はいはい、お薬出しておきますねー。 作:ぬらぬら棒
よく屋上で大量のシーツを干す病院をイメージする人もいるかもしれないが、現実は結構異なっている。
大病院は全てクリーニングに出すし、小さい診療所ならそもそも大量に洗濯する程の量は出ない。
とはいえ、大病院でもなければ診療所ほど小さくない、しかも、ちょうど街と集落の間に立地する中途半端な規模の病院であればそうもいかない。
そんな病院に一人、男が屋上にいた。
常夏のそよ風になびく白衣が、彼を医師であることを主張していた。
男は手に持つ紙パックのジュースを一気に飲み干す。やけに口ざわりがどろっとしている野菜ジュースは、空虚な胃袋に染み渡るのを感じながら身を翻した。
短い昼休憩を名残惜しみながら、男は白いシーツの森に身を投じる。現実味のない光景だが、男の周りで起きていることは泣きたくなるくらいに現実であった。
「ほ〜らぁ♡♡ おしっこするときはこの容器にするのよ、ボク♡ きちっとお皮を剥いて、狙いを定めて、ほら♡ 3……2……1、ゼロ……ゼロ……ゼロッ……!!」
「ああっ! そんなに優しくムキムキされたら、白いおしっこ出るの! 冷たい尿瓶の膣内に出ちゃう! お姉さん、もう駄目! 尿瓶に赤ちゃんできちゃうのおおおおお!」
何やら森の妖精たちが悦びの舞いをしているが──────泣きたくなるくらいに現実だった。
◆◆◆
青藍島。
この離島ではドスケベ条例が適用されている。
条例の内容は単純───島中どこでもドスケベ変態セックスができる、ただそれだけ。
青少年保護団体が助走をつけて悪質なタックルをしてもおかしくない条例だが、そんな条例が敷かれる島民もドスケベ脳ばかり。
道を歩けば性器たちが勃ち並び、絡み合う体はよがり狂い、道には散らばったヌルっとした液体が常夏の日光を乱反射させる。
「おほぉぉ♡♡ そんなに車間距離詰められたらぁ♡♡ らめっ♡♡ 焦っちゃうのぉ♡♡ 法定速度が守れなくなりゅうううううう♡♡♡」
「うるせぇ何が若葉マークだ! ビクビクしながらペダル踏んでるうちは車道にデるんじゃねぇよ! お前がウィンカー出すより先に膣内に出してやるからさっさと前にイケよ孕めオラァ!」
今日も初心者ドライバー女子とあおり運転系男子が愛車たちを路チュウ♡させながら元気に性活している様子を無視し、そっと診察室の窓を閉めた。
一息ついて机の上の問診票に目を向けた。
───何を隠そう、私は医師である。
昔、スポーツ選手でそこそこ活躍し、怪我が原因で泣く泣く引退したのだが、それも過去の話。
今は苦心の末、外科医として現役時代の経験を活かしながら日々医療に従事できている。
そして、現役時代に世話になった主治医から紹介された病院に雇われ、現在に至るわけだ。
はじめは幸せだった。
なにせ、物心つく前から一緒にやっていたスポーツの道を絶たれ、後もない中がむしゃらに進み続けて八年。
いい年した男が雇われる保証もない中、やっと念願の職に就けたのだから。
「次の方ー」
「はーい! よろしくお願いしまーす!」
今?
もちろん、かつての主治医に全力で張り手してやりたい気分だが何か───?
入室してきたのは水乃月学園の制服を着た女の子だった。
……早速嫌な予感しかしないが、まずは問診を始めることに。
「今日はどうされました?」
「あのー、実は昨日ぉ、二階のベランダから飛び降りて下にあるチンポに挿入るか試してみたんですけどぉ」
「危険なので二度とやらないでくださいね」
耳を塞ぎたい気持ちになるのをぐっと堪える。
そう。なぜなら、患者は青藍島の島民。
当然、案件は
「あっ、ちゃんと根本まで挿入りましたしぃ、安全対策として下にしっかりマットを敷いてたんですよぉ」
「結果は心底どうでもいいですけど……では、どこを怪我したんですか?」
「でもぉ、マットに流していたローションの滑りが良すぎてぇ」
「そっちのマットとは驚いた。安全対策の意味とは一体」
まあ要するに、マットとローションの組み合わせのせいで上手く着地できずに腰を痛めてしまったとのことだった。
繰り返しになるが、絶対に真似しないでほしい。
「はいはい、じゃあ湿布出しておきますねー」
「ぶー! そんな湿布だけ出して診察料取るようなアテにできない外科医みたいな真似しないでくださいー!」
くっ、さっさと終わらせたいのに妙にこっちが傷つく言い方して留めてくる……。
「ほらほらぁ、もっとちゃんと診てくださいよぉ……そのぶっとくてカチカチになってる指で腰と……あっ♡ ついでにお股の触診をお願いしますぅ♡」
「産婦人科はこちらじゃないですよ。それに腰を痛めてるのにドスケベセックスなんてしたら余計悪化しますから」
「まあまあ♡ 実は私、先生の種──────」
「ええい! 当て身!」
埒が明かないので、カチカチらしい指で握り拳を作り、軽く痴女の腹に叩き込んだ。
……ここの島民は診察室とベッドがあればこんな風に迫ってくるのだ。
力負けはしないが、これで数十分も時間を取られて、本当の患者(頭の病気は除く)の診察ができないのは医師として失格だ。
「きゅう」
「よし」
であれば───やはりこの手に限る。
ばたりと気絶してしまった少女。
体に痕がついていないことを確認し、患部に湿布を張り、診察室から叩き出した。
あとは外の看護師に任せよう。
「……ここに来てからずっとこんなのばっかだな」
椅子の背もたれに深く腰をかけると、キチキチと苦しそうな音がした。
現状を憂いていると、今度はうちの病院の看護師が入ってきた。
「先生、あの方の診察は終わりですか?」
「はい。申し訳ないんですけど、後はお願いします」
「わかりました……それにしても、結構なお手並みですね」
ニコニコと笑う看護師に、隠さず苦笑いを浮かべる。
残念ながら、彼女もここの島民だ。
絶対に変な方向に勘違いしている。
「言っておきますけど、私はただ問診しただけですよ」
「またまたぁ、ご冗談を。先生の手腕は島中で有名になってきてるんですよ?」
手腕──────腹パンが?
とは思ったが、まさかそれは無いだろう、と改めて己の行動を振り返る。
島民に対する私の診察は大体あんな感じだ。
で、患者が気がついたら湿布と、愛液が乾いた股下、そして当て身による下腹部への痛み。
女───否、このドスケベ条例に毒された島の女ならどう考える?
「よっ、青藍島の『種付けおじさん』!!」
「誠に遺憾である」
どうしてそうなった。
理由もあって、この島に来てから
「いや〜、私も頑張って気絶した患者さんの太ももに“正”の字をマジックで書いたり、おまんこの周りに愛用の片栗粉液を塗りたくった後でそこら辺の土手に捨ててきた甲斐がありましたよ〜」
「八割方アンタのせいじゃねぇか!!!」
「まあまあ、そのおかげでこうして都市部の大病院に負けず集客できているんですからいいじゃないですか〜」
いや確かに事実なんだが、お前は医療をなんだと思っているんだ。
心の底から糾弾したい気分だった。
「そ・れ・に♡」
やたら色っぽく言ってきたが、私の目は収集車に飲み込まれるゴミクズを見る目から変わることはない。しかし、彼女が口走った言葉を看過することはできなかった。
「元力士のガタイで、仕事で汗水垂らしている姿は
「───」
さっきの患者さんも、それ目当てで来たんですから〜、と容赦ないトドメも添えられた。
…………黙って、立ててある鏡に顔を向ける。
昔やってたスポーツ───相撲から引退し、大分減量したがでっぷりとした容貌。
汗っかきな体質なせいで、額に浮かぶ脂汗。
相撲と決別する意味も込めて、髷を含めた髪を全て剃りあげたスキンヘッド。
──────そこには、“いかにも”な“種付けプレスおじさん”がいた。
「ただいま戻りました。すぐに着替えてお手伝いしま……先生? どうかされましたでしょうか?」
「おかえり文乃。私、ちょっと心折れたから今日はもう早退しようと思う」
「あっ、すみませんすみません〜! ちょっと言い過ぎました〜! おっぱい揉ませてあげますから、まだ予約が一杯なので帰らないでください先生〜!」
「????」
心を深く傷つけられた私と、意味深に慰めようとする看護師。
その様子に、訳あって預かっている少女──────琴寄文乃はただただ首を傾げることしかできなかった。
原作キャラが文乃しか出てない……すまない……。
・先生
本島から来た外科医。
元力士でスキンヘッドなので、外見がまさに種付けプレスおじさん。
・看護師
島民。片栗粉神拳の使い手。
・琴寄文乃
むべむべ。
・水乃月学園の女生徒
得意な体位は騎乗位。
抜きゲーみたいな島に住んでる
続いてたまるか。