プロローグ
「ゴクリ」
緊張で息を呑む。
今日は『神の試練』と言われる最高難易度の試練会場へ来ていた。
目の前にあるのは重くズシリとした見上げるほどの大理石の扉。
その扉に手をかけて、内側へ身を踊りだす。
──刹那。ゴウッ! と、吹き付けられる突風で一瞬前屈みになる。
意識を視界に回し、眼前に広がる景色に息を飲んだ。
「すごい……」
そこには雄大な大自然。幻想的な空間が広がる天翼の間と呼ばれる場所だ。
天使は創造主たる女神様によって生み出され、長き年月を育成期間に回し、それが認定されればようやくこの場へと入場することを認められるのだ。
そこには夢にまで見た異世界が広がっていた。
見たこともない色とりどりの草花が足元に広がりを見せ、空に浮かぶ大陸、雲に覆われた世界、虹の橋がかけられた広大な空間が眼前に広がっていた。
知識としては知っていたけど実際見るのちでは大きく異なる!
肌に触る風の感触や草花の香り、刻一刻と形を変える雲や少しづつ動いている大陸のどれもが気持ちを踊らせる。
夢中になってあれこれ見て回ってから、ここに来た目的を思い出す。
──あ、試練。
「急がなきゃ。間に合えばいいけど」
小さく呟き、背中の羽を伸ばす。
──飛翔。
僕たち天使は腰より上に生えた大きな羽でもって空を駆けることができる。
僕は目的地の「第30期試練場」のある離島へと進路を取った。
試練場には数多の天使が賑わい、そしてこれから迎える試練に少なからず緊張していた。
説明を行っているのは上位天使。
僕はそこで説明を受け、試練の間へと足を運ぶ。
正直緊張してるし、僕がどこまでやれるかわからない。
でも僕は「自分の夢」の為、全力を持って乗り越えることを心に誓う。
そして転移門の前に立つ。
──ここから先は自分ひとり。
僕は、門に入るとそのまま意識を暗転させた。
《これより一時試練を開始します》
脳内に響き渡るアナウンス。
いよいよだ。
《あなたには魅了アップの恩恵スキルが与えられました》
魅了アップ? そんなものは聞いたことがない。
本来なら特殊スキルとして「超能力」「権力」「名声」等と言ったチート能力が与えられるはずだ。
だけど僕に与えられたのは「魅了アップ」と言う聴いたこともないスキルだった。
「ここでもか……」
少し鬱な気持ちに苛まれる。
だけどこれで頑張らなきゃいけない。
心に活を入れて試練へと向けて意識を定めていく。
《転送終了です。あなたの歩みに幸あらんことを》
そこで脳内アナウンスは途切れ、僕の体は何かに吸い込まれるように視界を暗転させていった。
▼
とある病院の一室で一人の男児が産声をあげる。
その子の容姿は女の子然としてるが、下腹部には立派な物がぶら下がっていた。
取り上げた助産師は「よく頑張ったわね、男の子よ」と祝福の声を上げ、
母親は赤子の顔を見て、安息した。
「はじめまして赤ちゃん。私がお母さんよ。……生まれてきてくれてありがとう」
時は流れ──―
4歳になった僕は母親に連れられて公園デビューを果たす。
我ながら未だに女の子と間違われるが、大丈夫。ちゃんと生えてる。
母が他の子の親とお話してる間、僕は砂場で遊ぶ女の子に声をかけた。
「こんにちわ」
女の子はこちらに振り向き、ニカッと笑う。
「ここは初めて?」
「うん」
「そうなんだ、一緒に遊ぼう」
僕は女の子に混ざって砂場で山を作ったり、そこにトンネルを掘ったりと夢中になって遊んだ。
特に何を話した訳でもないし、何かをしたわけでもない。
ただ夢中に遊び、楽しい時間は直ぐに過ぎていく。
夕刻になり、その子と別れる。
別れ際に「また会える?」と寂しそうに俯く彼女が印象的だった。