子供の姿から大人の姿に成長、いや本来あるべき姿に戻った女神アテナ。その手にある鎌が俺を切り裂くために振り下ろされる。
鈍く銀色に光る鎌が迫ってくるが、腕で弾き返す。
そこから始まったのは怒涛のラッシュ。
鎌という独特な形状の刃は攻撃を躱すにしろ、防ぐにしろ戦いづらい。なにより戦いなれているのかアテナの動きには無駄がない。
対して俺は人の頭を握り潰れるほど大きくなった腕は体の重心は右に偏り、動きよりも威力を重視したもの。当たればカンピオーネだろうと、まつろわぬ神だろうと傷つけ、倒す為の一手になりもするがそれも当たらなければ意味がない。
防御に関しては問題なくとも攻めきれない。
「どうした神殺しよ!防戦一方だぞ!」
「あぶな!」
凄まじい勢いで振り下ろされる鎌を紙一重で躱すと刃をコンクリートの地面を深々と砕き、刃の半分ほどは地面に突き刺さっていた。
その隙に、アテナに向かって蹴りを繰り出すも鎌の柄によって防がれる。
「なんとも戦士とは言い難い戦い方だな」
「生憎とこちとら獣で、っね!」
右腕を大きく振り下ろしアテナに攻撃を与えると、防がれたがガードの上からでもアテナを吹っ飛ばすことが出来た。防がれてもアテナを吹っ飛ばすことが出来たということは防がれなければ十分なダメージを与えることが出来るってことだけど、流石に相性が悪すぎる、作り変えるか。
俺の意思に従って右腕全体を覆っていた黒と赤の入り混じった怪物の腕は消える。
「なんだ、もう戦うのは終わりか?」
「そんなわけないだろ、新しい武器を作るんだよ」
集中しろ、いま必要なのは威力じゃない。攻撃を防ぎつつ確実にアテナにダメージを与えられる武器。けれど鎌の攻撃に負けるようなものじゃ駄目だ。防御も威力も速度もバランスの取れたものが必要だ。
右腕だけを覆っていた黒と赤のオーラは半分に分かれ、片方がそのまま右手に留まり。もう半分は左手を覆った。
半分に分かれてことで最初の腕よりも変化する範囲は小さくなり指先から肘までしか変わっていないが、両手が武器へと変わる。
『混沌獣』はライオンやトラといって普通の獣からペガサスやセイレーンといって霊獣や神獣のサンプリングをして、自身の血肉を媒体に顕現させる。その時、顕現させる獣を合成させることでキメラを生み出すようにあり得ない生物を生み出すことも出来る、どんな状況にも適応した肉体を生み出す。
「器用なことだ」
鎌を振り回して再び構える。
「そんじゃ、第二ラウンドと行こうか!」
俺も両手の腕を構えて、アテナに飛び掛かる。
上、下、右、左と襲ってくる鎌を躱すか防いで直撃を避け、俺も攻撃を繰り出す。
その攻撃は互いに凶器を手に持ちながらダンスを踊るように戦っているようにすら見えた。
「全く鎌なんて戦いずらい武器を使いやがって」
鎌の歪曲した独特な形状の刃は躱すにも大きな移動が必要になる、しかも柄が長いことからギリギリで躱そうとするとアテナは僅かに柄を持ち替えて振る範囲が大きくなってギリギリで躱そうものなら斬られることになる。
ドニの魔剣も厄介だけどこっちは武器の性能じゃなくて形状が面倒だ。
「ならば、こちらの方がよいかな」
指をくい、と上げると地面を砕いて出現した大蛇。首をしならせ、俺を食おうと大口を開き真っ直ぐに襲い掛かってくる。
素早くジャンプして躱すと大蛇の牙はコンクリートを容易く砕き、すぐさま空中に居る俺へと牙を向けてきた。
下から掬い上げるように押しかかってくる大蛇の顎に回し蹴りを繰り出す無理やり方向転換させて回避と攻撃を同時に行う。
「ほう、空中でも躱すか。ならば数を増やすまでだ」
アテナの宣言通り、先と同じように地面を砕いて大蛇が三匹出撃。合計の四匹の大蛇がいることになる。
一匹でも面倒だってのに四匹に増えやがった。
一斉に突撃してくる大蛇を躱していくが、大蛇の巨体によって視界が遮られて瞬間、隙を突かれて背中からアテナの鎌の刃が走る。
「っつ!」
「妾から目を話すとは浅はかだぞ!」
「わざわざ近くまで来てくれてあんがとよ、蛇と一緒にこれでもくらえ!」
両手を振り下ろすと同時に俺の全身から白く光る電気を放出した。
バチィ!バチィ!と音をあげながら周辺にいるアテナ、大蛇の全身を電気が駆け巡った。
アテナに対しては威力は劣るだろう、だが召喚したとはいえ大蛇も生物だ。電気というのはどんな生物においても等しく弱点となる。
頭から尾まで感電した大蛇が全身から湯気上げ、所々を焦がし地面に伏した塵となって消えていった。
アテナも少なからず電気を受けたのか白い服の裾や肌が若干、黒く焦げている。
「雷、いや電気か」
「デンキウナギだよ、体内に発電器官をもつ数少ない生物の一種だ。至近距離じゃないとまともに使えないがこういう時は便利だよな」
背中から流れていた血も既にカンピオーネのスペックにより止まっている。
「これである程度は最初の状態だよな」
とわいえ、デンキウナギは再使用に時間が掛かる、この戦いの最中には使えない。どっちにしろ手札の一つを使っちまった。他にもあるにしろこのままだとジリ貧のままいって負ける。
「一つ切り札をきろうか、《我は言霊の技を以って、世に義を顕す。これらの呪言は強力にして雄弁なり。勝利を呼ぶ智慧の剣なり》」
虚空から抜き放たれて黄金の剣。
数週間前に軍神ウルスラグナから簒奪し、のちに『
どうもこの二つの権能は相性が悪いらしく。
手に握る黄金の剣よりも一回り小さい剣が生まれ、空中に漂うっている。
「黄金の剣とはまた奇妙なものを」
「ただの綺麗な剣だと思うなよ。貴方は蛇と関わりの深い女神だ。アテナとメデューサは元々同じ起源を持つ蛇の女神。恐ろしい蛇に知縁する智慧の女神。古き地母神だった」
「言霊を使うか」
「大地の恵みを司る女神はただ優しいだけの女神じゃない。春に生まれて命を冬には奪い、気まぐれで天災を起こし作物を枯らす生命と死の女神でもあった。地母神となる女神は総じて狩猟や森との関連があり、時には狩猟や森の女神に地母神という側面が与えられることもあった。これらは農耕文化が発達した時期に周期的な季節の変わり目が色濃く出た土地で多く起こったことだ」
口にした言霊に従って黄金の剣たちはアテナに向かって飛んでいく。
「不快だぞ!忌まわしき過去を思い起こさせてくれるな!」
「死の神であるアテナは梟にも化身する。夜と冥界を渡る鳥、闇と死の支配者。大地母神の蛇、冥府の鳥、女の叡智、この三位一体がアテナの最も古い形だ。かつて貴方は翼持つ蛇の女王だった」
止まることなく口にする女神アテナの過去についての情報。
それに伴ってアテナからの反撃は激しくなっていく。鎌を弓に変え、止まることなく飛んでくる矢を黄金の剣で斬り落とす。
「アテナはもともとゼウスの娘じゃなく神々の女王、生命と死を司る偉大なる女神にはそれが相応しい地位だった。でも女王への謀反が起きた。ゼウスを始めとする男の神たちが反旗を翻し、成り上がり新たに神々の王となってしまった。神話は書き換えられ女王は、王の娘となりメデューサは魔物まで貶められた」
古来は王という存在の文化は存在せず。女性と男性は平等、そえぞれ与えられた仕事をこなしていた。それが文化が発達し国になってことで王が生まれ、王となるのは男性だという女性を支配することが文化となった。その影響は神話にまで及び、神話の王のゼウスつまり男性に王権が移ることとなった。
「翼ある蛇の女王はこうして蛇の姿を失い、ただ美しいだけの女神になる。地母神としてのアテナの蛇はやがて別の怪物として語られるようになる翼ある蛇つまり竜として。神話の中で倒される邪悪なる竜はアテナのような敗北した地母神を貶めた姿だ、没落したかつての女王。アンタの神格斬らせてもらうぞ!」
両手に握る黄金の剣で一太刀、アテナへ与える。
『黄金の智慧』の力は神格を切り裂く刃。
対象となる神についての知識を言霊として口にすることで、剣を作り出し神格を切り裂く。神には複数の顔がある。アテナならいま口にしたように地母神という古き姿以外にも、都市の守護神としての姿、智慧の女神、戦女神という戦略を司るなど多くを司っている。剣で切れる神格は一つだけ、仮に蛇の力を強く行使する地母神としてのアテナを切ったしても戦女神などの別の側面は消えないつまり………戦いは終わってない。
「まさか地母神としての妾の神格を斬るとはな、一手足りぬぞ!」
ヒュン、と振り下ろされる鎌を輝きを失った黄金の剣で防ぐ。
「《我は愛を誓いし者がいる、我の帰りをも待つものがいる。心が繋がる限り我の愛は永遠なり》」
ウルスラグナとの戦いの中で見つけ出したデメテルの権能『愛する者に愛を』の新しい力。
この権能の中心にあるのは”愛”。俺から誰かにというものが魔力の譲渡や加護という形に現れていただけ、誰かから俺への愛は別の形で効果を発揮する。
「我が翼、幻影の刃を成す鋼よ。――イル・マエストロ、我に力を!」
いつかリリアナが叫んでいた言葉と違わぬ言葉を口にすると輝きを失った黄金の剣の代わりに右手の中に現れたしたのは、俺の騎士リリアナ・クラニチャールのサーベル型の愛剣―――イル・マエストロ。
イル・マエストロを構え力強い一歩を踏み出して繰り出した突きは、防御しようとした鎌の柄を弾きそのままアテナの肌を切り裂いた。
「っく!まさか剣を呼び出し、あまつさえ攻撃を受けようとは」
肩に傷を負ったアテナは後ろへと下がり、血が染み出る肩を手で押さえる。
ただの剣、いやいくらリリアナが使うイル・マエストロでも神を傷つけることは普通なら出来ない。可能だとすれば魔剣や聖剣の類か、同じ土俵に立つ権能によって生み出された武器か強化を受けた武器、呪詛や特別な素材を使って作り出した武器でなければならない。イル・マエストロにはそのどれにも当てはまらないが傷を与えられる。
イル・マエストロには『魔曲』という旋律を奏でる力が備わっている。聴く者の心を乱し怪しき曲、呪力を減衰させる魔曲、体力を奪う魔曲、幻覚を誘発する魔曲、と様々な魔曲を奏でることが出来る。だが、それは人間には効果を発揮してもまつろわぬ神にまでは届かない、ならば足りない分は『混沌獣』の力でセイレーンの歌声で足りない分を埋めることでまつろわぬ神にまで届く刃とした。
「流石に魔曲の効果がすぐに出るわけじゃないが、聞けば聞く分だけ後から効果が現れる。なにより神に傷を与えられる武器ってだけでも十分だ」
一度は軍神ウルスラグナに留めを刺した使い方だ。神に届くことは証明されている。
「まさか、妾に届く刃が愛の力とは!」
「そういうこった……さて、アンタを倒せる力があることは証明できたんだ一気に行かせてもらう」
鎌と剣が衝突する度に火花が散って暗闇に明かりを灯す。
さっきとは打って変わって直感に頼りにイル・マエストロを振る。
『黄金の智慧』の効果が無くなったことでアテナと斬り合う為に『混沌獣』の黒と赤のオーラを脚に纏わせ移動強化。ブーツにようにオーラを纏うがつま先は獣ように三本の爪が生え、人間の脚とは言い難い形状となっている。
速度を活かし、格上のアテナと斬り合う。
「流石に貴様も手札が無くなってか!」
「……どうだろうな」
正直、もう無い。『黄金の智慧』は一日一回しか使えず、残り二つも現状使っている状態で何とか食いついている状態。
アテナは鎌を振り回し連続し、連続して斬撃が襲ってくる。ウルスラグナは複数の化身との一撃必殺に対して、アテナは威力は劣るながらも連続攻撃。
こっちも権能の連続使用で体力も呪力も限界に近い。そろそろ本当にまずいか。
「妾の前で考え事とは余裕だな!」
っふ、とアテナを見ると大きく振り上げた鎌を振り下ろしてくる。
武器を失うわけにはいかないとイル・マエストロを手放さない為に左手を盾として体を守る。
刃が一閃すると左手の肘から先がボトと地面に落ち。その隙にアテナの鎌が俺の首に添えられる。
「さあ、片腕で妾を討てるか」
不適に笑うアテナを見上げ、アテナの目を視線を俺に釘付けにしている間に斬られて地面に転がっている腕を『混沌獣』の力で遠隔操作する。血肉には腕も流れた血も含まれ、そして集まった全てはその姿を変えた。
静かに漆黒の翼を広げて飛び立った。あとは待つだけだ、時を。
「一応、確認しておく。俺が勝ったらお前は俺の物になるって賭けはまだ有効だよな」
「ああ有効だとも、だがお主にこの状況を打破できる手段があるのか?」
人間だろうと、神だろうと自分が優位になった時、気が緩むのは変わらない。その時こそ起死回生の一撃が最も有効打足りえる。
「ああ、あるさ!来い八咫烏!」
腕一本と流した多量の血から生み出された三本の足を持ち、天照の使いとも太陽そのものだとも言われる神獣の八咫烏が大空から真っ直ぐにアテナめがけて降りてくる。
材料として使ったものが多かったのか伝承での一咫=18センチを軽く超えて全長50センチはあるだろうか。
八咫烏の飛ぶ軌跡には白く橙の入り混じった太陽の炎が走る。闇のものは総じて太陽に弱く、死の女神の側面が強いアテナも例外じゃない。いままさにアテナを倒せる一撃が降ってくる。
「お主!腕を斬られたのはワザとか!?」
「当たり前だろ、最初に流した血の量じゃ足りなかったからな。それに最初からこれが切り札だ。最初に使ってもアンタを倒すには足りない、だから一撃で倒せるまでアンタの体力を削ればいい!」
逃げようとするアテナに剣と突きつけ、無理やり移動させないようにする。
「このままだと貴様も巻き沿いだぞ」
「問題ないさ、『混沌獣』の力で俺は耐熱に優れた生物の効果を体に宿す。一緒に太陽の炎を受けても弱点であるアンタの方が先に倒れる!さあ、一緒に日光浴とでもしゃれ込もうか!」
大きな翼を広げて地上に太陽の炎を纏った八咫烏は衝突。そこを中心に俺とアテナを巻き込んで太陽の炎の大爆発を引き起こした。