『獣群師団』本部にて、いつもの顔触れが揃い。お喋りに花を咲かせたい所ではあったが、涼には組織の長としての仕事が山ほど溜まっている。
それを処理する為にセルシアと共に行ってしまった涼に対して、やることの無くなったリリアナ、エリカ、祐理、アテナが始めたのは女子会である。
四人はソファに腰を下ろし、机の上にクッキー、一口サイズケーキ、チョコレート、グラスに入った紅茶に氷が浮かぶアイスティーを置いた机を囲み、女子だけの密談が始まった。
「ヴォバン侯爵の一件が解決したんですもの、涼にも癒しが必要だと思うの」
紅茶の入ったティーカップをソーサラーに置き、最初の話題を提示したのは、エリカだった。
「それには同感だな。主は最近まとまった休みが無い、これではいつか倒れてしまう」
いくらカンピオーネとはいえ、いまだ学生。学校でも勉強に宿題、偶に起こるまつろわぬ神関連の問題に対応するため世界中を飛び回っている。
それに、数日前のヴォバン侯爵との戦い。
重症とも言える傷を負い、権能の強引な行使は本来の体の自然治癒力にも干渉。いつもなら数日で治るような傷も、今回の戦いでは完治まで一週間以上を要した。
「古来より男を癒すには女と決まっているわ。それに涼は性欲も強いですもの。そういう意味で癒して上げる、奉仕するのも悪くないと思うのよ!」
「ほ、奉仕ですか!?エリカさん流石にそれは!」
「あら、王が身体を求められたら差し出すのも従者の務めでしょ?それに、もう肌だって重ねているんですもの。いいじゃない」
エリカの言葉に、リリアナと祐理は真っ赤になり、アテナは一回しかしてもらってないと不公平を感じ、三人に責める視線を送る。
「エリカ、具体的にはどうするんだ?」
「特に決めてないわ。普通に肌を重ねてもいいし、一緒にお風呂に入って自分の体で涼の体を洗って上げたり、デートに行って夜にホテルで熱い夜を過ごしたりね」
「うむ、妾は悪くないと思う。最近、涼と過ごす時間はあまり取れていないからな」
アテナの言う通り、女子陣が涼と二人っきりになるのは難しい。そもそも涼の家に住んでいる、リリアナとアテナ、通い妻の祐理、度々遊びに来るエリカ。
最低でも二人は確実に、家にいるだけで涼と会える。他二人も一日の大半は涼と共にいる。
「簡単よ、ローテーションを組むの。ひとり一日、涼と朝から晩まで一緒に過ごすの。どう過ごすかは各自に任せるわ。デートを楽しむも良し、部屋に籠って愛を確かめ合うも良し。どうかしら?」
名案を提示したとばかりに、ドヤ顔をしながら口にクッキーを放り込むエリカ。
「う、うむ!わ、悪くないな!」
そっぽを向きながら賛成するリリアナ。
「そ、そんな、学生らしからぬですね……でも、いいかもしれないです」
真っ赤にした顔で賛成する祐理
「妾も賛成だ。涼とは濃密な時間を過ごすべきだと思う」
頷き賛成を示すアテナ
数日前のヴォバン侯爵との戦い。カンピオーネのスペックと権能で傷は治っても、疲れは肉体的にも精神的にも残っている。
それを癒すのは、恋人として傍にいる女たちの役目でもある。
「エリカさん、具体的にどうするおつもりですか?」
「そうね。私はシンプルに肌を重ねようかしら。でも折角夏なんですもの。海に行くのも捨てがたいわ」
季節は夏。イタリアでも海水浴が行える海はいくつかあり、必要とあれば海近くにある別荘で二人っきりに時間を過ごすのも悪くないわ、と付け加えて口にするエリカ。
完全に一人、自分はどうするかを考えていくエリカに対して、残りの四人もそれぞれどうするかを考えて行く。
前に妄想して書いた小説の内容にあったように、イタリアを一日デートすることを妄想するリリアナ。
顔を赤くしながら、一日をどう過ごすかを考える祐理。
目を瞑り、静かに思考するアテナ。
各々が二人っきりの時間を過ごすか考えて行く。
勿論、そんな一日デートなんて話がエリカから涼に説明されているわけもなく、本人のあずかり知らぬ場所で話は進んでいた。
エリカは一人バルコニーにアイスティーを持って出ると、後を追うようにアテナも出てきた。
「お主の思惑通りか?」
「あら?でも皆喜ぶでしょ」
エリカの思惑、それは涼との二人っきりの時間の確保だ。
集団で行動する上でどうしたも無理がある。そこで全員を巻き込み案を出すことで自分のしたいことを相手にもさせて、ちゃっかり自分も同じ分だけを味わうことをエリカは選んだ。
アテナはそれを分かった上で話に乗り、涼との二人っきりの時間を味わうことを良しとした。
「こんな風に策を巡らせるのは、私の仕事だもの。それに美味しいものは共有するべきでしょ?」
ふふふ、と笑うエリカの顔は恋する乙女の顔だった。
@ @ @
場所は変わり、セルシアが整理したおいてくれた報告書に目を通している涼。
空っぽになったティーカップに、ポットを傾けて茶葉から淹れた紅茶をカップに注ぐカレン。
「リリアナ様たちは神無月様との夏休みをどう過ごすか作戦会議に入っているようです」
「一体、どうやってそんな事を調べたんだよ」
聞き返すと、メイド服のポケットからスマホを取り出し、そのスマホからリリアナたちの声が流れてくる。
『やっぱり夏は海ではないだろうか、日本ではな夏祭りや花火大会もあるはずだ』
どうも日本で過ごす夏休みのプランを五人で打ち合わせしてるみたいだ。
「俺もデートスポットとか調べてみるかな」
「因みに、リリアナ様はローマの休日に憧れています」
流石はカレン。リリアナの事なら大半の秘密を知ってる告げ口メイドなだけあり、リリアナの趣味の自作小説を完成する度に俺に送ってくるだけはある。
「それは前にお前から聞いて知ってる。『獣群師団』での住み心地はどうだ?」
「良いですよ、元々イタリアに住んでいましたから。最近では新米メイドの教育にもアリアンナと協力して取り組んでいます」
「それは良いこった。うちは基本、呪術師関連の駆け込み寺みたいなもんだからな。規模は勝手に大きくなって人手も増える。その分資金集めは大変だけど、呪術師の家に生まれたからってならなきゃいけないわけじゃない。仕事なんて探せばいくらでもある」
そうですね、と頷くカレン。
たっぷりと注がれてカップを手に取り、口に運ぶ。
報告書では、ホテルの売り上げは右肩上がり。スタッフという名の組織の人間も上手くいっているらしい。
場所によってはニュースなどにも取り上げられ、それによってまた売り上げがアップ。
それにしても……。
「なんでいるんすか、ルクレチアさん」
座っている椅子を少し回転させて窓際を見ると、ソファに腰を下ろして紅茶を飲みながら、クッキーを口に運んでいるルクレチア・ゾラ。
『サルデーニャの魔女』や『イタリア最高の魔女』とも呼ばれる、イタリアでも上位に入る魔女の一人。見た目こそ二十半ばだが、実年齢は七十近い年齢。
この人を見ていると魔術がどれだけ便利な物なんかを実感する。
「いいではないか。それに私は、此処で魔女たちの教師をしている」
「まあ、腕のいい呪術師がいれてくれるのはありがたいけど。よくもカンピオーネの組織になんて入ろうと思うよな」
「その理由は、君というカンピオーネが生まれたことにある」
「俺?」
「そう君だよ。君が『赤銅黒十字』と『青銅黒十字』の二人を恋人とし囲ったことで、組織ごとカンピオーネの傘下に入った。その影響でイタリアの小規模な組織は、自衛とカンピオーネに潰されない為に、私を引き込むことに躍起になったというわけだ。毎日来る勧誘の嵐、ポストに入らないかという手紙にうんざりしていた時にふっと思ったのだ。『獣群師団』に入ってしまえば解決するではないか、とな」
あっけからんに言うが、なかなか大胆な行動だ。
ウルスラグナの一件で顔を合わせているとはいえ、あれから電話の一本もしていない。仮に俺の怒りを死ぬことになるだろうに。
「出ていけと言えば、出て行くが?」
「いや、いい。セルシアが許可を出したってことは、必要だと思ったからなんだろう」
「部下を信用しているようだな」
ふふふと笑うルクレチアから目を離し、報告書を読み進めた。
女子会が終わったのか、リリアナたちがエリカを先頭に訪ねてきた。
「涼、私たちとデートしましょ」
「それで、夏休み間の四人とデートしながら過ごすのか」
「ええ、他にも夜は二人セットで相手をしてもらったりね。『愛する者に愛を』のお陰で妊娠の心配はない。それに今しかそんな肉欲に溺れる生活だって出来ないでしょ」
「確かに、そうだけど。よくそんな生活を祐理が許したな」
「えっと、その、男性を癒すのは女子の役目ですし…私だってデートだってしたいですから!」
顔を赤くしながらデートしたと言う祐理。
「そうだな、偶には戦いの事を忘れてもいいだろ」
呼んでいる途中の報告書を机に置いた。
この後は当分、夏休みイベントとエロが続きます。