッハッハッ!!そう思うよな!!だがよ、なんでも〝仲間〟が連れ去られたらしいんだ」

 「連れ去られたって……相手もこの、強烈なアクアラグナの中を進んだってのかよぃ」

 「……相手さんはよ、その直前に出発したんだ。政府の奴等はやり方が汚ェよなァ。本当は無実なのに俺達が騒いだから、身を売ったなんて話もあるぜ?」

 

 酒場に集まる奴等は、基本的に酒を奢れば口は軽い。それで集まった情報がこれだ。

 ……連れ去られた女の仲間……ねぃ?

 それも、仲間の為に自ら犠牲になったと聞かされれば、思い浮かぶのは蜜柑の香りと、それに似合う色合いの髪。男好きしそうな身体を何処か持て余す、心優しい〝姉〟の姿だ。

 水色の髪を靡かせていた、あのお姫様がアラバスタを共に出たとは思え無い。そこまでの覚悟はないだろうし、あの国の王子はそれを許さないだろう。

 あの国の王子は甘いと言われているが……あのタイプは、イザとなった時怖いからねぃ。そう思って思い浮かべたのは、イゾウだ。

 恐らくあの王子とイゾウのタイプは近いだろう。そう思えば、この先もどうか優しい王子で居てくれるようにと祈るばかりである。

 つまりは、攫われた女ってのは……ナミの可能性が高い。それを知ればエースは間違いなく来るだろう。

 それに賭けてみるかねぃ。そう思って俺は雨足や風の様子を見て、姿を変えた。

 エースに会って回収したいのは勿論だが、今は何よりもナミを助けなければと……そればかりが脳内を占める。そうして到着したエニエス・ロビーは、明らかに通常の状態とは言えない事になっていた。

 崩れ落ちた建物は、既にその原型を留めてさえ居ない。散乱した倒れてる人影は、考えるまでも無く死体だろう。

 それでも……彼等がそうなったのは恐らく〝弟達〟が原因ではないだろう。基本的にあいつらは、人を殺さずに勝つ事を選んできていた。

 だとするなら……。そう思って見れば、恐らくバスターコールだろうと分かるそれに肩から力が抜ける。

 七武海や〝四皇〟と呼ばれる者達にはなんの意味も成さない程度の物ではあるが、島一つ程度ならば簡単にその存在を無かった事にできるシステム。それがこの様子では……あいつらに向けられたと考えるのが妥当だろう。

 だとするならば、ナミを奪い返したのだろうとわかる。だからこそ、この島は壊滅的な被害を受けたのだろうと思うが……さて、それならばあのやんちゃ坊主共は何処にいるのか。

 エースもコレ見たら大はしゃぎで参戦するだろうなと、そんな事を思いながら進む。インペルダウンに連れて行かれちまえば、俺達でも容易には手を出せなくなるからここで止めようとしたのは間違いない無い判断だ。

 そうなるとナミの他に、誰かそれを判断できる存在が仲間に居たという事になる。……コックか、剣士か……はたまた新たな仲間って所かねぃ?

 そうして空から見ていれば、軍艦に囲まれた中で戦う数人の姿。エースの弟……ルフィの姿は確認できない。

 そのまま空中で様子を見ていれば、見付ける事はできたものの、他の強敵を1人で対応してるのが分かる。助けに入るか、もう少し様子を見るかと考えながら空にいたのはエースの姿が無かったのも大きな理由だ。

 その中で得た情報で、攫われたのはナミでは無く〝悪魔の子〟だと言う事。そのついでに今〝宝玉〟も狙われていると知った。

 〝悪魔の子〟は1味に加えればそこが壊滅すると言われているが、成程……世界政府から狙われてる関係かよぃ。本人に悪意があって海賊が壊滅して来た訳じゃないのならば、ナミは全力で守ろうとするだろう。

 その証拠に今も悪魔の子を庇いながら戦ってい……ん?

 様子が、おかしいねぃ。……医者じゃなけりゃ見逃していただろうと思える程の、微かな違和感。

 怪我を隠して気丈に振る舞い戦う姿は、小動物を思わせる。そして確かに〝赤髪の女神〟なのだと認識させられちまう程の、美しさと気高さ。

 それにしても……バスターコールよりも規模が数倍デカイな。ルーキーとさえ呼べない海賊相手にするには、戦力過剰過ぎだろぃ。

 それも戦ってるのは両手の指で足りない程度の人数で、女達は既に血みどろだ。流石にこれは、赤の他人だったとしても見逃してやれねェなぃ。

 

 「多勢に無勢ってのは、好きな構図じゃ無いねぃ」

 

 言葉と共に降り立てば、長っ鼻と、剣士、そしてナミが反応する。海軍も流石に動きを止めているから、俺も随分有名になったもんだと1人溜息を飲み込んだ。

 それ程俺は、騒ぎを起こしたりした記憶は無いんだがねぃ?……と、家族が聞いたら大ブーイングが起きそうな事を半ば本気で思う。

 

 「エース探してたら、エースの弟が無茶してるって聞いてねぃ。……加勢するよぃ!」

 「「「ありがとう!!」」」

 

 今の戦列と戦い方を見るに、あの輪に入るよりは狙撃タイプや斬撃を飛ばせる奴から海に落とすのが早い。無意味に殺しても、気分も良くねェからなぃ。

 軽く飛び上がり、ケツの辺りから海兵を海に落としつつナミ達の元へ向かう。戦いながらもナミ達を眺めていれば、見事な連携だと思わされる。

 だからこそ、この少数で生き抜けたのだろう。……知らない仲間が増えてる様子だが、科学者系かねぃ?

 悪魔の子と科学者を加えたらしいが、代わりに小さな船医とコックの姿が見えない。だが今、それらの居場所を探るだけの余力を使うくらいならば、目の前の敵を1人でも多く海に沈めてやりたくて、俺は1旦考える事を放棄する。

 雷が晴天の空から迸る。本当に……航海士が全員あんな事出来るなら、悪魔の実の能力者なんぞでは無く、航海士を求めてこの世界は戦争を起こしているだろう。

 そう考えた時、自分の価値を知らないにも程があるだろう……と呆れちまうのだけは許して欲しい。……早く、傍に行ってやらないと不味そうだねぃ。

 先程から時折、足元がおぼつかなくなっている。恐らく、血を流しすぎているのだろう。

 この場では治療もしてはやれねェのが、もどかしいよぃ。近く迄行けば、俺の動きを計算に入れて戦い始めたナミに、やっぱりウチに欲しいと心から思わされる。

 この戦い方なら、接近戦ばかりのウチの馬鹿達の中に混ざって貰えると本当に助かる。それに……基本的には戦わせずに、航海士や〝宝玉〟としてのみ行動させてやれるからねぃ。

 戦う事が基本的に好きではないのは、よくわかっている。それでも賢さ故に戦えてしまうのは悲劇だろう。

 それも、人並み以上に。だからこそ、狙われるのだ。

 

 「サンダーボルトテンポ!!」

 「今のだけでざっと50人ってとこかねぃ」

 「海に落とすのは任せて!」

 

 たったの1撃で、複数の動きを止めるそれは優秀過ぎて恐ろしくなる。なのにどうしてこうも、ナミは自己評価が低いのか。

 甘すぎる所を除けば〝完璧〟とさえ言える存在だと言うのに。戦いの最中、苦しそうに視線を向けるのは己の船長が戦うその場所。

 その時、爆音が響いた。そして、続く声が〝ルフィ〟の無事と勝利を告げるものだった。

 

 「1緒に帰るぞォ!!ロビーン!!」

 

 悪魔の子……いや、黒髪の女は涙を浮かべ小さく頷いた。ルフィの位置や状態を考えれば見える筈もないのに、何故か伝わってる筈だと何故か思わされる。

 流石は……エースの弟だねぃ。そう思って笑みを浮かべた直後、ナミが叫ぶようにして指揮を執る。

 歴戦の武将を思わせるそれは、か弱い航海士では有り得ない。……こりゃァ、覇王色持ちだと納得させられる。

 

 「全員すぐに脱出船へ!!船を出すわよ!!」

 「やったー!!ルフィー!!」

 

 小さな船医が何処かから喜びの歓声をあげた時、電伝虫が他の生存者が居る事を伝える。どうやらそれらは、この無鉄砲なガキ共の仲間内らしい。

 けれどもそれで気が抜けたのか、立っているのが困難になったナミにそっと手を貸す。その瞬間、想像以上の大怪我に俺は咄嗟に声を出していた。

 

 「ナミ……!」

 「もう少し、皆には黙っててください。大丈夫ですから」

 「こんな状態で、戦ってたのかよぃ……」

 

 立っているどころか、意識があるだけでもおかしいと言えるレベルのそれに、流石は女だと思わされる。男ならばこの傷では、意識を保っている事は不可能だ。

 せめてと思い炎を当てれば、静かな瞳が向けられる。これが文字通り程度の〝手当て〟だと言うのが、悔しくてならない。

 

 「完全には、治せねェよぃ」

 

 何を思ったのか……俺の言葉にナミは微笑む。菩薩を思わせる、優しくも穏やかなそれは、ここが戦場だと言う事を忘れさせられそうになる程だ。

 けれどもその視線が俺から離れて、ルフィだけを案じる様子を見せられればイラッとしたのも分かって欲しい。お前……人を気にしてる場合かよぃ?

 そのまま何かを考え始めたナミは、恐らく〝どうやって助けるか〟しか考えていないだろう。寧ろ今のナミが行けば邪魔になるのは明らかだ。

 それが分からないような愚かな女では無い筈だが、出血で思考が緩んでいるのか。はたまた、自らの価値を欠片も理解してないのか……と、この二択なら後者だろうねぃ。

 ……ここで、頼ってくれりゃァ可愛いんだがな。頼る訳も無いし、頼るような女なら惚れてねェよなぃ。

 

 「皆!!ルフィのいる支柱へ船を回しましょう!全員急いで船へ!!」

 

 その刹那、護送船が燃え上がった。……まァ、妥当な所だろうと敵の思考に納得する。

 俺が奴等ならそうするからねぃ。だが無謀にも駆け出そうとするナミを放置は出来ないので、抱き締めるようにして動きを阻害すればそのまま崩れ落ちそうになる身体。

 その様子から、船に仲間でも居たのだろうと分かるからこそ、見聞色の覇気を使う余裕もないらしいナミに苦笑する。だが……無事な様子だねぃ。

 そう思ってナミの頭を軽く撫でつつ、呆れを全面に出すしかない。1人で全てを守ろうとするのは、まァ……分かるとしてもだ。

 自己犠牲精神が強すぎるよぃ。となると、エースはナミに似たのかもなぃ。

 

 「エースが大量にいるような気がしてきたよぃ」

 

 エースとナミは、本質が似過ぎている。それを直させる為に隊長にしたのもあるというのに、改善されない辺りは筋金入りと言えるだろう。

 その後、姿を見せたコックに状況を簡単に説明すれば素直に感謝されてこそばゆくなる。仲間を助けて来たコック(ヒーロー)は、それを気負う様子さえ見せない。

 そのまま最低限の情報交換をしたメンバーは、追い詰められる形で1ヶ所へ移動する。それに参加しようとするバカ娘を横抱きしにして運べば、驚愕の眼差しが向けられた。

 

 「無駄に動くなよぃ」

 

 このままだと死ぬよぃ?……と、言葉にせずに伝えれば、戦わせろと視線で言い返された。だが、今のナミよりは俺の足の方がまだ役立つと、途中の敵は足だけで対応して見せれば文句を言う事は無かった。

 視線を向ければ焦点が合っていない事から、恐らく何も見えなくなっているだろうと分かる。これは、少しまずいねぃ。

 なのにナミは細く息を吐き出して、俺に降ろせと言うから仕方なく立たせてやる。その瞬間、明らかに月歩を使おうとしたのが分かり慌てて手を伸ばすが、その前にナミは膝から崩れ落ちた。

 ……まァ……そう、なるよなぃ。そう思ってその場に座らせるが、仲間達の悲痛な悲鳴が耳に痛い。

 

 「エースの弟を、ここに連れて来てどうなる?」

 「ここなら砲弾は来ねェ!俺達が揃ってて負けるなんて有り得ねェ!動け無ェ奴は動ける奴が守れば良い!」

 

 そう答えたのは緑頭の剣士。……ゾロだったか。

 ナミから溢れ出すそれが血溜まりを作る。どちらにしても、時間は残り少ない。

 ならば、どこまでやれるか見せて貰おうか。どうしてもの時は……俺はナミだけ連れて飛んで行く。

 泣かれようが、壊れようが、まずは身体だけでも生かしてみせると決意して頷く。……それに実際の所、少しばかりだが期待もしてるんだよぃ。

 

 「……分かったよぃ。どこ迄やれるか、見せて貰う為にも、連れて来るよぃ」

 

 姿を変えた時、俺には聞こえない何かにその場に居た〝俺の把握していたメンバー〟が反応する。そして、ナミは立ち上がった。

 自ら生命を縮めるその行為を、だが、止める事さえ許されない気がした。覚悟を決めた人間の顔は、見ればわかっちまう。

 

 「海へ飛べーー!!!!」

 

 長っ鼻の声が谺響する。そして、ナミが俺に視線を向けた。

 

 「1緒に、来て下さい。助かりますから!」

 

 自信と確信を瞳に宿らせて、敵を殴り飛ばしながら笑う。辺りを見れば全員同じ目的の為に動いてるのが分かり、俺は人の姿へと戻った。

 

 「ここ迄付き合ったんだ。最後まで、付き合うよい」

 「ありがとうございます!……チョッパー、下見た?」

 「見たァ!」

 

 船医は泣きながら答える。そして、海へ!海へ!!と叫びながら飛び込む馬鹿達の姿に、これだから放置できねェと思って笑っちまう。

 海に飛び込めば死ぬからやめろと思うのと同時に、ナミを嘴て咥えて飛ぶ。恐らくソレだと分かるのは、見覚えのある船がそこに〝居た〟から。

 

 「「「「メリー号に!乗り込めーー!!」」」」

 「メリーーー!!」

 『迎えに来たよ!!』

 

 聞こえた声に、納得する。どうやらこの船は……こいつらと相思相愛らしいと思い知らされた。

 だが船に到着するのと同時に、戦士と化したナミは治療させろと言うことさえ許さない。辺りを見れば、ナミの存在を理由に攻撃が停止されてるのが分かる。

 血濡れの女神は、それでも尚美しく、気高い。自らの仕事と役割に、信念と責任を持っているのは間違いない。

 

 「ナミがいるからか、この船は今砲撃されねェなぃ」

 「急げ!!」

 「出航の準備は出来てるわ!配置につい……海が、おかしい」

 

 そう言ってナミは海を睨む。こうなればもう、仕事を終えるまで手は出せないなと笑った時、ルフィが甲板で大の字になったまま言葉を発した。

 

 「ぶはー!危なかった。軍艦に殺されるかと思ったー!おい!ロビン!!助かったありが……ムグ!!」

 

 妙な途切れ方をした言葉に続いたのは、ニコ・ロビンの言葉。恐らくはこれで、正式な仲間となったのだろうとわかる。

 生きる為に足掻き続けた哀れな少女。海賊になりたくてなった訳じゃないだろうに……難儀なもんだ。

 

 「皆!!ありがとう」

 「気にすんな!!ししし!!」

 

 そのまま騒がしくなる船内は、なんとも暖かい。だが喧嘩してる時間はないとばかりにナミが指示を飛ばせば、全員がそれに従う。

 それは、信頼。そうでなくて何故、この自由奔放で我儘な少年達が、少女の言葉に従うと言うのか。

 砲撃が向けられるとわかっても、船を動かす事に迷いを見せないナミと、慌てたりしながらもそれをサポートする騒がしい1味。……これは〝全員無事〟に、連れ帰ってやりたいねぃ。

 

 「楽しい1味だねぃ!大丈夫だ、砲弾程度なら、ある程度弾き返してやるよぃ」

 

 その後すぐに自滅を始めた軍艦を見ながら、それでも巻き込まれては堪らないと羽根を出現させる。それに驚く面々に、俺は笑いかけた。

 

 「近くの船を少し沈めて来るよぃ」

 

 俺が飛び立つのと同時にナミの声が聞こえる。指揮官様は、絶好調なフリをしていた。

 戦女神を思わせる空気を纏い、ナミは怪我をしている事を悟らせないような動きをする。それはある意味で尊敬に値するが、褒めてやる気にはなれねェ。

 

 「お黙りっ!あんた達!!私達が乗ったメリー号に、越えられなかった海はないっ!!」

 「うおー!そうだ!!頼むぞ航海士!!」

 「海の軌道が読めるまで耐えて!!」

 「「「任せろ!!」」」

 

 きっと彼等は知らない。この場にナミが居なければ、俺もまた居ないという事を。

 そして、この場で彼等の冒険が強制的に終わらされていたであろう事を。だが、運命はナミと言う存在を産み、育てた。

 ならば俺はその行く末を見守りたい。そう願いながら俺は数隻沈めてからナミの元へと戻った。

 

 「こっちはどうだい?」

 「順調よ!いいタイミングで帰って来てくれたわ!」

船は動き出す。安全に、真っ直ぐに。

 それは、ナミの航海士としての腕の良さを示している。ふと、この船には〝天才〟しか居ないのよと、微笑むナミを思い出す。

 その時ナミが、科学者だろう男に声をかけた。男は明確な指示もないのに、それに応えて動き出す。

 最後の最後まで戦ったナミは、危機を脱した瞬間に倒れる。それを受け止めそのまま船内へと運び込めば、何も無いその船に愕然としちまう。

 手持ちでやれるだけやるしかないねぃ。このままじゃ、間違いなく死ぬ。

 

 「治療してる間だけでも、少し寝てろぃ。よく、頑張ったな」

 

 俺がナミに声をかけている間に着いてきた船医が、真面目な顔で俺に〝指示を仰いだ〟事で、どうやら本当に将来有望らしいと分かる。そのまま二人でナミの治療を行い、やれるだけの事をした後は俺は甲板へと向かった。

 船が空を飛ぶなんて……中々にない事だろう。長年この海で海賊やってるが、聞いた覚えはない。

 自然災害で吹き飛ばされたとかなら聞くが、自らの能力で空を飛ぶ船があるとは……普通思いもしない。なんとも飽きない1味だと思うが、さて……ナミは意識を取り戻せるだろうか。

 少し表にいるだけで遊ぼうとでも言うのか、絡まる視線に苦笑して軽く手を上げて船内へと戻る。遊んでやるつもりは無いので、ナミの回復に期待を込めて暫く焔で癒していようと手を翳す。

 その後どれくらいの時間そうしていたのか、体温や呼吸、脈拍が安定したのが分かり俺は今度こそ空気を吸いに甲板へと戻った。今度は、意識を取り戻せると言う確信を持って。

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