※この作品はR-18です。

月が綺麗だから   作:観測者と語り部

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Sweet tone

 さくらの朝は非常に弱い。貧血に加えて低血圧気味なので、毎朝ぐっすり眠っている。

 

 最初のころは、俺を警戒して先に起きていたのだが、最近は安心してきたのかゆっくりと眠れているようだ。

 

 激しい情事と吸血行為が重なって、俺が昼まで起きれなくなるような事態でなければ、大抵は俺が先に起きる。

 

 だから、さくらの寝顔を見て、それから彼女を起こさないように布団から出て、朝食の準備と洗濯をする。お風呂の用意も忘れない。まあ、シャワーを浴びるだけだけど。

 

 あとは隣町?から送られてくる差出人不明の荷物を開封することくらいか。中身は食材やら料理やら。しかも、高級品。あとは見たこともないようなお酒。それからブランド物の女の子の下着に着替え、生理用品。各種錠剤。無針注射器。冷凍された血液パックと、とにかく生活に必要なものがいろいろと入っている。

 

 それを仕分けして、朝食の用意も一通り終わらせる。

 

 全ての準備が終わったら、さくらを起こしに掛かる。

 

「すーすー、えへへ」

 

 良かった今日は気持ちよさそうに眠ってる。たまに悲しい夢を見て泣いているから。そういう時は手を握って安心させるように、傍にいてあげる。それから、起きた時は思うように泣かせてあげないといけない。それから抱きしめてあげる。安心させてあげる。

 

 さくらは悲しいことや不安なことを抱え込んでしまうくらい優しくて、不器用だから。

 

 とりあえず身体を揺すってみる。

 

「んん……?」

 

 全然、起きる気配がない。頬をぷにぷにと触ってみても反応なし。物凄く気持ちよさそうな顔で眠っている。寝顔がとても可愛い。だけど、朝ごはんが冷めてしまうから早く起こさないといけない。ごはん、一緒に食べたいし。

 

 最初は、俺が出かけている間に一人でご飯を食べていることも多かった。それだけ距離感が離れていた証拠なんだろう。だけど、ひとりで食べるご飯は寂しいと思う。人の温もりを覚えているのなら尚更に。

 

 ひとりぼっちの寂しさは分かっているつもりだ。朝起きて急に俺の姿がなかったら、きっと彼女は不安になるだろう。ちゃんと顔を見せて、おはようって言って安心させてあげないといけない。

 

 このまま、寝かせてあげたい気持ちもあるけど、温かいごはんは待ってくれないのだ。申し訳なさを感じながら起こすことにした。

 

 とりあえず布団を引きはがす。夏の暑さからか、薄手のパジャマを着ていた。色は薄桃色。ちょっとした特注品で後ろの穴から尻尾が出しやすいようになっている。

 

 そして、幸せそうな顔がちょっとだけ悲しそうになった。何か、自分を包んでいた温もりがなくなって違和感を覚えているんだろう。でも、夏の朝は暖かいから。さくらを、そのまま寝かせるには充分で。彼女はまた、夢の世界に帰って行った。

 

 布団のシーツにしがみ付きながら、そのまま眠るさくらは、とても可愛い。狼の獣耳と尻尾が揺れている。何か幸せな夢を見ているんだろうか。くぅ~んって犬みたいに甘えた声を出しながら。そのまま深い眠りについてしまう。穏やかな寝息が聞こえてくるって。ちょっと待て。いやいやいや。起きて。起きて。

 

 直接揺さぶっても、なかなか起きない。

 

 手を水で濡らしてくる。

 

「つめたぁい……」

 

 けど、水で濡らした手で、水飛沫を飛ばしても起きない。ここまで来ると、本当に朝に弱いんだなと苦笑する。ほら、頑張って起きて。さくらの顔に優しく触れる。ほっぺをむにむにしてみても、気持ちよさそうに寝ていて、なかなか起きない。

 

「あむ……」

「あむあむ……ちゅうぅぅ……」

 

 そしたら指を甘噛みされた。ちょっとくすぐったい。そっと口元から手を放すと、名残惜しそうな顔をされた。そして、寝ぼけ眼をしたままちょっとだけ起きる。油断すると、また夢の世界に旅立ちそうなくらい。それくらい幸せそうな顔をしている。

 

 とりあえず、おはようと言ってみる。

 

「…………?」

「おはようございます……」

「さしつかえなければ……もうちょっとだけ眠りたいんですけど……」

 

 どこか夢見心地な目をしたまま、アイスブルーの瞳で俺を見つめてそう言った。目がしょぼしょぼしている。甘えるような表情で、とても幸せそうに言うものだから、思わず頷いてしまった。

 

「ありがとうございましゅ……」

 

 いや、違う違う。さくら。ほら、起きて。頑張って起きてくれ。美味しいご飯が待ってる。今なら温かくて美味しい血液飲料も付いてくるって力説しても、再び眠ってしまった彼女の耳には届かなかったようだ。

 

 仕方がない。あまりしたくはなかったが、別の手段をとることにする。

 

 とりあえず、さくらの獣耳を優しく引っ張った。

 

「やぁん……ひっぱんないで……やぁ……」

 

 起きない。まだ、寝ぼけている。あまり強く引っ張って痛くしたくないので、尻尾にターゲットを変更する。とりあえず、ぱたぱたと揺れている尻尾をさわさわする。

 

「んーー? えへへ……」

 

 尻尾が嬉しそうにぱたぱたと動くだけで、さくらは起きない。再び安心した様子で眠りに落ちていく。

 

 そのまま、さくらの傍に座って奮闘していたら、無意識に彼女が手を伸ばしてきたので、そのまま抱っこされてあげた。伸ばされた手が俺の首にしがみ付き、幸せそうに抱き着いて離れない。感情表現豊かな尻尾が嬉しそうに揺れる。耳もふにゃりと垂れ下がる。

 

 そのまま背中を優しく撫でて、幼子をあやす様にしていると。ふいにさくらの獣耳がぴんと跳ね上がったらしい。さくらからは見えないであろう尻尾もまっすぐに硬直して、驚いたように固まる。

 

「あ、あの……」

「おはようございます……?」

 

 今度こそ本当に目が覚めたみたいだ。声がはっきりしているし、俺を抱きしめている手が、ぎゅっと服を掴んで、力が込められる。

 

「どうして、こんなことに……?」

 

 まだ、状況が呑み込めてないのだろうか。

 とりあえず、おはようと言ってみれば、もう一度おはようございますと返された。そのまま抱き上げたまま、リビングまで連れて行く。

 

「あの、恥ずかしい、です……」

 

 大丈夫。誰も見ていない。

 

 どうせ、家には俺とさくらしかいないんだし、まあ、起こしに来た俺の役得だと思って、されるがままになっていて、と告げれば。小さな声で、はい。と返事をされた。本当に恥ずかしいんだろう。でも、背中越しに見えるさくらの尻尾は、本人の意思とは裏腹に左右に揺れているから実は満更でもないらしい。

 

 ちなみに、さくらのはい、という返事には、いろいろな感情が含まれている。嬉しそうな時には、はいのイントネーションが高くなるし、逆に不安だとか悲しそうなときには、はい、の声が小さくなるし、声も震えてしまう。

 

 今日のはい、は少しだけ機嫌がよさそうだ。

 

 そのままリビングの食堂で座布団に座らせて、用意しておいた暖かい濡れタオルを渡してあげた。さくらは恥ずかしそうに黙り込んだまま、渡されたタオルで顔を拭き始める。

それから二人で手を洗って朝食。

 

「………」

 

 会話はあまりない。テレビの電源も付いておらず、食事の音だけが小さく響いていた。

 

 二人だけの静かな時間。俺も喋るのは苦手だし、さくらもあまり喋るのが得意ではないので、珍しいことではない。ただ、温かい料理の味だけが、心を満たしていく。お腹が空いて頭も回らない身体に活力が満ちていく。

 

 今日の料理もやっぱり美味しい。舌が鼓舞を打つ。どこか暖かい家庭を思わせる味だった。あとで作り置きをしてくれた古本屋の娘さんにお礼を言わないといけない。

 

 やがて、食べ終わった料理の食器を片づけて、俺はそれを全部洗ってしまう。その間、さくらには食休みをしていてもらっていた。彼女のメインディッシュは食事の後。いつもの料理は彼女にとって前菜に過ぎない。

 

 着ていたエプロンを畳んで、手を洗う。ウェットティッシュで首元を拭う。それから俺はソファに座ってワイシャッツのボタンを外して、胸元を広げた。

 

 薄桃色のパジャマを着たさくらが、俺の膝の上に跨った。

 

 しばし、見つめあう。アイスブルーの瞳が相変わらず綺麗だった。だけど、俺を見つめる彼女の顔は、申し訳なさそうで。だから、そんなこと気にしなくていいと伝えるように優しく抱きしめた。背中をさすってあげて、あやしてあげる。彼女のすべてを受け入れるように。決して拒絶したりはしないように。

 

 さくらは、しばらく俺にしがみついて、胸に顔を埋めた。心臓の音を聞こうとするように。安心しようとするように。

 

 そして顔を上げたさくらは、意を決したようにゆっくりと俺の首筋に、その唇を近づけた。

 

「ん、かぷ……」

「ちゅう……んぐ、んぅ」

 

 小さな舌が首筋を這う。桜色の唇が肌に吸い付く。それから小さく鋭い痛み。ゆっくりと血が吸われていくのを感じる。俺の身体から命の源を与えられ、彼女はそれを糧にして飲み込んでいく。

 

 途端に背筋を駆け巡る快感に頭が真っ白になっていく。ズボンの中に隠されたモノが、急速に膨れ上がっていく。膝の上にさくらを乗せて密着しているから、さくらの柔らかな感触が直に伝わってきて。尚更に膨張していくのを止められない。

 

 さくらの腕が背中に回される。しがみついてきて、お互いに密着する。背中に回された手が、安心させるように優しくさすってくれる。俺がいつも彼女にそうしているみたいに優しく撫でてくれる。

 

 俺も寄り掛かってくる、さくらの体重を支える。

 

 最近は貧血になるまで血を吸われることもなくなってきた。食事の後に定期的に少量の血を分け与えるだけで充分らしい。おやつ感覚で指先から血を吸われることもある。そして、俺の血は美味しいらしかった。味が濃くて、飲んでいると惚けそうで、とっても満たされるらしい。

 

 それはいいのだが、血を吸われているときに膨れ上がる性的興奮はどうしても止められない。もう、本能みたいなもので、血を吸われた瞬間に頭が快楽と快感でいっぱいになってしまう。心臓がどきどきして頭が興奮してきて、背筋がぞくぞくする。癖になって、何度でも血を吸ってもらいたいと思うほどに。

 

「ん、ふぅ……」

 

 血が吸い終わると、再び舌で首筋を念入りに舐めとられる。夜の一族の唾液には殺菌効果と血液凝固を促進する効果があるので、血を吸い終わったときは、必ずこうする。

 

 そして、さくらの顔がゆっくりと首筋から離れていった。桜色の髪からはとてもいい匂いがしていて、思わず酔ってしまいそうになる。お互いに見詰め合う。

 

「……ごちそうさま」

「……いつも、ありがとう」

 

 さくらが恥ずかしそうに言う。だけど、顔は逸らさない。アイスブルーの瞳が潤んでいる。初めて繋がって、哀願されたあの日の夜のように。どこか恥ずかしそうにしている。

 

 俺もさくらから顔が離せない。彼女の綺麗な白い肌は、とてもわかりやすく紅潮している。うっすらと赤く染まった頬は、とても恥ずかしそうで可愛らしい。

 

 心臓が頭の中で煩く鳴り響いている。お互いの心臓の音が今にも聞こえてきそうだった。ドクンっ、ドクンっと激しく脈打って、運動したわけでもないのに、身体が熱くなってしまう。あの日の感覚を思い出す。肌を重ねて互いに交わった日の光景が脳裏に蘇る。その快感と絶頂感を思い出すだけで、理性がどうにかなりそうだった。

 

 思わず、さくらを押し倒してしまわないように我慢する。

 

 なのに、彼女はこういうのだ。

 

「……あの」

「あなたのことを、もっと感じていたいんです」

 

 ささやくように。哀願するように。

 

「だから、また。わたしのこと、愛してください」

 

 だから、我慢できなくて。

 

「むぐ……ちゅむ、ふぁぁ……」

 

 お互いを貪るような激しいキス。舌と舌が絡み合う。

 口の中が熱い。抱きしめ合った身体も、重ねあった肌と肌も。全部が熱い。

 

 吸血行為の後の激しい性的興奮が最高潮まで高まっていく。自分が何をしているのか分からなくなりそうだ。頭の中から理性が飛んでいく。

 

 俺は何もかも忘れて、さくらを抱きしめた。そうして激しいキスをしたまま、お互いに快楽に溺れていった。

 

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