ホテル上階の一室、エコノミールーム数部屋分の宿泊費を一晩で費やすスイートルーム。窓からの夜景は見事なもので、水上展示された帆船「日本丸」にデコレーションされたライトアップや、ランドマークタワーの明かりが夜の街を照らす。
「うっ……ぐっ、あぁっ!」
「ンンッ! き、来てる、和明くん、のっ! 奥までっ……!」
しかし、ベッドの上で体を重ねる二人にそんな夜景を堪能する余裕は無かった。和明は初めて挿入した女陰の中のうねるような熱いぬめりと締め付けに呻き、しほは和明の凶悪なまでに怒張した肉棒が与えてくる快感に悶えていた。
「はあっ……! す、凄い……これが、女の、人のっ……!」
腰をびくびくと震えさせながらも、より深くまで和明は肉棒をしほの秘唇へ突き入れてゆく。一杯に広がった孔はひくひくと蠢き、更に奥まで肉棒を迎え入れようとしているように愛液を溢れさせる。
和明も健全な男子としてオナニーはしていた。女陰の感覚がどんなものなのか、イメージ程度はしていた。
「あぁっ……しほさんっ……しほさんっ!」
しかし、しほの膣内はそんなイメージを容易に吹き飛ばした。熱く濡れそぼった膣内の襞はまるでひとつひとつが別の生き物のように肉棒の竿を、カリ首を、亀頭を愛撫してくる。
同時に和明が驚いたのは、その締め付けであった。濡れた肉の中を分け入る感覚はあったが、窮屈さや痛みなどは全く無い。彼女は──西住しほの秘唇は、自分の肉棒の全てを受け入れた上でなお締め付けてきている。根元から絞るように、同時に全体を柔らかくもしっかりと包み込み、射精を促してくる。
和明の反応に、しほは喘ぎつつも言った。
「和明、くん……んっ! ひょっとして、貴方……」
「はっ……はいっ……初めて、ですっ! 彼女は、いましたけど……コレに、怯えてっ……ぐうっ!」
「んっ、あぁっ!」
その時、亀頭がこつんと何かに当たった。和明の20㎝ほどもあった肉棒は完全にしほの柔肉に包まれ、堪らない快感を和明に与えてくる。
「(これ、しほさんの、子宮口……!?)」
「よ……良かったの?」
「え?」
しほの問いかけに、和明は彼女を見た。紅潮し喘ぎながらも、そこに何か申し訳なさを浮かべ、しほは言葉を続ける。
「初めての相手が、わ、私で……良かったの? 貴方からすれば、んはっ、お、おばさんみたいな、色気とかも無い、私で……」
「……っ!」
「ひぅっ!?」
和明は無言で腰を引き、再びしほの奥まで突き入れた。
「そんな事……無いですっ!」
「はぁっ、ああんっ!」
「しほさん、綺麗でっ! 凄い、エロくてっ! 本当に、可愛くってっ!」
言いながら和明は懸命に腰を振る。自分の言葉が嘘でない事を示すように、はち切れそうな程に勃起した肉棒を何度もしほの一番奥まで突き入れてゆく。
「俺、今日っ! 戦車の中で、しほさんにっ! 操縦桿、握ってもらった時、にっ!」
「ンッ! ああっ! か、和明君っ! 凄いっ、こんな、奥っ!」
「勃起、しましたっ! この人と、しほさんとセックスしたいっって、思いましたっ!」
「………!」
「うぉっ!」
しほの膣内がきゅっと締まった。和明の言葉に、感激を示したように。
同時に和明も感激を覚えていた。あの日以来、コンプレックスの対象となっていた自身の肉棒がこうして最高の身体を持つ、大人の女性を悦ばせている。
「だから……俺、今、凄い嬉しい、ですっ! しほさんが初めての相手でっ! 本当にっ、嬉しいですっ!」
「和明、くん……!」
しほの腕が和明の背に回される。そのまま和明の身体はしほの煽情的な身体と密着した。豊満な乳房が和明の胸板に押し当てられ、間で淫らに歪む。
「ンッ……」
「っ!?」
しほの唇が優しく和明の唇に押し当てられた。熱い吐息に、先ほど彼女の口腔内に吐き出したばかりの和明自身の性臭が混じり、くらくらするような感覚を和明は覚えた。
「……ありがとう、和明くん」
「しほさ……くっ! あ、ああっ!?」
まるで恋人と交わすような甘い声。和明はその言葉に返そうとしたが、腰から急激にこみ上げる射精感に動揺の声を漏らした。
「ちょ、嘘、だろ!? し、しほさんっ、出っ! う、ああぁっ!」
「和明くんっ! ひぁっ! あ、熱いっ!」
我慢しようと思う暇すらなかった。しほの膣内で和明の肉棒はどくんと脈打ち、直後に精液を大量に放出した。
「あ、あぁ……」
「ん、ンンッ……凄い、まだ、止まらない……!」
しほは熱く滾った精液の奔流を受け身を震わせる。しかし、まだ絶頂には至らなかったようだ。
彼女を満足させられず、一方的に達してしまった事実に和明は情けなさと恥ずかしさを覚え、顔を伏せる。
「………」
「和明くん……大丈夫だから、気にしないで……」
「……しほさんっ!」
「んっ!? そんなっ、また、中っ!」
強く歯を食いしばり、和明は腰に力を込めた。射精直後で硬度を衰えさせかけていた肉棒は再び血脈を早め、堅さと大きさを取り戻してゆく。
「大丈夫です、しほさんっ! 俺、しほさんを、必ず、満足させっ、ますからっ!」
「あぁっ! ンッンンッ!」
精液によってより抽送が容易になったしほの膣内を、抉るように和明は肉棒を打ちこんでゆく。引き抜く時には愛液と精液に塗れた太い竿がテラテラと照り光り、それを突き入れればしほの嬌声と共に溢れた精液がベッドのシーツを汚してゆく。
「しほさんっ……んっ、んむっ…!」
「ちゅ、はあっ……! こんな、中、まだっ! はぁっ、あ、あぁ……!」
まるで子供がいやいやをするように、しほは髪を振り乱して悶える。和明は今度は自分からしほの唇を求めた。豊満な乳房の先端の朱色の乳首が、汗を浮かばせる和明の胸板を擦る。
互いに荒い呼吸の中、舌を絡め、吐息を交える。その密着した状態でなお和明は腰を動かして、しほの身体を絶頂に押し上げようとする。
もはや和明の意識には、自分の肉棒を打ちこむことに何の躊躇も無くなっていた。
「うっ、ううっ!」
「んあぁっ! か、和明、くんっ! もっと! もっと来てっ、もうすぐ、私もっ……!」
正常位で上から打ちこむように肉棒を荒々しく挿入するたび、しほは嬌声と共に更なる快感をねだる。抽送の動きに合わせて両の大きな乳房は重く揺れ、溜まらなくなった和明はその胸を揉みしだいだ。
「しほさん……この胸も、素敵です……! んっ、はむっ……」
「い、言わないで、そんな……あんっ! そこっ、んうっ!」
和明はしほの豊満な乳房に顔を埋め、朱色の乳首に唇を押し当てた。固く尖り、感度を増していた乳首は舐めしゃぶる舌の動きに合わせてビクビクと反応し、しほは一層悶える。
また、顔に感じるしほの乳房の感触も素晴らしいものだった。ふっくらと和明の顔を受け止めつつも、確かな弾力で押し返してくる。
「あっ! ん、んはぁ……ああっ!」
しほの反応が、次第にビクビクと震えるようなものに変わってきた。軽い絶頂を感じているのだ。
同時に和明の身体の奥からも強い射精感がこみ上げてきていた。しかし、二度に渡って自分だけ勝手に達してしまうのは和明としても絶対に避けたかった。
「………」
「か、和明、くん……!」
「しほさん……一気に行きます!」
「え……んあっ! んっああっ!? こ、こんなっ! あ、あはぁっ!」
しほの乳首から口を離し、痛みを覚える程に歯を強く食いしばり、和明は思い切り腰を突き入れた。ひと突きする程にしほの中はより熱く、より締め付けてくる。
「こ、このままっ、出しますっ!」
「来てっ! 全部、全部、私にっ! 和明、くんのを、注いでっ……!」
「うぐっ! しほさんっ! あ、ぐあぁっ!」
獣めいた叫びと共に、和明はとどめとばかりにしほの膣内に肉棒を突き入れた。
「かず、あき、く……あっ、ああぁっ!」
今までに無かったほどの強烈さで、しほの膣は和明の肉棒を締め付けた。直後、和明自身にも信じられない程の勢いで精液がしほの膣内に再び放たれる。
「うあぁっ! しほ、さんっ! しほ、しほぉっ!」
目が眩む程の快感の中、和明はしほの豊満な乳房を強く揉みつつ絶頂に達した。片手に収まりきらない大きな乳房はしほの絶頂と共に、より一層張りを増して和明の指を押し返す。気持ちの昂ぶりから、思わず彼女を呼び捨てていることにも気付いていない。
「ああっ、和明くんっ! こんなに、沢山っ! んああぁっ!」
同時にしほはシーツを強く掴みつつ絶頂に達した。どくどくと肉棒から溢れ出る精液を取り込もうと、無数の襞が肉棒を絞り上げてゆく。
「うっ、くっ、ぐうっ……!」
「はあっ、ふうっ……あ、はあっ……!」
射精が完全に止まるまで、二人は繋がったままベッドで身体を重ねていた。
戦車道の日々の鍛錬によるものだろうか、脱力から回復しきっていない和明の身体をしほは息苦しさを感じるでもなく受け止め、やがてころんと互いの身体を転がすと上下を逆にした。
「しほさん?」
「和明くん、頑張ってくれたから……」
そう言うとしほは身を起こした。肉棒が半勃ちで彼女の中から抜け落ちる。
「……今度は、私にさせて頂戴」
和明の胴を挟むように膝を置き、大きく脚を広げた体勢でしほは片手を粘液に塗れた肉棒に添えた。汗に塗れた巨乳はゆさりと揺れ、しほの脚の間からは和明の精液としほの愛液の混じり合ったものがごぽりと零れ、未だひくつく和明の亀頭に降りかかる。
照り光る陰毛が貼り付くしほの秘所は、二度の射精を受けたというのに更なる快感を求めて陰唇を震わせていた。
「(う、おおぉ……!?)」
西住流家元としてTVや人前では凛とした姿を崩さないしほの、余りにも淫らな姿。それはあっさりと和明の肉棒を奮い立たせ、肉の槍のように屹立させた。
「ンッ……」
しほは肉棒と自身の腰の位置を僅かに変え、自身の秘唇に位置を合わせる。くちゅりと亀頭と陰唇が触れ、その熱さとぬめりの感触に和明はそれだけで先走りを滲ませてしまう。
「全部、私に体を預けて……はぁっ、あっ、あぁぁっ!」
「あ、ぐ、ぐあっ! し、しほさんっ!」
そのまま一気にしほは腰を落とし、怒張した和明の肉の槍を全て呑み込んだ。和明は腰を中心に広がる強烈な快感と心地よいしほの重みを感じ呻く。
しほは和明の胸板に手を置くと、そのまま腰を上下に動かし始めた。
「あぁっ! 素敵、よ、和明っ、くんっ! 凄い、届いてるっ!」
「うあぁっ! あぁっ、ううっ!」
じゅぽじゅぽと秘所から淫らな水音が響く。和明は何か言おうとする余裕すら無く、しほが与えてくる快楽に悶える事しか出来なかった。
二度の射精によって十分な滑らかさを得ているというのに、しほの膣内はそれでも和明の肉棒を一秒でも中に留めて射精させようと無数の襞で舐め上げてくる。
和明は自身の上で腰を上下し、時折くねらせ、肉棒の太さと大きさを堪能するしほを見上げた。
「しほ、さん……!」
整っていた黒髪は紅潮した首筋に汗で貼りつき、鋭利な細い瞳は淫蕩な光を帯びて和明を見下ろし、男性的な服装に隠れていた豊満な乳房や肉付き良い尻や濃い陰毛に彩られた秘所は全て曝け出されている。
その姿は和明の知る「女性」という存在の中で初めて見るほどに淫猥で──同時に美しかった。
しほの腰の動きに合わせ、重そうにゆさゆさと揺れる両の乳房に和明は迷うことなく手を伸ばし、揉みしだいた。
「しほさんっ! しほさんっ!」
「あぁぁっ! 和明くんっ! それっ、それ、いいっ! もっと、もっと揉んでっ!」
「は、はいっ! くぅぅっ!」
テクニックなど男性雑誌の胡乱な記事でしか知らない、欲望に任せたままの乱暴な愛撫。しかしそれをしほは喜々として受け入れてくれる。
乳房を強く揉むたびに、彼女の膣内の締め付けは強くなってくるようだった。片手では収まり切らない大きさの乳房を掴む指の間から汗の雫が滲む。
「んっ! あぁっ! あはぁっ!」
「し、しほさんっ! 俺、もうっ!」
「構わないわっ! わ、私もぉ……ンッ! はっ、あっ! あぁぁぁっ!」
「しほっ、さん……ぐうぅっ!」
しほの淫らな腰の動きは、容易に和明を三度目の射精へと導いた。肉棒が膨れ上がり、噴水めいた勢いで下からしほの子宮へと精液を叩きつける。同時にしほも絶頂に達したようで、体を硬直させたかと思うとそのまま和明の胸板に倒れこんだ。
「はぁっ……はあっ……」
「んっ……ハァッ……すご、かったわ……和明くん……んっ、んちゅ……」
「し、しほさん……俺も、です……んっ……」
しほと和明は互いに舌を伸ばし、それを絡み合わせた。
しばらくそうしていた後、しほは舌を戻すと言った。
「ありがとう……
射精を終えた肉棒がしほの中から押し出され、溢れた精液がシーツに新たな染みを作る。
「(……あ、そうか)」
その時、和明は自分がこの行為の意味を完全に忘れていた事に気付いた。
これは恋人同士のセックスではない──あくまで戦車道の試合で解消できなかった西住しほの感情の昂りを鎮めるために、偶然見込まれた和明が頼まれた「行為」に過ぎないのだ。
明日になれば彼女は「西住流家元・西住しほ」に戻り、自分は「戦車道ショップでバイトする大学生・篠原和明」に戻る。その人生が再び交わる事は無いだろう。
「………」
「……今日は此処でこのままお休みなさい。ただ、シャワーは寝る前に浴びた方がいいわ。乾くと取れにくくなるから……先に、失礼するわね」
しほは身を起こし、浴室へと向かう。
「………」
和明は無言で天井を見上げた。
「千代さん、ああ言ってたけど……結局、勝てなかったな」
最初こそ奇襲めいた方法でしほから主導権を奪えたが、初体験の自分が優勢だったのはそこまで。結局はしほに終始ペースを持っていかれてしまった。やはり経験が違う。そう思えた。
「(……経験か)」
しほは──当然、これが初めてではないのだろう。そして、これからも。
浴室のシャワーの音が耳に届く。和明は無言で体を起こすと、まだしほが使用中の浴室へと向かい、ドアを開けた。
「どうしたの、
しほは突然の入室に驚く風でもなく言った。シャワーの湯が張りのある肌に弾かれている。
和明はシャワーの水音で声が消されない距離まで歩み寄ると、言った。
「しほ……いえ、西住さん」
今の彼女を名前で自分は呼んではいけない。そんな気がした。
「俺がここに来た理由は……自分でも分かっています。西住さんが、もう俺が必要でない事も」
「………」
「それでも……あと少しだけ、俺としてくれませんか?」
数秒、浴室にはシャワーの水音だけが響いた。
やがて、しほは口を開いた。
「明日の7時にはチェックアウトをしなければいけないわ。明日も戦車道関連で色々と朝からあるから、6時間は睡眠を取らないと厳しくなる」
しほは浴室に設置された耐水時計を見た。23時30分。和明は顔を伏せる。
「……はい」
「30分……そこから私をどれだけ寝かさないでいるかは、貴方次第よ。
「っ!」
和明は顔を上げた。シャワーを浴びたまま、しほはこちらを見ている。
「……しほさん」
「ンッ……」
和明はしほに唇を重ね、湯に火照るその肌に手を伸ばした。
───結局、30分で和明は二度の射精を許し、そのまま眠りへと誘われた。
目が覚めたとき、既に部屋にしほは居なかった。
机の上にルームキーと、チェックアウトのやり方について細かく説明された書置き、あとおそらくは下の売店で買ってくれたのだろうパンと飲み物が置かれていた。アンパンと白牛乳というのが、如何にも彼女らしいと思った。
フロントに向かう途中、念のため千代の部屋も訪れてみたが既に退出していたのか、ノックしてもガウン姿の彼女が出てくる事はなかった。
階下に降り、フロントで鍵を返す。時計を見れば既に昼前。随分と寝てしまっていたようだ。
『──それでは次は戦車道の話題です。プロリーグ発足を目前に控え、国内最大規模の流派、西住流の大規模な演習が昨日横浜にて──』
壁のモニターからニュースが流れる。
そこに映る「西住流家元・西住しほ」はいつも通りに凛々しく、そして美しかった。
『──という訳で近年の戦車道復興事業の一環として、かつて行われていた伊勢神宮の奉納試合が今年度より再開される事となったんだけど──』
翌日、戦車道ショップ。店内放送も戦車道関連の放送が主となっており、今は戦車道界隈の元人気選手にして現自衛官・蝶野亜美がパーソナリティを務めるラジオ放送が流れている。
「店長、休憩貰いまーす」
「はい、お疲れ様。ゆっくり取ってね」
カウンター裏の事務室。スタッフの休憩所も兼ねた部屋で和明は店長に休憩の確認を取った。相変わらずの低い物腰で店長が答える。
出勤中に買ってきたおにぎりとお茶を鞄から取り出しつつ、和明は店長に言った。
「あの、店長……」
「何だい?」
「ドリンク、ありがとうございました。高かったですよね、アレ」
「……本当に
店長は変わらぬ口調で言う。和明は更に尋ねた。
「知ってたんですか、家元の……アレ」
「この仕事も長いからね。まあ、まあね」
「……ありがとうございました」
「礼は言わないでくれよ。
「………」
「篠原君、仮に同じ事がこの先にあったとしても……あまり本気になるんじゃないよ。彼女らは君の
「……分かってますよ」
口調こそ穏やかだが、店長の声には重さがあった。気を紛らせようと、鞄にマナーモードで入れていた携帯を探る。
「あれ?」
着信あり、時刻はつい今さっき。番号は電話帳に登録されていないもの──いや、確かにこの番号には見覚えがあった。この番号は──
「……島田流、家元!?」
「ええっ!?」
和明の声に店長も反応を示す。慌てて和明は着信履歴からリダイヤルをした。
数度の着信音の後、電話が繋がる。
「もしもし、篠原です!」
『……篠原くん?』
「っ!? ちょ、え? しほさ、じゃなかった、西住さん!?」
何故か電話に出たのは千代ではなくしほで、和明は更に混乱した。何故しほが千代の携帯で自分に電話を?
『篠原くん……今、私と島田さんは伊勢に来ているの』
「え? ええっと、はい、知ってます。奉納試合が今年から再開なんですよね」
『ええ』
「………」
『………』
「………」
『……西住さん、多分それでは篠原くんに何も伝わってないわ。代わってもらっていいかしら?』
その時、しほの横から声がした。鋭く、張りのあるしほの声とは対照的な柔らかな声。やがて電話を替わったのか、よりはっきりと彼女、島田千代の声が耳に届いた。
『もしもし、島田です。篠原くん、いきなり電話してごめんなさいね。今は大丈夫?』
「は、はい。一体、どうしたんですか?」
『それが、その……聞いた通り私たちは今、伊勢神宮での親善奉納試合の準備をしているんだけど……これがなかなか大規模なものになりそうなの』
「は、はあ」
『ただ……こっちの戦車道関連の人で男手がいなくって、宮司さんに頼める事でも無いから……篠原くんの都合が合うようなら、『例の要件』で来てくれないかと思って。立て替えにはなるけど、交通費やこちらでの宿泊費は用意するから……』
「え……ええっ!? あの、伊勢って、あの伊勢ですよね!?」
伊勢、要は三重県である。横浜から東京や鎌倉程度ならともかく、「ちょっと行く」程度で行ける場所ではない。
戸惑いを隠せないまま和明は言った。
「どういう事ですか? その……お二人なら、そういった事でも現地でどうにか出来るように、俺には思うんですけど」
『まあ、本来はそうなのだけど……』
「?」
『これを言ってしまうと、篠原くんは断りづらくなると思うので言いたくなかったんだけど……』
そこまで言うと、千代は声を小さくして言った。
『……西住さん、貴方の事をかなり気に入ったみたい』
「っ!?」
『こっちで適当な相手が見つからない事が分かってきたら、私が貴方の連絡先を知っているか聞いてきて、着信履歴から電話をしようとしたのよ』
「西住……さんが?」
顔に血が昇ってゆくのを感じる。店長から見れば既に自分の顔は真っ赤だろう。
『正直、かなり珍しいわね……でも、私個人としても篠原くんには興味があるわ』
「え……!?」
『もし良ければだけど……急なお願いのお返しに、伊勢に来てくれたら「三人で」というのはどうかしら?』
「!!?」
咄嗟に和明は携帯をあてたまま顔を上に向けた。今の千代の一言だけで強烈なイメージが頭に浮かび、危うく鼻血が出そうになったからだ。
『とはいえ、無茶なお願いなのは分かっているわ。無理はしないで……』
「いえっ! えっと、あの、行きます! 絶対に今晩までに、そっち行きます! 伊勢駅に着いたら、また電話しますから!」
和明は即答し、電話を切った。
「……あ」
苦笑いを浮かべる店長と顔が合う。今はバイトの休憩中で、しかも明日はシフトが入っているのだ。
「あ、あの、店長……」
「……家元の頼みだからね。まあこの後は重い納品もないし、僕ひとりで何とかするよ。明日の穴は他の子に頼んでみるさ」
「本当、すみません店長! お土産、持って帰ります!」
「……いいねェ、若いってのは」
店長の言葉を背に受け、エプロンを外すのももどかしく和明は鞄を手に事務室を飛び出す。
失恋で始まったこの夏は、どうやら思った以上に鮮烈なものになるようだった。
ここまで拙作をお読みいただき、誠にありがとうございます。
本作「俺と家元と巨砲主義」、とりあえずここまでで最初のエピソードとしては終了となります。
今後ですが、半月~一か月程度のスパンで章立てして、シリーズ連載というか短期集中連載のような感じで更新を進めてゆく予定です。まあ、エロ漫画の連載を待つような感覚でのんびりお待ちいただければと思います。
水着回(「俺と家元と夏の海」)、浴衣回(「俺と家元と打ち上げ花火」)など書きたい大まかなイメージは有るのですが、何が書けるかはリピドーと筆次第という感じです。
それでは重ねて、お読みいただきありがとうございました。