「アテナの権能による停電であちこちで交通事故などもありましたが犠牲者は無し。神無月さんの最後の一撃によって溶けたコンクリートは隕石が落ちてきて、停電も影響ということで片付けました。建造物などが壊されていないだけいつもより比較的、楽な事後処理でしたよ」
「ご苦労!あむ、このリンゴ旨いな」
甘粕さんがお見舞いにと持ってきたリンゴをリリアナが綺麗に一剥き。切りそろえたリンゴをフォークで突き刺してあ~んと食べさせてくれるリリアナ。
「……腕の調子はどうですか」
甲斐甲斐しく世話を焼くリリアナから肘から先がない俺の左腕に視線を移した。
八咫烏の材料とした左腕は本来なら元に戻るはずだったが、あまりにも火力を出し過ぎたせいで腕ごと灰となり帰らぬ腕となってしまった。カンピオーネの回復力をもってすれば千切れてた腕なら断面をくっつけておけば治るが、灰になった腕では流石に無理がある。現在は片腕無しの姿で学校に行くわけにも行かず、休みをとって家で『混沌獣』の力でトカゲと蛸の再生力を付加して文字通り生やすことで直すしかない。
片腕を無くして帰ってきた時の、リリアナと祐理の驚きようは凄まじかった。それにアテナも連れて帰ってきたことで大騒ぎでもあった。また、女が増えたとな。
「大丈夫だろ、生えてくるって。現に昨日より直ってるし」
昨日より少し伸びた左手を振って直っていることをアピールしておく。
「大丈夫です、主!腕が直るまで、私がお世話します!」
横でリンゴを乗せて皿を持ってお世話する宣言をするリリアナ。
キッチンでは、祐理とゴルゴネイオンが抜けて小さい姿になったエプロン姿のアテナが一緒に晩御飯の準備を一緒にしている。
最初こそ、アテナと距離が分からずよそよそしかったが、いまでは祐理もアテナと友達のように会話していた。
「まさか女神すら女としてかこうなんて……前代未聞ですよ」
「仕方ないだろ惚れちゃったんだ、リリアナに最初に会った時と同じ感じがしたんだよ。それに魔王なんだ好き勝手に生きるさ」
空いている右手でリリアナの頭に手を置いて撫でてやるとさらさらした銀髪が揺れ、気持ちよさそうに目を細める。指の間を流れていく銀線。
やっぱり戦いの後はのんびりしたくなる。
きっと彼女たちが神無月さんの逆鱗でしょうね、と仲良く生活している彼等を見て甘粕はそう思う。両親をまつろわぬ神に殺され、仇を取ることで図らずもカンピオーネとなり、リリアナさんを騎士として大人に頼らず一人で戦ってきた彼からすれば正史編纂委員会もあくまでもビジネスの関係でしかない。隠居して権力に胡坐をかいている老人たちが彼の力を欲して、周囲の誰かに手を出したならきっとと躊躇なく滅ぼされる。彼はそれくらいするだろう。
「ほんと、給料が見合わない仕事だ」
「ん?どうした」
「いえ、そろそろ大人はお暇しようかと」
「そっか、リンゴあんがとな」
「そういえば、エリカさんは?」
「エリカならイタリアで今回の一件の報告だよ。原因を作ったんだ最後まで仕事させるさ」
今回のアテナの一件は、エリカが持ってきたものだ。どうもイタリアでも無茶を押し通したらしく色々と大変らしい。何かあったら『獣群師団』に連絡入れれば上手くやってくれるだろう。
「お二人とも晩御飯、出来上がりましたよ」
リリアナの撫でてのんびりと平日なのに休みを堪能していると、キッチンから聞こえてくる祐理の声。
「神無月涼よ、味わうが良い、妾の手料理を!」
大皿に山盛りになった唐揚げを持って、昨夜との戦いとは打って変わってなんとも現代に馴染んだ女神アテナの姿がそこにはあった。
にしても初手料理が唐揚げってチョイスがなんとも。
@ @ @
数日して左腕は完治。
久々の学校は前と同じで男子陣からの嫉妬の視線が痛い。
エリカはいまだにイタリアで事後処理なので、俺はリリアナと祐理の三人で教室で昼食を取っている。
「あむ、流石は祐理の手料理、旨いな」
祐理から貰った卵焼きを味わう。砂糖が入っているのか僅かに甘く、それでいて出汁の風味が鼻を抜ける。
「主、こっちのほうれん草のおひたしも美味しいですよ」
あ~ん、と端で自分のほうれん草のおひたしを俺に食べさせようと近づけてくる。
「あ~ん、うん、旨い」
醤油を味と新鮮なほうれん草のおひたしに舌鼓を打っていると向かい側に座っている護堂が。
「一週間も休んだかと思えば元気だな」
「ああ、ちょっと神様と戦ったから回復に時間が掛かったんだ」
「っは!?いつだよ」
「少し前に電子機器系統が全部停止したろ、それがだよ。腕一本使ってトドメを刺したからな生やすのに時間掛ったんだ」
ご飯を口に放り込みながら護堂の質問に答えていく。
「結局、戦った女神アテナを自分の女として囲ったではありませんか」
左に座る祐理が頬を膨らませながらそう口にする。
「そう拗ねるなよ、今度デートでも付き合ってやるからさ、なんだったら最後までするか」
耳元で囁くと顔を真っ赤にして俯いてしまった祐理。リリアナとは何度も性行為をしてきたが、祐理とはキスで止まっている。いい加減、先に進みたいし、アテナの一件で祐理にも最低でも魔力のストックだけでもしておきたいということもある。こっちに関してはエリカも同様だ、その前にお仕置きを受けてもらわないといけないけどな。
学校を終えていつもなら真っ直ぐに家に帰るところ今日はデパートにやってきた。俺の家に住むことなったリリアナとアテナの使う食器やら個人用品を買うためだ、いつまでも客用の物を使わせておくわけにもいかない。
アテナは家に電話してデパートに行くことを伝え、迎えに行くと言うと一人で来れるというので待っていると本当にやってきた、スマホを片手にな。数日前に渡したスマホを存分に使いこなす現代に順応した女神様が誕生していた。
「随分と使いこなしているようで」
「うむ、このスマホというものは便利だ。特にゲームが面白いぞ!」
アプリゲームを起動して画面を俺に向けてくるアテナ。
画面にはアテナそっくりなキャラが剣と盾を持ってモンスターと戦っている。プレイヤー(都市守護神)VSモンスターというシュールな組み合わせに微妙な気持ちになりながら良かったな、と言っておく。
四人で食器が並べられている棚を物色していく。
「茶碗にも色んな種類があるのだな」
アテナは紫色の花が描かれた茶碗を持ち持ち上げて、好みにある茶碗を探していく。リリアナと祐理は二人で食器を探しに行き、俺はアテナを一人にするわけにも行かないので一緒に行動。
「好きなのでいいぞ、自分で使うもんだからな」
見つけては手に取って、また棚に戻すを繰り返すアテナ。どうも好みに合わなかったらしい。
「う~む、悩むな」
アテナが一人で悩んでいる間にリリアナと祐理も自分の茶碗と箸、コップを持って帰ってきた。
「戻りました、主」
「アテナ様は随分と悩まれているようですね」
二人は選んだ食器を俺が持つカゴの中に入れて、茶碗を片手に頭を悩ませているアテナを見て。
「神無月さんが決めて差し上げてはどうですか?」
「そうだな、それがいい。涼よ、お主が決めてくれ」
「そうだな……これなんてどうだ」
少し上の棚にあった紫色の猫と三日月のシルエットが描かれてシンプルな茶碗を手に取ってアテナに手渡した
「猫耳の帽子と同じ猫だし、なんかこれが良いかなって。どうだ?」
茶碗を受け取ったアテナは満足したのか、俺が持つカゴの中に茶碗を入れた。笑いながら俺の顔を見上げてくるアテナの頭を撫でるとアテナは気持ちよさそうに目を細め、猫のように手に頭を擦りつけてくる。
その後、アテナの茶碗はシリーズものらしく同じ柄が描かれた箸とコップを購入して、帰り道に入り口で見かけタコ焼き屋でたい焼きを買って食べながら家へと帰っていく。
「たい焼きとは中々、美味だな」
「そうですね、クリームもなかなか」
アテナは小倉、リリアナはクリーム注文してたい焼きにかぶり付く。祐理は食べ歩きするとご飯が食べられなくなると言って買わなかったが、やっぱり食べたそうにしていたので俺の食べかけのたい焼きを渡しておいた。
「あ、ありがとうございます、あむ」
顔を赤くしながら食べる祐理に、祐理の食べかけのたい焼きを見つめるアテナとリリアナ。
人が食べているたい焼きをそんな目で見なくてもよくね。
神殺し、女神、騎士、姫巫女という物騒な組み合わせで、学生らしい食べ歩きとお喋りをしながら帰る珍しい時間を過ごしながら家へと向かった。