寄生蟲《フェアリー》
《フェアリー》
・線虫(類線形動物)。脊椎寄生型の蟲。1本のヒモのように細長く、体色/体毛は白い。サナギにはならず、動物に寄生して成虫(羽を生やす)となる。
・寄生されると、宿主は意識が残ったまま肉体の一切の自由を奪われる。この蟲は背中表面に貼り付くようにして寄生するので、除去そのものは比較的容易/可能だが、半身不随から全身麻痺まで、とても無視できない深刻な後遺症が出てしまう(執刀者R氏、医師J氏の両名も
・寄生が完了するまでの猶予は██時間。
・宿主は異常行動を取らされるため、被寄生者の判別は容易。
・寄生後██日で羽化/成虫に至る。ただし宿主の重さから飛ぶことはできない。当モンスターの名称は羽化後の姿から。
・ピンク色の産卵管を内部に持ち、羽化後、宿主の腸に卵を産み付ける。卵は腸内で孵化し、便と共に体外へと排出される。
・メモ:███各位へ。検体の数はもう充分です。これ以上は必要ありません。処理を優先してください。
| 【被害者No.██████】 ・███████国███地方████村出身(現在は死亡、駆除済み)。 ・同村にて行った聞き込み調査により、同村の少年(███)によるイタズラ(服の中に後ろから蟲を入れる)が原因だと推定。 ・追記:備考:同村の少年(現在は処理済み)のイタズラにより、被害者は██人まで拡大、増加(全て駆除済み)。同村は廃村となった。 |
「ひゃあっ!? ~~~ッ!! コラー! 待ちなさーい!」
「やーだよーだっ!」
某地方某村。そこではいつもの日常が繰り返されていた。
村に住む少年・オベロが、同じく村の住人であるティータの服に虫を入れたのだ。
それも不意をついて、背中から。
ティータは負けじと
怒声をあげた時には、オベロはすでに逃げ出していた。じつに手馴れている。
「ったく、もう! ……見当たらないけど服の中から出てったわよね?」
風の子ならぬ
ティータは嵐を捕まえることは諦めて、服の中に入れられた虫がどうなったのかを確認する。
束縛されることを嫌うティータは、普段着のワンピースを腰で絞っていない。
平時から虫を入れてくる少年がいるなら尚更だ。
そうしておけば、虫は服を通り抜けて地面に落ちる。
ティータは足元に視線を当てて調べたが、虫の姿は見当たらなかった。
虫は小さいわりに動きのすばやい生物だ。
ティータは特に気にせず、この日もいつもどおり家の手伝いをして眠った。
……この時、誰かに見てもらってさえいれば。
ティータは日常の輪に居られただろう。
虫は地面になど落ちていなかった。
ティータの服の中に潜んでいた。
虫とは、人間や動物の身体にしがみ付くことで、その生息圏を広げる生物だ。
そうして辿り着いた先の新天地を開拓する。
虫は生まれながらにして開拓者でもあるのだ。
虫の活動範囲を人は
虫にとって、人間は天然の馬車に等しい。
だが、行き先不明の馬車では心許ない。
馬車には
虫は、ティータの背中に寄り添うようにピッタリと貼り付いていた。
村娘の汗を糊にして。体表の
蟲は、ティータとひとつと成るべく貼り付いていた。
毛穴から侵入させた触手と神経を絡めて──。
その日の深夜、ティータは自分のベッドの中で目を覚ました。
しかし、その瞳はどこか虚ろだ。
事実、ティータの意識は
ティータは窓枠から──無用心にも開けたまま寝ていた──家を抜け出した。
夢遊病患者のように──否、蟲に操られるままに。
人の尊厳を捨てた
(ん……あれ……? ここ、どこ……?)
夜の寒さが、ティータの意識を引き上げた。
目の前には、冷たい地面と暗い森が広がっている。
なぜだか分からないが、
何か恐ろしい事があって、命からがら逃げてきたのだろうか。
だから
正気を取り戻したなら、立って走って逃げないと。
そう思っても、身体は動かない。
──身体が、動かせない。
(……えっ?)
ティータがどんなに止まろうと思っても、ティータの身体は四つんばいで歩み続ける。
それしか知らず、それしか出来ない赤子がそうするかのように、
──身体が、勝手に動いている。
(えっ? えっ? だ……誰か助けてっ!?)
しかし、今のティータは声を出すことすら許されていない。
家畜は家畜らしく、飼い主に管理されていればいい。
それが家畜の幸せであり、存在意義なのだ。
勝手は蟲が許さない。
(あ、あたしの身体……どうなってるのっ!?!?)
ティータの身体は、蟲に支配されていた。
ふと、ティータの身体が虫の死骸の前で止まった。
バッタだ。バッタが死んでいる。
いくら死んでいるとはいえ、
蟲は、死骸に
──さあ、あなたもどうぞ。共に
(っ!? そ、そんなの食べたくないっ!! い……いやだああああああっ!!!)
ティータは、バッタの死骸を咀嚼させられたのだった。
旅は道連れ、世は情け。
バッタはすでに死んでいるが、中に巣くった
家畜にエサもやれて、
旅はまだ始まったばかりだ。