第一話
「ん、ちゅっ……ふふ、まだまだ元気ね」
「れろっ、はぁっ……ど、どうかしら、和明くん?」
「ううっ! さ、最高……ですっ……!」
屹立する自身の肉棒に絡みつく二枚の舌。島田千代と西住しほの同時フェラで、先ほどの射精で一度萎えていた和明の肉棒は再び硬さを取り戻してビクビクと脈動する。
完全に勃起が戻ったのを確認すると、千代は舌を離して蠱惑的な微笑みを向けた。
「さて……しほ、やるとしましょうか」
「……千代、どうしてもするの?」
「元々はしほが我が儘を言って和明くんに来てもらったのでしょう? なら、お返ししてあげないと」
「………」
千代の言葉にしほの顔に朱が差す。
二人がどうするつもりなのか和明が分からないままでいると、二人は体を反転させるとうつ伏せになり、そのまま腰を持ち上げ尻を和明に向けた。
「……!」
既に全裸となっていた二人がそういう姿勢をすれば、当然ながら和明の眼前には濡れた二つの秘所が並ぶ事になる。しほに比べ千代の方がやや陰唇の色が薄く、陰毛の茂りも薄いようだ。興奮に麻痺しかけた和明の脳裏にそんな事が浮かぶ。千代は和明の方を向き言った。
「さあ、和明くん? 好きな方から召し上がれ」
「……思った以上に、恥ずかしいわね」
一方のしほは顔をシーツに埋めたままだ。赤面した顔を和明に見せたくないらしい。
「あ、ああっ……!」
和明の巨根は臍に貼りつかんばかりに反り返った。挿入を待ち望むように両の秘唇は艶やかにひくつき、ぱくぱくと孔が蠢く様まではっきりと見えている。
激しい動悸を抑えつつ、和明は自身の竿に手を添えた。
「それじゃ、い、行きます……!」
──電話が鳴っている。
「……あ、あれ?」
覚醒した和明は、自分がテーブルに突っ伏した姿勢で寝ていた事に気が付いた。顔を上げ、周囲を見回す。見慣れた戦車道ショップの事務室だ。
「ああ、大丈夫。休んでて」
カウンターから店長が駆け込んできて受話器を取った。「そのまま休憩を続けて」とジェスチャーでこちらに言ってくる。
そこでようやく、和明は自分が休憩中に寝てしまっていたのだと理解した。真昼から見るには何とも不向きな夢に、思わず額を押さえる。
「(この夢、当分は見そうだなあ……)」
伊勢神宮から和明が赤福餅をおみやげに横浜に帰ってきたのは、数日前の事だ。
西住流家元・西住しほ、島田流家元・島田千代の二人に急な呼び出しを受け、和明は彼女らの試合後の昂りを抑えるために店長に詫びて遥々三重県まで飛んでいった。
試合は彼女らが言った通りに、仮に神様が観戦していたとしても大盛り上がりであったろう熾烈なもので──同時に、夜も激しかった。まだ初体験から二度目となる和明にしてみれば、余りに鮮烈であり、強烈だった。その辺りについては、また別の機会に語ることになろう。
そして、戻ってきてから今までは特に同様の呼び出しがされる事はなく、こうしてバイトに明け暮れる日々に和明は戻っていた。
「ええ、はい、はい……はい、それは勿論。では午後2時頃に伺わせていただきます。はい、それでは……」
店長はメモに何かを書き込み、通話を終えると大きく息をついた。
「やれやれ……篠原君、悪いが明日は忙しくなるよ」
嬉しさ半分、困り半分といった表情で和明に言う店長に和明は尋ねた。
「団体さんですか、店長?」
「うん。明日、横浜港に学園艦が寄港するそうだ」
「聖グロですか?」
横浜港は戦車道名門校のひとつ、聖グロリアーナ女学院(通称聖グロ)が拠点としている港である。そのため聖グロ学園艦の寄港時には華やかな赤いパンツァージャケットを着こんだ同校の戦車道履修者が店に多く訪れ、店内を優雅に彩る。
しかし店長は首を横に振ると言った。
「いや、聖グロは今は確か北海道あたりを航行しているはずだ。今回来るのは黒森峰だよ」
「黒森峰……って、確か」
「ああ、西住流家元・しほさんの娘さんの西住まほさんが隊長を務める戦車道エリート校。熊本へ戻る途中にここで補給をするそうでね、今回は直接学園艦に持っていっての納品になる。トラックで行くから、篠原君も一緒に来てもらっていいかな?」
「分かりました。倉庫からもう出しておきますか?」
「そうだね。とりあえず砲弾や燃料はもう積んでおこうか」
「じゃあ、休憩上がったら始めます」
黒森峰女学園。高校戦車道の強豪校や強化選手の話題になるとほぼ必ず名が挙がる、ドイツ戦車を中心とした編成と履修者の練度の高さで知られる名門校。戦車道大学リーグや社会人リーグなどの名選手にも何人もの黒森峰出身者が居る。「履修者」と言ったが、もはや彼女らまで行けば「選択科目のひとつ」という範疇に収まるものではないのかもしれない。
そして、もう一つ和明が気にかかる事があった。
「……やっぱり、西住流の影響下って事は家元が直接指導しているんですか?」
「流石に出ずっぱりって事は無くて、普段は生徒間で指導や訓練は行っているそうだけど、それでも結構な頻度で視察には訪れているようだね」
「………」
またしほに会えるかもしれない。
淡い期待が和明の中に浮かぶが、同時に今回は
ベッドの上ではともかく、平時のしほは「厳格」「厳粛」を擬人化したかのような厳しさと自律心を備えた女傑である。ましてや同校にはその娘さんが隊長として居るのだ。
「……これじゃ、俺の方が欲求不満みたいだな」
そう呟き、和明は休憩を終えると倉庫へと向かっていった。
──翌日、昼下がりの横浜港を走る一台の軽トラックがあった。側面には【戦車道ショップヨコハマ・品揃え第一主義】という宣伝文句が書かれている。
「それにしても……」
助手席に座る和明は、海側の景色を遮る巨大な物体を眺めつつ言った。
「本当にデカいですね……黒森峰の学園艦って」
既に側面を眺めつつ数kmを走らせているはずだが、未だに車両搬入口が見えてこない。見上げると、艦上に広がる街がうっすらと確認できる。
「学園艦の中でもトップクラスだからねえ。まあ、あとちょっとで着くよ」
そう言いつつ店長は法定速度で軽トラックをのんびりと走らせる。荷台に積まれているのは依頼された砲弾と燃料、あと装填用軍手やゴーグルなどの新商品サンプルだ。
やがてトラックは、同様の学園艦への納品用トラックの並びの最後尾へとたどり着いた。
生徒やその家族、教職員、更にその生活を支えるための商業施設などに関連する人々を含む数万人が生活する移動都市である。海上輸送も頻繁に行われてライフラインは維持されているが、やはり地続きでないと受け渡しできない物も多い。それらの搬入出が一斉に行われるのだ。
少し待った後にゲートに到着し、簡単な荷物検査を受ける。戦車道に使われるものとはいえ砲弾はちゃんと火薬が込められた本物だ。警備員から許可証を貰い、幾つもの坂を経て艦上へと向かってゆく。
「お、おお……」
薄暗い大型駐車場めいた場所から光差す場所に急に出て、和明は思わず声を漏らした。
まず目に入ったのは広大な森だった。全長10㎞程もある黒森峰学園艦において結構な割合で森が広がっており、一部は丘陵となっている。その森に沿うようにこれまた巨大な校舎がそびえ、そして広大な街並みが広がっている。
「篠原君も去年までは高校生だろう。学園艦とか珍しくないんじゃない?」
「いや、ウチはもっと小型で、小さな田舎町みたいのがあるだけだったんで……ここの演習場に向かうんですよね、何処なんです?」
「演習場ならもう見えてるよ」
「え?」
ハンドルを握る店長に軽く言われ、改めて和明は眼前の光景を見渡した。フェンスに囲まれたそれっぽい場所があるかと思ったが、そんな所は見当たらない。
「……どれです?」
「全部だよ。この森や丘、全部」
「ええっ!?」
「黒森峰にとって、戦車道ってのは同校の看板だからね。それだけ注力しているのさ」
「はぁ~……」
和明が感心している内にトラックは進み、やがて森の近く建物のひとつに到着した。無骨だが頑丈そうなレンガ造りの建物を見上げつつトラックから降りる。
やがて、中から二人の人物がこちらに向かってきた。思わず和明は声を漏らす。
「あ……!」
「どうも家元、お世話になっております。ご乗船されていたんですね」
「ちょうど今日、視察に寄らせてもらった所です。先日の腰の方は如何ですか?」
「ああ、お陰様で……」
黒いスーツに白ワイシャツ姿のしほと、その横に立つひとりの少女。
和明は頭を下げる店長の横に行くと同様に礼をした。
「すみません、今日はよろしくお願いします」
「……
実際は名前を思い出す必要が無い程にこの一週間ほどで深い仲になってしまっているが、流石にそれをこの場で出すような人ではない。他人行儀なしほの言葉に和明は礼を返すと、その横の少女を見た。
「黒森峰戦車道隊長、西住まほです。急な依頼への対応、感謝します」
「(西住……って事は、この子がしほさんの……?)」
なるほど、確かに「西住しほの娘」と言われて納得してしまう雰囲気を帯びた少女だった。やや釣り目がちな瞳と細い眉が確かに似ている。
何より、和明と比べて年下の筈だが彼女から感じる落ち着きと風格──と言って良いのかは分からないが──は、下手な大人以上であった。こうして前にしているだけで無意識に背筋が伸びる。
「ご注文のあった砲弾と燃料、資材はご指定通り用意できています。あと、これは良ければなんですが新商品の装填手用の手袋を試供品でご用意しました。是非、黒森峰の選手の方の使った意見を伺えればと……」
「ありがとうございます。使わせていただきます。商品ですが……」
店長は営業トークに余念が無い。聖グロ以外に黒森峰とのパイプも持ちたいのだろう。
まほと店長が話をしている間、和明はそれとなくしほに視線を送ってみた。
「………」
しほは何も言わず、スッと視線を逸らした。あくまで今日は「顧客と販売者」というスタンスを崩さない。それが当然ではあるのだが、仕方ないなと和明は思った。
「篠原君、もう一度乗ってもらっていいかい? 置き場はここからちょっと距離があるみたいだ」
「あ、はい」
その言葉に従い、和明もトラックに乗る。
「私たちは後から向かいます。既に待機しているメンバーに説明して誘導してもらってください」
まほはそう言うと頭を下げ、しほと共に建物横に置かれたジープへと足を向けた。
彼女らが離れたのを確認し、キーを入れなおすと店長が言った。
「うーん……家元、今日はどうも機嫌が悪いなぁ」
「え? そうなんですか?」
和明はさっぱり分からなかったが、店長にしか気づけないサインがあったのかもしれない。
そんな事を思いつつ、トラックの外を眺める。前方には幾両もの戦車が並ぶ広場が見える。その横には大きな常設テントが設置されているようだ。テント近くに再度トラックを停め、その場に居たメンバーの指示でトラックの中身を運んでゆく。
「よいっ……しょっと!」
砲弾の詰まった箱の重さはいつ抱えてもずっしりと感じる。これを軽々と扱うのだから、戦車道を修めている少女というのは大したものだ。
運びつつ横眼で戦車の方を見てみれば、軍服めいた黒森峰のパンツァージャケットに身を包んだ少女たちが整列している。先頭に立つ灰色髪の少女は和明にも見覚えがあった。確か現在の黒森峰戦車道でNo.2を務めている、逸見エリカという少女だったはずだ。
やがてその少女たちの前にジープが到着し、そこからしほとまほが降り立った。それだけで並ぶ少女たちが僅かの乱れもなく直立不動の体勢になる。
まほはしほに一礼すると少女たちの先頭に立ち、もう一度礼をした。
「家元、本日はよろしくお願いします」
『よろしくお願いします!』
まほの礼に合わせ、少女たちも一斉に頭を下げる。
「(……凄い空気だな)」
燃料缶を抱えながら和明は思った。確かにこれは「選択科目の課外授業」という雰囲気ではない。
しほは彼女らが頭を上げるのを待ち、口を開いた。
「決勝までの試合は一通り見させて貰いました……結果どうこうを今更に言うつもりはありません」
静かな、しかし通る声でしほは言葉を続ける。
「ただ、貴女たちが『黒森峰』という名と戦車の性能に頼り切っていた事だけは分かりました」
「……申し訳ありません」
しほの言葉に一同が凍り付く。その中で先頭のまほは頭を下げる。
「事前に告知したように、本日の演習は全車両Ⅲ号戦車での紅白戦とします。火力や装甲が全く同じ条件でどう戦うのか、それを見せてもらった上で今後の演習の方針について考えます。では、始めて頂戴」
「はい……皆、今回は横浜の戦車道ショップの方からのご厚意で、急な注文にも関わらずⅢ号用の砲弾等を用意していただいた。あちらの方々にも礼をするように」
『ありがとうございます!』
「よし、総員発進準備!」
しほがそう言い終えるとまほは背筋を伸ばして振り返り、メンバーに号令をかけた。納品中の店長と和明に一斉に頭を下げる少女たちに、店長は礼を返す。
それとほぼ同じタイミングで和明は最後の燃料缶を下ろし終え、やはり同様に頭を下げた。
千々にそれぞれの戦車へと向かってゆくメンバーを見届けることなく、しほは彼女らに背を向けるとテントへと歩み寄ってきた。
「改めて感謝します。もし良ければ、ご一緒に演習を見ていかれては如何ですか?」
「いいんですか? 黒森峰の演習と言えば門外不出だったんじゃ……」
「販売する側から見られて気づいた事などがあれば、彼女たちに教えていただければと」
「いや、そんな……では、お言葉に甘えて」
しほの言葉に店長は意外そうだったが、言葉を重ねられてまんざらでも無さそうに提案を受け入れた。戦車道の店を長年経営しているだけあり、店長も無類の戦車道好きなのだ。
「篠原くん、貴方も良ければ」
「あ、はい、お願いします」
和明としても断る理由はない。言われるままにテントの一角に設置された椅子と大型モニターまで誘導され、そこに座る。エアコンも常設されており、なかなか快適だ。
椅子に座って待っている内に紅白戦の戦車はそれぞれの試合開始位置に移動したようだった。しほはモニター横に置かれた通信機のマイクを取ると、スイッチを入れつつ言った。
「……それでは、試合開始」
彼女の声がスピーカーから流れ、僅かにハウリングを起こす。
それを合図に映像上の戦車が一斉に動き始めた。公式ではない紅白戦とはいえ、十数両もの戦車が走り始めるのはカメラ越しでもなかなかの迫力だ。
どうやら戦いの舞台はゆるやかな丘陵を中心としたものになるようだった。次第に互いの戦線が接近し、やがて撃ち合いが始まった。テントの中からでも遠雷めいた砲声が聞こえてくる。
「………」
しほは手を膝に置いたまま、じっくりと映像を見ていた。一見微動だにしていないがその視線は幾つかに分かれた画面上の戦車にくまなく向けられており、店長を挟んで座っていた和明にも迫力が伝わってくる。
「うぅん……」
店長は腕を組み、まるで野球の試合を前のめりに観戦するように上体を曲げてモニターを見ている。
「今のは……良くないですねえ」
「ええ、装填が遅すぎます」
唸るように出た店長の言葉にしほが同意する。和明にはさっぱり分からなかったが、やはり玄人にしか分からない違いがあるのだろう。
「……おっと? 家元、失礼致します」
その時、店長のポケットの携帯が震えた。しほに断りを入れ、携帯を取り出しつつテントの外へ出てゆく。
結果、テント内にはしほと和明が残された。静かな空間に、モニターからの砲声だけが響く。
「(なんか……気まずいな)」
「……
どことなく居心地の悪さを感じ始めた時、しほが和明を「名前で」呼んだ。
「え、は、はい?」
「……!」
「ンンッ!?」
突然、襟首を掴まれたような勢いで和明の頭は横に引き寄せられ、そこまましほに唇を重ねられた。何が起きたのか理解する間もなく、そのまま和明の口腔内にしほの熱い舌が入り込んでくる。
「!? はぁっ、しほさ、んんっ!?」
「ンッ……ちゅっ、ふぁ……んむぅ……!」
驚くほどの熱さを伴ったしほの吐息に、和明は思わず眩暈を覚えた。動揺しつつもこちらも舌を動かし、しほの舌に絡め返す。
「ふうっ……れろっ、んちゅ……!」
「ンンッ……!?」
しほは更に和明の歯茎を舐め上げるように舌を這わす。たっぷり数十秒の間しほは和明の口腔内を蹂躙すると、やがて唇を離した。
「……ふぅ」
「はぁ、はぁ……ちょ、まずいですよ
勝手にひと息つくしほに、思わず和明は彼女を名前呼びしつつ言った。
外で電話中の店長は自分としほの関係を知っているにしても、黒森峰の女生徒が全員演習に出ている訳ではないのだ。二軍のメンバーなどにはテントの周囲で別の訓練を行っている者もいる。彼女らがテントの中に入ってきたら一発アウトなのは確実だ。
焦る和明とは対照的に、しほは静かに答えた。
「……ありがとう、
「いや、その……」
「大丈夫、私がテントの中に居る時にわざわざ入ってくる生徒はいません。私は彼女たちには怖がられていますから」
そう言われ、和明は外の様子を気持ち伺った。確かに近くに居る気配はない。
やがて、店長は携帯を戻しつつ申し訳なさそうな顔で帰ってくると言った。
「申し訳ありません、家元。店でトラブルがあったようで、ちょっと戻らせていただいて良いでしょうか?」
「いいえ、こちらこそ足止めしてしまって申し訳ありません」
「あ、じゃあ、自分も……」
「いや、篠原君は残ってもらっていいかな?」
席を立とうとする和明を店長は止めると、エプロンのポケットから封筒を取り出した。
「まだ今回の納品内容の確認と印鑑を貰ってないんだ。書類と帰りのタクシー代を渡しておくから、後から確認を済ませて戻ってきて貰えないかな? 書類は読んでもらってハンコを貰ってくれるだけでいいし、もちろん戻ってきた時間までで勤怠は打つからさ」
「そう、ですか? ……分かりました」
横のしほをチラッと見て、和明は頷いた。
彼女の行動が読み切れない事への不安はあったが、店のトラブルは店長でないと解決は難しい。そうなれば自分がこちらの現場の対応をするのは妥当と言えた。店長から書類の束とタクシー代を受け取る。
「本当にすまないね……それでは家元、失礼致します」
「お疲れさまでした、お気をつけて」
頭を下げる店長にしほが礼を返す。そのまま店長はテントを出てゆき、そして中には和明としほが残された。
一方、モニター上の紅白戦は佳境に入りつつあるようだった。幾つかの車両は走行不能を示す白旗を上げており、両陣営共に残った戦車は僅かのようだ。
「……続きを見るとしましょうか」
「あ……は、はい」
再び家元の顔に戻ったしほの言葉に、和明は戸惑いつつ椅子に座り直した。しほと隣り合いつつ試合の続きを見守る。
画面には紅組の隊長車であるⅢ号戦車と白組のⅢ号戦車3両が対峙する様子が映っていた。白組の奇襲を受け、紅組の方が戦力は損耗している。そこを突かれた形だ。
和明が戦車の公道免許を取得する際に受けた講習では、戦車道においてこういった状況に陥った場合は何とか退避して身を隠し、側面を狙う──だったように思う。
「……!?」
しかし、紅組隊長車はそこで正面から突撃を敢行した。砲塔からは西住まほが身を出し、車内に指示を出しつつ周囲の敵戦車の位置を把握しようとしているようだ。
当然ながら白組側はまほ車に砲身を向け、狙いを定める。堅牢なティーガーならばともかく、Ⅲ号戦車では集中砲火を受ければひとたまりも無い。
「うぉ……!」
思わず和明は声を漏らした。相手側の砲撃のタイミングを読んでいたのか、まほ車は砲塔を回しつつ急停止した。その直前を砲弾が通過する。まほはその撃ってきた側の戦車でなく反対側の戦車を狙った。こちらは正確に命中し、一両から白旗が上がる。
車内は強化カーボンで守られているとはいえ、砲塔から身を出しているまほは無防備だ。だが画面上のまほは全く怯える風もなく指揮を続けている。見ているだけだと言うのに、和明は自分の肝が冷えるのを感じた。
「遅い……」
しかし、対照的にしほは呟きと共に眉を僅かにひそめさせた。膝に置かれた手に力が籠る。どうやら、この戦いぶりでも戦車道家元から見れば満点にはほど遠いようだ。
一方の白組の隊長車からも車長のエリカが身を出した。まほ程ではなく、半分ほどは車内に身を隠している。残った一両と合わせて前後から挟もうと動く。それに対しまほ車は踊るような軽快な動きで自身の位置を変えてゆく。
「……?」
ふと、和明は違和感を覚えた。横のしほの呼吸が次第に荒くなっているように思える。
こちらの視線に気づいたのだろう。しほは画面に顔を向けたまま目線だけをこちらに少し向けた。その瞳が潤んでいるように見える。
「(まさか、この演習の不甲斐なさで……感情が昂ってきているのか!?)」
しほの顔がこちらに向けられた。その顔は先ほどより紅潮している。
「和明くん……もう一度、いいかしら?」
「え、あ、は……ンンッ!」
返事を言い切る前に和明の唇が再び塞がれる。
果たして自分は穏便にこの学園艦を出られるのだろうか。そんな予感が和明の脳裏によぎった。