ほぼ同じ内容で視点を切り替えただけなので、スキップして3話へ進んでも不都合はありません。
迷走しまくってるのは半分くらい仕様ですが、そのうちテコ入れするかもしれません。
入れ替わりの問題点から読む│ミスティルが思い描くリリィ像から
抜け殻となったリリィの肉体をミスティルが預かってから2日目の朝。
「ん──……ふぁっ……」
ミスティルはリリィの肉体で目を覚ました。
心なしか、いつもより深い眠りについていたようだ。
確りと眠れたおかげか身体が軽くなったようだと彼女は思った。
それはそうだろう。本来の肉体と比べて圧倒的に筋肉量の少ない
起きたばかりで細かな差まで判らなくとも、違いを感じて当然だ。
さて、隣で眠る
「……こいつ、また……ッ!」
──また肉体を入れ替えたな!
ミスティルは他人の肉体を好んで使う嗜好を持ち合わせてはいない。
あまりの怒りと混乱に、彼女の言葉は最後まで続かなかった。
女性とは、心に
優れた他人を羨みつつも追従し、仮に自分が上位者となれば下位の者に無体を働く。
傭兵として上位に位置する彼女が、下位の冒険者に落ちぶれて喜ぶはずがない。
ならばミスティルの身分を奪ったのは彼女を羨んだ少女の仕業かといえば、そうではない。
本来の持ち主の代わりに彼女の肉体
手土産に
女性はおろか人間ですらない、性別も判らない魂だけの異様異質で異常な存在。
昨日遭遇したばかりの難敵だが、なぜか敵意を喪失した魔物は彼女に付き従っている。
このモンスターはミスティルの魂に執着を見せている。
それと同時に、ミスティルの肉体と共に
「起きろ」
だがそんな事など、彼女にとっては知らないし知ったことではない。
特殊な事情で同居することになったが、自分の肉体にまで住まわせてやる気はない。
ペチペチとあまり痛くなさそうな威力で、自分の顔だったものを
……しかし、起きることはなかった。
異なる肉体と魂の
肉体側が眠りから覚めるまで待つよりほかない。
リリィの
いまはまだ《手》だけの、それしか持たぬ魂の魔物には、それだけのちからはないのだ。
「我が物顔で厚かましい!」
もっとも【その肉体からとにかく出ろ】とでも命令していれば話は変わっていたのだが。
反射的に出た言葉だったが彼女は、我ながら上手いこと言ったな、と場違いにも思った。
言葉どおり、この同居人は彼女のものだった顔を我が物としているのだから。
起きるまでしばき回してもいいのだが、しばく相手は
何が悲しくて
やはり相手が起きるまで待つのが賢明というものだ。
ミスティルの
今度もまた返してくれるものと確信しているが
だが、その余裕は別の形で崩れる。崩れ去る。
「しかし、寝ている間に勝手に入れ替えてくるとは。問題だな」
いま起きている問題は、そんな単純な
これからも目の前の
「そして問題は家の中に収まらないことか」
昨日の件──冒険者ギルドで見せた同居人の蛮行──で、
それが先の問題に繋がり、事態の解決を複雑にする。
現実主義寄りのミスティルの思考は、気がつけば現状に即した対策案の構築に移っていた。
魂の魔物が未来の設計図を昨夜描いたように、
人生は何事も諦めが肝心ではあるが、素直に終わりの時を待ってやるほど行儀良くはない。
あがいてみせるのは
……たとえ、その権利の行使で自身を追い詰める
「考えなくてはならない事がいくつもあるな。やる事が多い」
では、彼女が解決していくべき問題点をここに羅列していこう。
……ひとつひとつ
まずはリリィの装備一式の新調だ。この少女の肉体から離れることができないからには、リリィ
装備といえば、面鎧──顔を隠すための仮面か何かも必要だ。同居人が乗っ取っている間の肉体は無表情ではあるのだがどこか凄惨な、悲痛な表情を作る。なにかこう、
同居人の
そしてなにより──。
「……これが一番の悩みの種かもしれんな」
自分が今現在使用しているこの
不承不承だろうと、こればかりは避けては通れない問題だ。
まったく違う別人の肉体への慣れ──声と目線の高さに視力、歩幅、体重体格──に始まり。
肉体に合致した戦い方に修練。話し方と
そのためには時間の許す限り、ミスティルはリリィの肉体で過ごす必要がある。
他人の肉体で食事をして、他人の肉体で風呂に入り、他人の肉体で就寝する。
誰も考えたことはなくとも、誰もが無意識に、誰しも生まれながらに実践している。
人生は勉強とはよく云ったものだ。
「武器は使えば使うほど、使い手の一部と化していくとは云うが……理解できる
とはいえ。
自分が下に見た弱者に自分がなる劣等感。同性として魅力の感じない肉体への不快感。
元の肉体を得体の知れないモンスターに使われる嫌悪感と言い知れぬ喪失感。
自分の存在が揺らぐ不安感。肉体を持ち逃げされるかもしれぬ恐怖心。
はっきり言って、ミスティルは別人になんてなりたく
しかしながら理性はそれら全てを受け入れる必要性を深く理解している。
公私を別けて考えねばならない。肉体と魂を別けてやらねばならない。
ミスティルがリリィで
それに……このまま入れ替わったままで居れば、肉体の交換はされないと思う自分もいる。
このままで居れば問題の大半は
心情とは別に冷静な部分が知りたくもない答えをすでに弾き出している。
──うだうだと悩むだけ、この肉体に留まる時間も
──嫌々でも完全に
「これからが大変だな──……これからが大変
そうと
粗暴なものから丁寧なものへと意識して口調を変えることで、
ミスティルの口調のままでは、いつボロを出さないとも限らない。
彼女を取り巻く状況が《リリィ》の
以前にリリィだった者と自分が思う
それでも《ミスティル》の口調ではなくなったことは確実だ。
まさか人に聞いて回るわけにはいかない。
リリィを知る者に疑いの目を向けられても、事故のせいで記憶が不明瞭だと伝えればいい。
他人の肉体で他人の人格に成りすました事実は簡単に成立する。
ミスティル演じるリリィこそが、今の
ある意味では、悪意を
これには
その言動こそが
元の肉体に大手を振るって戻れる近道だと確信している。
「心がざわざわします。……嫌な感じがしますね。でもやらないと──生き残れん」
昨晩、同居人が導き出した魂の采配は実に妥当で順当で正当なものであったか。
彼女本来の肉体は、やはり同居人である《手》──魂だけの魔物──が支配するべきであり。
リリィの肉体には、家主であるミスティルの魂こそがふさわしいのだ。
それが尤も優れた最適解だ。初めから検討の余地も価値もない。
ひとつひとつ
ミスティルの肉体は魔物に奪われ
その事実から目を背けていたに過ぎない。
そもそも論として、リリィの仲間達からリリィの
なればこそ、ミスティルの魂が責任をもってリリィの肉体を管理するのが道理というもの。
預かったからには
「この声にも慣れないとな──慣れませんとね。もう
なにより、
これから
「この手も。この胸も。
それら事実を
ミスティルが考えれば考えるほど、新しい
「そういえば、
彼女はやけに騒つく心からも目をそらすと、それまで座っていたクイーンサイズの
続いて後ろに軽く下がってからの飛び込み斬りを、剣を握ったつもりの手で放つ。
さらに
「……なるほど。これでは見せかけの装備を優先したくもなる……なりますね」
真剣に身の振り方を思案していた
彼女自身、気が付いていないことだが、
ふとした思い付きでも強者の魂は弱者の肉体を見事に操ってみせた。
それも最初の持ち主よりも──そんな事、知る
「やってやれないことはない」
唯一の減点要素は最後の転倒部分だが、初の試みでこれは凄まじい結果だと云える。
流石は二つ名持ちの魂といったところか。肉体の性能だけで名を上げてきたわけではない。
見た目だけの、
これでまた、言い訳のひとつ──本来の肉体を選ぶ理由──が
単独戦力として高い
これでまた、ひとつの言い訳──他人の肉体を選ぶ理由──が足された。
軽快な動きも熟せる《
彼女に
目を背けるどころか、ミスティルの
話も前提も現状も思考も結論も未来も何もかもが狂っていようが歯車は歯車。
噛み合ってさえいればいい。矛盾をなくした辻褄合わせの結論が身の丈に合った判断を下す。
「動き回るのは私の戦い方ではありませんが……武装解除下での特殊な鍛錬だと思えば、折り合いはつけられそうですね」
性格の使い分けに続いて、彼女が危惧していた戦闘方面の方針にもこれで目処がついた。
あとは肉体に違和感を覚えなくなるまで使い込むだけだ。