※この作品はR-18です。

寄生モンスター図鑑   作:それも私だ

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 後日談後編。いつまでも寝かせるのもなんだと思ったので投下。
 満足のいく出来ではなく、どちらかというと供養に近い感覚です。期待しないでね!
  ・表現等の微調整(2024/8/21)。


 └命の輝き(下)

 次にアルディアが目を覚ましたとき、そこは薄暗い部屋の中だった。

 外の光は感じ取れず、頼りないランプの光だけが闇を照らしている。

 

「……ここは……?」

 

 地下室だろうか。吹く風は隙間もないが、薄着の自分(アルディア)にはここは少し肌寒い。

 

 思わずこぼれた疑問の言葉を、傍(・)に(・)い(・)た(・)友(・)人(・)が引き継いだ。

 

「お店の地下室よ。昼間は喫茶店で、夜はバーを経営しているそうなの。ワインのいい香りがしない?」

「……そう」

 

 アルディアは寝起きのぼ(・)ん(・)や(・)り(・)とした頭で考えた。

 自分は酒でも飲んで酔い潰れてしまったのだろうか。

 どうにも記憶がはっきりしない。酒を飲んだ記憶さえない。

 

 ともあれ、起き上がって水でも飲んで意識をはっきりとさせよう。顔を洗うのもいい。

 

 しかし、起こそうとした身体は腕も足も上がらない。

 アルディアは動けなかった。

 

「暴れないで」

「暴れるって……、起き上がれないほど飲んだ覚えがないんだけど……」

「ええ、そうね。飲んだのは睡眠薬だもの」

「……え? 睡眠薬? あんた……ッ!!」

 

 耳に届いた不穏な単語に、アルディアはとっさに意識を切り替える。

 

 彼女は傭兵だ。不調だろうが何だろうが、荒事となればそれに備えるのみ。

 状況から目の前の友人──ファルサが自分(アルディア)に一服を盛ったのだと当たりをつける。

 

 ついでに転がってでも距離を取るつもりだったが、それさえもできなかった。

 特(・)製(・)の(・)椅(・)子(・)に備え付けられた拘(・)束(・)具(・)が、アルディアの動きを封じているからだ。

 

 椅子は斜めに傾いている。たとえば……椅子の前足を浮かせて、前にある机の上に自分の足を乗せたときのような角度で固定されている。

 

 椅子には肘掛(ひじか)けがあり、ご丁寧な事に眠ってしまっても腕がずり落ちないようにとベルトが備わっている。

 足側も同様だ。足(・)掛(・)け(・)もついていて、こちらにもベルトが備わっている。

 

 10人中10人ともが、この椅子は分(・)娩(・)台(・)だと答えるだろう。

 しかし、これから行なわれる事は分娩ではない。

 

「思い出した? それで、この子なんてどうかしら?」

 

 ──胎内回帰だ。

 

 アルディアの視界の端から正面へと、赤子を抱いたファルサが映り込んだ。

 赤子の肌の色は青かった。青白いのではなく、ただただ青い。

 

 すべての人間は大まかに白・黒・薄黄の3色に別けられる。

 白と黒はエルフとそれに列なる者が。薄黄はそれ以外の者達(ヒューマン)が。

 

 同じ人(・)類(・)に緑肌のゴブリンもいるが、あれは別枠だ。

 人類(・)ではあれど人間(・)とは見做(みな)されていない。人と認められていないのだ。

 

 この赤子の肌の色は、そのどれにも当てはまらない。

 だけども人間の範疇に含まれない事だけはアルディアにも分かった。

 

「……モンスターの子供」

「違うわ! この子も人間よ!」

 

 ゴブリンとは言葉が通じず、融和の意思も感じられない。

 彼らは本能のまま、暴虐の限りを尽くそうとする。

 だから人ではなく異形として扱われる。

 

 それは仕方のない事だ。相容れないのならば戦うしかない。

 だが、人は人だ。人型のものを殺すという事実はとても重い。心に重く圧し掛かる。

 

 や(・)つ(・)ら(・)は人とよく似た何か違う別の生物……とでも思わなければ重荷に潰されてしまう。

 それはファルサも分かっている。

 

 だが、この赤子は違う。

 

 赤子も言葉こそ通じないが、融和はできる。

 

 相容れるのだ……その胎(はら)の中に、その胎(はら)の中で、母体と融(と)け込める。

 人の世の輪へと、人の内に含め(いれ)られるのだ。

 

「貴女もこの子達を受け入れたら、きっと分かるはずよ」

「受け入れたら……? まさか……ッ!」

 

 まじまじと赤子を観察していたアルディアは、赤子の状態と、続くファルサの言葉から最悪の事態を導き出した。

 

 ゴブリンの身体は子供のように小さいが性行為(セックス)は可能だ。

 だが、すぐ目の前の赤子と違ってへ(・)そ(・)の(・)緒(・)なんてついていない。

 へ(・)そ(・)の(・)緒(・)がついたまま性行為のできるゴブリンは存在しないのだ。

 

 そして、へその緒とは生まれてすぐに断ち切られるものだ。

 母体から切り離され、自立していくために必要な儀式(こと)だからだ。

 だが、この赤子にはついたままだ。

 

 へその緒とは母体と繋がるための器官。母体から栄養を奪(・)う(・)ための器官。

 母体と結合するために、一体化するために必要なもの。

 だから、この赤子にはついている。

 

 ──胎(はら)を膨らませた相手は胎(はら)の中にいる。

 ──孕めば、この子達を受け入れたら分かる。

 ──そして拘束された自分(アルディア)の身体。

 

 目の前の友人(ファルサ)は、自分(アルディア)に赤子を孕ませようとしている。

 それも誰か男に犯させるのではなく、言葉通り赤子そのものを孕ませるつもりなのだと。

 何の事前知識もないアルディアは見事、この状況から正解を導き出してみせた。

 

「じょ、冗談じゃないわっ!!」

「ええ、冗談じゃないわよ。……さあ、いらっしゃい。この女(ひと)があなたのママよ」

 

 その最悪の推測はすぐに肯定される。

 

 分娩椅子へと続く台の上に、アルディアの女性器の前へと続く道に赤子が降ろされる。

 赤子の大きさは10ヶ月まるまる育った新生児相当のものと同等だ。

 未だ何者も受け入れた事のない、処女の膣には大きすぎる。

 

「イヤ、嫌……来ないでっ!! 来るな来るな来るな……!」

 

 不幸にもアルディアは、首だけは拘束されていなかった。

 だから嫌でも見てしまう。……自身の女性器へと近づく赤子の姿を。

 目を離せるはずもない。……自身の女性器に手をかける赤子の姿を。

 

「ひっ……ぎゃあああああっ!! 痛い痛い痛い痛いッ!!?」

 

 どこにそんな力があるのだろうか……赤子はアルディアの女性器の前に辿り着くと、両(・)手(・)を(・)使(・)っ(・)て(・)こ(・)じ(・)開(・)け(・)た(・)。

 

 赤子の手によってブチブチと音を立てながら開かれる、アルディアの入(・)口(・)。

 生を受けてからずっと守ってきた処女膜は、何の感慨もなく破り捨てられた。

 それこそ幼い子供がプレゼントの包装紙をビリビリに破り捨てるようにあっさりと。無残にも。

 

 赤子にはありえない腕力。もはや疑いようはない。これは人外だ。

 しかし、見た目は赤子のそれ。経験済みの女だろうと受け入れるには赤子の身体は大き過ぎた。

 楽(・)に(・)通(・)せ(・)る(・)のはそれこそ熟練の経産婦くらいなものだろうか。

 

「そんなのッ、挿入(はい)るわけない、挿入(はい)るわけないでしょ……! ……ヒッ!?」

 

 だが、そんな事など知ったことかと言わんばかりに、赤子は頭を膣口へ押し付ける。

 頭蓋骨やら膣口の大きさなど、普通に考えたらまず入らないと思うだろう。

 

 それでも赤子の頭は1cm2cm3cmと……徐々に彼女達の視界から消えていく。

 水の入った袋のように頭の形を歪め、アルディアのな(・)か(・)へと押し挿入(い)ろうとしている。

 赤子はスライムにも似た特性を持っていた。

 

 中が空洞のゴムボール……被膜を持ったスライムを握ってみたらわかるだろうか。

 内部にある空気や水は押しやられると、指の間をすり抜けてその存在を主張する。

 それと似た現象が、アルディアと赤子の間で起きていた。

 

 流動性のある液体(もの)であれば、どんなに狭い道でも通ることができるのだ。

 しかし、男を知らない未使用の膣はあまりにも小さく狭すぎた。

 

 ごりごりと、みりみりと、ぶちぶちと拓(ひら)かれる苦痛はアルディアには耐え難いものだろう。

 彼女の戦い方は回避が基本だ。痛みなんて慣れてなどいない。

 

 だからだろうか。赤子の頭が半分ほど挿入(はい)った時、耐え切れず膣を締めてしまった。

 

「ぎィあがァッ!!?!」

「あら……すごいわっ!」

 

 ゴムボールは握ると飛び出る。似た現象は同(・)じ(・)現象と化した。

 

 掌は膣。指は締め付け。指の隙間の先は──子宮。

 

 膣を締めたことで、一瞬にして赤子の身体の大部分がアルディアの膣内(なか)へと呑まれて消えた。

 頭にあたる部分は最奥まで押し込まれ、子宮口とキスをした。

 

 ずるんと急に膣内(なか)に挿入(はい)り込んだことで、更なる苦痛が彼女を襲う。

 そしてまた反(・)射(・)で(・)膣を締めては更に奥深くへと赤子を呑み込む。そしてまた繰り返される有(・)限(・)ループ。

 

 そう、有限だ。ピクピクと全身が痙攣するまで続けられたループは、赤子の全身を呑み込むことで終わりを告げた。

 

 この次に始まるのは、膣口の時の焼き直しだ。入口をこじ開け、な(・)か(・)へと押し挿入(い)る。

 そういう意味では同じだが、次に挿入(はい)る場所は膣内ではなく子宮だ。

 

 アルディアの痙攣はまだ続いている……口(くち)では嫌だ嫌だと言いつつも、身(・)体(・)は(・)正(・)直(・)なようだ。

 女性の本質は母性。たとえ意識を手放そうが、仔(・)の助けを為(な)そうとしていた。

 

 先ほどと同じ要領で膣に全身を潰された赤子は、今度は子宮に流れ込む。

 ぼこり、ぼこりと段階的にアルディアの胎(はら)を膨らませながら、赤子は彼女を母(・)にしていく。

 

 今度は手など必要ない。なにせマ(・)マ(・)が手伝ってくれているのだ。

 ならば仔(・)の(・)自(・)分(・)は、全身前例をもって母の胎内(なか)へと丸ごと傾れ込むのみ。

 

 頭、肩、腕、胴、足が子宮に挿入(はい)り込むと、残された部位はへその緒だけとなった。

 

 こじ開けられた膣内と子宮口の中、未だ胎(はら)の外に残されていた細長いへその緒は、いままでの事が嘘のように──アルディアの苦難をあざ笑うかのように──するすると蛇のように道中を通り抜けていった。

 

 へその緒とは、母体と繋がるための器官だ。

 ──ただ胎内へ回帰しただけでは意味がない。

 

 へその緒とは、母体から栄養を奪(・)う(・)ための器官だ。

 ──もう二度と外界(そと)へ出なくて済むように、母体(はは)の胎内(なか)に留まるために備わっている。

 

 へその緒とは、母体と結合するために、一体化するために必要なものだ。

 ──胎児と母体が繋がっているのは当たり前のことなのだから。

 

 だから、この赤(・)子(・)も繋がろうとする。

 ──アルディアの子宮へと直に根を張って。

 

 へその緒の先端はたとえるなら、毛先が広がりきった箒のような歪(いびつ)な形をしていた。

 そ(・)れ(・)は子宮壁に触れるとすぐに癒(・)着(・)を始めた。

 

 子宮壁に被さるだけでは止まらず、その地(・)中(・)に根を伸ばして侵食(すす)ませて。

 ただ表面同士が重なるだけの癒着ではなく内部で同化させた。母なる大地に根を張った。

 

 これでアルディアはもう、ひ(・)と(・)り(・)ではなくなった。

 どこに居ようが胎(はら)の仔(こ)が、ひ(・)と(・)り(・)にさせてくれない。

 

 上階の喫茶店の妊(・)婦(・)たちと同(・)じ(・)になったことで、疎外感を抱くこともなくなるだろう。

 常にその存在を主張し続ける臨月の胎(はら)が、そのことを忘れさせてはくれない。

 

「本当にすごい……私の時よりずっと早いわ。流石は疾風のアルディアね。……あら?」

 

 ──はずだった。

 

「あ……、あ……」

 

 アルディアの痙攣はいまだ続いている。

 

 膣の締め付けは、子宮の締め付けに変わった。

 それはそうだ。赤子は膣から子宮へ移動したのだから。

 そうして、へ(・)そ(・)の(・)緒(・)により母子は結合(つな)がった。

 

 赤子の体はスライムと特徴が類似している。水のように柔軟だ。

 胎児と母体はへその緒を通して繋がっている。一体化している。

 

 ──条件が揃ったことで、三度目のゴムボール現象が起きた。

 

 アルディアに課(か)せられた苦難はさらに続く。

 

 へその緒を通してアルディアの体内へと、赤子の本(・)体(・)──水(・)分(・)が流し込まれた。

 子宮に張り巡らされた異形の根より、全身に張り巡らされた血の管へ。

 他でもない彼女の子宮が仔(こ)を潰しながら血流に取り込んでいる。

 

 言葉も通じない異形と、文字通り融和する。

 言葉も通じない異形が、全身へと行き渡る。

 

 相容れるのだ……その胎(はら)の内で、その器の中へ、母体に融(と)け込み始める。

 ファルサでも至らなかったその先へと、アルディアは至った。

 

 人の世の輪へと、人の内に含め(いれ)られる方法がついに見つかったのだ。

 

 異なる人種が反発し合うのは当然のことだ。

 同じではないから。

 

 同じではないなら同じにしてしまえ。

 違うのならば同化してしまえばいい。

 

 同じ人種、同じ人物なら反発のしようもない。

 今日日(きょうび)、混血(ハーフ)など珍(・)し(・)く(・)も(・)な(・)い(・)だろう。

 

 ほとんどの生き物の身体は大部分が水分で構成されている。

 どんな人間だろうと水分のすべてを失えば干物(ミイラ)のようになる。

 表裏一体。水分は必要不可欠の存在なのだ。

 

 へその緒を介して血流に乗った液(・)体(・)の(・)異(・)形(・)は一旦心臓へと送られ、指の先から脳の奥まで、アルディアの全身へとじわじわと広がり、アルディアそのものを汚染していく。

 

 ──母子感染。通常の意味の、そのまた逆の子(・)母(・)汚(・)染(・)。

 

 寄生体という名の水分を足されたアルディアの身体に変化が起きる。

 健康的だが少々細かった身体は、妊婦特有の肉(・)付(・)き(・)のいいものへと変わる。

 それでいて胎(はら)は目立たせない。

 

 急激な変化……急に水を蓄えたならば腫れるものと考えるのが普通だろう。

 だがそうにはならなかった。単なる水ではなく、スライムに類似した何(・)か(・)だったからか。

 

 水分といっても所詮は赤子程度の量。程よく異形の液体を注入された若い女の肉は、ムチムチの食(・)べ(・)頃(・)へと変わるだけで済んだ。

 

 それは不法で不当で、ありえない不正の所業。

 しかし、見た目はいい。見せ掛けはよくなる。

 

 足、腕、尻、腰──ともすれば少女にも見紛えてしまえた肉体は、寄生体の好(・)み(・)に合わせるかように、急激に女へと変貌させられた。

 異形によって造り変えられていく肉体。その中でも特に変化が大きかった部位は、胸だ。

 

 妊娠するとカップ数は2つほど上がる。

 これは通常、赤子に母乳を与えるための変化だ。

 

 母乳は当然、母体の体液……それも血液が原料となる。

 血流に乗った異形が胸に集まるのも当然のことだった。

 

 巨乳化した胸は、ブラの代わりにもなっている胸当てを押し上げ、隙間を作らせる。

 膨らむ胸と反比例して、大きかった胎(はら)はすっかり萎んでいた。

 

 ほんの少し、わずかに膨らんだ胎(はら)の中では、中身の大部分を与えた赤子──寄生体と、それを飲み込んだ子宮がみちみちと押し合いを続けている。

 残りの水分も時間をかけて母体へ吸収されるか、この拮抗状態を維持するか、はたまた逆(・)流(・)してしまうかは、今後のアルディアのが(・)ん(・)ば(・)り(・)次(・)第(・)だろう。

 

 いずれにせよ、彼女の身体が事が起きる前に戻ることはもうない。

 胎内(なか)で異形と結合し、全身に異形が入り混じる肉体は、母から少女には戻れはしない。

 

「吸収した……? いえ、そんなことありえないわ……」

 

 この一連の現象を傍から見ていただけのファルサには理解が追いつかない。追いつかないが──

 

「……そう。そ(・)こ(・)からやり直してあげるのね。あなたは口(くち)は悪くても本当は優しい人だもの」

 

 ──狂った価値観(あたま)は時として都合のいい真実を紡(つむ)ぎだす。

 

 ただ胎(はら)を貸すだけではなく、1から孕み直した。傍観者(ファルサ)はそう捉えた。

 ……実態はどうあれ、真実など人によって異なるものだ。

 

「起きたら鎧の新調にも付き合ってあげるわ。だから、いまはしっかりと休みなさい。……おめでとう、アルディア」

 

 慈愛に満ちた、しかしどこか狂気を孕んだ笑みが、新たな母の誕生を祝福した。

 

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