どうしてさっきまでユージィがあんなにも攻め負けていたのか。
それの原因がついに明らかになる。
それは僕がその肉体を支配したときのことだった。
素体のステータスが僕の蓄積したステータスに置き換わり、さっきまで余裕をなくしていたユージィがケロッとした態度を見せたこ。
要するに彼女はさっきまで耐性の一切ない素体であの攻めに耐え切っていたのだ。それってまだ僕が処女を切る前、ユージィの指テクでイキ狂う前の状態でって事だよね?
ちょっと考えられないよ。
口では軽口を叩きながら、何百年も先輩のテクニックに晒していたのだ。
つまりユージィがらしくない行動を見せたのは、彼女が天使じゃないから。
天使でしかアバター情報を書き換えられないから、彼女が劣勢に陥っていたのは僕が彼女に何でもかんでも任せきりだったからだ。
なんて馬鹿な真似をしていたのだろう。
僕は肉体の制御を隅々まで掌握してから、疲弊していたユージィに再度呼びかけた。
『気づくのが遅れてごめん。僕のワガママでユージィに負担かけちゃったね』
『いや、いい。俺もお前にダセェとこ見せない様にと虚勢張ってたとこもある。助かったぜ。後一歩遅かったら消滅してたかもしれなかったわ。はは、あぶねー』
彼女はそうやってなんでもない様に笑うけど、それは僕を気遣ってのことだってわかる。だから僕は彼女に合わせる。彼女は僕の恩人だから!
『見てたら分かるよ。だいたいこの程度の攻めで負けるユージィじゃないでしょ?』
『ははは、まぁその通りだ。それにしてもお前のボディはやっぱすげーな。手も足も出ないと思ってた先輩の攻めに、ピクリとも動じないぜ?』
『僕だけじゃないよ。ユージィが指導してくれたからここまで来れたんだもん』
『ん……そうか。それで、どうする?』
『そうだね。ユージィは少し休憩してて。僕が引き続きお話を聞いてみる』
『それは構わんが、すぐにボロを出しそうで心配だ』
『もー、少しは信頼してよ』
『でもシェリアだしなー』
『まぁ見ててよ。僕だってやれるってところ見せてあげるんだから』
『わかった。今回はお前を信じる事にするよ。ちっと休んでるわ。緊急事態になったら無理せず呼べよ? 俺はお前の相棒……いや、守護神だからな!』
『ふふ、それ気に入ったんだ?』
『うっせぇ、バーカ』
僕の中で強者のイメージを持つユージィ。彼女は所詮僕の可能性の一部であり、天使だったら持ってて当たり前の補正を持たない存在だった。
だからその魂魄耐性も弱く、あの程度の攻めに対して過剰に消耗させてしまっていた。
彼女は僕の可能性の一つであると同時に、とても曖昧な存在。
天使ですらないから、同じ天使と相対したらこんな事になるって分かってたのに。なのに心のどこかで僕は彼女が万能であると信じて疑わなかった。
だからここから先、僕は彼女を守るべき行動をとる。
普段は飄々としていながら僕を煽ることばかりの彼女だけど、やっぱりいなくなっちゃうのは寂しいもん。
それに、僕の初めてを捧げた相手だしね。
◇
「ふふ、こんなに弱くてよくここまで来れたわね」
僕の入る前の素体を手玉にとって、先輩天使のゼエルさんは、なんというか拍子抜けした様子で見下ろしている。
そこで僕が肉体に魂魄を沈めこみ、その権限を掌握するとその表情は驚きに染まっていった。
塗り替えられる様にして書き換えられたデータに、僕の情報がインプットされて行く。
全てを掌握しきった時には、何もかもが変わっていた。
白くしなやかな肢体は、白濁に汚され、苗床をしていたと感じられるほどの悪臭を放つ。そして首に巻かれたスカートワンピが現れると、俯いていた顔が面をあげる。
『目ぇ覚めたわ、こいつがあれば百人力よ』
ユージィの元気な声が思考空間に響き渡る。
でもまだ安静にしてて。ここは僕が頑張るから。
『仕方ねぇなぁ。無理だけはすんなよ?』
拗ねた様な口調の彼女を諌め、僕は再びゼエルさんと挨拶を交わす。
ユージィは情報を出し渋っていたけど、先輩に対してその態度はあまり褒められたものではないとたった今痛感しているところだ。
出せるカードは差し出し、切り札は最後まで取っておく。
その方向性で行く事にした。
「嘘……このレベルは──」
「こんにちは先輩。僕はユージェリア。この度参加させていただいた三十期生です」
「これはご丁寧にどうも。でもその前にその格好はどういう事?」
「実は少し実験的動きをしてまして、魂を介さずにアバターをどこまで操れるかというものです」
もちろん嘘だ。天使の認証がなければここを通ることはできない。
それは天使である彼女も一番よくわかっている事である。
だからもしそんなことができるならばと興味を持たせれば、僕にもやりようはあった。
「嘘ね。貴女も天使であるならば分かるはずよ。アバターは魂を落とし込まねば起動できない」
「はい。ではさっきまでの状態をどう説明するおつもりでしょうか?」
「……ふふ。どうやら貴女の方が一枚上手みたいね。それにレベルも私よりも高いみたい。貴女の様な面白い子ならいつでも歓迎するわ、ようこそ私の部屋へ」
「ありがとうございます」
「ふふ。色々聞きたいお話があるけどその前に……お召し物を変えないかしら?」
臭うわよ?
そう言われた気がして、僕は慌てて身体中の匂いが気になった。
今まで臭うなんて言われたことなかったので気付けなかったのだ。
よく考えなくたってわかる。おしっこやザーメンにまみれた生活を送っていれば、そういう匂いは染み付くものだと。
この清潔な部屋に突如現れて珍獣。それが僕であると指摘され、促されるままにお風呂場に放り込まれた。
◇
そこは大浴場とも呼べる空間。
どういう仕掛けか切り開かれた空間の向こうには雲が見えた。
その真下に下界の様子が映し出されている。
まるで展開にいるような景色。いや、ここは擬似的な展開なのだろう。
本来天使の暮らす場所。ここで心のケアをして、改めて試練に臨めと、そう言われた気がする。
「いい眺めですね。天海を思い出します」
「気に入ってくれたようでよかったわ。この景色、私もお気に入りなの」
「そうだったんですね。あの、失礼を承知で伺いますが、ゼエルさんは何期生なのですか?」
「何期生だと思う?」
質問に質問で返さないでほしい。
すぐに切り返せない僕に、彼女はくすくすと笑う。
「ごめんなさい。ここではあまり時の流れを感じなくてね。ただ、前回もクリア者は出なかったとだけ付け加えておくわ。ほんと、我が神は無理難題を申し付けたのだと……今になって思うわね」
疲れ切ったような笑みを浮かべ、ゼエルさんは苦笑する。
その表情から浮かび上がった色で、進捗はあまり良くないのだと伺えた。
「いえ。それでも始めたばかりの僕よりも多くの種を授かったのですよね? 僕、十分すごいと思います」
「そうかしら?」
「えっ?」
「貴女は私がすごいと、そう思ってるのかもしれないけど。私くらいの試練生はごまんと居るわよ。私はずっとここで停滞しているの。こんな風にお茶会を開いて、常に情報を得ているけど胸の踊るような情報なんてとんと見かけないのよ。これがここでの暮らし……幻滅した?」
彼女の瞳からは諦めの色が見て取れた。
きっと僕の想像を絶するほどの時をここで過ごしていることは想像に難くない。だから僕はそれを肯定しない。
それでも道を探そうとする姿は、何もできないで泣きわめく僕よりも素晴らしいものだから。
「それでも、僕はゼエルさんを尊敬します」
「ありがとう、貴女はいい子ねユージェリア」
「てへへ」
「そうやって素直に受け取るところも愛らしいわ。ね、さっきの続きしない?」
「僕なんかで良ければ」
彼女の差し出した手を受け取り、僕は湯から上がる。
火照った肌を冷ますように、僕たちは違う部屋へと足を踏み入れる。
そこには大きなベッドと、天井のない空間。
見上げると星々が輝き、どこからか流れ込んできた風が、肌に触れて心地よかった。
「おいで、気持ちよくしてあげるから」
僕は彼女の手招きに呼び寄せられ、湯上りで火照った肌をさらに赤くすることになった。