俺と???と理髪店(前編)
茨城県立大洗女子学園。
名の通り茨城県大洗町を寄港地とする中等部と高等部合わせて生徒総数18000人、民間人を合わせた総乗人数約30000人の中型学園艦である。
今年に入り、この学校の名は戦車道界隈でちょっとした話題になっていた。近年は行わなくなっていた選択科目の戦車道を復活させ、更に初年で高校戦車道の全国大会に参加し、そのまま優勝したのだ。
その全国大会からそろそろ一ヶ月ほどが経つが、未だにその熱気は衰えていない。商店街のアーケードには「エキシビションマッチ、近日開催!」の垂れ幕が掛けられている。
「ええっと……」
その垂れ幕から手元のメモへと視線を移し、和明はそこに書かれた店を探していた。
ここに和明が来たのは例によって家元──今回は島田千代の依頼によってである。
「和明くん、大洗女子学園は分かる?」
「ええ、確かしほさんの娘さんが居る学校ですよね?」
横浜近くで行われた試合での千代の欲求不満の解消を終え、ひと息ついていた時に千代が尋ねた。少し前のしほの話を思い出しつつ答える。
「その大洗なんだけど、私やしほの学生時代の戦車道仲間も住んでいるの」
「しほさんや千代さんの……って事は、その人も何処かの流派の家元なんですか?」
「ふふっ、家元ではないわ。普通に結婚して、今はその学園艦で旦那さんと一緒に理容室をやっているそうよ」
千代は微笑むと、ベッド脇の小机に置かれたメモにサラサラと住所と、幾つかの日にちを書いた。
「この前、彼女と会ったときに和明くんの事を話したら興味を持ったみたいなの。都合が合うようなら、行ってみて貰っていいかしら?」
──人妻の浮気話に自分の話題が挙がるのは面はゆくもあり、同時に自分の知らぬところで話が広がっているという不安感を覚える。
とはいえ、千代の紹介する人物であればそう胡乱な女性でもなかろう。そういう安心感はあった。
「……ここか」
「秋山理髪店」と書かれた看板を見上げ、和明は呟いた。町並みに合った小さな理容店で、ドアの横にはお馴染みの三色のサインポールが回っている。
ガラス戸にはカーテンがかけられ、「close」と書かれた札が揺れている。これは千代から聞いていた通りだ。昼のピークを終え、今は中休みなのだろう。
「………」
呼ばれたとはいえ、見知らぬ人の家の戸を叩くのは少し緊張する。和明は呼吸を整え、ガラス戸を軽く叩いた。
「………」
待つこと数十秒。反応はない。もう一度和明はガラス戸を叩いた。
「………」
更に数十秒待つ。反応はない。
──留守なのだろうか? 和明がそう思った時、屋内から女性の声が聞こえた。
「……は~い!」
やがて奥の方からパタパタという足音が近づき、ガラス戸が少し開けられる。
「すみません。今はお休みをいただいていて……」
そこから顔を覗かせたのは、少し癖のある栗色の髪を肩口まで伸ばした、エプロン姿の女性だった。上はおそらくは仕事着を兼ねているのであろう白いシャツ。下は黒いパンツを履いている。
こちらを客と思っているらしき女性に和明は言った。
「いえ、あの、そうじゃなくって……」
「はい?」
「千代さんから、その、話を聞いて」
そう言われ、女性は軽い驚きを浮かべた。
「あらあら……島田さん、本当にお話していたのね」
「あ、迷惑でしたか?」
「いえ、迷惑って訳じゃないのよ。横浜から来たんでしょ? 折角だから、上がって休んでいってくださいな」
予想外の反応に戸惑う和明に、女性は優しく微笑むとガラス戸を開けて入室を促した。年の程は千代やしほと同じ位の筈だが、その笑顔には少女めいたあどけなさが窺える。
中は一般的な理髪店のそれであった。幾つかの整髪用の椅子に鏡台が並んでいる。奥は座間になっており、そのまま居間に直結しているようだ。
「さあさ、上がって上がって」
「あ、はい」
言われるままに和明は靴を脱ぎ、座間から居間に向かった。畳敷きの部屋に、箪笥にちゃぶ台に座布団にテレビ。なんとも絵に描いたような庶民的な居間だ。
「今お茶を煎れますから、くつろいで下さいね」
そう言うと女性は隣のキッチン──どちらかと言えば『台所』という表現のがしっくりと来るが──へと向かった。
改めて部屋を見回す。戸棚には家族の写真が飾られており、今の女性と共に夫らしき眼鏡をかけた痩せ気味の男性と、娘であろうパンチパーマ頭の少女が並んでいる。
「パ、パンチパーマ?」
和明は思わず言葉を漏らした。写真の少女はその髪型にも関わらずどこか誇らしげだ。
「ああ、その写真ですか? うちの子、小さい頃にお父さんの髪型がカッコいいって言って、同じ髪型に……はい、どうぞ」
台所から戻ってきた女性が盆に置いた湯飲みを置きつつ言った。和明の反対側にもう一つ置き、そこに座る。
頭を下げ、和明は彼女に尋ねた。
「ありがとうございます。ええっと……」
「ああ、そういえばまだ名前も言っていなかったわね。私、秋山
「あ、はい。篠原和明です」
「さっきはごめんなさいね? 確かに彼女とそんなお話はしたけど、まさか本当に貴方にお願いするとは思っていなかったから」
「いえ、そんな……それを言ったら、俺の方こそ千代さ……島田さんに確認すべきでした」
答えつつ和明は手元の茶を飲む。柔らかな微笑みを浮かべたまま、好子は言った。
「学生さん……だったかしら? 戦車道ショップで働いているとも聞いたけど、大変ね」
「いえ、まあ、慣れたもんで……」
言葉を交わす内に、和明はふと違和感を覚えた。
夏休みの昼下がりだというのに、どうもこの家の中に好子以外の人の気配が無い。視線を店内から階段へと移しつつ、和明は尋ねた。
「あの、他の家の方は……?」
「今は私だけなんです。お父さんは町内会の寄り合いに行っていて、酒の入る席になるそうだから戻りは夜になるかも。娘は……あの、篠原さん。大洗女子の戦車道で隊長をやっている西住みほさんはご存じ?」
「え? ええ、まあ、名前程度は」
「うちの娘、その西住みほさんの戦車で装填手をやっているんです。それで、来週開催されるエキシビジョンマッチに備えて夏休みの間も演習を……」
まるで自分の事のように好子は嬉しそうに言うとコロコロと笑う。
なるほど、だから今は好子しか家に居ないという事か。
「(……ん?)」
和明の脳裏に疑問符が浮かぶ。という事は──
「……でも、ごめんなさいね。わざわざ来てもらったのに」
その時、和明の表情の変化を落胆と受け止めたのか好子が申し訳なさそうに言った。
「え?」
「島田さんからどう言われたかは知らないけど、がっかりしたでしょ? 出てきたのがこんなおばさんで」
「いや、そんな」
「あんまり島田さんが篠原さんの事を言うものだから、その場ではつい受け答えしてしまったけど……その、本気にしないでくださいね」
「………」
「まあまあ、ゆっくりして下さいな。せっかくだから、横浜のお話でも聞かせてもらえる?」
そう言うと好子は手元のお茶を静かに飲んだ。
「………」
和明の女性経験は多いとは言えない。しかし、しほや千代との
その経験と男性としての本能が和明に理解させた。おそらく──このまま話を続けている限り、これ以上は状況は進まない。無難な世間話をして、挨拶をして帰る。それだけで終わる。
では、そんな展開を好子は本当に望んでいるか?
「……嘘、ですよね?」
和明はそう言うと、座ったままスッと好子との距離を縮めた。湯呑を戻した手に、自分の手を重ねる。
「ど、どうしたんですか、篠原さん? 嘘なんて……」
「島田さん……千代さんと話をした時の答えが勢いだって話、嘘ですよね?」
好子の指に和明は自分の指を絡めてゆく。緊張で好子の手が固くなるが、振り払う気配はない。
戸惑いながらも、好子は困ったように言った。
「本当ですよ。だから……」
「『勢いで答えただけ』なら、なんで千代さんに
「……!」
好子の顔から笑顔が消えた。恥じらいからか頬が赤くなってゆく。和明は更に好子との距離を縮め、ちゃぶ台を回り込んでほぼ密着する程まで近づいた。
和明の視線を正面から受け止められなくなったのか、好子は視線を逸らしつつ言った。
「そ、それは……」
「期待したから、ですよね?」
更に好子の顔が赤くなる。今にも泣きだしそうだ。
「ですから、そんな事は……意地悪な事を言わないでください。篠原さん、落ち着いて……」
「……奥さん、ここ、触ってみてください」
和明は指を絡めた好子の手を、そのまま自身の股間へと引いた。抵抗はない。
「え……!?」
「俺、もうこんなになってます。奥さんと、したくて……」
和明の肉棒は、既にジーンズ越しでもはっきりと分かるくらいに勃起していた。形に添うように、その手を上下させる。
「嘘……こんな、大きい……!」
「『おばさん』って言いましたけど……そんな事、全然ないです」
確かに好子にはしほや千代のような匂い立つような色気や、強烈な存在感がある訳ではない。日々の仕事でエステなどにも行けてはいないだろう、若干ほうれい線も浮かんでいる。
しかし、それでも好子の顔立ちは愛らしく──何より、家元たちとは異なる「生々しさ」が和明を今までになく興奮させていた。
しほや千代らは本来なら和明が直接会う事すら難しい世界の人間であり、安い言い方をするならばセレブである。それ故か彼女らとのセックスには(何度抱いても飽きがこない程の素晴らしいものではあるのだが)常にどこか浮世離れした感があった。
しかし今こうして畳敷きの居間で肌を紅潮させているエプロン姿の好子の様子は、学生である自分と地続きの存在である事が──夫と、娘がいる人妻であるという事が──はっきりと和明にも感じられた。
「ああ……凄い、熱い……!」
ゆっくりと和明は好子に重ねていた手を離した。解放されたにも関わらず、好子の手は和明の股間から離れないでいる。
「……欲しいんですよね」
「え? あ……!」
声をかけられ、初めて好子は和明の手が離れている事に気づいたようだった。驚きを顔に浮かべるものの、まるで貼りついたように手はジーンズの上から肉棒を撫で続けている。
和明はゆっくりと手をエプロンに添えると、好子の胸を柔らかく揉んだ。
「ンッ……そんな、駄目っ……!」
「駄目、ですか?」
吐息を漏らす好子に、和明は揉む手を止めると問いかけた。
「……!」
「………」
二人の視線が一瞬だけ絡み合い──観念したように好子は目を伏せると、小さな声で言った。
「内緒に、してくださいね」
「奥さん……!」
「あふっ! あ、あぁ、篠原さん……!」
「OK」のサインを出されたのを合図に、和明は好子に唇を重ねた。同時にエプロンの上から彼女の胸を揉みしだく。
「……!?」
和明は手に伝わる感触に小さな驚きを覚えた。思った以上の弾力と大きさだ。着やせする方なのだろうか。
手をずらし、エプロンの横から差し込むとシャツ越しに乳房を更に揉む。一方の好子もジーンズの留め具を外し、トランクス越しに掴むように和明の肉棒に触れてきた。好子の手の中で肉棒は更に膨れ上がり、ビクビクと脈動する。
「んっ……ちょっと、いいですか?」
「え? はい……」
和明は一旦好子の手を柔らかく止め、腰を落としたままの彼女の前で立ち上がった。脱げかけていたジーンズから足を抜き、更にトランクスを脱ぎ捨てる。
「あ……!」
好子の更に熱くなった吐息が、和明の股間に吹きかけられる。
臍近くまで反り返った、血管を浮かび上がらせた凶悪なまでに怒張した肉棒。和明はそれを好子の眼前に突きつけた。
「これが……篠原さんの……」
「……お願いします」
『何を』とは言わない。和明が何を望んでいるかは、好子は既に理解しているからだ。
「は……はい」
好子は従順に頷くと、エプロン姿のまま肉棒に手を添え擦り始めた。同時に顔を亀頭に近づける。
「んっ、い、いいですよ、奥さん……」
「そんな……言わないで、ください」
素直な感想を漏らす和明の言葉に、好子は赤面しつつも手を止めず、肉棒に快感を与えてくる。
好子の手淫は丁寧で、かつ手慣れたものだった。痛みを与えない程度に握る強さも絶妙に調節されており、好子の人柄を表すかのように優しい。
好子を見下ろしつつ和明は言った。
「くっ、うぅ……旦那さんにも、こうやって、いるんですか?」
「………」
「教えて、くれませんか?」
「……あの人は、その、手でされるのが好きなんです。だから、最初は……こういう、風に」
恥じらいつつも好子は答える。嗜虐的な欲情が溢れてくるのを感じつつ、和明は好子の奉仕に身を任せる。
「その……後は?」
「そこから、その、口で……でも、こんなに大きくなくて……」
「無理しなくていいですよ。その、咥えられる程度で」
「分かりました、ふぁ、あぁ……」
好子は形良い口を一杯に開け、赤黒くひくつく亀頭を咥えこんだ。息苦しいだろうに喉奥までそのまま呑み込み、体全体を前後させて肉棒への奉仕を始める。
「んぷっ……ンッ……フゥッ……」
「は、うあっ……いい、です……!」
「ンンッ……」
和明の言葉に好子は咥えたまま目を細め、体を前後させる速度を気持ち上げてくる。
時折コツコツと亀頭が彼女の喉奥に当たっているのが分かる。その度に好子は眉をひそめるが、それでも口を離さない。
献身的な奉仕に和明は立ったまま好子の栗色のくせっ毛に手を置き、緩やかに彼女が奥まで咥え過ぎないよう加減する。
「フッ、ふぅっ、んんっ……!」
好子の口の端から涎が溢れ、畳に零れ落ちる。
奉仕を続けながら好子は自分の身体をくねらせ、時折腰をひくつかせる。和明の肉棒への奉仕をすることで彼女自身も感じているのだ。
「んっ、んうっ、じゅるっ……ど、どうですか、篠原さん」
「ええ、気持ちいいです……一度、射精しても、いいですか?」
「……はい。あ、でも」
濡れた唇で尋ねてくる好子に和明が確認する。一度は頷くも、好子は何かに気づいたように言った。
「畳が汚れるといけないので、私の、その、口に……あむっ」
どうやら、床に落ちた自分の涎のことが気になったようだ。再び咥えこむ好子の口の動きに、和明は身を任せることにした。
唾液で滑らかになった好子の口腔内は暑く潤んでいた。好子も和明の射精を早めようとしているのか、頬をすぼめ、より速い前後で肉棒を刺激してゆく。
蝉時雨が外から聞こえてくる。真夏の昼下がりにエプロン姿の人妻に肉棒を咥えさせているという背徳的な状況は和明の理性を、そしておそらくは好子の理性も溶かしてゆくようだった。
「ふうっ、んっ、んふっ……!」
「あぁ……い、いいです、奥さん……そろそろっ……!」
「ン、あふっ、ンンッ!」
射精感が強まってきた。和明が声を漏らすと、好子は自ら奥まで咥えこんだ。
「うっ、ぐうっ! で、出るっ!」
「ンンーッ!」
思わず和明は好子の頭を押さえ、そのまま彼女の口の中に白濁液を迸らせた。
「あ、う、はぁっ……」
「うぶっ、んっ、んぅ……!」
苦し気に好子は呻くが、和明の手に抵抗しようとはしなかった。
和明の腰の震えが治まり、最初の射精が完全に終わるのを待ち──ようやく好子は口から肉棒を開放し、せき込んだ。
「けほっ、けほっ……」
「す、すみません、奥さん!」
「けほっ……い、いいえ、篠原さん。その、口を離したら零れちゃいますし、それに……」
口の端から精液の雫を垂らしつつ、好子は顔を赤らめつつ言った。
「それに?」
「その……篠原さんのを咥えていたら、私も堪らなく、なって……」
「……!」
その言葉だけで、半勃ちになっていた和明の肉棒は再びどくんと充血を再開した。
「じゃあ、今度は俺の番ですね」
「え……い、いいえ、そんな」
「俺だけ気持ちよくしてもらっては、不公平ですから」
下半身を露出させたまま和明は腰を落とし、好子の身体に触れた。好子は何故か恥じらいつつ、遠慮する素振りを見せる。
和明はそのまま好子の肩に手を置き、ゆっくりとその身体を畳に横たえさせた。エプロンの裾をめくり、パンツの留め具を外す。
「いえ、本当に……あの、一度脱いでから……」
「……?」
身体こそ抵抗を見せないが、やはり好子は自分の行動を止めようとする。彼女も奉仕の最中に感じていて、今はもどかしい筈なのだが。
そんな疑問を感じつつ和明は好子のパンツを緩め、彼女の股間へと指を進めた。
「……あれ?」
「……!」
和明の口から声が漏れる。好子は顔を真っ赤にして、横に逸らす。
パンツに差し込んだ和明の指は、本来あるはずのショーツの感触を通り越していきなり好子の陰毛に触れた。
「奥さん……下着、着けてないんですか?」
「いえ、その、ええっと……ああっ!」
更に指を奥へ進め、陰唇に届かせる。
「……んん?」
愛液が滲み始めているが、何かおかしい。
指に触れる陰毛は実際湿っているが──微妙にベタついている。「乾きかけ」とでも言うべきだろうか。
和明はある発想に思い至り、顔をそむけたままの好子に尋ねた。
「これ……奥さん、ひょっとして」
「い、言わないで……」
「俺が戸を叩いた時、オナニーしてました?」
「っ!」
好子の身体が跳ね、息を呑む気配が伝わってくる。
それだけで和明は自分の想像通りの事が起きていたのを確信した。
「だから、あんなに時間がかかったんですね」
「あぁ……」
観念したように好子が吐息を漏らす。ここまで条件が揃えば、彼女の行動を想像するのは難しくない。
和明は指を更に進め、膣孔に優しく触れた。
「あ、あんっ!」
「溜まってたんですか?」
「それは、その……夏休みに入って、忙しい日が多くて……ここ一か月、あの人も相手を、してくれなくって……」
「その時に、千代さんの話を聞いたんですね」
くちゅくちゅと好子の秘唇を弄りつつ和明は尋ねた。瞳を潤ませつつ、好子が答える。
「は、はい……凄く逞しくて、太くて、固くて、素敵だったって……んんっ!」
「それで……欲しくなった?」
「………」
こくん、と好子が頷く。
その仕草を可愛いと思いつつ、和明は好子の頬に触れるとこちらを向かせた。
「そんな事を言われたら、俺も……」
既に股間の肉棒は完全に復活し、鈴口からは新たな先走りを滲ませている。
好子は赤面しつつ、和明と視線を合わせて言った。
「あの……今日、危ない日なので、ゴムだけ着けて、くださいね」
「……奥さんっ!」
「あ、あぁっ!」
おそらく、これが彼女なりの「おねだり」なのだろう。
和明は堪らず、好子に覆いかぶさった。
「……むむ?」
戦車道演習場、丘陵を回り込むⅣ号戦車の車内。
砲弾を抱えていたくせっ毛が特徴的な少女がふと顔を上げた。車長席に座るショートカットの少女がそれを気にかける。
「どうしたの、秋山さん?」
「あ、いえ、今、家族の声が聞こえたような……大丈夫です西住殿、気のせいです!」
「ゆかりん、大丈夫? 疲れてない?」
通信手席の少女もくせっ毛の少女を気にかける。
実際、夏の暑さの中での戦車道は厳しい。特に今日は酷暑と呼んでよい程の気温で彼女に限らず、全員の消耗が一段と激しいようだ。
「うーん……今日は予定を早めた方がいいかな……?」
大洗戦車道隊長、西住みほは額に汗を浮かべつつそう考えた。