オジサマ専科 恋は突然に スパコミで本出します、抜粋 作:木桜 春雨
東郷匡彦は、この日を迎えることができて正直、ほっとしていた、やっと大きな仕事が一段落したのだ、協力してくれた人たちへの心ばかりの感謝として集まりを催したのだ。
大がかりではない小さなパーティにするつもりだったのだ、ところが、しばらくしてマスコミからの取材申し込みがあったと秘書から聞かされたときは正直驚いたものだ。
招待客は殆ど男ばかり、だか中堅企業、大手企業部長、大学を辞めたとはいえ、マスコミからは社会学の権威と呼ばれる元、教授という顔ぶれなら無理もないかもしれない。
この日のために鎌倉のヴァンデミエールというフランス料理店に出張して来てもらっている。
殆どが顔見知りだか、中には初対面、同様本の数回しか言葉を交わした人間もいるので挨拶をする。
給仕する女性達は若くない、ベテランばかりを揃えているので多少の華やかさには欠けているかもしれないが、その分、気楽だ。
「遅れてすまん、東郷」
「来てくれたのか、刈谷」
当たり前だろうと声をかけてきたのはファッションデザイナーの刈谷敦だ。
「海外から戻って来たばかりだろう」
「三日前にな」
「ゆっくりしてくれ、酒も料理も好きなだけ食ってくれよ、遠慮せずに」
「勿論だ」
刈谷は、にやりと笑い、料理の並んだテーブルへと向かおうとしたときだ、和服の男性が近づいてきた。
「東郷君」
眼鏡をかけた紳士は窓の外へと視線を向けた。
「犬を飼い始めたんですか」
見て下さいという友人の言葉に窓に近づき、庭を見た東郷は驚いた。
この別荘は狭くはないので侵入されないよう庭には咲くがあるが、今日は来客の為に門は開けてある、多分そこから入ってきたのだろう。
東郷は窓を開けた。
「どうかしましたか、東郷社長」
声をかけてきたのは大手企業部長の斉藤剛士だ、窓が開くと犬は、ゆっくりと近づいてきた
じゃれついてくるわけでもない、東郷の前までくるとその周りをくるりと一周し、左脇につき座る姿を感心したように斉藤は犬を見た。
「迷いこんできたみたいなんだ」
「そうなんですか」
「どうかしたんですか」
二人の背後から声をかけてきたのは松谷雄彦だ、このとき、犬は立ち上がると歩き出した。
だが、立ち止まると首だけを三人の方へと向けた。
「あれっ、怪我してないですか」
松谷の言葉に東郷と斉藤は犬の足元を見た、全身がクリーム色の毛並みだが足下が白い、そして前足の部分が若干黒っぽい色になっている。
「マツ、一緒に来てくれ」
つい先ほどまで談笑していた、にこやかな笑顔はそこにはない、真剣な表情だ。
「何かあったんですか、東郷君」
部屋から出て行く二人の男性の姿に心配して声をかけてきたのは壬生だ。
海岸へ出た犬の後を斉藤と松谷は追いかけていた、砂浜から少し離れた場所は岩場だが、明らかに犬は、そこを目指している。
「怪我をしているかもしれないな」
斉藤の言葉に松谷も頷いた、夏とはいえ、このあたり一体はプライベートビーチになっているので泳ぎに来る客は殆どいない。
犬は時折、振り返り二人を見るが岩場近くまで来ると走り出した。
「おーい、誰かいるのか、返事をしてくれ-」
斉藤は岩を登りながら叫んだ、その時、応えるように犬の吠える声と人の声が聞こえてきた。
慎重に岩場を登りながら、ようやく相手を見つけた時斉藤は、ほっとした。