バスジャックを無事に解決し、唯一入院する怪我をした追ったアリアの見舞いにとコンビニで購入したももまんがたらふく入ったビニール袋を引っ提げて病室のドアをノックする。
『どうぞ』
「どうも。おろ!元気そうだな」
たかが額に傷を受けただけで一人部屋とは流石は武偵系列の病院。ランクSへの待遇がよろしいことで。
見舞いの品であるももまんしか入っていないビニール袋を手渡すと、すぐさま中を広げてももまんを食べ始めた。
ゴミ箱には数枚のプリントが束になったものが一つ。
「んだこれ。ああ、報告書か。武偵殺しの確たる証拠は見つからずか」
「あむ。ええ、武偵殺しは狡猾な奴よ。分かりやすい証拠なんて簡単には見つからないわ」
「……随分と不機嫌だな、眉間に皺がよってんぞ」
ここ、と俺が自分の眉間を指す。
噛み千切るように新しいももまんを食べ始めるアリア。どうも俺が来る前にキンジと言い合いをしたみたいだな。これは理子の計画であるキンジとアリアをパートナーにする作戦は上手くいきそうにないぞ。
「…キンジは、キンジはあたしが探してた人じゃなかった」
「シャーロックの曾孫さんは未だにパートナーを捜索中というわけですか」
「アンタ、知ってたの!?」
「情報は武器、が俺の心情でね。調べたさ、名前から武偵殺しを追っている理由もな」
「……そう」
「まあ、俺には関係ない話だ。好きにしてくれ」
座っていたパイプイスから立ち上がり、一人キンジとのことに悩むアリアを置いて俺は病室を出た。病院の外で出て、ポケットから取り出したスマホで理子宛にキンジとアリアがパートナーになってないことをメールにして送っておく、そうすれば自分で動くだろうからな。
「俺が手を貸してやれるのは此処までだ。あとは上手くやれよ」
ポケットにスマホをしまう。
俺に出来ることはもうない、数日後に決行される理子と夾竹桃の作戦を傍観するのみ。
アリアのお見舞いから帰り道。
昨日の大雨が嘘のような快晴。
青空には、忌々しいと思えるほどに太陽の光が注がれている。
目的地に向かう途中、ポケットの中でスマホが振動して電話がかかってきたことを知らせてくる。ポケットから取り出した画面には『教授』の二文字。
『やあ、仄くん。久しぶりだね』
「どうも」
珍しくかかってきた相手は『イ・ウー』のボス、シャーロック・ホームズ一世から電話だった。
「珍しいな、貴方から電話なんて。仕事ならメールとかなのに」
シャーロックと俺は組織のボスと構成員というだけでなく、依頼主と傭兵という関係でもある。イ・ウーの事を嗅ぎまわっている裏の組織の構成員とかを殺す仕事を受けることも多々ある。一人で生きていくには色々として金を稼がないといけないからな。
『峰くんの計画がそろそろ始まるだろ』
「ああ、明日くらいには空の上で決闘だろうさ」
バスジャックが終わり。次は最終決戦であるハイジャック。空の上で理子VSアリア&キンジの対決が行われる。
『君は分かっているんじゃないのかい、峰くんが二人に勝てないってことを』
「……勝てないだろうな。一年間隣でキンジを見てきたから分かる。HSSは発動と同時に常に成長を続ける。現状を打破する為に必要な情報を記憶から引っ張り出して絶対に自分と女を守る。理子じゃHSSのキンジとアリアを同時に相手にするには荷が重い」
シャーロックに言われなくても分かってる。それでも俺は理子の行動を止めなかった、きっと理子が理子として生きる為に必要なことなんだ。
それをプライドと呼ぶか、誇りと呼ぶか、矜持と呼ぶかは人それぞれ。他人から見ればくだらないと切り捨てるようなものかもしれない、けれど、それが無くては自分を自分と名乗れなくなる。表で普通に生きる人には恐らく分からない。裏で生きる人間にこそ色濃く持つ。
「大丈夫だろ、理子は負けてもちゃんと帰ってくる。アイツに戦う基礎を教えたのは俺だ、アイツの事ことはアンタより分かってる」
『そうかい、君がそう言うなら大丈夫なんだろう。僕にも女心だけは推理出来ないからね』
「アンタのそういう所はキンジにそっくりだ。周りからの好意を間違って受け取る癖に、行動に端々に女を堕とそうとする行動が混じってる、ほんと質が悪いよ」
シャーロックと話しながら道を進んでいると目的地の高級高層マンションに到着。
「悪いけどシャーロック、こっちも目的地に到着したんだ、電話を切るぞ」
『そうか、なら、また電話するよ』
通話が切れた通話の音だけが聞こえてくる。
スマホをポケットに入れ、高画質監視カメラやら熱源カメラやら普通のマンションには取り取り付けることのないカメラを抜けて自動ドアの前に立つ。
横にある部屋番号を入力する機械にマンションの最上階の階数とプレスチックのカバーの下にある指紋センサーに指をスキャン、そして暗証番号を入力してやっと自動ドアは開く。
最初こそ面倒だと思っていたが、慣れればそうでもない。
エレベーターのボタンを押して自動で上に昇っていくと、数分してスピーカーから最上階でございます、という音声が流れ、ドアが自動で左右に開く。エレベーターを降り、最上階の部屋に入る為に唯一の扉の前に立つ。鍵と指紋センサーのスキャンを済ませると扉のロックは解除され部屋に入ることが出来る状態となった。
この部屋は武偵としての装備以外にイ・ウーとしての装備と国から仕事を依頼された時に使う服や武器が保管してある。
普通のマンションに物騒なものを保管しておけるわけないが、このマンションは俺が偽の戸籍で建てた。つまり、俺の所有物ってわけだ、マンションに住居者が増えればその分だけ金が入る。
そのうちこっちに暮らすようにして学生寮を引き払うつもりだ。なにぶん、学生寮だとセックスするのに声や匂いを気にしないといけないから。こっちだと防音になっていて響く心配は無いし、玩具も沢山置いてある。
靴を脱いで廊下を進んでいくと一室から微かに声が漏れてくる。
「流石は仄だ、色んな服が揃えてあるな」
足音と気配を消して更衣室の中を覗き込む。
中にはイ・ウーの構成員の一人ジャンヌ・ダルク三十世がいつもならポニーテールしている銀髪を解き白い下着を身に着けた下着姿で、俺が仕事に使ったりしている衣装の物色をしている。
ジャンヌは理子の影響で少女漫画やらコスプレやらに見事にハマった。
ただ彼女自身は高身長を気にして服を着ても誰かに見せようとはしないが、俺は理子と同じくらいに衣装を持っていることを知っているジャンヌは偶に俺のところに来ては衣装の着用しにやってくる。
「ジャ~ンヌ」
「ッ!仄いつから!?」
下着姿である自分を隠さず、手に持っていた次の衣装を手で隠す。
「少し前から、かな」
ジリジリとジャンヌに歩み寄っていくと、逃げるかと思えばジャンヌは逃げる事はしない。そもそも、出入口が一つだけで小窓すらないこの部屋の逃げ道なんてない。
「いつもみたいに服を着ながらしたいのか?」
理子や夾竹桃同様にジャンヌとも肌を何度も重ねてきた。その度に衣装を変えて所謂、コスプレセックスをしてきた。
「したい、したいが…」
ちらちら、と衣装が掛かっているラックを見る。
ジャンヌは今回着てしたい衣装があるらしい。
「分かった。俺はシャワーを浴びてくるからその間に着替えてくれよ。いつもの部屋で待っててくれ」
熱いシャワーを浴びて四人が同時に寝ても十分な大きさのあるベッドが置かれて寝室に移動すると、既にそこには体操服にブルマに着替え、髪型を元に戻したジャンヌがベッドに腰を下ろしていた。
同い年だけど学生じゃないジャンヌがこんな姿なのは珍しい、ボストーク号の中では甲冑ばかり着ていたからな。
白人特有の白くて長い脚がブルマを履いていることでギリギリまで露出している。
腰にバスタオルを巻いたまま。ベッドに座るジャンヌに手を伸ばした。