※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編side)   作:夢枕 七変化

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運命を変える為に

 鷹の目からベックに引き渡され、叱られた俺は少しいじけた気分でいた。だが、そこに入って来た連絡で空気が変わる。

 電伝虫の向こうでロックスターは悔しそうに言葉を紬ぎ報告をして来る。それを聞いて思うのは、お前自分が白髭と対等だと思ってるのかよって事だ。

 渇いた笑いが込み上げたのも、仕方ないだろう。俺には大切な仲間だが、だからこそこのままには出来ないかもな。

 

 「……ハハハ……!変わらねェなあのオヤジも……ハハハ……」

 「〝笑い事じゃあ……!〟」

 「こうなるだろうとは……まァ、思ったが」

 「〝お頭!!もう少し時間をくれ!!俺はこんな屈辱を受けたのは初めてだ!!〟」

 

 まだまだ、この海を知らねェな。白髭だからこそ、会って話を聞いて貰えた。

 他ならば会う事もして貰えずに、殺されていただろう。まァ、殺されないだろうと分かっていたから、行ってもらったんだがな。

 あわよくば、こちらの提案を受け入れて貰えるだろうかと期待した部分も確かにある。さて、宥めないといくら白髭でも怒らせちまうな。

 

 「おいおい、何する気だ。やめときな。ご苦労さん。お前は真っ直ぐ帰って来い」

 「〝だ……だけどこれじゃ俺の面子ってもんが……〟」

 

 面子か。白髭相手に話を聞いて貰えて尚〝屈辱〟と億に満たない懸賞金の奴が言うのか……。

 懸賞金は強さの証じゃねェ。政府にとっての重要度を示しているだけだ。

 それでも最低でも億は超えなきゃこの新世界では、話にもならねェのは誰もが知ってると思っていたが……このお使いは社会勉強になりゃしなかったか。こりゃ少し、ヤソップ辺りに教育して貰うべきかもな。

 

 「面子より、お前の命の方が大事だ。もうお前じゃどうにもならねェ。手間掛けさせたな」

 

 電伝虫を切ると、ルーが問い掛けてきた。それに俺が軽い調子で応えると歓声が上がる。

 コイツらは本当に祭り好きだな。そう思いながらも歩き出した俺は、先程叱られていた巫山戯ている俺ではもう居られねェと分かっている。

 遊んでいる暇はねェな。今回のコレを放置すりゃ、この時代が暴走する。

 エースは若い芽だ。摘み取るには惜しいと思わされるような、良い若木になるだろうと分かる芽だ。

 ルフィの兄であり、ナミの幼馴染……。喪えば、ルフィは乗り越えられるだろうが……いや、乗り越えられなければ登る事はできねェだろう。

 この世界に限らず、王になるにはそれくらい乗り越える必要がある。……経験せずに済むならば、その方が良いだろうがな。

 だが……ナミには無理だ。優しいを超えて甘い。

 賢いのに愚かな子猫は、別れに弱過ぎる。耐えきれず、心を壊してしまうだろう。

 心の1部を破損したまま、無理に笑い、そして小さな衝撃1つで砕け散るだろう。……それは、避けたい。

 白髭との接触を拒む為に集められた海軍艦隊は思ったよりは数が少なく、俺はそれを見てベックに1言呟く。恐らくはそれだけで、即座に藻屑に変えてくれるだろうと信じられる。

 

 「エースはナミの〝弟〟で、ルフィの〝兄〟だ」

 「わかった」

 

 それから小1時間後、艦隊は全てが海に沈んだ。生存者は居るだろうが、今は助けてやる事も、気にかけてやる事も、止めを刺してやる事もできねェ。

 船を最速で動かして進む先には世界の命運を変えられる力を有した、世界最強の〝頑固オヤジ〟が待っている。船を近付ければ白髭の所の若ェのが騒ぐが、なんだ……この妙な感じは。

 

 「……船長〝赤髪〟のみ乗船を許可する!」

 「ありがとよ。……悪いな、お前ら。ちょっくら、行ってくる」

 「戦争か!?」

 「いや、それはしねェ」

 

 通常ならば交渉が決裂すればそれ迄だ。だが、これは決裂すれば大惨事になる。

 脳裏でナミが俺を無邪気に呼ぶ姿があり、微かに緊張感が薄れる。お前を……泣けなくするのは、嫌だからな。

 酒を手に船に乗り込めば、道を開けて待っていてくれる白髭に相変わらず余裕だなと思わされる。……船長と同じ時代を生きて、今尚玉座につかずただ、その玉座の前でそれを託せる者を待つ男。

 

 「失礼。敵船につき……少々威嚇した」

 「てめェの顔ァ見ると〝あの野郎〟から受けた傷が疼きやがる」

 「療治の水を持参した。戦闘の意思はない。話し合いたい事があるんだ」

 「〝覇気〟をむき出しにして現れる男の言い草か、バカヤロウ……。グララララララ……!!」

 

 白髭は機嫌が良さそうで話し合いになりそうだと少しホッとする内心を抑えた時、4番隊のサッチが声を荒らげた。その姿は相変わらずだが……マルコの姿が見えねェな。

 白髭の傍からアイツが離れるなんてそうそうある事じゃねェが、どうしたってんだ。俺が来る事を知っていて離れるなんて、そんな事が有り得るのか。

 

 「おいおい、赤髪サンよ。何してくれてんだ。ウチの可愛い弟達が大変じゃねェか!」

 「4番隊のサッチだったな!マルコはどうした?」

 「散歩だ!」

 「空中散歩か!いいな、今度は俺も誘ってくれ!」

 

 ……何かあったか。いや、そうか……なら、俺が来たのは無意味だったかもな。

 恐らくはもう、エースを止める為に動いている。だがそれを言ってくれるかが、1つの分岐点だろう。

 白髭は大切な〝子供達〟を全員下げさせると俺と2人で思い出話を始める。船長の話が出来る相手は今や、随分と少なくなったとこんな時に痛感しちまう。

 

 「お前ェ程の男が〝東の海〟で左腕を使えなくして来たと聞いた時ァ……誰もが驚いたもんだ」

 「あんたに、そう言って貰えるとは思わなかった」

 「……今や、同格だろう」

 

 何処がだよ。白髭は、玉座に座っていないだけで、実質上の現在の〝海賊王〟だ。

 ラフテルに行けるのに行かず、ただ大切な者を守る事に終始している懐の広すぎる男だ。……船長の、好敵手だったと言うのがよく分かる。

 

 「ンな事より、どんな敵にくれてやったんだ。その左腕の力をよ」

 

 脳裏にルフィとナミが映る。海賊王になるのだと言うルフィと、何も失いたくないと血を吐くように足掻くナミ。

 それにより微かに笑みが浮かぶのは、俺も歳をとったという事だろうか。……白髭に比べりゃァ、まだまだヒヨコだろうがな。

 

 「……〝新しい時代〟に懸けて来た」

 「……悔いがねェなら、結構だ」

 「この腕は、本来ならば失われていた。それを、俺の女神が護ってくれたんだぜ」

 「あァ〝女神ちゃん〟か。お前の誘いを断り逃げ切った女か。……いい女か?」

 「……あァ、最高の女だ。その女神が運命を捻じ曲げ、護ってくれた腕だ。感謝こそすれ、後悔なんかある筈もねェ」

 

 それから少しの会話をして、交渉は決裂した。だが……成程な。

 白髭海賊団は赤髪海賊団に借りを作る事も何もしたくはねェと、そういう事か。マルコが動いているならば、俺も顔を出せばどうにかなり得るかもな。

 

 「……邪魔をしたな、白髭」

 「赤髪……ウチの息子達も、その女神に懸想してるようだぜ?」

 「達、だと?……って事はマルコもか。厄介だな」

 「ん?」

 「エースは昔からだ。だがナミはエースを弟としかみなさねェ。そういう意味じゃ、マルコの方が厄介だ」

 

 俺の言葉に白髭は笑う。船長と1人の女性を取り合っていた事でも、思い出しているのだろうか。

 

 「……エースじゃァ、若すぎるか?」

 「年齢的にはエースが1番釣り合うだろうが、な」

 

 白髭はそれに豪快に笑うと、いつか会ってみてェもんだと笑う。文字で知り、話を聞いてはいても会っては居ないと言うその言葉に、ナミは白髭とも繋がりがあるのかと溜息が落ちる。

 強い男ばかり引っ掛けやがって。だがまァ、それがナミだろうけどな。

 さて、行くか。運命を変える為に。

 ナミが昔そうしてくれたように、今度は俺が、運命を変えてやる。そう思い、俺は仲間達と共に偉大なる航路前半の海(パラダイス)へと船を進めた。

 噂を辿りアクアラグナの落ち着くのを待ってから島に入ろうとすれば、そこにルフィ達が居るらしいと分かりレッドフォースで行くのは無理だとの話になる。ルフィとの〝約束〟は、ルフィから〝会いに来る〟事だからと1つ手前の島に船を残して俺だけがウォーターセブンを目指した。

 どんな因果か、このタイミングで天夜叉からカジノ船への招待状が来ていて、その船もまたこのウォーターセブンに停泊しているらしい。エースを止めて、助ける事がこの世界の命運を変える。

 エースの足取りを街で追えば、マルコのいた痕跡を聞き、遅かったかと理解する。マルコが追い掛けて出たならば、もうここにエースはいねェな。

 ……天夜叉から情報を聞き出すか。どんな運命の巡り合わせかは知らねェが、そう難しい事でも無さそうな状態にあるからな。

 だが……カジノ自体にも天夜叉自体にも興味等ねェんだよな……。素直に吐いてくれるような相手でもねェ。

 それでも、ナミが泣かない未来の為には賭けに出るしか無いのも事実。その時、風に乗って僅かに香るそれに視線を向けた。

 なんと表現しても間違っているとしか思えないような、筆舌につくし難い美しい装いの、妖艶な色香を漂わせたナミが困った様子で立ち尽くしている。ふらりと身体が動き、気が付いた時にはその肩を叩いていた。

 驚き振り向いたナミは、何の衒いもなく俺に飛び付いてくるので、本気で俺の告白を忘れていると気付かされる。……もう、駄目そうだ。

 もう、俺には〝兄貴〟の顔は、出来そうにない。俺を〝男〟として見てくれと魂が叫ぶように、震えているのを感じながらナミをそっと抱き締める。

 柔らかな身体が、細く簡単に折れそうな身体が、俺に甘えるようにくっつく。蜜柑の香りが鼻腔を擽る。

 無邪気な子猫は、赤き龍にその爪を立てられている事に、気付きもせずに笑っていた。泣かせたくないと願う男が、その甘やかな笑顔を泣き顔に変えようとしているのだと、本人でさえ気付けない程に限界の時は近付いている。

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