ゴブリン達と別れて僕らは今後の事を話し合う。
ある程度目的を定めて歩きだそうとしたところで僕は自分の足に蹴つまづいて転んでしまった。
それが一回や二回ならユージィも笑って許してくれただろうが、それが1分につき10回以上となれば話は別だった。
「あいたっ」
ぬかるみに足を取られ、顔面を足場に強かに打ち付ける。
天使のボディは肉体的ダメージは直ぐに回復するけど、痛いもんは痛いのだ。
そこへユージィから呆れた声がかけられた。
『シェリア、もうちょっと前見て歩けよ。痛い目見るのはお前なんだからな?』
「だってぇ。このスキルって方向感覚全然掴めないんだもん」
それもそのはず。僕は今永続的なバッドステータスの『失明』にかかっていた。
スキルでなんとか景色は見えるものの、それを捉えられるのは平面であり、明暗がはっきりしないから夜道を歩いているのと大差ない。
ゴブリンの集落ではちんぽの方からやってきたのでそれに対して動くだけで良かったが、こうして旅だった今、失明というバッドステータスは僕に大いなる試練を与えていた。
うわ、また転んだ!
んもう。白黒の絵からどうやって足場のぬかるみを知覚しろって言うのさ!
「ユージィはよくこの状態でも普通に過ごせてたよね?」
『ばっか、お前こんぐらい屁でもねぇよ。愛する男の顔のシワ一つまで判別つくわ』
「僕はそこまで逞しくなれないもん」
『いいから歩けよ。日が暮れちまう。疲れたら変わってやるから』
「はーい」
仕方なく僕は前に歩き出す。
その間、ユージィは何かを操作していた。
また勝手に僕のプロフィール覗いてるなー?
彼女は最近人のものでもお構い無しに勝手に見る。
厳密的には彼女も僕と同一人物だけど、一応僕も女の子。
プライベートだって持ちたいんだからね。
歩き始めて数十分。
ようやく転ばないようになってきたところでユージィから声が掛かる。
『おい、シェリア』
「なんだよー。また何か僕の悪い所みつけの?」
『お前どんだけ後ろ向きなんだよ。いいからちょっとメニュー開いてみ?』
ユージィに促されて天使ツールからメニューを開くと、ステータスの右上にピコピコと赤い光が灯っていた。
「なにこれ? こんなの前からあったっけ?」
『いや、俺に聞かれたってわかんねーよ。こういうのは天使のお前が知って然るべき事だろ?』
「僕だってわかんないことぐらいあるもん。それにアバターの操作だって今回の試練で初めて使うんだからね?」
『ふーん。まぁいいけど、ここでくっちゃべってても埒が明かねぇわ。取り敢えず開くぞ』
「おねがーい」
僕の代わりにユージィがツールを操作して、点滅していたメニューを選ぶ。
そこから出てきたのは女神様から僕達第三十期生の天使の卵に向けたメッセージだった。
僕はユージィからそっと視線を逸らす。
その動作をつぶさにキャッチしたユージィは少し面白そうな声色で僕に迫った。
『なぁ、これって最初に読んでおくべきやつじゃねーの?』
「そうなの? なんでそんなのが今更見つかるのさ」
『いや、本来なら地上に降りてすぐ確認するもんじゃねーの? お前上位天使様からお話聞いてただろ?』
「そうかもだけど……」
『いや、無理か。どっかの誰かさんはその間オナニーに夢中だったもんな?』
「うぐ…………」
僕はユージィのその言葉を否定出来ないでいた。
確かに。僕はオナニーに夢中になっていたかもしれない。
でも、言い訳させて欲しい!
僕だって何も考えずにオナニーに夢中になってた訳じゃない。
ちょっとユージィのことを舐めてたとか、気持ちよすぎて他の事とかどうでも良くなってたとか……もあるにはあるけど、それ以前に試練の内容がショックすぎて、その内容に押しつぶされそうだったって言うのもあるんだ。
だからユージィの言葉に縋って、結果オナニー中毒になってしまった。
だからオナニーに夢中になってしまったのは僕も悪いけどユージィも悪ノリしたのが悪いよ。
僕ばかり責めないで欲しいな!
「………………」
『ま、結果オーライって事でいいんじゃねーか?』
「ユージィ?」
僕の無言の圧力に、ユージィの方が折れてくれる。
珍しいな。彼女らしくない。
まだまだ僕はユージィのことを理解できていなかったのかもしれないね。
彼女は僕の未来の可能性だ。
たまに見せる顔は僕のように無邪気だけど、僕以上に苛烈な時がある。
それが人間社会で育った、僕という個性の果てにあるものなのか、はたまた笹井裕二という個体が特殊すぎる環境で育ったからか、それは素体である僕には判別出来ないでいた。
『いや、お前をオナニー中毒にさせたのはよく考えたら俺にも責任があるしな』
「自覚あったんだ……」
『ひでーな。一応俺だって考えて行動してるんだぜ? 実際、お前がエロに耐性ないままゴブリンに見つかってたらどうなっていたと思う?』
「多分、痛くされてずっと泣いていたと思う」
『だな。オナニー中毒になった結果としてお前は愛液を沢山出せるようになって、ゴブリンちんぽ突っ込まれてもちょっと物足りないくらいで済んだんだ。普通だったらこうはいかねぇぜ?』
「そこは感謝してるよ。でも失明はやり過ぎじゃない?」
『そうは言うがな、ゴブリンてお前が思ってるほど可愛い生き物じゃないからな?』
「そうなの!?」
知らなかった!
ユージィが族長とラブラブしてるのは知ってたけど、見た目は考慮してなかったんだ。ちょっと意外っていうか、うん……
ユージィって面食いだと思ってたから。
『ま、愛があれば見てくれは関係ないけどな。でもお前にそれを押し付けるのはまだ早いと思ったんだ。お前には先にセックスの気持ちよさに浸かってもらって、どんな生物とでも見てくれに惑わされずにまぐわって欲しかったんだ』
「うん…………それが僕達天使が女神になるための使命だもんね」
『そうだな。それはそれとして、シェリアはエッチは好きか?』
「うん♥」
『そいつは重畳。こんどはもう少し大きいちんぽの個体に抱いて貰おうか?』
「わー、今から楽しみだよ」
『その前にしっかり歩けるようにならなきゃな』
「はーい」
僕はまんまとユージィに乗せられて、てくてくと歩き出す。
ユージィは僕が歩いている間も、何かの操作をしながら話題を振ってくれた。
こういう時は二人だと心強いよね!
僕は少し急勾配になりつつある坂道を四つん這いになって上り、ようやく開けた空間へとたどり着く。
そこはなんというか、少し休憩するには最適な場所だった。
視界は常に暗いからここがどこか判別はつかないけど、さっきからユージィが齎してくれた情報のひとつに面白いものがあるとのこと。
本腰入れて取り組むにはどこか休める場所があるといいということで、僕はその場所に向かい、ようやくたどり着いた所だった。
「とうちゃーく」
『お疲れー。お礼におっぱい揉んでやるぞ』
「あん♥ いきなりはやめて、まだちょっと疲れてるから」
『冗談、冗談。悪かったって……そんな膨れんなよ。せっかくの可愛い顔が台無しだぞー?』
「もう、誰がそんな顔にさせたのさ。それで? さっき言ってた面白い情報って何?」
『そうそう、ちょっともっかいメニュー開いてみろよ』
「うん」
天使ツールに意識を向けると、ユージィの操作で展開されたメニューから、ステータスとは別の項目が浮かび上がる。
「これは?」
『どうやらお前ら天使同士で情報交換を行うネットワークらしいぜ?』
「なにそれ。僕そんなの知らないよ?」
『え、お前ら天使ってインターネット知らないの? まんまそれな作りだからてっきり……』
「多分だけどさ、その知識ってオスの試練で仕入れてくるものじゃないの? 僕の場合はユージィと別れちゃったじゃない? だから天使の頃では知りえない知識をみんな使えてるのかも」
『あー、そういうやつか。じゃあこれは俺の仕事なわけか』
「ごめんね、僕全然約立たずで……」
『あんま気にすんなよ。本来なら俺はお前に吸収されてるはずだった存在だ。それがどういうことか分裂したままこっちまで来ちまった。俺達が特殊すぎるんだ。シェリアが悪いわけじゃねーよ』
「うん……それでなくても僕はユージィに頼りっぱなしだし」
『んじゃま、いっちょ操作してみるから。シェリアはそこでオナニーでもしてればいいよ』
「ひどいな、僕そこまでオナニー中毒じゃないもん。それに疲れてるって言ったでしょ? オナニーするにしたって時と場所を選ぶよ」
『は? 一体どの口が言うんだ? どスケベのちんぽ狂いが』
「この口だよ!」
『ま、いいや。見ててもいいけど俺の邪魔だけはすんなよ?』
ユージィはそう言ったきり操作に集中した。
最初に開いたのは捜索依頼だった。
どうやら未だ連絡もよこさない天使がいるらしい。
……案の定というか、僕の名前がバッチリのっていた。
第三十期生ユージェリア、至急連絡されたし。
そのような警告文と共に。
『あははは、見ろよシェリア、俺達行方不明者扱いだってよ!』
「笑い事じゃないよ、ユージィ」
『取り敢えず登録しといたぜ。これで一安心だな』
「僕は先行きが不安だよ」
『おっと、俺達のライバルのランキングが乗ってるぜ』
「どれどれ?」
『ほら、ここだよここ』
ユージィが僕の腕を操作して、ホログラムに投影された場所を指し示す。
そこには新たに僕が登録したことによって五人分のランキングが発表されていた。
しかしそこに載っていた情報に僕はげんなりとする。
「うわ、僕達ビリっけつじゃん」
『だな』
「ユージィは随分とお気楽だね?」
『まぁな。だって俺達ってまだゴブリンとしかエッチしてないんだぜ? そりゃいろんな種族に抱かれてるライバルさんはさぞかし精液の種類は豊富だろうよ』
「あ、うん。そういえばそうだったね。僕達まだ一種族だ」
『そういうこった。一種族で10種。トップの28種の奴との差なんて直ぐに追い抜けるよ』
「うん、次はどんなちんぽか楽しみだね♥」
『シェリアがエッチに目覚めるのにかかった期間だと考えれば全然無駄じゃなかったろ?』
「ばーか♥ 僕をエッチにしたのはユージィじゃないか」
『そうだっけか? まあオスちんぽ突っ込まれても全然動じないくらいに育てたのは俺だけどよ』
「都合の悪いことはすぐ忘れるんだから。でもユージィはそういう子だって知ってるから。今回は僕が我慢してあげる」
『ありがとよ。っと……チャットルームもあるんだな。ちょっと覗いていこーぜ』
「チャッ……何?」
『ん、お前は知らなかったな。悪い、知ってるつもりで話しちまった。俺の悪い癖だな』
「ううん、いいよ。僕にもどういうものか教えてくれる?」
『おし、まかせとけ』
ユージィは僕にもわかり易いようにチャットについて詳しく教えてくれた。
チャットと言うのはルームという部屋に指定されたメンバーだけで秘密のお話をする場所らしい。
鍵付きのお部屋は特に情報漏洩されると困る情報を扱ってるって事だとユージィは語る。
要は内緒話のお部屋だという事だ。
僕達天使は念話でお話できるから、確かにこういうお部屋で内緒話は必要かもしれないね。
でもそれって僕だけ仲間外れにされているみたいで嫌だな。
僕の思いすごしならいいんだけど。
『鍵部屋ばっかだな……おっと、情報交換部屋がオープンルームであるみたいだぜ』
「行ってみる?」
『ちょっと待て。この部屋、入室の際にZPを消費するらしい』
「え、なんで?」
『多分俺らにとってスキルにも使えるけど、天使間で通貨の代わりにもなるんじゃねーか?』
「そういうのもあるんだね。僕、全然知らなかった」
『俺も初見だ。ってゆーか、シェリアはすぐそうやって自分を追い込むけどよ、失敗や無知は恥でもなんでもねーぞ?』
「え、だってユージィはいっつも僕をそうやって苛めるじゃないか」
『俺は何回も同じ失敗すんなって言ってんの。別に全能でいろなんて言ってねーし』
「そうなんだ」
『そうなんだよ。で? 中入る?』
「うん……」
『げ、入室の際に徴収されるZP、1000だってよ』
「結構高いね。最大値の1/9かー」
『やめて他のとこ行くか?』
「でもほかは鍵部屋ばかりでようやく見つけた部屋なんだよね? これもきっと何かの縁だし行ってみようよ」
『だな、そうするか。後でシェリアにエッチ頑張ってもらって元を取ればいいしな』
「うん♥」
『よし、じゃあそれで決まり。入室すんぞー』