今日はひどく疲れていた。
歩みは泥のようで。汗は目の淵を撫ぜた。
激しいトレーニングで体の節々が痛み、それを庇えばまた別の所が、と。
もはや全身余すところなく限界だった。
汗は滝のように流れ落ちて止まることはなく、服は張り付き絞るどころか指先でつまめば滴が落ちるほどである。
気持ち悪さもここまでになるともうどうにでもなれというものであった。
細く長く、息を吐く。
自分にマスターとして足りないものは山ほどある。
学ぶことは多く、先は果てしない。
ただ、焦っているのではなく。それを英雄たちと埋めていくのは楽しさに満ちていた。
まぁ、恐ろしいことも確かに多いけれど。
笑みがこぼれた。
しかしそれにすら、どうにも疲れが出ているような気がする。
オーバーワークは猛省しなくてはとため息をついて下半身に力を入れて、こするように歩く。
とりあえずはシャワーを浴びなければと。
そうして普段の何倍もの時間をかけて念願の自室に……というところで、自然と足が止まった。
部屋の中から感じる気配。
珍しいことではないけれど、露骨に威圧するようななんとも不穏なもの。
それでも入らないわけにはいかない。
一歩踏み出し。
「……ああ、旦那はん。待ちくたびれたわぁ」
ぱたぱたと、見慣れたベッドに座り足を揺らし。
無邪気さを含ませながらしかし雰囲気はどうにも剣呑な。
酒呑童子がそこにいた。
「はぁ……匂いもすっかり、ふふ、うちのもんになってしもた」
彼女は体を傾け、無造作にベッドにほこりを立てて目を細めている。
そのまますりすりと顔だけ動かすさまは猫のようであったけれど、うすら寒い目つきは背筋が凍えるようだ。
しかしはて、彼女と約束しただろうか。
あるいは忘れているのかもしれないし、何かちょっとした一言二言が彼女の中で約束になっているのかもしれない。
考えていると酒呑童子はぽんぽん、とベッドの空きを叩いた。
「……せやけど頑張りはったみたいやし。さぁさ、こっちに来ておくれやす」
わざとだろう。一人分には少し小さいスペース。
慈愛の笑みを浮かべている、というふりなのはすぐわかるけれどそれは当人もわかっているのだろうけれど。
汗が垂れる。
シャワーを浴びたいと思っても彼女の圧は重く。疲れもあった。
ふらふらと。
頭だけひどくバランスが悪くなったように。
「ふふ。……ええこ、ええこ。ようがんばったなぁ」
なでなで。
なでなで。
かろうじて、浅く腰掛けるだけで済ませた、わずかに不満そうな気配は滲ませているようだけれど、妥協点か特には何も言われず。
ため息とともに横に座り直した酒呑童子の滑らかな手で撫でられた。
汗で不快だろうに、気にしていないのか。
しばらくそうしているとんー、とどこか遠くを見ながら珍しく悩んでいるそぶりを見せた。
どうしたのか密着したまま聞いてもあいまいなままに。
「……旦那はん。鬼にそない近付いて、あかんよ?」
じっと、彼女の瞳が見つめてくる。
ぼんやりと見つめているとそのままわずかに距離が近付いた気がして。
はぁとため息。
胸をつんつんとつつかれても気恥ずかしいばかりで、それも受け止めると酒呑童子はまったくもうというふうに一歩引いて、朗らかに笑った。
歯を見せて、楽しそうに。
なんだか、突然雰囲気が変わったようにも思えた。
「はーあ。……旦那はんが悪いんよ? そないに、なあ?」
やれやれというため息と共に一瞬で、彼女は鼻が触れるほどの距離にいた。
「……このままでもええけど。血の匂いが足りひんね」
ぞくりと何か、嫌な感じがする。
酒呑童子はぺろりと舌を出し、酷薄な笑いを浮かべている。
その舌はゆっくりと唇を湿らせ、準備というふうに。
隠そうともしないそれは水音として耳をくすぐる。
「ほな、味付けしよか」
ちゅっ、と柔らかな口付け。
首の後ろに彼女が手が伸びるのも、整った顔が近付くのもほぼ同時であった。
不意のそれに驚く暇もなく。
「ふ、ふふ。なんや照れるわぁ」
酔ったような彼女の赤い顔は可愛らしい。けれど。
次の瞬間その瑞々しい唇からピンクの肉がこぼれ出て――
ざり、と。
頬を撫ぜた。
「――ああ、ええわぁ。……たまらんなぁ」
酒呑童子は目を細め、にたりと笑う。
肌が泡立ち、ぷつぷつと違和感が広がる。それは痛みというよりも生理的な不快感。
頬から血が出ていることは想像に難くなかった。
それでも目の前の彼女は楽しそうに、嬉しそうに。
「……でもまぁ、ここからはちゃあんと、あんたはんと二人で楽しまなあかんね」
あっという間だった。
何か呟く酒呑童子に制され、天井を見上げていた。
爽やかな風が下半身にかかる。
たちまちのうちに冷たい空気に晒されたそれは、雰囲気に酔ったのかひどく勃起してしまっていた。
疲れか、甘い空気か。なすがままだ。
「ふふ、元気元気。……臭いも、はぁ。……よろしゅう。えらい、えげつない、なぁ」
酒呑童子は股間に顔を寄せて深呼吸をしていた。
彼女は肉棒の臭い立つようなそこの空気をたっぷり吸いこんで、嬉しそうに。
ちろちろ舌先を伸ばして触れるか触れないかの位置で揺らしている。
「ぜえんぶうちに任せて、な?」
ぺた、ぺた。
熱が竿に触れて、唾液を伸ばしている。
彼女がそんなことを呟いて亀頭を咥え、くぽくぽと半ばほどまでを吸い込んで、唇からちゅるりと吐き出すを繰り返している。
まさしく酒呑童子のペースで、いつまでたっても終わらなそうな、いたぶるような。
体がだるく、何か口出ししようと思って、伸ばした手を乱暴にベッドに投げ出す。
快楽はあれどもどかしく。
何度目だろう、彼女が亀頭を口に含んで、唾液たっぷりのそれを口から吐き出し、舌だけで亀頭をスティックを揺らすように遊んでいるその時。
腰を揺らしてしまった。
唇に先端が触れて、我慢汁がこびりつく。
すぐに離れたそれは糸を引いて、唾液とはまた別に、白が混じったものが伸びる。
「ふうん。……ちゅっ、ん、旦那はん。うちのこと、使いたいん?」
じっとりとした目。
酒呑童子は熱い息を肉棒に吐きながら、その距離で止まった。
「うちは旦那はんのものやさかい。けど、なぁ」
目を合う。
待っているような彼女。
わかっているだろうに、それでも。
「ふふ」
数秒して、ようやく口に出したお願い。
出させてほしい。というシンプルなもの。
それに彼女ははぁい、とゆったり答えて、たっぷり息を吸い込んだ。
「あー、ん」
閉じた口で先端にキスするように。
酒呑童子の柔らかい唇が触れると、そのまま一息に飲み込まれた。
「……ン、む。……はぁ、ハ、む、ぇお……ふ、ふ」
唇はぴったりと閉じたまま、肉棒の表面をこそげとるような、強い口淫。
歪んだ顔で口いっぱいに竿を頬張りながら得意そうに、笑っているように思える。
そして、そのままじゅる、じゅる、と。
ゆっくりと竿を空気に晒していく。
「……ちゅう、じゅ、じゅる、る……ン、ふ、ふふ……じゅるる、ふ、は」
口をすぼめて、とがらせるように。
一往復だけで芯が入ったようにペニスが膨らんでいた。
もうすぐにでも射精できそうで、それでもいつまでも味わっていたくなる。
何度も繰り返され、もう出るという瞬間、ずるりと口の端から亀頭がこぼれ出た。
彼女の頬に唾液の糸がいくつもついて、いやらしく光を反射させている。
ぴたぴたと頬に当たってはまた新しく、複雑に。
「ふぅー……はぁ。あは、は、玩具みたいやわ。……これで出したらあかんよ? ちゃあんと、たんと、うちの口の中、どろどろにしてもらわんと」
もう一度と彼女は口を開いた。
あーんと軽い調子で、唾液で満ち満ちた中へと。
ぐぽぐぽと音が響く。
わざとだろう、空気を含ませて、口の端から泡を弾かせて。
「好きに出してええよ? 旦那はんの穴やし。……ああ、ごめんやす」
口の周りにたっぷり唾液をまとわせ、その中に白濁したものが混じっている。
我慢汁交じりのその顔で酒呑童子は淫靡に笑い、口のまわりのそれをこそげるように舌で回し。
「頭の一つでも下げた方がええんやろか。こう、膝ついて、頭下げて、あんたはんの子種、恵んでおくれやす、言うて」
笑う、笑う。
酒呑童子の言葉に股間は跳ね、息は荒くなる。
今にも射精しそうなその竿の前で呟く彼女をせっつくように腰を揺らすとまさに、今気付いたというふうに彼女は振る舞った。
鈴口に口づけするような距離で、ふぅと言葉を紡ぐ。
「ああ、ああ。堪忍な。……たぁんと、ぎとぎとの精、うちの胎に吐き出して、な?」
唇が触れる。
先端の我慢汁が潰れて、糸となる。
「ほんなら、一発」
亀頭をあむと吸い込み、ぴたりと口を閉じる。
「じゅる、じゅぅ……ン、ん、ぷ……ふ……んも、む……ぶ、ふ」
唇のみでしごきあげるように根元までゆっくりと。
肉棒の皮をぱんぱんに張るように、みっちり。
「ほうひへ、ふふ、ぇろ……じゅる、ぷ、む」
根元まで咥えこんだまま彼女は舌を動かした。
敏感なカリ首をぞりぞりと舐めあげ、ぐるぐると周囲を磨いていく。
呼吸すら快楽だった。
酒呑童子の呼吸のたびに全体を撫でられているようで、腰が浮いてしまっていた。
「――……」
目が合う。
頷くと彼女もまた、小さな顎を揺らして。
じゅるるるるる、と吸い上げた。
口内でたっぷりの唾液が舌と共に蠢き、射精を促す。
体を丸め、両手を酒呑童子の頭にそえ、なるべく添えるだけと努めても視覚的な暴力は強まるばかりで。
あ、と声が漏れた。
彼女の喉がごくんと揺れ、姿勢を一度調整するように揺らし。
ペニスが震えた。
酒呑童子から感じる喜色。
びゅう、と弾けるように。
無理やり押し出されるように精子が溢れる。
口の中に叩きつけるように。
びゅくびゅくと閉じられた口の中を思う。
どくん、どくんという揺れはしばし収まらなかった。
最初の濃厚な、噴き出すような精子が空撃ちになるまでずっと。
彼女は目を伏せて精を吸い続けていた。
「……」
酒呑童子の口の中は熱く、ぴたりと触れたままの舌は呼吸に任せ自然に精を吸いだしている。
息は荒く、腰がふわふわと浮いているよう。
「……ぷ、はぁ……はぁ」
ようやくだった。
彼女の口の端からペニスがちゅるりと押し出された。
萎え始めたそれは表面をべとべとに汚しながら、それでも彼女の口の中よりはよほど綺麗だろう。
「べぇ」
残り汁の海。
精子よりも薄い、唾液で薄まったもの。
それが彼女の口の中に出来上がっていた。
酒呑童子はそのままでじっと見つめてきた。
期待するように。熱っぽく。
それに気づくまでには結構な時間がかかった。
見惚れていた、ともいえる。
汚濁の中で舌は揺れ、その舌もコーティングされたよう。
精臭と、血が混じったそれはひどい悪臭であるのにどこかひきつけられるようだ。
ああ、と。
飲んでいいと伝えた瞬間の彼女は妙に嬉しそうだった。
そこからはもう早急にとばかりにごくんと飲み込み、そのまま顔を下に伏せたままもごもごと最後の汁までも綺麗に飲み込もうというふうだった。
「――随分と、溜まってたんやねえ。ぎとぎとで、つっかえそうやったわ」
酒呑童子は自分の胎を撫でていた。
胃と言うよりも少しずれている気がしたが指先で、押し込むように。
「……ふふ」
その指先を口の中に沈め、ちうちうと吸う。
抜き取ったと思えば舌を巻きつけるように舐めあげ、音を立てる。
「はぁ、たまらんわぁ……」
その間もずっと酒呑童子は目を直接見ていた。
体をくねらせ、ときおりぶるりと下半身から痺れるように震えて。わざとらしくもあった。
しかし。
それも耐えているとたちまち、ぶすっとした膨れ顔に変わっていた。
「もう、いけずやわぁ。……もよおしたら出す、くらいのもんでええのに。首根っこ掴んで、つこてくれれば、それで」
うち、尽くす鬼やさかいと両手を頬に当てて言う姿はいかにも戯言というふうであった。
しかし、それでも。
「――あは」
思わず、唇を奪うと何とも言えない香りがした。
それでも彼女の体臭と混ざると一つの嗅ぎなれない香でもあるようで。
「旦那はんは、へんたいさんやねぇ。まったく」
酒呑童子はにたにた笑い。
ぴたりと抱き着いてきた。
あっという間に脱ぎ捨てられた互いの服。
自分の服はやや乱暴に、皺はどうなっているだろうか。
彼女は密着したまま体をこすりつけ、荒い息を吐いている。
「……はぁ……ふふ、ふふ」
もう一度、キスをした。
息を交わしながらも無造作に触れてしまった柔らかな肌を手でさする。
背中、腰、胸。
その乳房はやや平坦であるとはいえその柔らかさは確かに気持ちよく。
それが、下へと伸びた。
「ふふふ」
キスを中断し、にやつく酒呑童子にまた、キスをする。
真っ赤であろう顔を見られたくはなかった。
彼女の女性器はつるりとして、余計なひだはなく指先も心地よいというふうだった。
しかし膣内は熱を帯び、するりと指が入り込むと彼女の吐息のようにどろりと温かい。
それだけでべったりと表面に愛液がこびりつくようで、繰り返すと泡立ってさえいるのかもしれない。
彼女の手もまた、肉棒をさすっていた。
無言でキスしながら続くそれは酒呑童子が少し調子の外れた声を出すまで続いた。
「ああ、嬉しいわぁ」
突然の声。
彼女はにこにこと笑って、また小さく、呟く。
「旦那はんにこんなに愛されて。うち、たまらんわぁ」
愛情たっぷりの、唇をこすりつけるようなキスをしてから、触れ合うような距離で。
うふふと笑って、ゆるゆる酒呑童子の手淫は続く。
愛されるという言葉に硬直し、それはそうだと思い立つにはぼんやりとしすぎて。
当然あるべき段階であるが頭がごちゃごちゃして、固まっていた。
「……」
とたんに彼女の目が細くなる。
嬉しそうだった彼女はこちらの無言に魂を抜いたように無表情になり、まぁ、とため息をついた。
「ちゃうん? 旦那はん、うちの穴を撫でてくれはるけど。うちを気持ちよおしてくれてるのと違うん? それとも、玩具の準備、してるだけなんやろか」
不安そうな声色でわざとらしく。表情もいかにもなふうに。
「なあ?」
しかし思わず、言ってしまった。
実際愛情と呼ぶものはあるのだろう。それでも。
愛していると口に出すのはなかなか気分が違う。
すると。
「あは」
酒呑童子は破顔して。
おおきに、と耳元で囁いた。
さらにその声だけでは止まらないばかりに耳たぶを唇だけで甘噛みし、弾力を楽しんでからは溜めた息を耳に流し込み。
唾液がたっぷりとまぶされた舌先で耳の穴をくすぐってきた。
「今日はゆっくり、な」
彼女が腰にまたがる。
体を滑らせるように、肌をなるべく離さないような動きで。
「音は聞いたらあかんよ? 女に恥、かかせたらあかん」
わずかな水音。
くちりと小さく音がして、重さと共に快楽が走る。
ずるりと一気にしごかれるような。
細かなひだが痛いほど締め付けながら、それでもこんこんとわいた愛液が滑らかに。
腰が密着し、そこからはまた別の、小刻みに震えるような気持ちよさがあった。
酒呑童子は笑顔をそのままに、ほうと息を吐いた。
「――うちの穴、どうやろ?」
呟き、思わず反応してしまう。
気持ちいいと酔ったように呟きを繰り返し、ふふふと笑う彼女を見る。
おめこ、おまんこ。
呟きは耳元で小さく、その反応に気をよくしたのかさらに繰り返し。
手は無造作に体に乗せて肌をさすっている。
「ま、今日はこのまま、ゆうっくり。お疲れのようやし」
体を倒し、体重を預けてきた。
指先で円を描くようにして腹筋、胸とくすぐられたけれど、からかい程度に収まっている。
それでも。
「んっ……ふふ、腰痛めても知らんよ?」
体は勝手に動いて、小さな彼女の体をぐらりと揺らしてしまっていた。
突き上げるというには乱暴で、無理やりなんとか動いた程度のもの。
気持ちよさよりもなんとなく気まずげで、それでもずるりと膣内の肉とこすれ合い、じくじくと下半身が熱くなる。
不意を突いたことの精神的なものもあったのかもしれない。
まぁ、それも一瞬で、きょとんという顔もすぐに楽しそうに変わっていたけれど。
「かいらしいけど、また今度。次は旦那はんが上に乗って、一晩中愛してや。……撫でたら、落ち着くやろか」
ええこ、ええこ。
彼女の声は熱を伴って頭に回る。
気持ちよさが沼に沈んでいくようで。
「……はぁ、熱ぅ」
ぱたぱたと酒呑童子は自らの顔を扇いだ。
そのしぐさひとつが色っぽく、困ったふうの顔もたまらない。
そうして。
常にゆるゆると吐精しているような感覚のまま、伸ばした手でかろうじて彼女を抱き寄せた。
「あら、まぁ。強引やねぇ。……ふふふ」
濃密な香りの中。
二人だけの世界でいつまでも溶けていた。