「ふむ」
「な、何ですか?」
戦車道連盟公式・北海道演習場。
北海道の広大な大地を利用した、国内最大の演習場である。森林、草原、丘陵などの自然の地形に加え、テーマパーク跡地を含む市街戦を行う事もできるようになっている。
現在、その演習場の観戦用スペースは喧噪に包まれていた。何両ものトラックから什器やテント用の建材が下ろされ、それが幾人ものスタッフによって迅速に組み上げられてゆく。
入口にあたるゲートには「プロリーグ発足記念演習・大洗女子学園対大学選抜チーム」と書かれた横断幕が掛けられ、その下をプロジェクター機器を抱えた業者が丁寧に運ぶ。
「ちょっと失礼」
「え? え?」
その一角、「売店(提供・戦車道ショップヨコハマ)」という看板が掲げられたテントの近く。
商品の搬入を進めていた和明は、自分に顔を寄せ鼻をスンスンと言わせて匂いを確かめてくる謎の少女に戸惑いを浮かべた。
チューリップハットめいた帽子を被り、見慣れない弦楽器を抱えたその少女は和明の横を通り過ぎようとした時にふと足を止め、物珍しそうに和明に視線を向けると急にそんな行動に出たのだ。無論、初対面である。
「……ああ、失礼したね」
更に数秒、彼女は和明の匂いを嗅いでいたが満足したように顔を離した。年齢的には和明より年下の筈だが、どこか大人びた雰囲気を漂わせている。
「あの……何か、ありましたか?」
一応の接客モードで返す。大学選抜のユニフォームではないジャージ姿で、胸元には「継」という文字がプリントされている。大洗の関係者だろうか。
そんな和明の混乱を楽しむように、帽子の少女は微笑んだ。
「いや、随分と幾つもの香りが混じっている人だと思ってね。気を悪くしたのなら申し訳ない」
「!?」
どきりと和明の心臓が跳ねる。
少女はポロンと手元の楽器を鳴らした。
「風というものは一方向から吹くものではない。幾つもの向きから吹く風が絡み合い、そして流れを作る」
「………」
「風に流されるのも悪くはないと私は思う。でも、向かいたい場所があるなら……その風に逆らうことも、時には必要だろうね」
「あんた……何者だ?」
小声で和明は尋ねる。
少女はもう一度、楽器を鳴らした。
「ただの名無しの戦車乗りだよ。むしろ、私としては君の方が……」
「あーっ! こんな所に!」
その時、別の少女が駆け寄ってきた。帽子の少女と同じジャージを着た、亜麻色の髪を左右で小さくお下げにしているその少女は彼女の肩を掴むと強く引いた。
「ミカ、『到着しても明日までは隠れておくように』ってダージリンさんから言われてたよね!?」
「折角の祭りの支度の空気を味わおうかと思ってね」
「それで言い訳のつもり? もう、行くよ! すみません、作業のお邪魔をしてしまって」
帽子の少女を離すまいと彼女の肩を掴んだままお下げの少女が和明に頭を下げる。
「いや、大丈夫です。えっと、その子は……」
「うちの隊ちょ……いえ、一般客です! 只の一般客ですから! 『風が~』とか言っていたかもしれませんけど、いつもの事なんで気にしないでください! 行くよ、ミカ!」
「そんなに力を入れなくても、私は逃げない……」
「そう言って、すぐにフラっと消えるんだから! ほら、こっち」
「……失礼」
ポロンと楽器を鳴らし、帽子の少女はそのまま連れて行かれた。
「篠原君、何かあったのかい?」
呆然と取り残された和明は、店長の声で我に返った。
「あ、いえ、大丈夫……です」
何とも奇妙な少女だった。こちらに対する敵意や悪意は感じなかったし、本当にからかい目的だったのかもしれない。
しかし──
「あの、店長。店長って戦車道連盟の職員さんとかの知り合いって居ますか?」
「また唐突な質問だねえ……まあ、僕もこの界隈は長いから、職員をされている方なら何人か知ってるけど」
「そうですか……」
──彼女の言葉は的を得ていた。大学が始まるまであと半月も無い。そうなれば、こうやって戦車道ショップに専念することも難しくなる。考えなければならない事は多い。
「店長、それなら……」
和明がそう言いかけた時、会場の入り口方面でにわかに声があがった。審判を示すゴルケットを付けた女性や、スーツ姿の連盟職員らしき人物が小走りにそちらに向かってゆく。釣られて和明もそちらに視線を向ける。
「……あ」
声が漏れる。
豊満な肢体を黒いスーツに包み、切り揃えられた艶やかな黒髪をなびかせ凛とした姿勢で歩く姿。西住しほである。
そんな彼女と並んで歩き、汗をしきりに拭いつつ頭を下げる恰幅の良い和服姿の壮年には和明も見覚えがあった。確か戦車道連盟の理事長だった筈だ。
「いやいや西住さん、わざわざご足労いただいて……」
「いいえ、高校戦車道連盟としてもこの試合の重要性は理解しております」
そう答えるしほを遠方から撮影する様子も見える。腕には戦車道新聞の記者を示す腕章。表向きは演習とはいえ、やはり日本を代表する二流派の未来を担う二人の天才少女の激突は衆目を集めているようだ。
「篠原君、僕たちもお迎えしよう。ちょっと作業を止めて」
「あ、はい」
エプロンの埃を落とし店長と共にテントから出る。程なくして、しほと理事長が近くを通りかかった。
「どうも家元、いつもお世話になっております」
「お疲れ様です」
「西住さん。こちら、今回のご協力いただいている……」
「存じています。急な話で大変かと思いますが、よろしくお願いします」
理事長の言葉を待たず会釈するしほ。その態度はあくまで「現場のスタッフを形式的に労うVIP」の枠を出るものではない。
和明は頭を上げると、ほんの一瞬だけしほと視線を交わした。
「………」
「………」
「西住さん?」
「……何でもありません、理事長。次に向かいましょう」
ほんの数日前に実娘も交えて激しく身体を重ねた相手が、こうして無関係のような態度で凛として振舞う。それが当然ではあるのだが、一抹の寂しさを和明に覚えさせる。
そのまま二人は和明たちのテントを過ぎ、次の場所の視察へと向かう。彼女の纏う緊張感から解放されたからか、無意識に大きく息を吐く。
「ふぅ……」
「……篠原君、本当に家元に気に入られたようだねえ」
「え? そうですか?」
今のしほの態度でそんな言葉が出てくるものだろうか。驚く和明に店長が言った。
「ああ。僕の知っている家元は常に周囲を斬り付けるような空気を纏っていてね。あれだけ柔らかい空気の彼女は初めて見るよ」
「はあ……」
分かる人には分かるという事なのだろう。
そういえば店長は20代から数十年の間、戦車道に関する商売をしていると言っていた。若い頃や、あるいは幼い頃のしほ等も知っていたのだろうか。
「さて、仕上げといこうか。現地の協力してくれているスタッフさんに説明もしないといけないしね」
店長はそう言いつつ肩を鳴らし、段ボールに詰め込まれた商品を取り出してゆく。
入場ゲートの方では、到着した大学選抜の戦車の搬入作業が行われ始めていた。
「明日の天候は晴れ一時雨。所により雷雨……少し荒れそうね」
演習場のガレージに向かう米戦車パーシングの列。それを誘導しつつ島田千代は手元のタブレットで明日の天気予報を見る。
「問題ありません。その前に殲滅します」
その横に立つ島田愛里寿は落ち着いた表情で答える。
「……愛里寿、身体の調子はどう?」
「大丈夫です、母上。極めて良好です」
プライベートの二人と違い、公の場での千代と愛里寿は「島田流家元とその娘」という姿勢を崩さない。愛里寿は男言葉に近い口調で話し、千代にも「お母様」でなく「母上」と呼んでいる。
そんな様子の愛里寿に千代は、彼女だけに届く声量で言った。
「“彼”のお陰かしら」
「っ!?」
一瞬、愛里寿の身体が硬直する。ミニスカートに包まれた尻がきゅっと引き締まるのが千代にも見て取れる。
「
「大事なところよ? 貴女の今後のためにも」
愛里寿は言葉を遮ろうとしたが、千代はあくまで真面目な表情で返す。前を通過するパーシングを静かに見つめつつ言う様は、「島田流家元」の名に恥じない優雅なものだ。愛里寿は数秒だけ沈黙したが、観念したように答えた。
「……はい。自分の中に溜まっていたもやもやした何かが、全て払拭されたような感覚です」
「気持ちよかった?」
「………」
ほんの少しだけ、愛里寿の頬に朱が差す。
その反応だけで千代は満足し、頷いた。
「困ったものね」
「母上?」
「いえ、こちらの話よ」
千代は小さくため息をついた。どうにも「欲」が出てきている。
篠原和明。正直なところ最初に横浜で声をかけた時は、しほの不調を補うための「その場しのぎ」のつもりだった。彼が常人以上の逸物持ちで、更にセックスに対して柔軟さを備えつつ吸収していったのは千代にとっても予想外だった。
九州の西住家に直接連れてゆかれたという事は、おそらくはしほの娘のまほとも彼は関係を持ったのだろう。和明自身には自覚は無いだろうが、既に彼の存在は島田・西住二流派にとって無視できないものになりつつある。
例えば──彼を島田流で独占できれば、それは西住だけでなく他の戦車道諸流派にとっても大きなアドバンテージになり得る。千代の中にそういった、彼を
「……彼女は、どうするつもりかしらね」
小さく呟く。
夏休みを開け、和明の大学が再開するまであと一週間とちょっと。彼が自由に動けるのはそこまでだ。
彼に強い興味を抱いたままの西住しほは、果たしてどのような行動に出るか。
演習場への戦車の搬入が完了した事を伝えにきた選手の姿を認めつつ、千代は考えた。
「ふあぁ……お疲れ様でした、店長」
「お疲れ様。明日は早起きになるから、今日はもう休みとしようか」
北海道演習場には長期滞在を想定した宿泊施設も備わっている。
30両対30両などの大規模戦の場合、戦車の搭乗員だけで軽く300人近くとなる。それに両チームの整備士や戦車道連盟の職員も含めれば400人~500人ほどの人間が試合に関わることになるのだ。それを受け入れられるだけの規模の建物であり、その設備は一般的なホテルに劣るものではない。
千代の厚意で個室を与えられていた和明と店長は前日の準備を終え、沈みかけの夕日が照らす廊下を歩いていた。
「しかし、篠原君も大変だね」
「え?」
「いや……いきなり九州まで連れていかれて、戻ってきたと思えば今度は一緒に北海道。もう何日も家に戻れていないだろう?」
「ああ、それなら大丈夫ですよ。西住さんの屋敷でも栄養あるもの貰って、しっかり休ませて貰いましたし」
和明の言葉は半分は本当であり、半分は嘘である。九州では菊代の、演習艦においては千代が和明の体調を考えた食事やケアを行ってくれたので活力はまだまだ漲っている。ただ、如何せん睡眠時間の不足だけはどうにもならず、少し瞼が重いのも事実だ。
そんな様子の和明に、店長は少し言い淀みつつも尋ねてきた。
「……篠原君は、どうするつもりだい?」
「え?」
「家元達との事だよ。このまま
店長の表情は日ごろの穏やかなそれだが、和明に向けられる視線は真剣だ。
「それなんですけど、今朝の話の続きで……」
和明はそう答え、自分の考えを伝えた。
店長は驚いたように目を丸くし、やがて困り顔に変わった。
「……篠原君、多分それは、君自身が思っている以上に大変だよ?」
「だと、思います」
「うぅん……分かった。その件はまた、横浜に戻ってから詳しく話すとしようか」
やがて廊下の分岐に差し掛かり、二人はそれぞれの部屋へと別れた。
和明はフロアキーを手に自分の個室に入ると、既に敷かれていた布団にごろりと身体を横にする。
TVを付け、何となく戦車道専門チャンネルに合わせる。ちょうどニュースの時間のようで、画面ではアナウンサーがこの演習場の映像を前に原稿を読んでいた。
『また、明日の開催を控えた本日は西住流家元の西住しほ夫人、島田流家元の島田千代夫人の両者が会場の視察を行いました。それぞれのチームの隊長が……』
映像が切り替わり、設営中のテントなどを見回るしほや千代が映し出される。
その時、ふと和明の携帯が震えた。着信欄の名前は「西住しほ」。
「っ!?」
慌てて和明はTVを消音に変え、携帯を取った。
「は、はい、篠原です!」
『西住です。今、電話は大丈夫かしら?』
「ええ、大丈夫です」
『……少し、散歩に付き合って貰えないかしら? 疲れているなら無理は言えないけど』
「散歩って……今からですか?」
部屋の時計を見る。既に七時を回っており、出歩くには聊か不自然な時間だ。それに加え、和明の中にひとつの懸念が浮かぶ。
「大丈夫っちゃ大丈夫ですが……俺とその、西住さんがこんな時間に一緒に出歩いてるのって、見られたら不味くないですか?」
『そこは大丈夫。人の来ない場所だから』
「まあ……それなら」
時に衝動的な行動に出るしほだが、耳に届く彼女の声は落ち着いている。どうやら信じて良さそうだ。
「ええと、何処で待ち合わせればいいですか?」
『今は連盟の宿泊所よね? そこを出て裏手の業者搬入口に回って、そこから……』
備え付けのメモ帳にしほの言う内容を書き写す。場所的には演習場の近くになるようだ。
「……分かりました。すぐ行きます」
『急がなくていいわ。ゆっくり来て』
千切ったメモをポケットに入れ、和明は携帯を切ると部屋を出た。
人気の無い廊下を気持ち速足に歩き、ロビーを抜ける。大洗女子学園の制服を着た少女など数名とすれ違ったが、和明に奇異の目を向ける者はいない。
そのまま建物を出て宿舎の裏手に回ると、果たしてしほの言っていた通りに搬入口があり、トラックが通れる程度の道が造られていた。
和明は改めてメモを取り出し、薄暗い中で目を細めて読む。方向的には演習場内へ向かっているようだ。
「大丈夫、だよな?」
初めて来る見知らぬ場所というアウェー感を覚えつつ、和明はしばらく歩くと未舗装の横道へと入った。設置されている灯りもまばらで、足元に気をつけつつ進む。
やがて歩くこと数分、木々の間を抜けると和明は見晴らしの良い草原に出た。秋の訪れを感じさせるひんやりとした風が頬を撫でる。
「……早かったわね」
見慣れた黒のスーツを夜の闇に溶け込ませ、彼女はそこに居た。
「いえ、待たせちゃいました?」
「大した時間ではないわ」
落ち着いた口調でしほは答えると、風にそよぐ髪を押さえた。
「幻想的」とでも言うべきだろうか。広い草原にこうしてしほと自分だけしか居ない今の状況は、まるで世界に自分たちしか居なくなったかのような錯覚を和明に覚えさせた。
「えっと、それで、散歩って言ってましたけど……?」
「……少し、歩きましょうか」
和明の問いかけにしほはそう答えると、身を翻してゆっくりと歩き始めた。慌ててその後を追い、横に並ぶ。
よく見れば少し先に小高い丘がある。しほはそこに向かっているようだ。
人工的な灯りは無いが、満月の月灯りが周囲を淡く照らしている。夜目に慣れてきたのか、しほの姿もはっきりと見える。和明はしほに聞いた。
「ここって……演習場の中、ですよね?」
「ええ。北海道演習場、富士山の麓にある富士演習場と並ぶ聖地と呼ばれていて、敷地面積では日本最大。ここから歩いて行くには遠いけど、巨大遊園地の跡地などもあるわ」
「はぁ~……」
戦車道という競技はマイナースポーツ扱いされる事も多いが、その一方で何かとスケールが大きい。流石は戦後まもなくから続く伝統的競技といったところだろうか。
歩いていた草原はいつの間にかなだらかな坂に変わり、膝下まで伸びていた草は次第に短くなってきていた。
「……この辺りかしらね」
丘の頂の少し前でしほは立ち止まり、空を見上げた。和明も釣られて顔を上に向ける。
「お……おぉ……!」
無意識に声が漏れた。
「満天の星空」という陳腐な表現しか思い浮かばないような、無数の星が輝いていた。
余りに星が多く、夏の星座を探そうにも分からない程の数の光。
星空に足を止めた和明に、しほが言った。
「冬の寒い時期は更に空気が澄んで星が見えるわ……学生時代にここで夜戦をした時、本当に感動した」
「………」
「
「!?」
見上げていた顔を戻す。
同様に星を見ていた筈のしほは、いつの間にか和明を見つめていた。夜の闇の中でも視線がはっきりと分かる。
「手前味噌になるけど、私は戦車道については様々な事を知っているわ。例えばこの演習場でどう戦車を運用し、相手の動きに対して最も効率的な戦術を選び、勝利する事ができるだけの自信がある」
「……はい」
「でも……逆に私は
「………」
静かにしほは和明に身を寄せてきた。
「大した景色ではないかもしれないけど……和明くん、この夏が終わってからも、私は貴方とそんな景色を一緒に見たいと思ってる」
「しほさん……!」
「……駄目、かしら?」
ほんの僅か、彼女の声に不安が混じる。
「………」
「あっ……」
和明は無言でしほの手を取り、そのまま顔を近づけると形良い唇に自身の唇を押し当てた。
「ンッ……!」
抵抗はない。軽いキスを何度か繰り返した後に、和明は舌を差し入れた。しほの熱さを増す吐息が口腔内に流れ込んでくる。
「ふぅっ……ん、はぁっ……」
「あぁ……和明、くんっ……!」
しほの舌が応えるように和明の舌に絡みつく。暫くの間それを続けた後、和明は一旦唇を離した。
「っぱ……しほさん、俺で良ければ喜んで」
「……ありがとう」
今度はしほからキスを求めてきた。口腔内に押し入ってくる舌の動きに応じつつ、和明はスーツ越しに彼女の胸に触れた。
「ンッ、、ちゅ、あぁんっ……!」
「しほさん、ここも……熱くなってます……」
厚手のジャケット越しにもしっかりと伝わってくるしほの乳房の重みと弾力。
触れていただけの手を揉む動きに変える。ぴくんとしほの身体が震える。
「あふっ、和明くん、だって……」
「ぐっ……!」
しほの手がジーンズ越しに和明の股間を撫でる。それだけで中の肉棒は如実に充血し、布地を押し上げる程に勃起してゆく。
「くっ……し、しほさん、戻ってから、しますか……?」
「嫌……ここで、して」
「うっ、あぁっ……!」
我慢できないようにしほはジーンズのジッパーを下ろし、その隙間から指を差し込むと直接肉棒に触れてきた。血管を浮かび上がらせた肉棒が引き出されると、ひんやりとした夜の空気に雄の匂いと熱が混じる。
お返しとばかりに和明は今度はしほの下半身に手を伸ばした。スラックスの留め具を外し、キスしたまま彼女の股間に指を這わす。ストッキングの滑らかな感触と、むわっとした湿り気。
「しほさん、脚、上げて……脱がしますから……」
「え、ええ……」
「そこまでです、お二人とも」
突然、背後からの声。
「え……!?」
聞き覚えのある声であった。急速に体温が下がるのを覚えつつ、咄嗟に振り返る。
「お母様、やはり此処でしたか」
「……まほ」
おそらくは急ぎで来たのだろう。部屋着姿の西住まほは、そんな恰好でも凛々しい表情でこちらを見ていた。
和明から身を離して着衣の乱れを整えつつ、しほは珍しく動揺を顔に浮かべていた。自分たち以外の存在は彼女にとっても予想外だったのだろう。
「まほ、何故ここが……?」
「お母様が篠原さんに電話しているのは気付いていました。この時間に逢引きをされるのであれば、この辺りだろうと推測しただけです」
「………」
「……お母様。篠原さんにとってお母様の行動が良い事とは私には思えません。彼に結婚もさせず、ずっと側に置くつもりですか?」
しほが言葉を失うのを他所に、まほは静かに言った。視線をしほから和明に移す。
「篠原さんもです。お母様の……そして、私の相手をしていただいた事に感謝はしています。しかし……例えば何年もお母様とこの関係を続け、それから普通の生活に戻る事が出来るのですか?」
「それは……」
文句のつけようの無い正論であった。夢の世界から急激に現実に引き戻されたような、そんな感覚。
だが──それは同時に、和明が答えを出さなければならない問題であった。
今、自分の考えを言うべきだろうか?
「(まだ……無理だよな)」
ようやく具体的な行動を始めたばかりの状況で、結果は何も出せてはいない。そんな状態で説明したところで妄想と喝破され、信用はされないだろう。
ではどうすれば──
「……ん?」
その時、和明の視界の先で何かが動いた。焦点が自分に合ってない事に気付いたまほが尋ねる。
「篠原さん?」
「いや、ごめん、まほさん……その、丘の上に誰かいる」
「……!?」
和明の言葉に二人も気づいたようであった。息を顰め、視線を丘の上に向ける。
既に気のせいではなく、確かにそこに人影があった。何をしているのかは定かではないが、あちこちの方角を見ながら調べものをしているように見える。
「あれは……」
人影の正体に気付いたのか、しほが呟く。
その時──突然にぱたりと人影が倒れた。
「ちょ……!」
卒倒したかのような倒れ方に和明は思わず駆け出していた。ジッパーを戻しつつ、人影の位置までたどり着く。
「え?」
白と緑のカラーリングの制服に身を包んだ、ショートカットの少女。
大洗女子学園戦車道隊長、西住みほがそこには倒れ込んでいた。
拙作をいつもお読みいただきありがとうございます。
第二回アンケートも1000票近い投票をいただき感謝しています。結果としては──
一位・西住みほ(407票)
二位・五十鈴百合(215票)
三位・バミューダトリオ(170票)
四位・アンチョビ(161票)
五位・ケイ(155票)
──と、みぽりんの圧勝で残りは団子状態という一回目とは対照的な結果となりました。
ついては、今回はみほ回となります。なかなか内面の描写の難易度が高い彼女なので、丁寧に描いてゆければと思います。
次回更新は7月上旬の予定です。もうしばらくお待ちください。