四月下旬。小テストの日がやってきた。
原作ではここから平和な日常が崩壊し始める。
小テストは主要五科目の問題がまとめて載ったものだ。
転生前は高校二年生だった俺は余裕で六割は解答できていた。
「小テスト難しかったね~」
授業が終わるとすぐに佐藤がやってきた。
「そうか? 俺は60点以上は取れたと思うぞ」
「マジ? 中川くんって頭もいいんだっ」
「まぁな」
なにせ高校一年生は二回目だからね。
普段勉強もしていないのに60点も取れたんだ。テスト勉強をすれば80点以上は取れるだろう。
(中間テストは過去問があるから余裕だな)
勉強はあまり得意じゃないが進級しても退学にならない程度の成績は残せるだろう。
「そういえば南雲先輩って練習に来たの?」
「昨日来たよ」
「……どうだった?」
「楽勝」
昨日。南雲先輩は宣言通り、サッカー部の練習にやってきた。
全体練習が終わると、南雲先輩が俺に近づいてきて勝負を申し込んできた。
もちろん俺は承諾し、3点先取の1on1で勝負することになった。
結果は3対0で俺の圧勝に終わった。
確かに南雲先輩は俺以外のサッカー部員の誰よりもセンスはあったが、たまにしか練習に参加しない人がプロの下部組織に5年所属していた俺にかなうわけがないのだ。
「すごーいっ! やっぱ中川くんってサッカー上手いんだねっ!」
もっと褒めてくれ佐藤。
南雲先輩をボコボコにしちゃったから、部長たちは俺を褒めてくれなかったんだ……。
「……ちなみに何か言われなかった?」
「練習不足だから負けたとか、負け惜しみを言ってたぞ」
「ぷぷっ。だっさーいっ!」
俺と佐藤は南雲先輩をネタに10分以上雑談を続けた。
やっぱり人の悪口って盛り上がるよね。
その日以降。南雲先輩は1年D組から負け惜しみ先輩と呼ばれるようになった。
☆☆☆
昼休み。食堂の自動券売機に平田と並んでいると、一之瀬軍団がすぐ後ろに並んできた。
「お、中川に平田じゃん!」
一之瀬軍団の一員であり、サッカー部の仲間である柴田が元気に声を掛けてきた。
「おっす」
「やあ、柴田くん」
「お前らも学食か」
アスリートなんだから学食しか選択肢はないだろう。
自分で弁当作るなんて無理だし。
「柴田くん、お友達?」
一之瀬が俺と平田を一瞥して柴田に訊ねる。
「ああ。同じサッカー部なんだ。くせ毛が中川で、ストレートが平田だ」
なんだその紹介の仕方は。
一之瀬なんだからもっとカッコよく俺を紹介しやがれください。
「私はBクラスの一之瀬帆波です。よろしくねっ」
一之瀬は眩しいくらいの笑みを浮かべながら自己紹介をしてきた。
「Dクラスの平田洋介です。よろしくね」
「同じくDクラスの中川悠太。よろしく」
「え? 君が中川くんなんだ?」
一之瀬は俺のことを知っているようだ。
どうやら南雲先輩をボコったのがみんなに知れ渡ってるらしい。
「俺のこと知ってるの?」
「うん。佐藤さんの彼氏さんだよね?」
違った意味で知られてた……。
しかも俺佐藤の彼氏じゃないし。
「いや、違うんだけど……」
「え、そうなの? でもみんな言ってたよ?」
「みんな?」
「うん。中川くんと佐藤さんは入学早々付き合いだしたって」
まさか一之瀬までその噂が広まっていたとは。
ここは否定しておかねばならない。
「佐藤とは仲が良いだけで付き合ってないんだ」
「そ、そうなんだ。……なんかごめんね……」
「いや、大丈夫だから」
「そっかそっか。やっぱりこういうのって本人に聞かないと駄目だね」
一之瀬は「やっぱり噂は簡単に信じちゃいけないよね」と一人で納得していた。
結局、俺たちは連絡先を交換することなく、食券を手にその場を後にした。
「一之瀬さんとなに話してたの?」
テーブルに着くとすぐに佐藤が訊いてきた。
「柴田を通して簡単に自己紹介をしてたんだよ。なあ平田?」
「うん」
「……ふぅん、そっか」
以前、佐藤と買い物中に一之瀬に見惚れていたことがあるので、佐藤が疑いの目を向けてくるのはわかる。
平田がいなかったら問い詰められていただろう。
「あと、俺と佐藤が付き合ってるって誤解してた」
「うぇっ……!?」
「結構噂になってるみたいだな」
「そ、そうなんだ……っ! あっつ……!」
「佐藤さん、落ち着いて」
動揺してスープをこぼす佐藤に呆れる松下。
松下は佐藤のお姉さん的ポジションを確立している。
「中川くん、これ水に濡らしてきてくれる?」
「……わかった」
松下にハンカチを手渡され、素直に指示に従う俺であった。
☆☆☆
月曜日の放課後。今日はサッカー部の練習がないので佐藤とケヤキモールに行く約束をしている。
「中川くん、行こっ!」
「ああ」
6時間目の授業が終了すると佐藤はすぐに俺の手を掴んで誘う。
「今日はゲーセンでプリクラを―――きゃっ!」
佐藤が椅子にぶつかり唐突にバランスを崩した。
手を掴まれていた俺も当然巻き込まれ、周囲の椅子や机を巻き込んで転倒する。
佐藤を庇おうとした俺は痛みを覚悟してぎゅっと目をつむると、顔面の触覚を温かくて柔らかい何かが覆いつくした。
「ひゃうっ!?」
頭上から甘い悲鳴が聞こえてきた。
なんだと思い身をよじるが、視界は布みたいなものに覆われてよくわからない。
「ちょっ、中川くんっ! やめっ、あうっ!」
「ぷはっ」
ようやくそれから抜け出した俺の眼前には黒いパンツと滑らかな太もも。
「あ、あれ……?」
「こ、こんなところで駄目だよ……♡」
ようやく俺は状況を理解した。
佐藤のスカートの中に顔を突っ込んでいたのだ。俺の顔面を覆っていたのは佐藤の真っ白な太ももと、それから黒いパンツに覆われたぷにぷにとした盛り上がりだった。
「ご、ごめんなさいっ!」
佐藤から飛びのいて謝る。
佐藤は教室で股ぐらに顔を突っ込まれた羞恥のせいで、顔が真っ赤になっていた。
「う、ううん。今のは私が悪いから……」
「でも……」
「中川くんが謝る必要ないよ……?」
「そ、そっか……」
「うん」
佐藤がまともな性格でよかった。
これが堀北や伊吹だったら鉄拳制裁間違いなしだっただろう。
「あんたたち、なにやってんの?」
気づくと松下が白い目で俺たちを見下ろしていた。
「中川、教室で盛ってんじゃねーよ!」
「お前は結城リト二世か!」
男子たちは羨望と殺意の視線を送りながら罵倒している。
俺と佐藤はいたたまれなくなり、慌てて教室を後にした。
☆☆☆
時刻は18時半。放課後デートを終えた俺たちは通学路にあるベンチで一休みしていた。
「今日は遊んだねっ」
「そうだな」
今日はゲーセンでゲームをしたり、プリクラを撮ったり、UFOキャッチャーでぬいぐるみをゲットしたり高校生らしいデートを満喫した。
「中川くんは楽しかった?」
「楽しかったけど……なんでそんなこと訊くの?」
「なんか、いつもよりぎこちなかったっていうか……」
佐藤のあそこの感触が何度も甦ってしまい、彼女の顔をまともに見られない時間が時折あったが、楽しかったのは嘘ではない。
「あー、それは教室でのハプニングを思い出してて……」
「あっ」
佐藤も思い出したのだろう。不安げな表情が一気に羞恥の表情に変化した。
「ご、ごめんね……」
「佐藤が謝る必要ないから。むしろ俺が感謝するくらいだから」
「え……?」
しまった。つい本音を言ってしまった。
「あ、いや……今のは……」
やばい。爽やかサッカー少年を装っていたのに、池や山内と同類に思われてしまう。
「それって……私と異性として意識してくれてるってこと……?」
「っ……」
この時の佐藤は、俺の心をかき乱すような美しさがあった。
そして初めて佐藤って一番可愛いんじゃないかと思った瞬間だった。
「……そ、そうです……」
たどたどしくも何とか答えることができた。
佐藤は俺の答えを聞くと、一気に距離を縮めてきた。
「わ、私っ……!」
そして、何かを決心したかのような、佐藤の強い視線を俺を捉えた。
「中川くんのことが好きです! 私と付き合ってください!」
「はい、お願いします」
人生で初めて受ける告白を秒で答えてしまった。
でも仕方ない。
それだけ俺は佐藤に心を奪われていたのだ。
「えっ、いいのっ……!?」
「……うん」
「……嬉しいっ!」
感情が爆発した佐藤が抱き着いてきた。
佐藤は俺の胸に頬を寄せ、心臓の上に耳を密着させる。
(こ、ここは抱きしめてもいいんだよな……?)
恐る恐る彼女の背中に腕を回し、誰も見ていないことを確認して抱きしめた。
「んっ」
初めて抱きしめた女の子の身体は柔らかくて、いい匂いがして、温かいものだった。
転生して約一ヶ月。
生まれて初めて彼女ができた。
☆☆☆
「えっと、俺たちは恋人になったわけなんだけど」
「うん」
佐藤の告白から30分後。
お互いに初めての男女交際ということもあり、俺の部屋で作戦会議をすることになった。
「とりあえず名前呼びにするか?」
「そ、そうだねっ」
恋人同士で名字呼びはおかしいと思うので、とりあえずお互い下の名前で呼ぶことにした。
「それじゃ佐藤からどうぞ」
「え、私っ……!?」
「レディーファーストだよ」
「それは意味が違うんじゃ……」
「頼む」
「うっ……。そんな顔されたら断れないよぉ……」
そうか。佐藤は真剣な顔つきに弱いのか。
これからお願い事をするときはこの顔つきをすればいいんだな。
「そ、それじゃ……。ゆ、悠太くん……」
「はい」
「うわっ、やっぱ恥ずかしいかもっ!」
佐藤が純情すぎる。
本当に谷間をアピールしてきた佐藤と同一人物だろうか。
「つ、次は悠太くんだよ……?」
「ああ。えっと……麻耶」
「……はい」
俺は意外とすんなり呼ぶことができた。
呼ばれた佐藤は顔が湯でタコ状態になってるけど。
「麻耶、これからよろしくね」
「お、お願いします……」
「それじゃ次はクラスメイトに報告するかどうかだな」
「切り替え速いよっ!?」
これからセックスとかセックスとかもっと恥ずかしいことをしていくんだ。名前呼びくらいでいつまでも恥ずかしがっていられない。
「俺は聞かれたら答えればいいと思うんだけど」
「えっと、女子の友達には私から言うつもり」
「そうなの?」
「うん。……駄目かな?」
不安げな瞳で見つめてくる。
「駄目じゃないけど、女子ってそういうもんなの?」
「それもあるけど」
「あるけど?」
「ゆ、悠太くんが私の彼氏だって早く自慢したくて……」
照れるからそういうのやめて。
こっちまで顔を真っ赤になっちゃうから。
「……いい?」
「いいよ」
そんな顔でお願いされたら駄目って言えるわけないじゃん。
……あれ? 俺ってもしかしてチョロい……?
「や、やったっ。それじゃ早速ライ〇で報告するねっ」
「あ、ああ……」
さすが現役JK。文字を入力するスピードが半端ない。エムバペも驚くスピードである。
「あ、それと待ち受け用に二人で写真も撮ろうねっ」
「いいよ」
「それとそれと、ライ〇のIDも変えちゃおうかなっ」
「うん」
佐藤はしばらく友達に報告だったり、IDやメアドを俺とのカップル仕様に変えたり、忙しそうだった。
もしかしたら童貞を捨てられるかと思ったが、キスすることもなく佐藤は自室に帰っていった。
ラッキースケベを味方にした佐藤の完全勝利!