※この作品はR-18です。

寄生モンスター図鑑   作:それも私だ

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プレグナント・スライム後日談。着床寄生後のお話。
 出産シーンだけを読む


 └少女ルージュが壊れた日

「──ほんじゃ、今日もシアン達と遊ぶから。行ってきまぁ──」

「ちょっと待ちなさい!」

 

 友達と会いに行く8歳の少女・ルージュを呼び止めたのは、彼女の母・マゼンダだ。

 マゼンダは、誰がどう見ても不機嫌だと分かるほどイラ立っていた。

 

「あんたね~、いい加減にしなさい! いつまでも男の子みたいな事してんじゃないわよ!」

「チッ、うっせーな……」

 

 不機嫌の原因は、娘・ルージュの素行不良だ。

 ルージュは、友達であるシアンとミドリの3人でよく遊んでいる。

 それだ(・)け(・)ならマゼンダも無意味に怒ったりはしないのだが……遊び方に問題があった。

 

 ルージュとその友達(なかま)は、村では《男勝りのおてんば娘》として有名なのだ。

 実際に男の輪に混ざることはないが、やっていることは勇者ごっこや英雄ごっこ、探検ごっこと、じつに男らしい遊びばかりだ。身体を動かしてばかりいる。

 

 せっかく女の子に生まれてきたのに、どうして男の子のような遊びをするのか。

 マゼンダはそれが不服だった。

 

「大体ね、あんた、その腹どうにかしなさいよ。小さいうちに太ったまま放っておいたら、大きくなっても太ったままよ?」

 

 女には不(・)名(・)誉(・)な評判に加えて、服の上からでも分かるほどに、ぽっこりと出ているルージュのお腹。

 マゼンダはそれも不服だった。

 

「……オレだって好きでこんな腹になったんじゃねーよ」

 

 マゼンダはルージュの土手っ腹に対して冷ややかな声と視線を注いだが、まさか他ならぬ自分の娘の胎(はら)を膨らませているのがスライムだとは露(つゆ)にも思わないだろう。

 

 ルージュの胎にはスライムが、ずっしりと詰まっている。

 ルージュはスライムを孕んでいた。

 

 ルージュがスライムの核に着(・)床(・)されてから早10ヶ月ほどが経過しているが、母も父も村民も誰ひとりとしてルージュの異変に──本人が隠していることもあり──気付いていなかった。

 

 それもそうだろう。毎日という非常に短い間隔で顔をあわせていれば緩やかな変化には意外と気付きにくいものだ。

 それでも何人かの村人は多少の違和感を抱いていたが、食べすぎか何かで腹だけ太ったのだろう、と自分の心の内で結論付けていた。

 

 おそらく、ビール腹のおっさん連中の存在が無意識にもそう思わせたのだろう。

 奇(く)しくも、どちらも液(・)体(・)のせいという点は一致していた。

 

「声が小さい! 何言ってるか分かんないわよ!」

「はいはい、善処するわ」

「《善処》なんて難しい言葉、どこで覚えたのよ?」

「シアンが言ってた」

「あー、確かにあの子なら言いそうね。同性同士、仲が良くて大変結構。──でも、お腹まで一緒に太らなくてもいいじゃない」

 

 間違って繋がった点と点は、真相という線に繋がる可能性を消した。

 加えて点在する犠牲者が真相からさらに遠ざける。

 

 スライムの核に着床(きせい)されたのは、なにもルージュだけではない。

 女友達のシアンとミドリも同時期に着床(きせい)されていた。

 当然というべきか、その2人の胎(はら)も出ている。

 

 しかし、極小の核は10ヶ月前と同じ大きさ(0.1ミリ)で子宮壁に張り付いたまま、何ひとつとして変わっていない。

 少女の胎(はら)を膨らませているのは、あくまで核が作り出す粘体だ。

 着床した核に宿主を捨てる気は欠片も無い。

 

 今日、ルージュが2人に会うつもりだったのは、増殖しすぎた粘体を胎内(たいない)から取り除くためだ。協力して身体の外に押し出す。

 1人でも出来ないことはないが、同じ被害者で集まることで得られる妙(・)な安心感、見張りを立てられる安堵感、出した粘体の始末のしやすさから、3人は集まるのだ。

 

 ──ほかの人に知られたら大変なことになる。

 ──モンスター扱いされて退治(ころ)されたくない。

 

 そんな思(・)い(・)込(・)み(・)が、まだ8歳の少女達に妊(・)婦(・)と堕(・)胎(・)の真似事を繰り返させていた。

 

「シアンちゃんは頭が良いのに、なんで男の子みたいな事……あっ! あんたのせいね~! あんたって子は! おとなしそうなミドリちゃんまで巻き込んで! 今からお説教するから、ちゃんと聞きなさいっ!!」

「うげっ、マジか」

「おしとやかにするように言い聞かせてもダメ。形からって思ってスカートを穿かせてもダメ。──なら、女の子の人生ってもんを1から10まで教え込んでやるわ」

「女の子の人生って何だよ? 哲学か何かか?」

「てつがっ……、あんたにしては結構イイ線いってるわね」

「だろ。じゃあ行ってきまぁ──」

「いいから座りなさい!」

 

 だが、今日のところは3人が集(つど)うのは不可能なようだ。

 ルージュは床に正座をさせられ、その眼前には、怒りの形相を浮かべたマゼンダが両手を腰に当てて仁王立ちをしていた。

 

「いい? 女の子っていうのは──」

 

 今度こそルージュを真人間ならぬ真(・)女(・)へと更(・)生(・)させるべく、マゼンダは言って聞かせる。

 

 女の子だからおしとやかになれ、と言っても無駄だった。

 それはそうだろう。『なぜそうする必要があるのか。それは女だから』では通用しない。

 性別を理由にできるほど、ルージュは利口(バカ)ではないからだ。

 

 何事も形からと言うのでスカートを穿かせてみたが、これも無駄だった。

 それはそうだろう。『女はスカートを穿く』、それだけでは意味を成さない。

 常(・)識(・)を理由にできるほど、ルージュは利口(アホ)ではないからだ。

 

 三度目にしてマゼンダは、何がいけなかったのか、ようやく分かった気がした。

 相手(ルージュ)の理解力(あたま)に任せていたのが、すべて悪かったのだ。

 

 つまり、問題に問題を丸投げしていたのだ。

 

 Q.1+1=?

 A.それくらい自分で考えろ。

 

 Q.この小説の作者が何を思って作品を書いたのか○○字以内に述べなさい。

 A.それを書かされる読者(わたし)の心境を考えてもみなさい。

 

 ……こんな答案では0点どころかマイナス100点にされても不思議ではない。

 点数(けっか)を得るには、正当な解答と理屈が必要だ。

 

「──歳くらいになると、股から血が出てくるのよ」

「股から血ぃっ!?」

 

 テストで良い点を取れないのならば勉強だ、補習だ。

 今回、マゼンダは身体の仕組み──性について詳しく教えることにした。

 

「で、それが月1で40年続く」

「最悪じゃねーか! なんで女に生まれただけで、そんな苦労しなくちゃいけねーんだよ!」

「赤ちゃんを産むためよ。女の股に男が挿入(はい)って、ゲロ吐いて、お腹が大きくなって、股からオギャアして。……あたしもあんたも、そうやって生まれてきたのよ」

「意味がわから──あっ……」

 

 1から10まで教える。その発想は良かった。

 その発想自(・)体(・)は(・)良かったが、親としての大失態を演じてしまうことになる。

 

 マゼンダは自分の娘(ルージュ)のことをバカかアホだと思っているが、じつはルージュの頭のつ(・)く(・)り(・)は確りとしている。

 8歳児が《善処》や《哲学》といった難しい言葉を使いこなしていると言えば、その凄さが伝わるだろうか。

 

 ルージュは理解力(あたま)が高(よ)すぎるせいで、自分で考えようとはしない。

 分からない事を考えるだけ無駄だと理解しているからだ。

 

 ルージュは要素を与えられて初めて考えようとする。

 分かる事を考えるのは、理に適っているからだ。

 

 ルージュはこれまで、胎(はら)の中に何(・)か(・)が詰まっている事の、本当の意(・)味(・)を理解していなかった。

 当たり前のことだが、8歳児に性交・妊娠・出産の流れ(こと)など知るわけがなかった。

 

 だが、三度目にしてようやく正しく要素を与えれたことで《大きなお腹》と《股の間から出てくるスライム》が意味することを理解してしまった。

 自分がスライムの仔を孕んでいることを正しく理解した。

 

 母は何も知らずに、娘に埋め込まれた核地雷を踏み抜いてしまったのだ。

 

 頭が良い者は必ずしも心が強いわけではない。

 たかだか8年程度生きただけの少女が受け止めるには、重すぎる現実だった。

 

「そうそう。女には《処女膜》があるんだけど、自分が清い身体だって証明するためにあるのよ」

「……」

「人によっては生理みたいに血が流れたり流れなかったりするらしいんだけど、まあ初めては痛いから分かると思うわ。一生に一度っきりだから結婚まで大事に守りなさいね」

「……」

「で、肝心の膜がある場所だけど、オシッコする穴とクソを垂れる穴のちょうど真ん中にある穴にある。ついでに言うと、その真ん中の穴が赤ちゃんを作るための穴」

「……」

 

 母の心ある(ない)言葉が、なおも娘の心を抉っていく。

 無上にも現実を思い知らされたルージュは、湧き上がった焦燥感に呑まれて俯いていた。

 

 下がった視線は、スカートの下にある見えない肉穴に自(・)然(・)と(・)向けられた。

 ──スライムが股(なか)に挿入(はい)ったのは、たぶん、踏み潰した時だ。それ以外、考えられない。

 

 ゲロを吐いたことはないが、お腹は大きくなっているし、スライムはいつも股の真ん中から出てくる。

 ──《赤ちゃん》ってスライムのこと? スライムが赤ちゃん? えっ? でもニンゲンも同じ穴から出てくるって……。

 

 だけども血が流れたことはないから生理も処女膜も大(・)丈(・)夫(・)なはずだ。

 ──大丈夫、自分(オレ)はキレイな身体だ。スライムに汚されてなんかいない。ちょっとネバネバした汁が出てくるだけだ。生理がまだなら赤ちゃんじゃない。

 

 ルージュは必死に自分を正当化して(言いくるめて)いた。

 ガサツな性格とは真(・)逆(・)の、繊細な心を守るために。

 

「あたしがお父さんと出会ってあんたを生んだみたいに、あんたもいつかステキな人と出会って赤ちゃんを産むのよ。それが女の人生! ……あんたもようやく分かったみたいだし、もう遊びに行ってもいいわよ。これからはちゃんと女の子らしくするように! お腹もちゃんとへこませるのよ。そんなお腹のまま大きくなったら、妊娠してるんじゃないかって疑うバカも出てくるから。ああ、《妊娠》はお腹の中に赤ちゃんが出来て、お腹が膨らむことね。赤ちゃんがお腹から出てくるのは《出産》」

 

 いつもとは違う娘の反応に、マゼンダは確たる手応えを感じながら──補足に補足を足して──話を締め括った。

 

 ルージュは下を向いたままだった。

 娘の様子にマゼンダは、娘が反(・)省(・)したのだと思い込んだ。

 

 親の心、子知らず。

 子の心、親知らず。

 

 致命的なすれ違いだった。

 

 今回、ルージュは《女》というものを理解はしたが、《女の子》というものは理解していない。

 ただ単に、人間(おんな)として終わりかけていることを知らされただけだ。

 

「……」

 

 ──スライムが父(とー)ちゃんで、オレが母(かー)ちゃんで、スライムが赤ちゃん? ははっ、笑えねえ。

 

 ルージュは下を向いたまま、静かに家を後にした。

 

 遊びに行ってもいいと言われたが、すでに日は傾いている。

 夕日がルージュの陰を、さらに濃くしていた。

 

「あっ、腹デブ女だ!」

「……」

 

 意気消沈とした彼女に声をかけたのは、同い年の男の子だ。

 ルージュの胎が膨らんでからは、こうしてよくからかっている。

 

 いつもは彼女も何か言い返して追い払っているのだが、今の彼女は焦心している。

 焦り、傷ついている少女に応対できるほどの余裕は無い。

 

「無視すんじゃねーよ! デブのくせに!」

「──ッ! うるせえッ!!」

 

 男の子は、手負いの獣(・)に手を出してはいけなかった。

 

 ルージュは普段以上の速さで動いて、男の子のみ(・)ぞ(・)お(・)ち(・)を殴りつけた。

 不意を打たれた男の子は、堪らず地面にうずくまる。

 

「ゃ(や)、やぇっ(やめっ)……! やえぇふぇ(やめて)……!」

「ふざけんなッ! ふざけんじゃねえよッ!」

 

 男の子は許しを乞うも、ルージュは聞き入れようとはせずに腹を蹴り続けた。

 まるで自分の胎からスライムを余さず追い出そうとするかのように、男の子が気を失うまで蹴り続けた。

 

「そうだ、出さねえと──」

 

 予(・)行(・)練(・)習(・)は済んだ。

 

 男の子を介抱することなく、ルージュはふらふらとした足取りで、村の裏手にある小さな洞窟に──ルージュとシアンとミドリの女3人だけの秘密基地へと歩き出した。

 

────────────────

 

 もう夕方だからか、誰とも出会わずに秘密基地に着いた。

 

 2人は居なかった。すでに帰宅したようだが、そんな事はどうでもいい。

 ルージュの目的は、胎内(たいない)のスライムを追い出すことだ。

 協力者が居ないなら、居ないなりにやるだけだ。

 

 基地の備品である古いランタンに火を灯すと、下着を脱いで地べたに座り、ピンク色のワンピースをめくり上げた。

 過去数十回とスライムを吐き出してきた幼い割れ目は、ほんの少しだけ開いていた。

 

 ルージュは腹部に両手を重ねて合わせると、かなり強い力を入れて胎を押した。

 一息に出し切ってしまおうと思ったのだろう。

 だが、スライムは出てこない。

 

 どろりとした粘体がすぐに流れ出るはずが、今日に限ってはまったく出てこない。

 

 ──知ったからには、なんとしてでも出さなくては。

 

 ルージュはムキになって、さらに力を込めて胎を押した。

 すると、股(・)のあたりに奇妙な圧迫感を感じた。

 

 なぜかは分からないが、強い力が必要だということは分かった。

 そのままゆっくりと力を加えていく。

 

「痛(イツ)ッ!」

 

 途中、いままで味わったことのない、身(・)体(・)を(・)裂(・)か(・)れ(・)る(・)よ(・)う(・)な(・)痛(・)み(・)を感じたかと思えば、さっきまでの抵抗がウソだったかのようにスライムが流れ出た。

 痛みに対して反射的に瞑ってしまった目を開くと、無色透明のはずのスライムに赤(・)い(・)何(・)か(・)が混じっていることに気が付く。

 

「──は?」

 

 要(・)素(・)を感じ取ったルージュの頭が、聞いたばかりの母の言葉を思い起こした。

 ──歳くらいになると、股から血が出てくるのよ。

 

「股から、血……」

 

 ──女には《処女膜》があるんだけど、自分が清い身体だって証明するためにあるのよ。

 ──初めては痛いから分かると思うわ。

 ──人によっては生理みたいに血が流れたり流れなかったりするらしいんだけど。

 

「出すとき、痛みがした……」

 

 ──一生(いっしょう)に一度っきりだから結婚まで大事に守りなさいね。

 

「これがオレの、オレの……」

 

 流れ出たスライムの中に、楕円形の卵(・)があった。

 ルージュは一目で理解した。

 

「オレの、はじ、めて……」

 

 一生に一度っきりを、こ(・)れ(・)が奪ったのだと理解した。

 

 ルージュの幼い身体は、スライムに穢(けが)された。

 性教育を受けたその日に、無残にもスライムに裂かれた。

 スライムの卵(・)を産んだ。スライムの母になった。

 心(・)身(・)と(・)も(・)に(・)汚い身体になった。

 

 死ぬまで一生、ずっと穢(きたな)いまま──。

 

 ルージュは全て理解してしまった。

 

「あ……ああ……あああああああああっ!!!!」

 

 半狂乱となったルージュは自分が産んだ卵を掴むと、座ったまま目(・)の(・)前(・)の(・)地(・)面(・)へ(・)と(・)勢いよく叩きつけた。

 卵はルージュの股の中で、呆気なく爆ぜて中身を撒き散らした。

 

 衝動に駆られて取った行動は、自分をさらに汚す結果となる。

 飛び散った細かな粘液が、ルージュの手足や服を汚した。

 

 それだけではない。卵には、やはり極小の核が含まれていた。

 ルージュが初めて排卵した卵子で造った、スライムの核だ。

 素(・)材(・)は違えど、ルージュの子宮壁に定着している核と同じものである。

 

 ルージュは、わずか8歳にして初潮を迎えていた。

 着床したスライムの核が、ルージュの初潮を早めたのだ。

 

 スライムに混じった赤(・)い(・)何(・)か(・)の正体は経血だったが、ルージュが処女を喪失したことには変わりない。

 次に起こる事と比べたら、経血など処女喪失を彩るただの演出に過ぎないのだ。

 

 被膜から投げ出された核は、膣口から流れ出るスライムの中を通って胎内へと返っていく。

 偶(・)然(・)にも核は膣口のスライムのすぐ側に飛んでいた。

 

 その勢いは、1体目の核の時とは比べ物にならないほど速い。

 2体目の核は気付かれることなく、あっという間に子宮へ辿り着き、またもや子宮壁に根を下ろした。

 

 無遠慮にも、初潮を迎えたばかりの8歳の子宮に。

 無慈悲にも、1体目が着床したままの幼い子宮に。

 破瓜と出産を終えたばかりの、小さな少女(からだ)の胎内(なか)で。

 

 処女喪失ご(・)と(・)き(・)で(・)嘆く少女を嘲笑(あざわら)うかのように、スライムは着実に勢力を伸ばしていた。

 ほかならぬ、ルージュ自身の手によって──。

 

「へ、へへへっ、うへっ……! あっひゃひゃひゃっ! ……なんなんだよッ! なんでオレがスライムなんかにッ!! ふざけんなァッ! あああぁぁぁあああぁぁああ……ッ!!」

 

 ルージュの悲痛な叫びは、夜が来るまで続いた。

 

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