オジサマ専科 恋は突然に スパコミで本出します、抜粋 作:木桜 春雨
上司の叱責に浅沼博人は頭を深々と下げた、何か言いたくても言葉が出てこない。
「相手が悪かったといえば、それまでだ、だが、ここは日本だ、でかい顔をさせる訳にはいかん」
「ファミリーを解散したと聞きましたが」
「だから、だ、尚更、面倒なことになる、わかるだろう、浅沼」
「どうして、彼女を助けたんです」
浅沼の質問に上司の顔、眉間の皺が深くなった、聞くなと言わんばかりの表情だ。
「どういうことです、チーフ」
上司の部屋から出てきた途端、羽田勇介は納得がいかないと言いたげに浅沼を問い詰めた。
一人の女性を警護するという仕事は最初の数日は何事もなく、狙われているとは思えなかったのだ。
ところが、三日前、事態は急変した。
女性がホテルから犬を連れて散歩に出た後、姿を消したのだ。
海岸で女性は襲われたらしい、その後の動向からして開いては女性に恐怖を与えて殺すつもりだったらしいが、予想もしない事態が起こった。
「何故です、解散したマフィアの人間が、その女性を助けるって変じゃないですか、もしかして、彼女はマフィアの」
「それはない」
はっきりと否定する浅沼の態度に何か思うところがあったのか、能見雅幸はチーフと呼びかけた。
「女性の祖母が亡くなった理由ですが」
「上も聞かされてはないようだ、だが、かなりの高齢だったらしい」
つまり何かあっても不思議はないと言いたいのかもしれない、浅沼の表情と口調に能見は無言になった。
数日前から様子がおかしいと思っていたのだ。
「犬を飼いませんか」
園枝厩時は驚いた、元々室内に籠もりがちで、乗馬や狩猟を趣味とする自分とは正反対の性格なのだ美濃部綾人という男は。
「犬か、いいな、丁度いい、狩猟には」
「いえ、厩時さん」
「どうした」
相手の顔を見ながら厩時は、はあっと溜息を漏らし、彼女の為かと呟いた。
亡くなった老婦人の孫が屋敷に来て数日、彼女と一緒に外国からやって来た犬が死んだ、大型犬の寿命は長いとはいえない、病気なのかと思ったが、そうではないようだ、死因を聞いても女性は答えなかった。
綾人は知っているようだが、老婦人からの遺言でと言われては深く追求する事もできない。
「彼女は物置に住むのか」
館の裏庭にあるのは物置同然の小屋に女性は住んでいる、綾人もだが、誠も酷く反対した。
食事も小屋の中で自炊をしているらしい、あんなところでと思ったが、執事の吉岡が色々と酔いしていたらしいので、自分たちは関わらない方がいいのだろうかと思ったが、綾人が彼女の事を気遣っているせいか、誠までもが、正直、自分だけが疎外されているような気がして、面白くなかった。
電話の向こうから聞こえる声が初めて会ったときとは違う、元気がない、何かあったのだろうか。
そんな時だ、バーティの招待客、斉藤剛士と仕事で会ったのだ。
彼女を自宅まで送った時の話を聞こうとしたが、斉藤剛士は詳しくは話さなかった、何か事情があるらしい、反対に聞かれた。
「犬のブリーダーをご存じないですか」
女性の連れていた、アルと呼んでいた犬が死んだ聞かされて東郷は驚いた。
「病気だったみたいで、それで最後は日本に戻ってきたみたいです」
「そうなのか、でも、何故」
もしかして、犬を彼女に、いいや、会ったばかりの女性に贈るつもりなのか、それは突然すぎて、いや、もしかしてこの男は彼女と。
そんな事を考えながら東郷は、妙な感情に胸がざわめくのを感じた。