その光景は、人間同士の戦いではなかった。
片や、人狼。
片や、片腕が異形の人間。
「どうした小僧!その程度か!」
横凪に迫ってくる鋭利な爪の生えた腕を右手で弾き、そのままの勢いを利用して体を捻り、狼の顔面に蹴りを入れるけど、流石に軽いらしくクリーンヒットしても大して威力がない。
根本的に力というものが足りてない。
いくら権能である程度強化されているとしても、相手も同じく権能を使ってる。それも肉体を強化するタイプの権能をだ。
攻撃は直感に従って紙一重で躱すと、ヴォバン侯爵の腕が床を砕く。
既に同じようにヴォバン侯爵の腕によって部屋の中にある壁や床、家具は粉々、さぞ高いだろう部屋に勿体ない。
「折角だ、従僕も加えてやろう」
何が、折角だ、だよ!余計なことを!
再び、呼び出された死せる従僕たち。
いくら数を減らしても、ヴォバン侯爵が殺した人間全員が従僕になっているなら、従僕の数に限界なんて無いに等しい。つまり、いくら倒しても増え続けるということだ。
腕一本じゃ足りないか。
アテナ戦でもやったように、右腕の変化している部分が減る代わりに、両手を獣の腕に変化させる。
近距離には、ヴォバン侯爵と剣士の死人、遠距離には、呪術師の死人。
臨機応変さには欠けるも、いくら攻撃しても体が無事なら向かってくる死人は厄介極まりない。なにより、ヴォバン侯爵はその死人ごと、俺の事を攻撃してくる。
ヴォバン侯爵の攻撃を避け、隙を見ては攻撃を当てるを繰り返していると、肩や背中に剣士の死人の剣が当たる。
「くそ!邪魔だ!」
握り拳で鎧の上から剣士を殴りるとボールが飛ぶように、ひと一人が飛んでいく。
殴って、蹴って、タックルして、片っ端から死人を薙ぎ払う。目に付いた敵をただ、倒す。
そこに技術なんてものはない。獣のように獰猛に敵を倒すだけ。
「だ~っクソ、減らねえ!」
いくら倒しても無限に湧いてくるのは流石にしんどくなる。
「従僕の数は無限だ、いくら倒しても無駄だぞ!」
ヴォバン侯爵の言う通り。無駄だ、なら別の手段を取るまでだ。
上手くいくかは分かんないけど、試すだけだ。
自分の右腕に視線を移す。
躊躇せずに、右腕に噛みつき、歯を立てる。歯が皮膚を破り、滲みてる赤い血液が床に落ちる。
「何をしている小僧?」
「アンタの『貪る群狼』は、俺の権能と似ているからな。ちょっと参考にさせてもらおうと思ってね」
床に落ちた血液は集まり一つのなると、液体という形から粘体というべきか、スライムという言うべきものに変わり。こねられて粘土のように動き出し最終的には、ライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾の生えた姿になった。
「ガァアアアアアォォォォ――――!!」
生まれてことを宣言するように咆哮を放つキマイラ。
『混沌獣』の真骨頂はサンプリングした生物の合成にある。
肉体から切り離した血肉でも、生物に変化出来ることは、アテナ戦の八咫烏で確認済み。つまり、さっき流した血を媒体に、いま目の前にいるキマイラのようなものを生み出すことも可能だと考えた。なにより、ヴォバン侯爵という見本がいるんだ挑戦しないなんて、勿体ない事はしない。
「上手くいくもんだな、取り合えず、死人を頼むとしよう」
俺の事をチラリと見ると、命令に従って、死人目掛けて飛び掛かって行った。
その間に、俺は、ヴォバン侯爵との一騎打ちを取る。
「これで、一対一だ」
「まさか、私と似たことが出来るとは、ならこちらも一つ見せよう!」
宣言通り、ヴォバン侯爵の姿は人狼から二足から四足に変わり、一回りも二回りも大きくなり大巨狼へと変わっていく。
大型バスほどの巨体の狼。
戦いが原因で出来た部屋の損傷に、巨大狼の体重は不可が掛かるらしく、部屋全体がミシミシと罅が広がっていくのが分かる。
ドォン!と勢いよく地面を蹴り、真っ直ぐに突っ込んでくる。巨大狼と化したヴォバン侯爵。
「ッゴホ!」
予想を超える速さで飛び掛かってきたヴォバン侯爵。
肩を噛みつかれ、牙が皮膚を貫き。そのまま、巨体に押されるままに窓ガラスを破り、外に押し出された。
首を動かし後ろを見ると、迫ってくるコンクリートの地面。
口を開かせようと牙と体の間に指を入れようとすると、ゴリ、と一段と牙が肉に食い込んだ。
「ッガァ」」
冗談抜きでやべぇ!このままだと背中から地面に激突する!しかも目の前の巨体の重さが、俺にダイレクトに掛かる状態でだ。とにかく、腕の変化を背中に回して防御しないと。
感じる痛みに苛まれながら、意識を集中し、腕を解除を変化を背中に回す。背中が変化し姿形が変わっていく。
亀やアルマジロ、蟹など、身を守る為に硬い殻を持つ生物は世界中に多く生息している。それらを束ね、身を守る鎧を作り出す。ただ硬く、衝撃を緩和する盾を。
そして、地面に衝突。
「―――ッ!ッグ!」
一気に全身を駆け巡る衝撃で肺の中の空気が抜ける。そのまま、投げ捨てられ近くに生えていた木の幹に激突する。
「ふん、この程度か…」
期待外れだ、と吐き捨てるように巨大狼のまま、歩いて何処かに向かう、ヴォバン侯爵を霞む視界で後を追おうとしても体は言うことを聞かない。薄れゆく意識でどうにか立ち上がろうとするも、体に力が入らず。離れていくヴォバン侯爵に向かって手を伸ばすけど、届かない。
このまま、行かせたらどうなるかなんて分かりきってる。また祐理やリリアナを生贄にして儀式を行う、アテナも殺すだろう、エリカも従僕に加えられる。
神に祈ったところで、人が救われない。なにせ、俺たちの敵が神なのだから。
―――また、失うのか、父さんと母さんを食い殺されたように。
受け入れ……られるわけないだろ!身内は守る、と口にしながら守れず。必ず帰る、と約束しておきながら、帰ることも出来ないで何が、王!何が、神殺しだ!
俺は…獣王だ。
獣の王にして師団という群れの長。長は群れを守るのが役目、それを果たすべきだ。
たとえ……人間であることを捨ててでも。敵を負かし、屈服さえ、蹂躙し、滅ぼす。黙示録という世界の終わりにまつわる伝承に出る、黙示録の獣。世界を滅ぼすと、地上を支配すると言われて獣。今まで無意識に避けてきた。権能『
片腕、両手、片腕だけの生物変換に留めた。
バカだった。権能は、俺が簒奪したものだ。俺が手に入れてものだ、俺が自分の力に飲まれてたまるか。
《滅び時は来た、穢れし世界。混沌をもって全てを無に帰す。この牙、この爪は世界を殺す、我は獣なり》
言葉にせず、心で、精神で、魂で、聖句を唱える。
銃の引き金をひくように。力を解き放つように。
折れた骨、筋肉繊維、内臓、皮膚を再生すると同時に作り替える、より強靭な肉体へと。
ヴォバン侯爵の振り下ろされる腕にも、負けない怪力を、負けない耐久度を。狼に変身したヴォバン侯爵に確実に致命傷を与えられる力を。
今まで、サンプリングしてきた生物の中から選択していく。
倒れた体が変化していく。
サイから取った、分厚い皮膚。
蟹と魚から取った、皮膚を覆う赤と黒の甲殻と鱗
ゴリラから取った、筋肉の肥大化。
トカゲから取った、背骨に沿って、バランスを取るために尻尾
形状変化が終わった姿は人とかけ離れてものだ。
鎧のように全身を甘さず包む鱗と甲羅、衝撃を緩和する厚い皮膚、耐久度を抜ける怪力、体勢を安定させる尻尾。
その姿は、鋭利で凶悪な全身甲冑に身を包んだバケモノ。
「……何処に行く、ヴォバン侯爵!」
ゆっくりと立ち上がると地面を蹴り、歩いていくヴォバン侯爵に飛びつく。
「なに!?貴様!退け!」
突然の不意打ちと予想外の行動に驚き。巨体狼の姿で頭部には手が届かず、体を振り回し、俺を落とそうとする。
皮膚に爪を立て、鎧となっている鱗を逆立てかえしにして体を固定し、ヴォバン侯爵にの眼球目掛けて腕を振り下ろす。
グシャ!
血しぶきが飛び、眼球が抉れる。
いくら二百年生きているヴォバン侯爵であったとしても、眼球を抉られる経験などそうは無い。
「がぁあああ!貴様、私の目を!」
「死ね、ヴォバン侯爵!アイツらは俺のモノだ!」
潰した眼球を掴み取り、頭部から飛び降りると同時に引っ張ると、勢いに任せて、ブチブチと何かが千切れる音がしながら眼球が取れる。
右手にある生暖かい潰れた眼球を投げ捨てる。
「調子になるなよ小僧!」
真っ直ぐ突進してくる、ヴォバン侯爵。
数分前に受けた体当たりを今回は、受け止める。ドン!と大型トラックと衝突したような衝撃が、耐えられる。
受け止めた腕を伝い、衝撃は脚に流れて地面に逃げ、足首近くまでが地面に埋まるが問題ない。この攻撃にも耐えられるよう体を変化させた。
メキメキ、とヴォバン侯爵の顎に手が食い込み、腕と腰に一気に力を入れ、万力の如く顎を全身で掴み、踏ん張る。足が地面に埋まっていくのも気に留めない。
「さっきのお返しだ!」
巨大狼に変身しているヴォバン侯爵の半分もない体で持ち上げ、自分がさっき投げ捨てられたと同じように投げ捨てる。
投げられた巨大は木を数十本ほど薙ぎ倒し、地面を抉ったのちに体を巨大狼から人狼へと変え、嬉しそうに笑いながら立ち上がったヴォバン侯爵。
「やるではないか、王同士の戦いなのだ、こうでなくてはな!」
空洞になった片目から血の涙を流しながら、白い牙を覗かせて笑うヴォバン侯爵。
「いいぜ、付き合ってやるよ。アイツらを守るためだ」
沈んだ足を地面から引っこ抜き、地面を目一杯踏みしめ、走り出す。
獲物を狙う獣の如く、姿勢を低く、地面を這うように走る。
最初に作った獣の腕よりも、強化した腕。
鱗を逆立たせ、全身に鋭利な刃が生えたように、尻尾の先端からはサソリやフグの毒を混ぜ合わせた毒が蓄えた毒針を尻尾の先端から伸ばす。
俺と同じように突進してくるヴォバン侯爵。
二人の距離は次第に狭まっていき、衝突。互いに一瞬動きが止まった瞬間、腕ではなく尻尾を動かした。
ヴォバン侯爵の脇腹目掛けてしなる尻尾。ドスッ!とあばら骨を断ち切り、体内に侵入した尻尾から注入される猛毒。カンピオーネは体外からの魔術、呪術、薬品の効果を打ち消すけど、口内接種のような体内から作用する場合は、カンピオーネの無効化は発動しない。つまり、この方法なら生物の毒をヴォバン侯爵に使うことが出来る。
これで決め手になるなんて思ってない、でも少しでも、動きが鈍くなればそれで良い。
「この程度で…なに…」
グラリ、と揺らぐ巨体。
流石は即効性の毒を混ざただけあるな、もう効果が出ていた。
「呪い、いやカンピオーネに術は利かん。ならば、毒の類か」
もう、気づかれたかよ。まあ、いいさ、毒は利けば儲けもの程度の意味しかない。
「さあ、殴り合いと行こうか」
腕、脚、尻尾を駆使して、殴り合う。
振り押される腕を尻尾で防御し、腹を殴り、そのまま蹴りを叩きこむ。
「泥臭い戦い方だな!だが、悪くないぞ!」
「うるせぇ!さっさとくたばりやがれ!」
とは、言ってもこっちもヤバイ。
攻撃を受ければ、動きが止まる。そうなればもう一度動き出す間に一撃をもらうことになる。
今使ってる全身に作用してる形状変化は、体内・体外の両方だ。加えて、初めての試みで大半の変化をカンピオーネの性能と権能の合わせ技で無理やり結びつけて、治癒力に物言わせたものだ。長時間使用は不可能。
つまり、リミット付きの戦闘スタイル。
攻撃を受けて、体勢を立て直す時間さえ惜しい。
ヴォバン侯爵に勝つには、単純な
カンピオーネの獣のような直感的は、戦闘経験によって磨かれる。
ヴォバン侯爵はカンピオーネとして約300年生きる、古参の魔王。
対して俺は、カンピオーネなっても僅か数年、まつろわぬ神との戦いだって多くは無い。俺の戦闘はカンピオーネの直感に頼った戦闘スタイル。それじゃヴォバン侯爵に追いつけない、だから『混沌獣』の特性を活かす。
―――だから、もう一手。
鱗や減らし、甲殻を薄くして、かき集めた分を右手に集める。
形状は“槍”。
剣のように振り下ろす必要もない、ただ力で押し切る。
幻獣ユニコーンの角を穂先とした槍を右手に生み出す。
「一角聖槍!」
白一色の純白の槍を全身の筋肉と骨に至るまで収縮させて解放した力を一点に集中させた渾身の突き。
強化さて体の力を集中した槍は、ヴォバン侯爵が反射的に庇うように前に出した腕を貫き、胸へと穂先が突き立てられた。
「ッグ!この程度」
「もういっちょ!枝分かれ!」
その形は正に枝。
穂先のユニコーンの角が枝のようにランダムに伸び、ヴォバン侯爵の体内からユニコーンの角が皮膚を貫き顔を出した。
「ガァ!?なに!」
『混沌獣』で武器を作ったらどうなるか、と権能を取得してすぐに考えたことがあった……つまりこれが答えだ。
状況に応じて作り替え、その瞬間に適した形状を生み出す。それこそ生物が環境に適応し、進化するように。
「オマケだ、吹っ飛べ!」
ドゴン!と巨大な物が破裂するような音が響く。
「ゴォポ!ガァ、ァ、小僧、何をした!?」
「体内に広がった一角聖槍を爆発させたんだよ!」
アリの中にジバクアリという種がいる。自身が自爆することで味方への注意と共に敵の動きを封じた上で道連れを行う。その自爆する対象が敵の体内にある角であったならどれだけの威力を生み出せるだろうか。
肉を貫き硬質で鋭利な角。それが全身に広がり、内側から内臓、筋肉、血管を傷つけ、皮膚を突き破り、そして爆発。爆風は角の破片を吹き飛ばし、体内から弾丸が撃たれてように肉を抉りながら飛ぶ。
素早く槍を手放し。次の繰り出す。
「槍だけじゃ、アンタを押し切れない。だから今まで貯めてきた切り札は全部使わせてもらう」
肩甲骨から生やした二本一対の巨腕。
「ふん!」
ブォン!と風を切り、巨拳をヴォバン侯爵に放つ。
一発、二発、三発、三発、四発と止まることのない怒涛のラッシュを繰り出す。
「ガッ…グゥ…」
体内から角が出た穴から血が噴き出し、両手を重ねてガードする上から殴る。技術もない、ただ、間を開けない連続攻撃。
これで倒しきれなきゃ、後がない。押し切れ!無理を続けても手を止めるな!
自分に言い聞かせて、限界を超えて腕を動かす。腕の生やした箇所から広がっていく激痛に顔を歪めながらも止まらない。
「これでラスト!」
両巨拳を同時に振り下ろす。
衝撃で地面が砕け、砂煙が舞う。
「はぁ、はぁ、流石に倒したか…」
自分が振り下ろした拳によって生まれたクレーター
「やるではないか、小僧!」
クレーターから這い上がってきたヴォバン侯爵。
黒いスーツとコートに砂ぼこりをつけ、全身から血を流し、片目も閉じられている。
これだけやって倒せないとかありかよ!
「では、続きと言うことでよいかな?」
片目となったエメラルドの目を鈍く光らせて睨んでくる。
「アンタが倒れるまで付き合ってやるよ」
再び、巨腕を構えると、東の空が白んできた。
雲の隙間から広がっていく朝日。
ヴォバン侯爵は太陽を恨めしそうに睨みつけると。
「今回の戦は、貴様の勝ちだ小僧。だが、次はこのヴォバンが勝利を頂く!」
そう言うと、ヴォバン侯爵の姿は竜巻に巻かれ。竜巻が消えた時、そこには姿は無かった。
「勝手にやってきて、勝手に帰りやがったか。自分勝手な奴だ」
思わず地べたに腰を下ろし、そのまま倒れこんだ。
次回から当分は夏休みというなのエロが続きます。
リアルはもう一月なのにね。
夏休みと言ったら、海、祭り、あとなにかありますかね。
あと『獣群師団』の組織内容も若干出す予定です。