「逢見家が壊滅した・・・か」
一人の女性が自室で新聞を見ていた。
彼女の名前は氷室 澪(ひむろ みお)。
強者の雰囲気を纏っている女性であり、その戦闘力を認められ、ただ一人、他に家族や門下生を持たない、恐らく一代限りの八桜花だ。
戦闘方法は自身の保有する莫大な対魔力を無数の光球にし、自身の周囲に浮かせ、それを魔族に当て、討伐していくという方法だ。
その莫大な対魔力の保有量は一般的な対魔師のおよそ10倍と言われており、使い切れば充電期間が必要だ。
また自身の剣技も合わさり、彼女が前線に出たときにはその被害は恐ろしく、”壊滅家”の異名の持ち主だ。
年齢は25歳で、対魔稼業で生計を立てている。
「やはりその程度だったか」
澪は逢見家が壊滅した記事が書かれた新聞をたたみ、コーヒーを飲みながらそう呟いた。
そして着替えるために寝室へ向かい、白いブラウスとジーンズを着用した。
澪は身長は高く170cm程あり、胸もふくよかで四肢もスラッとしており、とてもスタイルがいい。
つり目がちな目付きと長い睫毛に細い眉、全てが彼女に落ち着いた感じを与えている。
深海を思わせる深い蒼色の髪は、腰の所から自然にU字のように別れ、膝に届く程長い。
「さて、行くか」
準備を終えた澪は靴を履き、外出した。
目的地は八桜花会議がある、空見家。
バスで30分程、徒歩10分で空見家に着くと、空見家周辺は厳重警戒されていた。
空見家は高い塀に囲まれており、星宮家、更級家より敷地は広い。
澪は入り口である大きな門へ近づき、門の両脇に待機している黒服の男達に声をかけた。
「氷室だ」
「ようこそ、氷室様。皆様すでに揃っております」
「そうか」
門は開かれ、澪は敷地の中へ入っていった。
空見家は1000年前から現代になるまで八桜花であった歴史ある家で、代々引き継がれてきた武器が納められている武器庫や多くの門下生を指導する道場、母屋、八桜花会議で使われる会議場など、様々な施設があった。
「遅かったわね」
感情の籠っていない冷淡な声が聞こえた。
「そうか?時間通りだが」
その声の主に何もなかったような感じで返事をする。
「10分前には集まりなさい」
見下したような目付きで澪を見る女性は岩見 結(いわみ むすび)。
対魔八桜花の一柱、岩見家の当主であり、年齢は25歳と澪と同い年だ。
彼女は顔つきは美少女のそれであるが、三白眼の鋭い目付きが特徴的であり、もしかしたら目のせいなのかなと思える程見下しているように見えるが、本当に他人を見下しているのである。
身長は165cm程で、体型は痩せ型で胸もAカップと貧乳である。
髪は黒で、サイドの髪をしっかりまとめて耳を見せているハーフアップにしている。
肌は病的にまで白いが、病気の類いを患っているわけではない。
岩見家は代々空見家を守り、仕える家系であり、空見家と同等の歴史を持っている。
そんな家で育ったためか、背筋はピンっと伸びており、所作も丁寧だ。
「いいからささっと入らせろ」
「はぁ、野蛮ね」
二人は犬猿の仲で、今にも喧嘩をしそうな感じだ。
「なにやってるの?結」
扉の前にいる二人の間に、会議室の中からひょっこりと少女が顔を見せた。
「まぁ、いらっしゃい。澪さん。また喧嘩していたの?結」
そう問われた結は戸惑いながら否定する。
「い・・・いえ」
「もうっ!ごめんなさいね、いつも」
少女は困ったように可愛らしく謝る。
「いや、いつも楽しくさせてもらっている」
「本当にごめんね。さぁ、中に入って」
澪は会議室の中に入り、少女と結が二人扉の前に立っている。
「本当に結は澪さんが嫌いなのね」
「すみません、夢様。ですが、生理的に受け付けることができないのです」
少女の名前は空見 夢(そらみ ゆめ)。
彼女こそが結が仕えるべき、空見家の当主である。
年齢は25歳であるが、小柄で何処か子供っぽい雰囲気が感じられる。
体型で言えば15歳と言われても分からない程で、胸もそれくらいに見える。
髪は黒髪で、長さは首ほどしかないが、1房だけ腰に届くほどに長い。
空見家の長女は代々、対魔力の力で未来を予知ができる能力がある。
そして、発言力を高めるために当主になるのが習わしで、予知を知らせる役目を担っているが、空見家の当主は所謂おかざりで、結婚は両親が決めた者としかできず、自由も少ない。
「仲良くしろとは言わないけど、喧嘩だけは止めてね」
「はい」
「よろしい。さぁ、全員揃ったわ。中に入りましょう」
二人は会議室に入って行った。
会議室の中には円卓があり、二人は指定の席に座った。
これで全滅した逢見家と欠席している皇(すめらぎ)家以外の対魔八桜花が全員揃ったことになる。
星宮家からは当主八重の名代として紅葉。
更級家からは当主である愛梨。
影見家からは次期当主である雪。
氷室家からは戦闘能力だけで八桜花に任命された澪。
空見家からは当主であり主催者である夢。
岩見家からは当主の名代として、夢の護衛として結。
「皇家は毎回のことながら欠席です」
「そう。やっぱりね」
結からの報告に夢は嘆息する。
皇家は八桜花を発足した家で、その歴史はとてつもなく長い。
近年は姿を全く見せず、時々手紙が届くくらいだ。
「では、会議を始めます。議題は私が昨日感じ取った予知です。内容はこうです。太陽は沈み始め、闇が迫っている。警戒せよ。終わりの時は刻々と近づいている。これが予知の内容です。皆さん、どう思いますか?」
夢がそう問い掛けると、紅葉が発言する。
「闇というのが魔族だということは分かりますね」
「私もそう思います」
紅葉の言葉に夢はもちろん、全員が頷く。
「この太陽が沈み始めというのは、私たち対魔師のことだろうな」
「そうだとしても沈み始めているというのが腑に落ちません。私たちは後退はしていません」
澪の発言に愛梨がそう反論する。
「でも、確かに沈み始めという文からは、負け始めているという内容が読み取れる。何処か負け始めているの」
「そのような報告は入ってきておりません。むしろ少しずつであるが押しているという報告があります」
雪が何処かの戦線が負け始めているのか、というのを結に聞くが、結はそれを否定する。
「これはひとまず置いておきますか。この終わりの時というのは人類の全滅のことだと思うのですが」
「恐らくそうだろう。この予知を分かりやすく言うとこうだろうな。何かしら対魔師の不安要素があり、そこを魔族が攻めようとしている。警戒しろ。人類絶滅の危機は刻々と近づいている」
夢が仮説を話すと、澪がそれを肯定し、今まで出た仮説から予知を解読してみた。
「その通りだと思います」
「私も同じです」
「さすが澪さんね」
紅葉、愛梨、雪は澪の解読した文が合っていると言うが、夢と結だけはあまりいい顔はしていなかった。
「やはり、太陽が沈み始めという文がしっくり来ないですね。まぁ、これ以上議論しても進展は無さそうですね。各々警戒をしてくださいい。もしかしたらこの太陽というのが私たち、八桜花かもしれませんから。では次の議題に進みましょう」
夢はそのまま次の議題へと移り、八桜花は議論をしていく。
そして、会議が終わったのは昼ごろだった。
「対魔師協会からの報告は以上です。では、これで解散とします。澪さんは残ってください」
そうして八桜花会議は終わり、澪だけが会議室にとどまった。
「それで、何の用だ」
「実は一つだけ不安要素があるのです」
「何?」
夢は部屋の隅にあった地図を広げ、澪に説明する。
「この場所で茉莉花さんが対魔師達を殺しているそうです」
「茉莉花というと逢見家の奴か。生きていたのか。いや、それよりも対魔師を殺しているだと?」
「はい」
夢は手に持っていた写真を澪に見せる。
「何だ?いかがわしい鎧を着ているな」
その写真には茉莉花、というかフェンリルが写っており、対魔力を吸う鎧は露出が多く、澪にそう言われても仕方がなかった。
「澪さん、あなたにはこの場所に行って、調査をしてもらいたいのです」
「いいだろう。丁度、用があったところだ」
「用ですか?」
「ああ。ここに私の宿敵が出没しているらしい。この後、行くつもりだったのだ。ついでにそいつの姿も探してこよう」
「ええ。お願いします」
澪が会議室を出ていくと、入れ替わるように結が入ってきた。
「あいつで大丈夫でしょうか」
「彼女の実力は結も知っているでしょ。大丈夫。いつものように帰ってくるわよ」
「別にあいつの心配をしたのではありません」
「そう言うことにしておくわ」
「本当ですよ」
二人は楽しく会話を続ける。
一方、澪は宿敵出没する前線に向かっていた。
「ここか。何故誰もいない」
そこはゴツゴツとした岩場しかない荒れた大地だった。
普段は魔族や対魔師が戦っている場所なのに何故か誰もおらず、その事に不信感を持った澪は警戒するように辺りを見渡すと、極小さいが岩影に気配を感じた。
「そこか」
澪は光球を作り出し、気配を感じた場所に撃ち込んだ。
光球が着地すると大きな爆発が起きる。
「流石だな。あれだけ巧妙に気配を消していたのによく気づいたな」
爆発により起きた粉塵の中からある魔族が姿を見せる。
「まだまだ爪が甘かったな、ジュシカ」
澪の宿敵とはジュシカのことで、二人は何の因果か、お互いが前線に出る度に戦い、そして引き分けてきた相手だった。
「軽く小手調べといくか」
澪は高速でジュシカに近づき、腰から抜いた剣を横に薙ぐ。
その攻撃をジュシカは難なく受け止め、反撃する。
「ふっ」
澪は軽く避け、後退するが、後ろにはフェンリルが音もなく忍び寄っていた。
「なっ!いつの間にっ」
澪は何とかフェンリルを避け、二人から離れた。
(ジュシカの方が囮だったか。しかし・・・)
「お前変わったな。前のお前だったらこんな連携はしてこなかった」
澪のその言葉にジュシカは嘲るように笑う。
「前までの私は何も分かっていなかった。だが今は違う。淫魔王様のために私は全てを捧げたのだ。行くぞ、フェンリル。澪を捕獲するぞ」
「了解。あぁ、楽しみだわ」
二人は連携して澪を攻める。
「いいだろう。二人纏めて相手してやる」
(こんな状況初めてだ。ジュシカだけでも苦戦すると言うのに、逢見家の生き残りまでいるとは。まさか私が窮地に陥ることになるなんてな。だが、楽しいぞ。ここで殺られても悔いはないっっ!!)
こうして澪対ジュシカ、フェンリルの激闘が始まった。
ぶつかり合う澪とジュシカ。
飛び交う光球。
地面にはいくつものクレーターができ、戦闘の壮絶さを物語っていた。
そして数時間の戦闘の末・・・。
「くっ!!」
澪は二人に取り押さえられた。
「殺せ。もう未練はない」
澪は目を瞑り、死が来るのを待っている。
「殺しはしない。言っただろう。捕獲すると」
「私には何も利用価値はないぞ」
澪自身には何の利用価値はない。
家族もおらず、誰とも関係を持ってこなかった澪には守るものもなく、救う人もいないからだ。
「ある。お前は対魔八桜花であり、淫魔王様の野望に貴様の力は必要だ。捕獲し、調教、洗脳を施す」
「は?何を言っている」
「私は触手に調教されたが、お前には調教師が付くらしい。全く羨ましいものだ」
「理解ができん。私に何をするつもりだ」
澪に理解できたのは洗脳をするという部分だけで、調教は想像も出来なかった。
(洗脳なぞ出来るはずがない。私には意思がある。強固な意志が。これは何者にも犯されん)
そう思っている澪は同時に不安も感じていた。
目の前に変わってしまったジュシカがいるからだ。
「だから、お前を洗脳するためだ。淫魔王様の素晴らしさを知ることができるぞ」
「お前、一体何をされたんだ。ジュシカはそんなやつではなかったぞ」
「淫魔王様の素晴らしさを知って、淫魔王様に忠誠を誓ったのだ。快楽によって世界を支配する。あぁ、本当に素晴らしい」
「おいっ、聞いているのかっ!」
悦に浸っているジュシカに強く澪は呼び掛ける。
「安心しろ。貴様もすぐに分かる。快楽の素晴らしさ、淫魔王様の素晴らしさ。これを知ることで本当の自分になれるのだ。フェンリル、薬を打て。眠らせろ」
「了解」
フェンリルはジュシカの命令を聞き、懐から注射器を取りだした。
「止めろっ!殺せっ!殺せっ!」
「では、いい夢を」
澪の抵抗虚しく、フェンリルは澪の首筋に注射器で薬を打つ。
「くっ、くそっ!・・・殺・・・せ・・・・・・」
カクンと澪の首が力なく垂れ、意識を失ったことが分かる。
「よし、連れていくぞ」
こうして、澪は連れ去られてしまった。
澪はどうなってしまうのか。
それは誰にも分からない。
遅れたお詫びとして、9時に続きを投稿します。