学校を終えるとエリカから話があると聞いたので、俺とリリアナと祐理は、祐理の家でもある神社に集まった。エリカはカバンの中から人の顔が彫られた石製のメダルと取り出すとメダルについて説明を始めた。
「これはイタリアから持ってきた神具の一種よ。ゴルゴネイオンと言って最近になって呪力を溜め込みだしたの。ある魔女が霊視したところ女神の姿を見たらしいわ」
手渡されたメダル、ゴルゴネイオンに視線を落とすと呪力が溜まっているのは肌で感じ取れる。そしてコレを追って女神が日本に近づいてきていることがカンピオーネとしての本能が感じ取った。
「そんなもんを日本に持ってくるなんて何を考えているんだエリカ!?」
「そうですエリカさん!日本で王と神の戦いでもなさるおつもりですか!」
「私としても他の手を考えたわ、それこそドニ卿に戦ってもらうっていう手もね……でもあの方は現在、いつもの行方不明状態、探している間に神具は女神の手に渡ってしまうわ」
ドニは誰にも告げることなく気のままにふらりと出掛ける習性というか、習慣のようなものがある。置き手紙でも残せばいいのに、何もせずに行くのでイタリアの魔術関係者はドニが消える度に足取りを毎回追うことになっている。そして、今回は運悪く出掛けてるのと神具の活性化が重なってしまったようだ。
エリカから受け取ったゴルゴネイオンに視線を落とすと、ゆっくりと感覚が神との戦いに適したものに変わっていく。体が、本能がまつろわぬ神との戦いを予期していた。
「祐理、悪いけど霊視を頼む」
はい、と渡したゴルゴネイオンを両手で持ち、目を閉じた。体の周りに目に見えずとも感じる呪力。
「再生を繰り返す蛇は不死の象徴。大地の恵みと死を諸共司る、大いなる母の系譜に連なるもの。夜の瞳、銀の髪を持つ女神、その位と齢を剥奪され故に幼く、故にまつろわず。その名は―――アテナ、きゃ!」
女神の名を口にするとそれに反応するようにゴルゴネイオンは紫色に怪しく光り輝いた。驚いた祐理はゴルゴネイオンを地面に落としてしまったが、欠けるようなこともなく寧ろ、メダルの異質さが増した。
祐理の霊視を通して、アテナはこっちを見た。つまり、此処にゴルゴネイオンがあると見つかったってことだ。
「……甘粕に連絡して戦える場所を用意させるか」
ポケットからスマホを取り出して、電話帳から甘粕の名前をタッチして連絡する。これから王と神の戦いが始まることを。
電話でまつろわぬ神が近づいている事を伝えると、都市部から離れた港近くを市民を避難させて戦える場所を用意してくれるそうだ。
スマホをポケットにしまうと、心配そうに俺を見つめる祐理とリリアナ。エリカは不適に笑っていた。
「リリアナ、祐理はこのまま待機しろ、エリカは俺とついてこい」
「主、なぜ!私ではなくエリカを」
「エリカ、お前、俺がまつろわぬ神と戦う様に誘導したろ」
そう笑うエリカに告げると、えぇ、と、悪びれる様子もなく頷き。彼女が肯定した瞬間、祐理は俺を守る様に前に立ち、リリアナは素早く愛剣のサーベル、イル・マエストロを出現させてエリカの首に突きつけた。
「どういうつもりだエリカ、まつろわぬ神を誘導するなど!」
「そうです、エリカさん。納得できる説明をしてください!」
エリカは二人の言葉に分かったわ、話す、と言ってどういう思惑があるのか正直に語った。
「涼はまだカンピオーネになってから短くて、権能も黙示録の獣、デメテル、ウルスラグナの三つしかない。それじゃ、きっとこれから先困るわ」
「だから、俺が権能を手に入れるチャンスを増やすためにまつろわぬ神を誘導したのか」
「勿論、最初はドニ卿に戦ってもらうのがイタリア全域の総意だったわ。でもいないんだもの。誰に変わりを頼むとなれば、最終的には一番まともな涼に白羽の矢が立ったのよ。だったら、私が仕える主が強くなるために下準備をするもの悪くないでしょ」
エリカが言っていることも理解できる。
カンピオーネの強さが権能に依存するわけでは決してない。それでもまつろわぬ神によっては権能が封じられたり、ウルスラグナのように神格を切り裂く力によって権能が斬られることもある。そんな時、別の使える権能があればそれだけ勝率を上げる事が出来る。エリカはそれを考え、行動に移した。
結局は俺の為に動いてくれていた。そんな理由があると、怒るにも怒れないがそういうわけにもいかない。
「はぁ~、エリカは俺と一緒に来い。リリアナと祐理は編纂委員会の手伝いをしてやってくれ」
迎えに来てくれた甘粕の車にリリアナと祐理を乗せて、俺はエリカの従者、アリアンナが運転する車で編纂委員会が用意しておいてくれた港近くの空き地に車で移動していた。
後部座席にエリカと並んで座っているとエリカから会話を切り出した。
「怒らないのね」
「お前が俺に相談なく動いたことをか」
「リリアナや祐理のリアクションが普通でしょ。なのに貴方は怒らなかった」
「獣群師団の構成員は俺の事を思って偶にやらかすから慣れてるよ。それでもお仕置きくらいはしないとな、アテナの情報を教授の術で俺に教えてくれ。今はそれでよしとしてやる」
「ふふ、いいわ、貴方を受け入れてあげる。んちゅ」
顔を互いに近づけて、唇を重ねた。
柔らかく、ぷるっとした潤いのある唇を堪能する。エリカは震えていた。
「キスは初めてか?」
「……初めてよ、文句あるかしら」
「いいや、お前の初めては全部俺が貰う予定だから気にするな。ほら、舌出せ、教授の術を続けるぞ」
恐る恐る舌を伸ばしてくるエリカの舌を俺は自分の舌を器用に動かし絡めとる。
んぅ、と声を漏らすが離すようなことはしない。術が途切れてしまうし、それにいつもの強気なエリカがこうも弱さを見せるのは少し興奮もする。
「んぅ、ちゅ…じゅるぅ、ちゅぱ…ぁはあ」
唇を離すと荒い息をしながら俺を見つめてくるエリカ。
「は、初めてなのに激しすぎるわよ……」
「それくらいじゃないとお仕置きにならないだろ。戦いが終わって帰ってきたら夜は別のお仕置きだからな、覚悟しろよ」
そうエリカに告げ、再び唇を塞いだ。
@ @ @
目的地の港近くの空き地に到着する頃には後部座席で横になり、キスのし過ぎでキャパシティーオーバーになったのか、顔を腕で隠して白い肌を赤く染めて肩で息をしていた。
運転しているアリアンナもキスしている光景をバックミラー越しに覗いていたらしく、顔を赤くして素早く去っていった。
キスだけであれなら夜の反応が楽しみだな。
「来たか神殺しよ」
空き地の中心には女子高生らしき制服に、猫耳がついたニット帽を被っている女の子がいた。
「…えっと、アテナで合ってるよな」
「然り、妾はアテナ」
なんか、想像と違うな。いや、神相手に常識とか説くのも無理があるし、まつろわぬ神の姿なんて当てにするだけ無駄か。
「汝は妾が求めしゴルゴネイオンを持っているな」
やっぱりある程度の位置はつかめるのか。
ポケットに入れていたゴルゴネイオンを取り出すと、アテナの闇色の瞳を蛇が獲物を狙ったように俺を捉えた。
「それを渡せ、神殺しよ。妾は本来あるべき姿を取り戻さねばならん」
「……一つ賭けをしないか」
「賭けとな?」
「ゴルゴネイオンを吸収したお前に勝ったなら、お前は俺の物になれ!」
「ほう、この女神アテナを欲するか、強欲な神殺しだ」
面白いとばかりに笑いうアテナ。
「ゼウスのように嫌な雰囲気は感じられない、やはり英雄色を好むというやつか。いいだろう、お主が妾を討つことが出来たのなら妾はお主を受け入れよう。強き戦士としても、夫としてもな」
賭け事が成立したところで手に持っていたゴルゴネイオンを投げ渡すと、アテナの手に収まったゴルゴネイオンは物体から形を無くして呪力に変わり、アテナの体へと吸収されていった。紫色の呪力がアテナを包み、カンピオーネの直感がまつろわぬ神の存在を強く感じ取る。
それによって無意識に体に力が入る。
アテナを包んでいた紫色の呪力が解けると、そこにはさっきまでの制服姿のアテナではなく、白い服着ており、短かった銀髪はロングに変わっていた。なにより感じるのはまつろわぬ神としての存在力。カンピオーネの仇敵。
「さあ、始めようか、アテナ《滅び時は来た、穢れし世界。混沌をもって全てを無に帰す。この牙、この爪は世界を殺す、我は獣なり》」
『混沌獣』の聖句を唱えると右腕全体に黒と赤の入り混じった怪物の腕が現れ、アテナも対するように闇から蛇の形を模した鎌を生み出し構えた。
始まるのは、カンピオーネとまつろわぬ神との戦い。
獣と蛇の戦いだ。