波間の向こうを目指して(新・本編side) 作:夢枕 七変化
これだけ探して居ねェって事は、どちらかの部屋または、適当な男を誑し込んで居場所を確保したんだろう。そうなると、誑し込むのは最終手段だろうと考えればどちらかに捕まってる方が可能性は高いか。
助けに行くべきか、それとも……。ナミは俺の姿をもう、見たくもないだろうか。
ナミの事だ、俺の姿を見て、俺が謝罪すれば許しちゃくれるだろう。ナミが俺を許さないなんて事は有り得ないと、知っていて襲ったのだから。
どうしたってナミは俺に甘い。俺が
そうと分かってて、抱いたんだ。会った時怯えられる可能性に、泣かれる可能性に、俺が怯える権利はねェ。
信頼していた〝師匠〟であり〝兄〟から犯されたんだ。ナミの心は、相当傷付いている筈だ。
それでも尚、俺を許すと断言できちまう甘い女に、俺は……縋ろうとしている。酷い男だな、俺は……。
空になったグラスの中で、氷がカランと音をたてるのを聞きながら、次の酒を注文する。そんな俺にいつもなら適当に寄ってくるような女がここには居ない為、煩わしさが無いのだけが救いか。
それから暫くの時が過ぎて、鷹の目が姿を見せた。だとするならば、ナミは天夜叉と居るのか。
「……珍しい呑み方をしているな」
「たまにはな」
「貴様は、楽しく呑むのがモットーだ!とか、ほざいては居なかったか?」
「ほざくってお前……」
俺の言葉を無視して隣に腰掛けた鷹の目は、相変わらず甘ったるい酒を頼む。甘い物を好むからなのか、その見た目に合わせているのか、赤い酒を好む傾向があるように思う。
……さり気なく、いいワイン頼んでやがる。その後は特に変わった事も無く、会話はボソリ、ポツリと交わされる程度だった。
そんな時、俺はナミの気配を感じ取る。慌てて立ち上がった俺に鷹の目は視線だけ向けて、変わらない様子でグラスを傾けていた。
急いでナミの元へと向かえば、1つの部屋に入る所で、ドアの前の壁に寄り掛かりナミの様子を確認すれば中で泣いているのが分かった。……その涙は、震える体は……俺の責任か?
昔から、1人で体を抱えて震えながら泣くナミは、人が近付くとその震えと涙を隠しちまう。だからこそ、見聞色の覇気で泣いている姿を確認する事が卑怯だとも分かっている。
それから僅かな時間を経て、ナミはキリッとした顔でこちらに近付いてきた。この船では、女に部屋は与えられない筈なんだが、どうやって1人部屋なんて手にしたのか。
ドアを開けて、俺の姿を確認したナミは驚きをその表情に浮かべた後、困ったような表情になった。どうやら、俺の事を放置出来ないと判断したらしい。
「BARにでも行くか?」
「そうね」
廊下に居るのもと思い言葉を音にしたが、ナミも思う所があるのかそれに迷い無く応じてくれた。……流石にどちらかの部屋ってのは、無理があるだろうからな。
いつもより緩やかな足取りで歩き出したナミに、少し切なくなる。どうやら、体調が良くないらしい。
「ナミ、どうして逃げ出したんだ?」
「……当然の事を聞かないで。私は、見世物にされるなんて耐えられない!」
無言に耐えられなくて言葉を口にした俺に、ナミは珍しく本気の怒りを見せる。確かに、プライドの高いお前に、やっていい事じゃ無かったよな。
「悪かった」
謝罪と同時に手を伸ばしてナミの手を掴むと、反応が遅い。……俺が、ここ迄弱らせたのか。
そのまま腕に抱き込めば、明らかに細くなってやがる。……悪かった。
「シャンクス!?離して!」
「……俺が悪かったから、傍にいてくれ。な?」
何でもいいから、とりあえず食わせねェと。BARで果物の盛合せでも頼むか。
チーズは発酵食品だから、案外痩せさせちまうんだよな。そうなると果物の他に何か……ケーキとかか?
腕の中でナミが足掻く。離してと涙声で言うナミが、小刻みに震えていて……ここ迄傷付けていたかと漸く思い知る。
だが、その直後に俺に攻撃して来ようとしたのを感じれば無意識で壁に抑え込んでいた。潤んだ瞳で俺を見上げるナミに、理性が切れそうになる。
「ナミが突然消えて、慌てて探したのにナミの気配が無くてな。……寝てたんだろうが、見つからない事に本気で焦った」
「私はシャンクスにとって数多の女の1人でしょ。どうしてそんなに「数多の女の1人だ?巫山戯るな。俺は、ナミを愛している。お前は、換えの効く女じゃねェんだよ!」」
巫山戯るなよ、俺がどれだけナミにだけは我慢とかしてると思ってやがる!壊さねェように、精一杯大切にしてるってのに、その他の女と同じだと!?
だがナミもまた、怒りに震えつつ俺を睨み付けて、悲鳴のような声を迸らせた。それは、これ迄聞いた事も無いような、悲痛なもの。
「なら……!ならどうして私を見世物にしたのよ!?シャンクスがしたのは、間違いなく強姦で、甘えていた私も悪いけど、だからってあんな辱めを受ける謂れはないわ!」
名を呼ぶ他、俺に何が出来るだろう。直後にナミのその表情が変わって行く。
怒りから、悲しみに。怒りで隠されていた、ナミの本当の感情は、嘆きだったのか。
「なのにっ!それなのに、私はシャンクスを嫌えないのよ……!」
涙を零すナミは、そのまま砕けちまいそうで……俺の胸を叩くナミの拳が、震えている。そんな状態でも崩れ落ちないナミの気高さ。
そっと、その涙を拭う為に唇を寄せる。もう、泣かないでくれ。
俺が悪かった。もう、見世物にはしねェから……。
「シャンクス……」
名を呼ばれて、そのまま部屋に連れて行こうとコートを広げた時、迫って来る拳に多少驚く。来るなら、斬撃だと思っていたから。
それに、これは避けたら不味いやつだと分かるので受けたら、そのまま吹き飛ばされた。これで覇気を纏って防御したら、怒りを煽りそうで素直に受けたが、地味に痛ェ。
「赤髪がそのような事をするとは考えもしなかった己に腹が立つ。赤髪貴様……何が、ナミを傷付ける事は出来ぬだ!貴様に、この気高き娘を辱めれば、心に深い傷が出来ると分からぬとは言わせぬ!」
「鷹の目、お前……いきなり殴るか?」
「斬られなかっただけマシと思え。……話をするのならば俺の部屋に来い。仲介をしてやろう」
お前もナミを犯しただろうがと思うが、状況が違うもんな。鷹の目は、まだナミが誰のものでもない時に犯してるんだから。
鷹の目に抱き上げられて、あわあわしているナミは、少し幼い。……そうか、なんだかんだと言いながら、少しずつその心を開かせてたのか鷹の目は。
中々言えなさそうな甘い言葉をサラリと言う鷹の目に、お前凄ェなと思いつつ後に続く。流石のナミもそれには赤面して混乱しているから、俺もあの勢いで攻めるべきかと少し考えさせられる。
「それにしても、ナミは痩せ過ぎだ。少し食べる量を増やせ」
その意見には同意する。何かあると、すぐに食うの辞める癖を直してくれ。
鷹の目がこうして俺を招待してくれるのは、俺がその拳を受け入れたからだろうな。そういう意味では、鷹の目も優しい。
「ウチのコックは美味しい物を作ってくれてるから、食べ過ぎなくらい食べてるけど……?間食も多いし……」
「そりゃナミは脳を使いまくってるから、動かなくてもエネルギー消費半端ねェって事を自覚してないのが悪ィ」
俺の言葉にキョトンとした顔を向けて来て、俺の立ち位置が元に戻りそうで戻れずに居るのだと分かる。やはり、お前は俺を許しちまうんだな。
「頭使うのもエネルギー消費するんだぜ?」
俺の言葉に少し考える様子を見せるナミは、頭を使ってるのに珍しく幼い顔をしてる。いつもは何か考えてる時は、綺麗なのに、今は可愛い。
鷹の目の部屋でソファに二人並んで腰を下ろすのを眺めて、鷹の目に促されるままに俺も向かいに腰を下ろした。それからナミが唇を動かす。
「どうして……」
「天夜叉の船だから、牽制を兼ねていたのも勿論だが……見せびらかしたかったんだ。ナミは俺の腕に居るってな」
「牽制?」
「この船の従業員は天夜叉の息が掛かっているからな。確実に伝わるだろうと思った。だが……やり過ぎたな。悪かった」
俺の謝罪を受けて、ナミの心が揺れているのが手に取るように分かる。甘いナミは、許しちゃいけないと分かっていて、許そうとする自分と戦ってんだろうな。
そう思っていたら、凛とした表情になったナミが言い切る。孤高の存在を思わせるそれは、何処か鷹の目と似通って見える程だ。
「シャンクス……もう、2度としないで。私は、海賊の女だから弱ければ奪われるのだと覚悟出来てるけど、あんな辱めを受けるなら、次は、舌噛んでやるわ」
「ナミ……!?」
「私はっ!本当はルフィにしか触れられたくない。でも、海賊である以上、捕まり勝てなければ女である私がそう言う扱いを受けるのは理解しているわ。それについては、ルフィも同じ考えよ」
その瞳を見れば嘘はないと分かる。……犯した事じゃ無くて、他人にそれを見せた事が問題か。
震える体は本当に触れられたくないのだと告げていて、だが、だからこそ〝女海賊〟として負けた場合の事についても本気で覚悟はあるのだろう。……売られたりしたら、迷い無く命を断つだろうとその瞳を見れば分かる。
「それでも、私は……屈辱には耐えられても辱めには耐えられない。私の全てはルフィのものだから、勝手に死ぬなんて許されないと分かってるけど、それでも……次があれば私は迷わず死を選ぶわ」
凛とした空気を纏い、気高さを見せ付けるように言い切る。俺が女神と呼ばなくても、いつかは自然とそう呼ばれるようになっただろうと思わされる程に、尊い。
本当に、ナミはいい女だよ。変なところだけ、海賊らしくなっちまって。
だが……死ぬ事は許さねェし、屈辱になら耐えると言い切るそれは、耐えた事のある人間の台詞だ。ナミお前、どうしてその時俺に助けを求めなかった?
その時ナミがクリマタクトを握り締めた。それについ、笑っちまう。
俺の与えた武器で、俺に挑むのか。俺の与えた戦闘力でしかないのに、勝てると思うのか。
言葉にしないその問い掛けに反応して、瞳を揺らす甘さ。俺に、ナミは、逆らえねェ。
その後ナミのクリマタクトを鷹の目が弾き飛ばし、クリマタクトについての質問を受ける。そうしていたらナミが女神ちゃんについて怒り出して、拳に覇気を纏い殴りかかって来た。
それを受けつつ好きに攻撃させれば、殴ってる筈のナミが痛そうにその表情を歪める。そのままナミが泣きだしそうな顔になれば、俺も酷い奴だよなと思う。
その合間にも会話を繰り返し、いくつかの答え合わせのような事を繰り返す。そして、ナミが呟くように声を震わせた。
「シャンクスは、狡い」
「……大人だからな」
「分かってるのに、嫌えないのよ」
「そうだな。ナミは俺が〝ガキ〟なのも〝大人〟なのも〝海賊〟なのもすべて分かっていて……その上で慕ってくれている」
その瞬間、鷹の目がナミを奪い去る。俺の傍に居させては、食われると気付いたか。
俺は言葉を重ねる。ナミから俺はもう、逃げねェし、この先も機会があれば抱くだろう。
もう、俺はナミに対して我慢はしねェ。その心を壊すつもりはねェから、今はまだルフィに預けておくだけだ。
「ナミは、俺を昔から愛しているんだって事を、俺もまたちゃんと理解してる。……だから、泣かれたとしても許される事も分かっていてやった。卑怯だって罵られても当然だし、ナミは〝俺を嫌えない〟から俺はその分ナミのやる事はなんでも受け入れるつもりでいた」
俺の言葉に含まれるものを敏感に感じ取り、ナミは小首を傾げる。どうやら、疑問に思うので精一杯だったらしい。
可愛いもんだ。そう思う反面、嫉妬が胸の奥で渦巻いてる事を自覚する。
「だけどな、俺から逃げた後、ナミお前、天夜叉に抱かれたな」
俺の問い掛けにナミは顔を赤く染めて、怒りと羞恥を綯い交ぜにしたような顔を向けて来る。……そんなに、ルフィが好きで、俺には興味がないって……?
「シャンクスには、関係無いでしょ!?それについて責める権利があるのは、この世ではルフィだけよ!」
「俺より、天夜叉が良いのか?」
「ドフィは、私を保護してくれたの!シャンクスのそれで、私……まともに歩く事も出来なくなってたんだから!」
「「〝ドフィ?〟」」
聞き流せない単語に俺と鷹の目が同時に反応すると、ナミがビクリとその体を反応させた。……何をしたら、あのマイナスしかない所から愛称呼びに昇格出来んだよ、あの男。
そんな事を考えながら、俺はナミに近づく為に立ち上がった。ナミは鷹の目に顎を抑えられ、身動きは取れないだろう。