暗闇の中、疾走している二つの影が見える。
一人は人間、一人は魔族だ。
「はっ!」
そんな掛け声と共に人間が幅二cm、厚さ一cm、長さ二十cmあるクナイのようなものを追いかけてくる魔族に投げた。
暗闇のなか飛んでくる物体を難なく弾き、魔族は追撃を止めない。
そうして逃走している人間の耳に声が聞こえた。
「伏せなさい!」
その声に反応し、とっさに伏せた次の瞬間、業火が人間の頭上を過ぎ去り、その業火は魔族に当たり、魔族が苦しみの声をあげる。
「ぐぅぅぅぅぅ!!!」
肉の焼ける臭いが辺りに充満し、その業火の威力を物語っていた。
「魔王様・・・万歳・・・」
魔族はそんな言葉を呟きながら死に絶えた。
「大丈夫だった?」
「助けていただきありがとうございます」
「えぇ、どうも」
二人が挨拶を交わした瞬間、雲の隙間から月光が差し込み、今まで暗闇で見えなかった、大きなつり目に、強い意思を灯した瞳を持った顔が露になった。
「あなたはっ!」
「お嬢様っ!」
退魔師を助けたものは星宮 紅葉。
助けられた退魔師は、柳 美夜。
二人は再会を果たしたのだ。
紅葉の案内のもと、美夜は紅葉が拠点としているホテルに訪れた。
紅葉のとっていた部屋は、普通のホテルの内装で、一人用の部屋だ。
「生きていたのね。美夜」
「はい。命からがら逃げ切れまして・・・」
紅葉はホテルの部屋に入った瞬間、少し背伸びして美夜に抱きついた。
紅葉のツインテールにしている美しい赤髪が、肩にかかり美夜の頬をくすぐり、美夜よりも小さな胸が美夜に押し付けられている。
五秒ほど抱きついた後、二人は離れ、二人は見つめ合った。
紅葉は、キリッとした眉に、強い意思の灯った瞳が印象的な美少女で、常に冷静そうな顔をしており、人によっては少しの畏怖を与える顔つきだ。
今、戦闘時に着ていた服は脱ぎ、部屋には空調が聞いているので、過ごしやすいシャツを着て、ショートパンツを履いている。
シャツからは、標準的なバストと紅葉の美しい流線美がくっきりと浮かび、露になっている太ももは、みずみずししくとても健康そうだ。
紅葉と美夜は幼馴染みである。
美夜は星宮家の分家の生まれで、幼い頃から本家の星宮家の人間に仕えるための教育をされ、同じ年齢と言うこともあり、紅葉に仕えることとなった。
「戦場であなたが捕まったのを見て、もう会えないかと思った」
美夜が魔族との戦闘中に捕縛され、紅葉は美夜と会えないと覚悟していた。
「はい。私も永遠に会うことはできないのだと・・・。しかし、警備が思ったよりも甘かったので、脱走し、情報を集めて参りました」
「その話に興味はあるけど、まずは食事にしましょ。せっかく生きて会えたんだから」
「・・・そうですね。一ヶ月ぶりにちゃんとした食事がしたいです」
美夜はこういっているが、彼女が洗脳されてからの食事などは普段生活していたときと変わってはいなかった。
紅葉が立ち、部屋に備え付けてあった電話を手にした。
「ルームサービスをお願いします」
紅葉は美夜が好きだった食事を次々注文していく。
さすがに量が多くなってきたので美夜は止めにはいる。
「お嬢様。さすがにそれ以上は・・・」
「あっ!そうね。・・・すみません、五品目と六品目はキャンセルで」
紅葉が注文した後、食事は数十分で届き、二人で届いた料理を食べた。
その後、今日は疲れているから明日は話そうということになり、ベッドが一つしかなかったので二人は同じベッドで眠りについた。
・・・朝
「おはようございます。お嬢様」
「ん・・・。おはよ~」
紅葉は目を眠たそうにしながら、美夜に挨拶を返した。
(お嬢様は変わりませんね。・・・早く魔族になってもらわなくては)
美夜は昨日のうちに確認していた紅葉の洋服等を用意し、ルームサービスで朝食を頼んだ。
「ふぅ、ごちそうさま。相変わらずの手際ね。あなたがいない間、生活が大変だったのよ。・・・それで情報は」
紅葉の目は爛々と輝き、身を少しのりだし、美夜に情報聞いてくる。
「はい。私が入手した情報によりますと・・・。地図はありますか?」
「えぇっと。・・・はい」
紅葉は、部屋に備え付けてあったタンスから地図を取り出した。
地図には様々な印がついており、誘導地点には×が書いてあった。
「ここで敵の兵器が開発されているそうです」
「この廃工場は数年前に壊滅されているはずよ」
「はい。しかし、地下施設が生きていたようで、新兵器の開発が進められています」
「なるほどね。他の退魔師達の目から逃れてきたこの施設を破壊すれば大きな手柄になるわね」
「どうやら他の施設の人員が足りないらしく、警備もさほどされていないようです」
「それは好都合ね。・・・よしっ!そこを襲撃しましょう」
「退魔師協会への連絡は?」
「もちろんしないわ。・・・いいわよね?」
「お嬢様の御心のままに・・・」
美夜はそう言って、深々とお辞儀をした。
しかし、その伏せられた顔の表情は歓喜に満ち溢れ、また、淫靡なものだった。
出発は二日後に決まり、それまでに入念に準備を開始した。
武器の補充や、戦闘の連携に特に力をいれた。
長年二人で戦ってきたもの同士の連携は一つの芸術のようなもので、その連携に隙はなかった。
そうして、二日後が訪れ、ホテルを出発した。
移動にはバスを使い、廃工場の近くで降り、そこからは徒歩で向かった。
それから二時間ほどで、目的地にたどり着いた。
「ここね。・・・魔族の気配がするわね」
「お嬢様。あそこに・・・」
「魔族ね。これは大手柄になりそうだわ。準備はいい?」
「お嬢様。一度周辺を二手に別れて探索しませんか?万が一のために」
美夜の提案に同意した紅葉は、左側を散策し、美夜は左を散策した。
その途中で美夜はスマホを取り出し、連絡し始めた。
連絡相手は美琴だ。
「美琴様。お嬢様の誘導に成功しました」
「そう。ここの魔族たちは事情を知らないから全力で反撃するわ。注意しなさい」
「何も事情を知らない同族を殺すのは・・・」
「私もさすがにそんなことしないわ。そこのやつらは魔王様に嫌々仕えている屑どもよ」
「なるほど。わかりました」
「誘導ルートは頭の中に入っているわね」
「もちろんです」
「よろしい。・・・作戦の開始を許可します」
「了解」
美夜はスマホを切り、別れた場所に向かった。
そこには既に紅葉がいた。
紅葉は手に少し大きな石を手に持っていた。
「お嬢様。それは・・・」
「結界の要石よ。一応の対策はしていたみたいね。これじゃあ、下級魔族は寄り付かせないけど、上級魔族なら容易に突破できるわ」
魔族が退魔師を階級分けするように、退魔師達も魔族を分類していた。
しかし、その括りは大雑把なもので、下級魔族、上級魔族、特級魔族の三種しかない。
簡単にいうと、下級魔族は退魔師のC、D級が相手にできる、上級魔族はB、A級が相手にできる、特級魔族は特A、S級が相手にできる。
E級はサポート要員であり、魔族に対抗する力はない。
「さて、どこから入りましょうか」
「ここの設計図を潜入していた時に見たので、私に任せてくれませんか?」
「そう?じゃあ、頼むわ」
「では・・・。こちらです」
美夜の案内のもと、紅葉は廃工場に潜入した。
「見張りがいるわね」
「・・・殺りますか」
「そうね」
紅葉の了承を得た、美夜はクナイを手にとりジャンプした。
そして、空中で一回転をし、天井に張り付いた。
見張りのいる場所まで忍んで行き、少し通り過ぎたところで、静かに地面に着地し、魔族の背後に気配をなくし、立ち、断末魔を響かせないように口を抑え、首筋にクナイは刺した。
「ぐむむ・・・」
道にいる魔族を次から次へと殺していき、ついに地下の通路に到着した。
「ここです」
地面に巧妙に隠されていた突起物ある。
それを二人で力を合わせ、石でできた大きな扉を持ち上げた。
「何人か出入りした痕があるわ。・・・それに強い魔族の気配も」
あまりの警備の少なさに怪しんでいた紅葉はここで、気を引き締めた。
「ここからは私が先頭をいく」
「はい」
紅葉を先頭にし、地下に足を進めた。
そうして、数分歩いていると、後ろから叫び声が聞こえた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「美夜!!!」
紅葉が美夜の叫び声を聞き、咄嗟に後ろを振り向くと、美夜の両手、両足が触手に捕まれ、かなりの勢いで引っ張られていた。
「美夜!!今助けるわ」
「来てはダメです!!!」
「何言ってるの!!」
紅葉は美夜を助けるべ、引っ張られていた美夜を追いかけた。
(後少しっ!!!)
美夜の手をつかめるほどまで迫った瞬間。
バリバリバリバリバリ!!!!
紅葉の全身に電流が走った!!
「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぁあああぁぁぁぁ!!!!」
いつも冷静な顔が痛みで顔を歪め、目を見開き、全身がガクガクと痙攣させ、いつものきれいな声ではなく叫び声をあげている。
数十秒、電流を流され、その電流が流れ終わると、紅葉は膝を着き、地面に倒れ込み、その体をビクビクと震わせている。
「お嬢様。だから来てはダメといったではないですか」
朦朧とする意識のなか、そんな美夜の声が響いた。
「お嬢様。安心して眠ってください。気持ちよくしてもらって、頭空っぽにして、魔族に忠誠を誓いましょう」
美夜の表情は満面の笑みであり、その顔をみて、紅葉は思った。
美夜が裏切っていたっ!
その事実に気づき、立ち上がろうとしたが、力が入らず、紅葉の意識は暗闇に飲まれていった。