※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編side)   作:夢枕 七変化

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三人の男

 そっとナミに歩み寄れば、悪戯がバレた子供のような顔で、でも何処か怯えた小動物のような様子で俺を見上げてくる。その仕草や表情が、どれだけ男の劣情を刺激するのかこの馬鹿猫はわかってねェ。

 なのに俺からの質問に答えようともせずに、ナミは鷹の目から逃げようと足掻く。それが妙に可愛く思えて来た時、縋るように〝ルフィ〟と呟いた。

 それに硬直した俺の代わりに、鷹の目がナミの唇を奪う。鷹の目のそれが、衝動的なものだろうと同じ立場にいるからこそ分かる。

 男を刺激して煽る事に関して、ナミは天才的だなと心から思う。途中から鷹の目は楽しみ出した様子で、それに翻弄されるナミが妖艶で美しい。

 喘ぐナミに、魅せられる。他の男にと言うのが不愉快ではあるが、確かに見てるのも悪くは無いな。

 美しい物を観賞するのは、海賊の性か。美に関しての関心は女に関する所を除けば、薄いと言うか皆無な男が案外多いのだ。

 女はヤレるかどうかでしか見ないなんて野郎共も1定数いて、可愛いか美しいかなんてのは女にしか求めないって奴が本当に多い。上司に能力的に憧れる事はあっても、容姿なんてそもそも気にしてねェのが大多数だ。

 だが、その容姿のいい男がモテるとそれはやっかむんだから面倒だが。そんな事を考えていたらナミが鷹の目に怒りを爆発させ、それを鷹の目が挑発していた。

 その時ナミの纏う空気が変わった。これはと思った直後、感情を削ぎ落としたナミが現れた。

 この状態になったナミは、強いんだよな。案外、厄介で困るレベルで。

 鷹の目から距離をとって見せたその技術に舌を巻く。そこまで実力付けてやがったか。

 

 「私を〝買いたい〟の?……安くは無いわよ」

 「「ナミ」」

 

 冷たく、妖艶に微笑んだナミに俺と鷹の目の声が重なる。この顔は、敵に向けるものだと即座に気付いたのも大きいが、実際に敵認識されている現実に胸が痛む。

 諦めたようなその瞳に、自分の肉体をどうすればその魅力を強く表現できるか分かっていてやる計算された動きをして来る。ガキの頃からそうだった、ナミはその矜恃を傷付けられた時こんな対応をするんだ。

 その瞳が1度閉ざされ、再び開かれた時にはこの状態になっていた。ずっとこんな対応して欲しいのかと、高圧的に睨まれちまう。

 それはもう、兄でも師匠でもなく、ただの敵としてみなしていいのかと問う行為。ナミが、俺の敵に……?

 甘やかな微笑みも、信頼に満ちた笑顔も、楽しそうに歌う姿も全て隠されるのだと……抜き身の日本刀を思わせる危うい美しさを纏い問われたそれに、俺は呼吸さえ出来なくなる。そんな俺の横で鷹の目が笑いだした。

 

 「ナミ、良い女だな。今はもう、無体な真似はすまい」

 

 本気で気に入ったと小さく付け加えられた鷹の目のそれに、お前どれだけ危険な男を本気にさせてんだよと微かに震える心と身体を抑え込む。その為に声が俺からも零れるが、何も分かっていないナミは、少しだけその緊張を緩和して、ただ怒りの色を見せて来る。

 

 「ナミ……お前……」

 「最低でも1回につき億は支払って。今のキスだって本当なら有料よ。……シャンクスから庇ってくれてたから、今回は請求しないけど、もう触ろうとしないで」

 「成程」

 

 ナミからの請求に対して鷹の目は鷹揚に頷くと、懐から取り出した宝石を投げ渡す。ナミの触れるなと言うその言葉を受けて、ならばと条件を満たして触れる事にしたらしい。

 その神経凄ェと思うぞ、俺は。宝石を即座に鑑定して、ナミは諦めたように溜息を落とすとそのまま強気に鷹の目と会話を始めるが、その会話が不穏な空気になってくれば口くらい挟む。

 

 「あまりナミを虐めるな」

 「五月蝿い。貴様は……いや、もう虐めぬから、さっさと出て行け」

 

 そんな俺に鷹の目は心底迷惑そうに眉根を寄せた。それから面倒そうに、俺を追い出しにかかる。

 それに対して俺が素直に応じる訳も無く抵抗する。だが、実は純粋な腕力では鷹の目の方が僅かに上なもんで殺し合うつもりでもない今は、鷹の目に勝つ事ができずに部屋から締め出されちまう。

 その後ナミも出て来るかと思ったが出る気配が無い為、仕方無くその場を後にする。いい加減俺も少しは寝とかねェと、この先持たねェか。

 軽く飯と酒を済ませて宛てがわれた部屋で転がれば、ベッドからナミの匂いがする。それなのにシーツ等が変えられた後だと気付けば当然違和感となり身体を起こした。

 その時になって、ベッドからではなく自分からするのだと気付く。微かに動く度に香るそれに、なんで今ここにナミがいねェのかと思っちまうんだから、重症だろう。

 強気に笑うその仮面の下には、不安に震える少女が隠れているのだと知っていると言うのに。どうして俺は、いつも間違えてばかりなんだろうな……。

 目が覚めて愕然とした。寝ると言っても敵船だからと警戒していた筈が、しっかり惰眠を貪っていたのだから俺も大したもんだよな。

 この匂いが悪いと、自分に纏わり離れない蜜柑の甘やかな香りに嘆息する。勿論本気では無いが、責任転嫁をしたくもなるだろう。

 匂いの元は今どうしているかと部屋を出れば、足は自然と鷹の目の部屋へと向かう。外から見聞色の覇気で様子を伺えば、1人で眠っている様子のナミに無防備だなと微かな笑みが浮かぶ。

 その時その部屋に堂々と入って行く天夜叉を見掛けて、それに便乗する形で部屋に入ればナミはすぐに見付かった。少し身体を丸めて寝ているナミが見えて自然と口元が緩む。

 猫がそうするように、ナミは1人で寝ている時身を丸くして居る事が多い。体を丸めるのは、自らを守ろうとする防衛本能が為せる行為だとか聞いた事があるのを思い出す。

 

 「……赤髪か」

 「あァ……。天夜叉は何故ナミに執着してんだ?」

 「ナミは、俺の〝家族〟だ。……赤髪にとって〝女神〟である事が変わらねェのと同じように、俺のそれも変わらねェ」

 「……家族?」

 

 どういう事だと問い掛けようとした所で背後でドアが開かれて、鷹の目が帰って来た。手には果物があり、明らかにナミの為だと分かる。

 ……本当にナミは、厄介なのにばかり好かれるな。他に誰を何処で引っ掛けてるかと考えたら、頭痛がするのも仕方ねェだろう。

 

 「赤髪、天夜叉、何故ここに居る」

 「フッフッフッ!ここは、俺の船だぜ?」

 「俺の船室の筈だ。去ね」

 

 笑う天夜叉と、不機嫌さを隠そうともしない鷹の目が睨み合う。それから視線を外してナミを眺めながら、天夜叉から話を聞きそびれた事を知る。

 仕方の無い事だと分かっていても、溺れ過ぎる勢いで愛する〝家族〟と言う存在。それに自分が〝含まれる〟と宣言した男の神経が分からねェ。

 恋人はルフィで、婚姻はまだ誰ともしていない筈だ。なら天夜叉のその言葉はどんな意味を持つのか。

 

 「まァ、いいか。ナミはどう転がっても、俺のものだからな」

 「「赤髪?」」

 「俺の〝クルー〟で〝弟子〟だ。そして、俺の〝女神〟でもある。その上俺はナミの〝泣き所〟だからな」

 「それを辱めた男が何を言うか。それならば俺の方がずっと、ナミをものにする権利を有している」

 「「あ!?」」

 

 鷹の目の言葉に俺と天夜叉の声が重なる。それを嘲笑うように口の端を上げた鷹の目は、ナミを見て言う。

 

 「何も知らぬ、無垢なナミの身体を開いたのは……俺だ。女は〝初めて〟の男を忘れられぬ生き物らしいな?」

 「……強姦じゃ悪い方で記憶に刻まれただけだろうが」

 

 俺の声が低くなれば、それに天夜叉が反応する。そして、まさかと呟けば鷹の目がフッと笑った。

 

 「貴様があの時引いてくれて、助かった。あの後、初めてを俺が奪った」

 「巫山戯るな!ナミは鷹の目の事を……!」

 

 そこ迄言って天夜叉は黙る。その様子に俺と鷹の目は睥睨する事となった。

 こいつ……何を知っていて、何を隠している?

 家族だと言い切ったその理由がそこにはあるのだろうか。だとするならば……その隠された部分を知りたいと唇を開いた時、ナミが僅かに身じろいだ。

 

 「「「ナミ」」」

 

 三人の男の声が重なる。それにナミは驚いたような顔で俺達を見てから、困ったような顔で笑う。

 

 「ハイハイハイ!何なのよ、どうして三人が揃ってるのよ?」

 

 その反応に、全員平等だと言われた気がして俺が特別じゃねェ事が気に入らず、少し唇を尖らせればナミが小さく吹き出した。母性の塊のようなその微笑みに、呼吸さえ止まりそうになる。

 女の顔では無く、母親の顔をして俺達を見たナミに、それでもそれに慣れているからか俺が最初に立ち直ると、唇を開いた。そうして三人がそれぞれ理由を話せば、呆れたとその顔と瞳が告げて来た。

 このメンバーにそんな顔や対応を出来る奴は、世界広しといえど、ナミ位なものだろう。誰か1人に対してならばまだしも、三人全員に対してなのだから。

 

 「顔は全員見たわね。私はこれから部屋に帰って寝るから、邪魔しないで」

 「ナミは1人だと寝れねェだろ」

 

 素直に思った事を、真実を口にすれば、鷹の目が笑った。そして、俺と天夜叉に出て行けと言うから、またしてもナミに対する正当性をそれぞれが主張する事となる。

 そんな状態にナミは心底嫌そうな顔をして、スっと立ち上がる。その姿は凛として美しく、あァ……いい女だなと思って見詰めていた。

 だが、そのまま姿を消されては追い掛けない選択肢は無い。それは三人共同じなのか、同時に動き出す事となる。

 その間小声で互いを牽制しあい、どうにか自分だけがナミと過ごそうと試みるのだから何とも言えない気分になる。ナミの居るだろう部屋の前で様子を伺えば、どうやら呑気に風呂に入ってるらしく、あの猫は本当に風呂が好きだなと思わされて、自然と笑みが浮かぶ。

 通常猫は毛が濡れると死活問題である為に、濡れる事を極端に嫌う。犬とは違いその水分を弾き飛ばす事が出来ないからだ。

 ……あァ、だから髪を拭くのが下手なのだろうか。洗うのが好きなのは、毛繕いの代わりだと思えば納得も出来る。

 その後ドレス姿で顔を見せたナミが、そっとドアを閉めて中に戻ったのを見ればいつの間にか牽制し合うのも忘れ、三人同時に吹き出した。ナミは本当に変な女だよ。

 四皇だの七武海だのと呼ばれるお頭達を捕まえて、こんな簡単に絆ちまう。それなのに、手玉にとってる自覚も何も無いのが分かる。

 ……愛しいと素直に思えた時、天夜叉がナミに用意したという料理人が中に入り、少しすると出て来た。それを天夜叉が呼び止める。

 

 「中の様子は」

 「食材だけご所望でしたので、お渡しして参りました。……食材を楽しそうに見て居られました」

 「そうか。下がれ」

 「御意」

 

 その会話から、どうやらナミは今から何か作るらしいと分かり、俺達は同時に部屋の中へと入って行った。それに不愉快そうな顔をして見せるナミは、けれども手に鍋だのお玉だのを持っていては全てが台無しだ。

 

 「こら、ここは私の部屋よ?」

 「俺の船だ」

 「俺のクルーだ」

 「俺の想い人だ」

 「……ちょっと全員黙ろうか」

 

 こんな些細なやり取りが楽しいなんてな。仲間でもない、いや……敵でさえある筈の男達に思う事になるとは。

 ナミが共に居ると、世界が途端に優しくなる。ナミの見えている世界は、いつもこれ程に暖かいのだろうか。

 まるで、ナミの優しさが波紋のように広がっているような空間で、口先だけの喧嘩をしながら内心で楽しむ自分を感じていた。その僅かな時の後に、ナミから〝大人しくしてなさい!〟と叱られるとは考えもせずに。

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