※この作品はR-18です。

寄生モンスター図鑑   作:それも私だ

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肉体交換第2話。ミスティル側の心境。ほぼ1話後半の焼き直し。思い込みと正論は紙一重。
ほぼ同じ内容で視点を切り替えただけなので、スキップして3話へ進んでも不都合はありません。
迷走しまくってるのは半分くらい仕様ですが、そのうちテコ入れするかもしれません。
 入れ替わりの問題点から読む│ミスティルが思い描くリリィ像から


 ├彼女の心境、無駄な足掻き:OD

 抜け殻となったリリィの肉体をミスティルが預かってから2日目の朝。

 

「ん──……ふぁっ……」

 

 ミスティルはリリィの肉体で目を覚ました。

 

 心なしか、いつもより深い眠りについていたようだ。

 確りと眠れたおかげか身体が軽くなったようだと彼女は思った。

 

 それはそうだろう。本来の肉体と比べて圧倒的に筋肉量の少ない肉体(リリィ)では重(・)み(・)が違う。

 起きたばかりで細かな差まで判らなくとも、違いを感じて当然だ。

 

 さて、隣で眠る同(・)居(・)人(・)も起こすかと彼女が視線をやった先には──ミスティルの肉体が横たわっていた。

 

「……こいつ、また……ッ!」

 

 ──また肉体を入れ替えたな!

 

 ミスティルは他人の肉体を好んで使う嗜好を持ち合わせてはいない。

 あまりの怒りと混乱に、彼女の言葉は最後まで続かなかった。

 

 寝てる(しらぬ)間(ま)に別人である少女の肉体と交(・)換(・)されていたのだから、その怒りは尤もだ。

 今(・)の年下の少女の胸は普通サイズで、身長は男に媚びるような低(・)さ(・)。

 前(・)の年上かつ巨乳で高身長の、元の女傑の姿とは似ても似つかない。

 

 女性とは、心に身分制度(カースト)を第一とする生き物だ。

 優れた他人を羨みつつも追従し、仮に自分が上位者となれば下位の者に無体を働く。

 傭兵として上位に位置する彼女が、下位の冒険者に落ちぶれて喜ぶはずがない。

 

 ならばミスティルの身分を奪ったのは彼女を羨んだ少女の仕業かといえば、そうではない。

 本来の持ち主の代わりに彼女の肉体だ(・)っ(・)た(・)も(・)の(・)に宿っているのは、魂(・)を(・)操(・)る(・)モ(・)ン(・)ス(・)タ(・)ー(・)だ。

 手土産に譲渡(わた)された少女の肉体もまた同(・)じ(・)盗(・)品(・)だ。

 

 女性はおろか人間ですらない、性別も判らない魂だけの異様異質で異常な存在。

 昨日遭遇したばかりの難敵だが、なぜか敵意を喪失した魔物は彼女に付き従っている。

 

 このモンスターはミスティルの魂に執着を見せている。

 それと同時に、ミスティルの肉体と共に在(あ)ることを望んでいる。

 

「起きろ」

 

 だがそんな事など、彼女にとっては知らないし知ったことではない。

 特殊な事情で同居することになったが、自分の肉体にまで住まわせてやる気はない。

 

 ペチペチとあまり痛くなさそうな威力で、自分の顔だったものを叩(はた)く。

 ……しかし、起きることはなかった。

 

 中の魂(モンスター)は常に覚醒していても、ミスティルの肉体自体はまだ眠っている。

 異なる肉体と魂の適(・)合(・)が始まったばかりでは、起きたいものも起きられない。

 肉体側が眠りから覚めるまで待つよりほかない。

 

 リリィの肉体(ぜんしん)に余すことなく満ち渡っているミスティルの魂と違って。

 いまはまだ《手》だけの、それしか持たぬ魂の魔物には、それだけのちからはないのだ。

 

「我が物顔で厚かましい!」

 

 もっとも【その肉体からとにかく出ろ】とでも命令していれば話は変わっていたのだが。

 反射的に出た言葉だったが彼女は、我ながら上手いこと言ったな、と場違いにも思った。

 言葉どおり、この同居人は彼女のものだった顔を我が物としているのだから。

 

 起きるまでしばき回してもいいのだが、しばく相手は自分(もと)の肉体だ。

 何が悲しくて自(・)傷(・)しなければならないのだ。理不尽にもほどがある。

 やはり相手が起きるまで待つのが賢明というものだ。

 

 ミスティルの表情(かお)に焦りがないのは、通算3回目の肉体交換だからか。

 今度もまた返してくれるものと確信しているが故(ゆえ)の余裕だ。

 

 だが、その余裕は別の形で崩れる。崩れ去る。

 

「しかし、寝ている間に勝手に入れ替えてくるとは。問題だな」

 

 いま起きている問題は、そんな単純な内容(もの)ではない。

 

 これからも目の前のこ(・)れ(・)と付き合っていくとなると、こんな事はこれから先、幾度(いくど)となく起こり得るだろう。眠っている間に勝手に入れ替えられたのだ。依頼遂行中なら同意なき肉体交換は行なわれないとは断言できない。何の備えもしていなければ今度こそ命の保障はない。

 

「そして問題は家の中に収まらないことか」

 

 昨日の件──冒険者ギルドで見せた同居人の蛮行──で、こ(・)れ(・)を自宅へ縛り付けておくことは出来ないと判明している以上、普段の傭兵稼業にもこ(・)れ(・)も同行させねばならなくなった。なぜだか知らないが、ミスティルの魂が宿る肉体が何であれ、こ(・)れ(・)は無理にでも彼女の傍(そば)に居たがるのだ。

 それが先の問題に繋がり、事態の解決を複雑にする。

 

 現実主義寄りのミスティルの思考は、気がつけば現状に即した対策案の構築に移っていた。

 魂の魔物が未来の設計図を昨夜描いたように、彼(・)女(・)もまた彼(・)女(・)の人生の設計図を今日描かねばならない。

 

 人生は何事も諦めが肝心ではあるが、素直に終わりの時を待ってやるほど行儀良くはない。

 あがいてみせるのは貴賤(きせん)に関係なく、何人(なんぴと)にも与えられた権利なのだから。

 ……たとえ、その権利の行使で自身を追い詰める結果(こと)になろうとも。

 

「考えなくてはならない事がいくつもあるな。やる事が多い」

 

 では、彼女が解決していくべき問題点をここに羅列していこう。

 ……ひとつひとつ真面目(まとも)に考えるのもバカバカしい数々を。

 

 まずはリリィの装備一式の新調だ。この少女の肉体から離れることができないからには、リリィ本(・)体(・)の生存性を高めてやる必要がある。元から持っている白い装備一式では心許ない。まともに機能しそうなのは、あらゆる防具の基本形である胸当てに、関節を保護するためのプロテクターが数点のみ。云うほど強くないくせして残りはファッションに全振りだ。それなのに目立つ白を選んでいる(た)のも良くない。役割だけを考えたらミスティルの持つ黒と配色も(・)交換してもいいが、ここはリリィも同じ黒の隠密色に染め上げ塗り潰すのが順当だ。武器のほうも量産品の剣が一振りだけで、予備の物は無いときた。

 装備といえば、面鎧──顔を隠すための仮面か何かも必要だ。同居人が乗っ取っている間の肉体は無表情ではあるのだがどこか凄惨な、悲痛な表情を作る。なにかこう、う(・)つ(・)ろ(・)なのだ。見ているだけで不安になる……そんな冒涜的な光景(もの)を公衆の面前にさらすわけにはいかない。変な噂が立てばまた面倒事が増えてしまう。また別の問題が新たに生えてくる。

 同居人の各(・)戦闘能力の把握も必須だ。業腹物だがミスティルの肉体とリリィの肉体、両方ともでだ。求める水準は自衛くらい出来て当たり前。そのどちらが死んでしまっても彼女にとっては痛手となる。元の肉体が失われたら《リリィ》として生きねばならず、リリィの肉体を失えば《黒騎士》の経歴に傷がつく。半ば無理やりにだったとしても少女(リリィ)の身柄を預かる身だ。これ以上の理由はない。ふたつの肉体で苦労も2倍だな。運用次第ではそれ以上の苦難の算出も予想される。

 

 そしてなにより──。

 

「……これが一番の悩みの種かもしれんな」

 

 自分が今現在使用しているこの肉体(リリィ)の熟知と習熟が対策の要(かなめ)となる。

 不承不承だろうと、こればかりは避けては通れない問題だ。

 

 まったく違う別人の肉体への慣れ──声と目線の高さに視力、歩幅、体重体格──に始まり。

 肉体に合致した戦い方に修練。話し方と性(・)格(・)の構築。

 

 そのためには時間の許す限り、ミスティルはリリィの肉体で過ごす必要がある。

 他人の肉体で食事をして、他人の肉体で風呂に入り、他人の肉体で就寝する。

 肉体(リリィ)の感覚を掴むにはそれが一番の近道だ。

 

 誰も考えたことはなくとも、誰もが無意識に、誰しも生まれながらに実践している。

 人生は勉強とはよく云ったものだ。

 

「武器は使えば使うほど、使い手の一部と化していくとは云うが……理解できる感覚(はなし)ではあるのだが……」

 

 とはいえ。

 

 自分が下に見た弱者に自分がなる劣等感。同性として魅力の感じない肉体への不快感。

 元の肉体を得体の知れないモンスターに使われる嫌悪感と言い知れぬ喪失感。

 自分の存在が揺らぐ不安感。肉体を持ち逃げされるかもしれぬ恐怖心。

 

 はっきり言って、ミスティルは別人になんてなりたくは(も)ない。

 

 しかしながら理性はそれら全てを受け入れる必要性を深く理解している。

 公私を別けて考えねばならない。肉体と魂を別けてやらねばならない。

 ミスティルがリリィで為(な)ければ何事も成らない。

 

 それに……このまま入れ替わったままで居れば、肉体の交換はされないと思う自分もいる。

 このままで居れば問題の大半は片(かた)が付くと、長年の勘が告げている。

 心情とは別に冷静な部分が知りたくもない答えをすでに弾き出している。

 

 ──うだうだと悩むだけ、この肉体に留まる時間も嵩(かさ)んでいく。

 ──嫌々でも完全に自分(リリィ)の(を)肉体(もの)にして、やっと先へ進める。

 

「これからが大変だな──……これからが大変で(・)す(・)ね(・)」

 

 そうと理解(きま)れば嫌な事は早々に片付けるに限る。そう思えばこそ彼女の行動は早かった。

 粗暴なものから丁寧なものへと意識して口調を変えることで、自分(いま)は《ミスティル》ではなく《リリィ》なのだと自覚を促す。

 

 ()《黒騎士》や《ミスティル》と呼ばれてリリィが返事するのはおかしい。変だ。

 ミスティルの口調のままでは、いつボロを出さないとも限らない。

 彼女を取り巻く状況が《リリィ》の成(・)り(・)す(・)ま(・)し(・)を促した。

 

 以前にリリィだった者と自分が思う人格(リリィ)は違うのかもしれない。

 それでも《ミスティル》の口調ではなくなったことは確実だ。

 まさか人に聞いて回るわけにはいかない。

 

 リリィを知る者に疑いの目を向けられても、事故のせいで記憶が不明瞭だと伝えればいい。

 他人の肉体で他人の人格に成りすました事実は簡単に成立する。

 ミスティル演じるリリィこそが、今の彼(・)女(・)なのだから。

 

 ある意味では、悪意を以(も)って相手の性格ごと人生を乗っ取るよりも性質(たち)が悪い。

 遊(・)び(・)なら途中で捨てる。憧(・)れ(・)なら途中で飽きる。しかし自(・)分(・)なら──。

 

 これには自分(わたし)の(は)肉体(リリィ)ではないという思いも行動の早さに影響した。

 その言動こそが自分(わたし)の(が)肉体(リリィ)だと認めているとは気付かずに。

 元の肉体に大手を振るって戻れる近道だと確信している。

 

「心がざわざわします。……嫌な感じがしますね。でもやらないと──生き残れん」

 

 昨晩、同居人が導き出した魂の采配は実に妥当で順当で正当なものであったか。

 主(・)として使う肉体に《リリィ》を据(す)えることに、彼女は明確(ここ)な(に)同意を示した。

 

 彼女本来の肉体は、やはり同居人である《手》──魂だけの魔物──が支配するべきであり。

 リリィの肉体には、家主であるミスティルの魂こそがふさわしいのだ。

 それが尤も優れた最適解だ。初めから検討の余地も価値もない。

 

 ひとつひとつ真面目(まとも)に取り合うのもバカバカしい話だ。

 ミスティルの肉体は魔物に奪われた(る)。ただただそれだけの事。

 その事実から目を背けていたに過ぎない。

 

 そもそも論として、リリィの仲間達からリリィの身柄(からだ)を預けられたのは彼女ミスティルだ。

 なればこそ、ミスティルの魂が責任をもってリリィの肉体を管理するのが道理というもの。

 預かったからには他(・)人(・)任(・)せ(・)にしてはいけない。

 

「この声にも慣れないとな──慣れませんとね。もう私(・)の声なんですから」

 

 なにより、自(・)分(・)の(・)肉(・)体(・)は誰だって大切に扱うだろう。

 これからは(も)彼女の肉体となるのだから。

 

「この手も。この胸も。私(・)の肉体(からだ)──」

 

 それら事実を理(・)解(・)しているからこそ、彼女の魂は女傑(じぶん)ではなく少女(リリィ)の肉体(ほう)を選択する(した)。

 ミスティルが考えれば考えるほど、新しい肉体(じぶん)を選ぶ理由は無数に増えていく。

 

「そういえば、私(・)はどうやって生き残ったんでしょう? 生き残ったにはそれ相応の理由があるはずです……」

 

 彼女はやけに騒つく心からも目をそらすと、それまで座っていたクイーンサイズの寝台(ベッド)から──少しよろけたが──降りて、寝間着姿のまま、素早く横へと跳んだ。

 

 続いて後ろに軽く下がってからの飛び込み斬りを、剣を握ったつもりの手で放つ。

 さらに攻(・)撃(・)の硬直をごまかそうと身体を横方向へとねじるが……動きについて来れず転倒した。

 

「……なるほど。これでは見せかけの装備を優先したくもなる……なりますね」

 

 真剣に身の振り方を思案していた影響(せい)だろうか。

 彼女自身、気が付いていないことだが、彼(・)女(・)の(・)神(・)経(・)はいつになく研ぎ澄まされていた。

 

 こ(そ)の肉体(リリィ)は正面からすべてを打ち払うミスティルとは真逆の資質を持っているというのに。

 ふとした思い付きでも強者の魂は弱者の肉体を見事に操ってみせた。

 

 それも最初の持ち主よりも──そんな事、知る由(よし)もないが──ずっと上手く。

 

「やってやれないことはない」

 

 唯一の減点要素は最後の転倒部分だが、初の試みでこれは凄まじい結果だと云える。

 流石は二つ名持ちの魂といったところか。肉体の性能だけで名を上げてきたわけではない。

 見た目だけの、程度(レベル)の低い肉体でも彼女が使えば戦力になりそうだ。

 

 これでまた、言い訳のひとつ──本来の肉体を選ぶ理由──が霧散(むさん)した。

 単独戦力として高い能力(レベル)を誇る《ミスティル》で守る必要はない。

 

 これでまた、ひとつの言い訳──他人の肉体を選ぶ理由──が足された。

 軽快な動きも熟せる《自分(リリィ)》と、重撃専門の《魂の魔物(ミスティル)》で逆にコンビを組める。

 

 彼女に少女(リリィ)の人生を乗っ取らせる理由は、こんな風にいくらでも並べられる。

 目を背けるどころか、ミスティルの霊魂(あたま)はとっくに少女(どつぼ)に嵌まっている。

 

 話も前提も現状も思考も結論も未来も何もかもが狂っていようが歯車は歯車。

 噛み合ってさえいればいい。矛盾をなくした辻褄合わせの結論が身の丈に合った判断を下す。 

 

「動き回るのは私の戦い方ではありませんが……武装解除下での特殊な鍛錬だと思えば、折り合いはつけられそうですね」

 

 性格の使い分けに続いて、彼女が危惧していた戦闘方面の方針にもこれで目処がついた。

 あとは肉体に違和感を覚えなくなるまで使い込むだけだ。

 

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