※この作品はR-18です。

俺と家元(かのじょ)と巨砲主義   作:ターキーX

1 / 44
俺と家元(かのじょ)と巨砲主義
第一話


 横浜港からの微かに潮の香りを含んだ風が鼻をくすぐる。

 

「よい……しょっと!」

 

 ベイサイドの商業エリア、「戦車道ショップ」と書かれた大きな看板を掲げた店舗の搬入口。

 小型トラックから新商品の段ボールの山を下ろし切り、「しのはら」と書かれた名札をエプロンに付けた青年が大きく息をついた。前ポケットからタオルを取り出し、顔の汗を拭く。

 

「お疲れ様ですー。あと、ハンコだけ貰っていいですか?」

「ああ、そこのスタンプ置きにあるので押しておいてください」

 

 受領証を出してくるドライバーの中年に、青年は箱を改めて抱えつつ顔の動きで近くの小さな机に置かれたスタンプ台を示した。ひとつひとつの箱の重さもそれなりだが、店頭陳列用の分も含めてなかなかに数が多い。これを運びきるのは一仕事になりそうだ。

 

「篠原くん、すまないねぇ」

 

 店内から、店長の名札を付けた壮年の男性が腰を少し曲げた状態で顔を出した。篠原と呼ばれた青年は首を振る。

 

「休んでいてくださいよ、店長。まだ立つのも辛いんですよね?」

「まあ……まあね。でも、篠原君も無理はしないでくれよ? 僕が動けない分でお願いしたとはいえ、連勤になるんだし」

「大丈夫ですよ。その、今月、割とヒマになったんで」

 

 店長の気遣いに彼、篠原和明(しのはら かずあき)は答えつつ苦笑を返した。

 実際のところ、大学一年の夏休みというこの時期において和明の予定は当初は色々と埋まっていた。その予定が全て白紙となったのはつい一週間前の事だ。この夏、高校時代からの彼女との仲を深めるために練っていた様々なプランが“ちょっとした事情”によるトラブルからの交際解消によって雲散霧消──要は、振られてヒマになったのだ。

 

「……はあ」

 

 段ボールを抱えつつ和明はため息をついた。仕事に専念して忘れようとしても、どうしても先週の出来事が思い起こされてしまう。

 どうにもまだ失恋のトラウマを克服できてはいない。このバイトにしても戦車道をやっていた彼女の紹介で始めたものだ。

 戦車道というマイナースポーツ(こう言うと彼女は怒ったものだったが)を当初は和明もロクに知らなかった。女性専門のスポーツで男子禁制、その程度の認識だ。

 しかしこの戦車道ショップ──戦車から各種パーツ、パンツァージャケット等の服飾品、関連書籍やレーション等のミリタリーグッズも扱う戦車道専門店──で働くようになり、そうでもないという事を和明は知った。

 選手こそ女性のみだが、その裏方である整備スタッフや戦車道連盟の役員には少なからず男性がおり、試合を支えていること。こういった専門店で男手が必要なこと、戦車道を古くからやっている年配女性などには男性スタッフの方がウケがいいこと等だ。

 

「ふぅ……これで、よしと。店長! 陳列終わったんで、カウンター戻ります」

 

 商品の陳列と収納を終え、和明はカウンターにいた店長に声をかけた。ギックリ腰の後遺症か、まだやや前傾姿勢なのが痛々しい。

 

「ありがとう。少しだけ書類仕事をするから、それが終わったら休憩に入って」

「はーい」

 

 事務室に向かう店長に代わりカウンターに戻り、和明は店内をざっと俯瞰した。

 高校も既に夏休みに入っているからか、制服姿の女子が多い。壁に設置された大型モニターの映像を眺めている少女もいる。放映されているのはケーブルTVの戦車道チャンネル。先日行われた、戦車道社会人リーグの映像が解説と実況付きで流れている。

 

「はぁ……」

 

 しっかりしろ俺。失恋なんて珍しくもない。ただ彼女とは「合わなかった」それだけの事だ。

 そう内心に言い聞かせながらも、戦車道に努める少女たちが目に入るとどうしても元彼女の事を連想してしまう。店長には悪いが、ここの勤務を続けるのも難しいかもしれない。

 和明がそんな事を考えていると、入店チャイムと共に自動ドアが開いた。思考を接客モードに切り替え、挨拶を入り口に向ける。

 

「おっと、いらっしゃ……!?」

 

 だが、その言葉は途中で途切れた。

 入ってきたのは二人の女性客。年の程はおそらく30代か、40代。

 連れで来る中年の女性客などは確かに珍しくない。しかし、その客は何というか──明らかに纏う雰囲気が違っていた。

 一人は身体のラインがくっきりと浮き出るようなワインレッドのドレスを着た、亜麻色の髪の女性。同色のベレーを頭に乗せ、この暑さにも関わらず白い手袋をはめた姿は、まるで高級な立食パーティーの帰りにそのまま立ち寄ったような風情だ。

 化粧は薄く、口紅も薄めのくどさを感じさせない自然な色。柔らかな微笑みと少し大きめの瞳が温和な印象を与えてくると同時に、おそらくは彼女を実年齢から何歳かは若く見せている。

 また、その浮き出た身体のラインが描く曲線も見事なものだった。ひょうたん型と言うのだろうか、「出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる」という陳腐な表現しか和明には思い浮かばなかった。

 

「あの、ちょっといいかしら?」

「は、はい!?」

「忙しいところ申し訳ないのだけど、店長さんはおられる?」

 

 二人は和明のいるカウンターまで足を向け、亜麻色の髪の女性が透明感のある声でこちらに尋ねてきた。咄嗟にどう返事をしたものか和明が答えられないでいると、もう一人の女性が張りのある声で言った。

 

「怪しい者ではないわ。『島田と西住が来た』と言えば分かります」

「は……はい!」

 

 そのもう一人の女性も亜麻色の髪の女性とは対照的な、しかし強烈な印象を和明に与えた。

 化粧気のない女性であった。亜麻色の髪の女性も薄化粧だったが、こちらはファンデーションを塗った程度で口紅も付けてはいまい。服装も服装で飾りも一切ない黒スーツに白ワイシャツ。自分を綺麗に見せようとか、お洒落をしようとかの発想が一切介入していない、機能美や効率だけを気にしたかのような出で立ち。

 しかし、その化粧気の無さが逆に彼女を美しく見せていた。亜麻色の髪の女性とは対照的な切れ長な瞳と薄い眉、一本の跳ねも無く切り揃えられた長い黒髪が与える鋭利な印象は男性的な服装とマッチしており、全体として凛とした空気を彼女に帯びさせている。

 また、その顔立ちも下手な化粧を施す必要が無い程に整っていた。目元の僅かな皺さえ隠せば、まだ20代でも通用するのではなかろうか。その肌は瑞々しく、きゅっと引き締められた口元にもくすみ一つ無い。

 それに加えて彼女の印象を際立たせていたのは、その男性的な服装でも隠しきれていない豊満な身体であった。

 全体的に肉が付いているという訳ではない。腰回りは細く、それでいて布地に十分なゆとりを持たせている筈のスラックスは豊かな尻の張りを浮かべている。上も上で、スーツの下の白いワイシャツは胸元のボタンが弾けそうな程に薄い布を張り詰めさせており、うっすらと見える黒いブラは否応なくその内側の豊かな乳房を和明に想像させた。

 

「しょ、少々お待ちください!」

 

 顔に血が昇り、自分の顔が赤面しているのを自覚しつつも和明は何とか接客モードを維持して事務室に向かった。

 事務室の店長は和明の様子に最初は怪訝な表情を浮かべていたが、黒髪の女性の言葉をそのまま伝えると弾けるように席を立ち、和明以上に慌てた様子で売り場に向かっていった。

 

「どうも『家元』! 本当にお世話になっております、ご連絡いただければお迎えしましたのに……!」

「そんな仰々しい用事ではないわ。この近くで彼女と揃っての仕事があったから、寄ってみただけです」

「ふふっ、お元気そうで何よりですわ」

「いやいや、この前に砲弾を抱えようとして腰を……」

 

 そのまま土下座しそうな勢いで店長は二人に頭を下げる。普段から物腰の低い方ではあるのだが、それにしても来賓めいた対応だ。

 

「(家元?)」

 

 その言葉に和明は引っ掛かりを覚えた。彼女らとは和明も初対面の筈だが、確かに何処かで二人を見たことがある。

 何かヒントは無いかと和明は店内に視線を巡らせ──あっさりとその答えに辿り着いた。

 

『──さて、それではこの試合、お二人はどのように見られましたでしょうか? 島田さん、如何でしたか?』

『そうですね……くろがね重工は、先の大学選抜との試合での敗北を良い材料として練度を上げてきたと思います。ただ、今回の戦術がその練度の方向性とかみ合っていなかったのが敗因のひとつではないかと……』

『なるほど。西住さんは、どう思われましたか?』

『私として注目したいのは、試合中盤のブラック・デューク社チームが挟撃された際の迎撃の迅速さです。あの時……』

「……あ」

 

 モニターに流れる、戦車道チャンネルの試合解説映像。

 そこでアナウンサーに答える二人の女性は、眼前の二人と一致していた。亜麻色の髪の女性の前には「島田流家元・島田千代」と書かれたボードが、黒髪の女性の前には「西住流家元・西住しほ」と書かれた同じものが置かれている。

 

「(戦車道家元……!)」

 

 戦車道は古くからある武道のひとつであり、様々な流派があること程度は和明も知っていた。確か、その中でも西住流と島田流といえば諸流派の中でもトップかそれに次ぐ名門だった筈だ。もちろん、本物を生で見るのは和明も初めてである。

 他のお客の対応をしつつも、和明はどことなく気になり店長と二人の様子から意識を離せないでいた。

 どうやら二人が店長に何か頼み事をして、それに店長が困っているようだ。

 やがて、こちらの接客が終わったのを確認すると和明のところに店長が歩み寄り、小声で言ってきた。

 

「篠原くん、確か君、戦車の公道免許を持ってるって言ってたよね?」

「え? ええ、まあ」

「その……お二人が、新商品のオイルを使った戦車の具合を実際に乗って確かめてみたいと言うんだ。レジは見ておくから、裏の試乗スペースにあるティーガーの運転をお願いできないかな?」

「ええっ!?」

 

 戦車道ショップはその名の通り、戦車道に関する商品を一通り扱っている。無論、戦車自体もだ。そういった戦車の試乗や砲撃テストをしてもらう為の試乗スペースも店の裏手に用意してある。

 しかし、本来はお客と同乗するのは戦車道経験者のパート女性などの筈だ。流石に即答できかね、和明は店長に尋ねた。

 

「パートの吉田さん、確かあとちょっとで出勤でしたよね? 家元さんに少し待ってもらって彼女に……」

「それが……さっき裏に居た時に連絡があってね。お子さんが熱を出して、病院に寄ってから来るとかで遅くなりそうなんだよ」

「………」

 

 ちらりと二人の方を見て、和明は小さくため息をつくと言った。

 

「言っておきますけど……免許を持ってるって言っても俺、素人の素人ですよ?」

「大丈夫だよ、お二人とも優しい方だから」

「……信じますよ、店長?」

 

 何だか西住流家元の方は粗相をすると斬られそうな雰囲気なんだが、本当に大丈夫なんだろうか。

 そんな事を思いつつも和明はエプロン姿のまま二人のところまで行き、頭を下げた。

 

「ええと、お待たせしてすみません。俺……じゃなかった、自分が運転をやらせてもらいます。篠原和明です、よろしくお願いします」

「ふふ、そんな緊張しなくっても大丈夫です。軽く乗せてもらうだけですから」

 

 こちらの緊張を解くように島田流家元が柔らかい微笑みを向ける。胸に手をあて、今度は彼女から言葉を返す。

 

「篠原さん……篠原くんがいいのかしら? 改めて、島田流で家元をさせていただいている島田千代と申します。こちらの店長さんには学生の頃からお世話になっていて、寄らせてもらったの。こちらこそお願いするわね」

「は、はい! え、ええっと……」

「西住流家元、西住しほ……よろしく頼むわ。学生さん? 男性で戦車の公道免許を持っているとは珍しいわね」

「そう……ですよね。ちょっと、色々あって」

 

 和明の視線を受けた西住流家元が静かに言った。口調こそ穏やかだが、その面持ちは無表情に近い。イメージ通り、あまり感情を表に出さない人のようだ。彼女からの質問に、和明はあいまいな返事をした。

 実際、この免許は元彼女のために取ったものだ。戦車道を履修していただけに彼女は戦車自体も好きだった。その戦車を自分が操縦し、海まで連れてゆく。そんなシチュエーションを想定していたのだが──

 

「(……泣く事は無いよなァ)」

 

 辛いことを思い出しそうになり、慌ててそれを振り払うと和明は二人に言った。

 

「それじゃ、今から戦車の立ち上げをします。お二人はパンツァージャケットに着替えて……」

「私は大丈夫、このままで乗らせてもらうわ」

「西住流はそういう所が無頓着ね……私は着替えさせていただくわ。更衣室はどこかしら?」

 

 和明の言葉にしほが首を横に振る。千代は少し呆れたように、しかしいつもの事なのかそれ以上は言う事無く和明に尋ねてくる。千代に場所を教え、和明は一礼すると裏手へと向かった。

 この暑さだ。戦車の中の暑さ──いや、「熱さ」と言うべきか、多少の覚悟はしておくべきだろう。搬入口を開けると、外の潮の香りの混じった夏の空気が流れ込んでくる。まだ曇り空なのがせめてもの救いか。

 幌がかけられたガレージに並ぶ数台の戦車。その中から指示されたティーガーを見つけ、状態を確認する。オイルは確か店長が納品時にそれと交換していたはずだ。これならすぐに動かせそうだ。

 

「……もう、動かしても大丈夫みたいね」

「あ、はい、西住さ……」

 

 背後からの凛とした声。振り向いた和明は思わず言葉を失った。

 別にしほが奇抜な格好をしていた訳ではない。着ていたジャケットを脱ぎ、スラックスとワイシャツだけの姿になっただけである。

 しかしそれだけで彼女から放たれるフェロモンは何倍にもなったように和明には感じられた。あれでもジャケットで押さえつけていたのだろう。ワイシャツの胸回りの布地はぴんと張り詰め、うっすらと──否、既にブラの形状が分かる程に透けてしまっている──しほの乳房は重そうに揺れていた。

 

「あ……」

「基本的な操縦はお願いします。途中で操縦を代わってもらう事があると思うけど、その時は車長席に座って」

 

 言葉が出てこない和明にそう言うと、しほは先に手慣れた所作でティーガーに手を置き、ハッチへと向かった。

 

「は、はい!」

 

 ようやく我に返り、和明はしほの後を追った。搬入口からは店舗レンタルの深緑のパンツァージャケットに着替えた千代も来ている。

 

「ティーガーは久しぶりね。篠原くん、よろしく」

 

 こちらはこちらで先ほどのドレスとは打って変わって無骨なジャケット姿だが、全く印象の違う格好でありながら恐ろしく似合っていた。髪は後ろで簡単に束ねられ、隠れていたうなじが露わになっている。

 

「こちらこそ……その、あんまりティーガーは慣れてないんですけど、頑張ります」

 

 操縦席のシートにエプロン姿のまま身を置きつつ、和明は自分の心の動きに動揺を感じていた。

 

「(何で緊張してんだよ……落ち着け、確かに美人だけど、どっちも学生の子供がいるくらいの年なんだから)」

 

 彼女らが既婚者で、同時にそれぞれに娘がいる事は戦車道ニュースなどで知っていた。確か西住流の方は高校生の年子の姉妹、島田流には13歳にして飛び級で大学に入った天才がいた筈だ。

 それこそ、この夏で19歳になったばかりの和明からしてみれば二人の家元は母親とさして変わらない年の差があるのだ。緊張だとか興奮だとかとは無縁の存在であるはずだった。

 

「………」

 

 興奮。そう、先ほどしほのワイシャツ越しの乳房を見たとき、和明の股間は確かに反応した。してしまった。

 自分に中年女性に興奮する性癖があると思った事はない。それ故に和明は自身の中の感情や衝動を持て余した。

 

「……準備はいいかしら?」

「はっ!? あ、は、はいっ! 大丈夫です。行きます!」

 

 車長席に座るしほからの言葉に我に返った和明は、慌ててエンジンを点けるとクラッチを繋げ、ゆっくりとアクセルを踏んだ。重々しい履帯音と共にティーガーが動き始める。

 

「ええと、どう動きますか?」

 

 エンジン音によって車内は大きな声を出さないと届かない。和明は首を傾けてしほに言った。

 

「とりあえず試乗用のコースを二周ほど回って」

「うん……確かに少し音が静かになってる。高額になっただけはあるわ」

 

 対して、しほの声はさほど大声でも無いのに和明の耳にしっかりと届いた。戦車の中での伝達の仕方や、通る声の出し方を心得ているのだろう。流石は家元と言ったところか。

 もう一人の千代は砲手席に座り、オイルの潤滑の具合がどれほどかを確認しているようだった。

 しほの言葉に従い、和明は操縦桿を握るとティーガーを低速でコースに入れた。ゆるやかな曲線を描き、ゆるやかな凹凸が作られたコースを丁寧に超えてゆく。

 

「………」

「………」

 

 後方の二人は音や稼働の具合を見ているようだ。運転に集中している事もあり、和明の中にあった緊張も少しずつ解けてゆく。

 そう、美人の家元と言っても自分とは店員と客以外の何者でもないのだ。向こうはこれが終われば自分の顔も忘れるだろうし、自分は「ウチの店に家元が来た」程度の話のタネになって、それだけだ。

 ようやく和明の内心の重みが軽くなったところで一周目を終えた。再びコースの入り口に向かう。

 

「(……ん?)」

 

 車長席のしほの気配が動いた。席から立ったようだ。

 どうしたのかと思っていると、その気配はそのまま和明の背後まで近づき──そっと、操縦桿を握る和明の手に自身の手を重ねた。

 

「え!? に、西住さん!?」

「篠原くん。貴方、初心者としては筋のいい動かし方をしているわ。ただ、曲がる時の捌き方に少し雑なところがあるわね。手の力を抜いて、私の動きに合わせてみて」

「は……はい……」

 

 言われた通りに体の力を抜く。和明の鼻孔に、しほの体からであろう甘さとうっすらと汗が混じった香りが届く。

 

「(うっ……)」

「ここ、ここから動かしてみなさい」

 

 その香りに、和明の股間がぴくりと反応する。和明の手に重ねられたしほの手が動き、操縦桿を巧みに動かしてゆく。どことなくぎこちなさを覚える和明の操縦とはまるで別物の、滑らかな動き。

 その動きに任せて操縦桿を動かすと、ティーガーは一周目よりも遥かに静かにカーブを曲がった。

 

「……この位の力の入れ方で十分に動いてくれるわ。力任せでなく、流れを意識すればもっと楽に操縦できるはずよ」

「あ、ありがとうございます……」

「お疲れ様、ここからは私が操縦するわ。篠原くんは車長席で休んでいて」

 

 その言葉に和明は頷くと、操縦席から身を起こして車長席へと向かった。操縦者がしほに変わっただけで車内の揺れが無くなったようにも思える。

 車長席に腰かけた和明に、砲手席の千代が立ち上がり声をかけてきた。

 

「お疲れ様、篠原くん」

「いえ……すみません、下手な運転で……」

 

 何となく、自分に操縦が振られた理由が和明にも分かってきた。一周目は、初心者が操縦した時で既存のオイルとどの程度違うのかを確認したかったのだろう。

 

「そんな事はないわ。いい運転だったわよ?」

 

 そう言うと千代は車長席の和明に身を寄せてきた。

 

「どうかしましたか? 島田さん」

「……ちょっと、失礼するわね」

「えっ? んっ!?」

 

 首筋にぴとっと千代の指が触れた。くにくにと指が動き、和明の体の筋肉のつき具合などを見ているようだ。

 

「し、島田さん?」

「……うん、体つきも悪くないわね」

 

 何が満足したのか、今度は千代は和明に言った。

 

「ねえ、篠原くん。貴方……彼女のこと、どう思うかしら?」

「彼女?」

「西住しほさん」

 

 千代は微笑みを浮かべたまま和明に聞いてくる。彼女の真意を測れないまま、和明は素直に答えた。

 

「え、ええっと……き、綺麗だと、思います」

「本当に?」

「本当ですよ。そりゃテレビで見た事はありましたけど……それ以上、だったって言うか……」

「……そう」

 

 お世辞のつもりは無かった。千代はもちろん、しほは綺麗で、同時に──煽情的だと思った。

 その答えは千代を満足させるものだったのだろう。頷くと、今度は彼女は和明の耳元に口を寄せ、言った。

 

 

 

「それじゃ……彼女とセックスしたいって、思う?」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。