ジャラジャラと音が聞こえる。その度に竦み上がる私に、小さな笑い声が落とされて、深くまで穿かれる。
「ん……ぁ……」
「ナミは、どうしたら俺を見るんだろうね?」
「も、や……ぁ!」
「どの立場にして貰いたいか、早く答えを出さねェと、つらくなるのはナミだよ」
何日、こうして抱かれ続けているのか。どうして、こんな事になっているのか……。
私の意識はこの人に会ったあの日に戻る。体は相変わらず揺さぶられ、貫かれ続けているけれども。
いつもの様に私はアーロンの元を出発しようとしていた。その時、見慣れない1隻の船を見付けたのが全ての始まり。
小さ過ぎて気付かれなかったのか、私が居たから警戒が緩かったのか、船はゴザの街近くに泊められていて、中から和服姿の人が降りて来た。その姿にもしかしてと思うけど、同時に流石にあり得ないわよねとも思う。
だって、相手は新世界の四皇を支える隊長の1人なのだから。でも、あの姿は……。
「……何か、用でもあるのかい?」
「そうね、用といえば用かも知れないわ」
ずっと見ていたからか声をかけられてしまい、私はアーロン1味の幹部として返事をする事にした。何処に監視の目があるかも分からないのだから、他には選択肢が無かったとも言えるけれど……。
アーロン達に不審に思われたら、全てが終わる。私は……守る対象をもう定めてしまった。
どれ程他の人に憎まれても、呪われても構わないと思っているの。それが他の人を見殺しにする事を決断した、私の背負うべき罪。
「ここはウチの縄張りよ。白髭海賊団のイゾウさん。早々にお引き取り願いたいわ」
「……ウチのってこたァ……お前ェさん、海賊かい?」
「えぇ、私はここを縄張りにしているアーロン1味の幹部。それとも……ウチと1戦交えるつもり?」
強気に笑って見せれば、ほぉと言ってイゾウさんは笑った。艶やかな笑みでありながら、決して笑っていないその瞳に見定められていると分かる。
その次の瞬間に放たれた銃弾。それを覇気のおかげで躱せた私は余裕の笑みで、どういうつもり?と声を掛ける。
「……東の海程度だから、今ので倒せると思ったんだが……甘かったか。幹部は全員お前ェさん程度の実力はあるのかい?」
「教えると、思うの?」
「……あ!魔女だ!なんでお前がこんな所にいるんだよ!……この、裏切り者ー!!」
突然割って入った声に、私は1瞬意識をそちらへ向けてしまった。格上の人間が目の前に居るのに。
即座に間合いを詰められて、私は慌てて繰り出される攻撃を躱して行く。躱す事しか出来ないけれど、何とかしないと……!
「裏切り者、ねェ……。こんなにも優しい瞳をした裏切り者がいて、たまるかって言ってやんな」
「……なんの、話かしら?」
「お前ェさんだね、ウチのサッチを助ける手紙を出したのは」
言いながらイゾウさんは銃を構える。でも、その銃口の先に向けられているのは……!
私は咄嗟に、ゴザの村に住んでいるのであろう少年の元へ駆け出す。動けなくなっている少年に、いいえ例え動けたとしても銃弾を躱せだなんて無理がある!
だってこのままだと、少年の眉間に撃ち込まれる!
少年を抱えて転がるようにそれを躱せば、イゾウさんはニッコリと笑顔のお手本のように笑い、庇う時に左足を撃たれた私にゆっくりと歩み寄って来た。その時腕の中にいる少年が泣き出す。
「どうして、婆ちゃんが死なないといけなかったんだ……!このっ……人殺し!」
「それ、アーロン達に言ってないでしょうね?そんな事を言えば、村ごと消されるわよ」
私の言葉に少年はビクリと肩を揺らして、私を怯えたように見た。1見して弱そうな私だから、つい口に出ただけならば良いけど……アーロンの機嫌が悪い時に言えば、本当に消されてしまう。
「魚人海賊団の誰かが殺した訳じゃないわ。勝手に死んだ癖に人のせいにしないでよね。……弱い上に金もない。生きてる意味なんて無いじゃない」
アーロン達の言葉を真似ただけ。でも、それを言葉にする度に私の心から何かが削られて行くような気がする。
そんな私に声がかかり、イゾウさんの存在を思い出す。格上の人がそばに居るのに、注意力散漫にも程があるわ。
「これで……もう、逃げられねェな。さて、お嬢さん……?返事を聞かせて貰おうか」
私は少年を突き飛ばすように解放して、イゾウさんを見たままで声を出す。この場に残しては、私の実力を思えばどうあっても助けられない。
「逃げなさい!戦いの邪魔よ!これ以上私の邪魔になって、アーロンに消されたいの!?」
私の言葉に少年は駆け出す。その気配が遠のいて、内心でホッとしつつイゾウさんに勝てる筈もないかと力を抜く。
「手紙は書きました。けれども、それが役立ったのかは分かりませんし、単なるラブレターを出したつもりです。どなたかとお間違いでは?」
「……助けてやろうかと思ってるんだが、どうだい?」
「え?」
「見事な悪役ぶりに惚れ惚れしそうだが……調べてから来た。そうでなくて、お前ェさんを1目見て手紙の送り主と分かる筈もねェだろうに」
「何を……」
「子供に言葉を向けている時、瞳が泣いていたよ。お嬢さんは、相当な子供好きだね?」
イゾウさんの言葉に動揺している間に、私は当身をされて意識を失った。次に目覚めた時には、知らない部屋にいて、揺れている様子から船の中だと分かる。
痛みも不快感も無いから、どうやらイゾウさんは体術に長けてるらしいと知る。けれどもそれが分かっても、なんにもならないわねと立ち上がろうとした所で、自分の姿に悲鳴を上げそうになった。
赤い浴衣だけを素肌の上に羽織っていて、両足首と手首には枷が嵌められている。その上で浴衣を留める紐のひとつも無い。
鎖は海楼石で作られているようで、能力者であれば力を奪われてしまうだろうし、能力者でなくとも解放されるには鍵が必要だと分かる。それなりの長さは有るけれど、動くと鳴るジャラジャラと言う音に、身が竦む。
足に撃ち込まれた銃弾はあの時貫通したのを確認しているけど、どうやら手当してもらったようで、私はその包帯を解いて腰紐として利用する。当然ガーゼだけでは落ちてしまうし良くないのは分かるけど、この姿の方が宜しくない。
私の武器は、何処?
私の荷物と服は?
部屋の中を見て、和風な雰囲気の部屋だと思う。ベッドだけど布団だしと思って、でも何より情報が足りない。
見聞色の覇気で周りの状態を確認しようとしたら、ドアが開いた。そこに姿を見せたのは麗人。
「起きたか。手荒な事をして悪かったね。魚人海賊団は締め上げて、ジンベエ親分に引渡した。その戦利品として、お前ェさんを貰い受けたが……何か言いたい事は?」
「……魚人海賊団が、もう、無いの?」
「嗚呼、無いよ」
「あ……」
終わったのだと唐突に理解して、私は今まで張り詰めていた全てから開放されたような気がした。これでもう、私は他に求めるものなんてない。
もう、充分だわ。そう思ったら安らいだような気持ちになり、私は自然と笑みが浮かぶのが自分で分かった。
「あり、がとう、ございます。もう、思い残す事はありません。どう始末して頂いても、構いません」
「始末って……」
「私は幹部でした。そして、ここは敵船。私は懸賞金も掛けられておりませんので、インペルダウンに送られるとは思えません。……そうなると、始末されるのでしょう?」
私の言葉にイゾウさんは、そんなつもりなら運んで来たりしねェさと言うと、私を今まで寝かされていた布団に押し倒して来た。へ?と思ったらイゾウさんが包帯を腰紐にしてる事に気付いて嫌そうに眉を寄せた。
「跡が遺ったらどうするつもりだね。勝手な事はするもんじゃねェよ」
「イゾウさん?」
跡が残る以前に私は殺されるんじゃないの?
そう思って見ると、この状態で理解しないとは思わなかったと言って呆れたような顔をしてから……腰紐にしていた包帯を奪われる。そして、私の足の傷を見て、薬を塗り直してくれる。
手馴れた様子に、もしや船医さんなのかと思ったけど、違うと何も言う前に言われて新しい包帯を巻き付けられた。そのしなやかな指先は、器用に動いて私を丁寧に扱ってくれているのだと分かる。
「お前ェさんは俺の戦利品さね。この部屋から1生出すつもりはねェから、それは覚悟しときな」
「どういう……?」
「ペットか、奴隷か、恋人か、どれになるかは……お前ェさん次第だよ」
そう言ってイゾウさんは私の腕を鎖を用いて上に固定してしまう。少し動くと鎖の動く音が聞こえて、体が恐怖で震える。
そして、人形としてただ抱かれるか、奴隷として奉仕するか、抵抗でもなんでもしていい代わりに、人間語を喋るのを辞めるか。イゾウさんの居ない間は好きに過ごせる代わりに、いる間は従順にして過ごす恋人となるかと問われた。
それに対して思わず殺してと言ったのは、ナミちゃんの体を傷つけたくなかったからに他ならない。或いは、プライドの問題なのかも知れないけれど。
もう、守るべき人は居ない。皆が助かった今、もう私に生きている意味なんて無い。
それならば、これ以上この肉体を傷付ける権利を、私は持たない。この世界に私はもう、未練なんてない。
「決まる迄は、戦利品としてただ扱ってやるよ。可愛く鳴きな」
そうして、冒頭に繋がる。私はただ、何日も何日も、抱かれ続けているのだ。
「イゾ……さ……」
「よく鳴く小鳥だ。抵抗もするから、ペットか奴隷になりそうだな」
「や……もう、やめ……」
「奴隷なら調教してやるから、奴隷にしてくださいって言ってみな」
「や……!」
繋がれてさえいなければ、武器があったなら……。そう思った時、イゾウさんの顔が目の前に映り込んだ。
そして、ニッコリと笑う。お手本のように笑うそれが、笑っているのではない事も、その瞳が笑っていない事も理解している。
「やだ!もう、や!助けてっ!シャンクスッベッ……」
その瞬間、私の意識は暗転した。けれどもその意識が落ちる直前に、苦しそうな声で何故俺を見ないとイゾウさんが言っているのを聞いた気がしたのは気の所為だろうか。
私の意識がない間に、イゾウさんは私の手当等を行ってくれるようで、その他食事も用意してくれている。いつも忙しいのか、部屋にいる時間はそれ程多くは無くて、鎖の為に部屋からは出られないけれど、ある程度室内ならば移動出来るようにしてくれている。
彼は、何をしたいのか。私に何を求めているのか。
私が死を願った時、そして、誰かに助けを求めた時、彼は強行に及ぶ。食事には何も仕込まれていた事は無く、部屋の隅に三味線が置かれているのに気付いて触っていた時も、怒るような事は無かった。
それどころか嬉しそうに笑っていて……。
「ベルメールさん、ノジコ……。シャンクス、ベック……。帰りたい、な……」
「……1生、ここから出すつもりはねェと、教えなかったかい?」
いつの間に帰っていたのか、その声にビクリと体が震える。こんなの嫌、私はただベルメールさんやノジコの元で蜜柑育てて、1緒に歌って……新聞でシャンクス達が元気なのを確認して、そんな生活をしていたいだけなのに。
「……私を、どうしたいの?」
「俺の女に、自分からなってもらいたいね」
「意味が、分からないわ。私は……「高過ぎる能力故に魚人海賊団に囚われていた、家族思いの優しい女の子」」
言葉を遮られて驚いて視線を向ければイゾウさんは私のいる位置から少し離れた所に腰を下ろして、歌うように言葉を紡ぐ。それは、どうやら私の事を語っているらしい。
「家族で育てた蜜柑を元に、洗剤を作っては売り、姉妹揃って村人の側で演奏会を開く。そんな穏やかな日常を破壊されそうになった時、海に出ていた間に身に付けた戦闘技術でそれと戦い、けれども村人を庇い敗北。その後村人を守る為その身を犠牲にした」
「そんな、立派なものじゃないわ。私はただ、大切な人を護りたかっただけ。それが叶った今、私はもう……」
「ナミ……お前ェさんが家族の元に帰れば、何度となく同じ事が繰り返されるだろう。ならば、ここにいた方が良い」
「私が原因でそれが繰り返されるなら、私は存在しない方が良いに決まって……っ」
言葉の途中で、イゾウさんが私をベッドに放り投げて覆い被さって来た。そして、前座さえ無く押し込まれた雄に体は悲鳴をあげる。
そうしておきながら、イゾウさんはいつも苦しそうな顔をする。何が目的なのか分からなくて、私はそれに対してどう反応したらいいのか分からない。
「っ……や、め……!」
「どうせすぐに濡れる。そんなに死にたいなら、俺にやり殺されたら良いさ」
「ど……して……?」
「ん?」
そんな言葉を口にしながら、どうしてイゾウさんが苦しそうなの?
どうして、私を治療して生かそうとするの?
どうして……。
「イゾウさんが、泣いてるの?」
「俺が……泣いてる……?」
「気付いて、無いの?」
だから、憎めない。だから、拒めない。
武器があったら、どうだろうと考えて、でもきっと攻撃は出来ないだろうと思う。武器で防御しかしない私に、シャンクスとベックは呆れていたけど……ダイナマイトだって、人を殺す為に使う事もできるけれど、山を崩して道を作り、人の役にたてる道具でもある。
野菜や肉を切り、健康に生きるのを支える包丁も、人を突き刺し切り殺す道具に出来るように、武器だって攻撃に使わなければいけないなんて決まりは無い。私は、もう誰にも……傷ついて欲しくはないのよ。
「どうして、こんな事するの?」
私が窓を開けて潮風に当たりながら寝ていたら、上着を掛けてそっと出て行った事があった。歌っていたら、知らない歌だと言いながら楽しそうに聞いてくれていた。
本を手にしていれば、次に来た時には、その本の続きを持ってきてくれた。ただ、私を苦しめたいって人の行動じゃないと分かるから……だから、分からない。
「私は、言って貰わないと分からないわ。イゾウさんは、私に「何度も言ってるだろうに、莫迦な子だ。俺は……ナミに生きて、俺の事を愛して欲しい」」
……本当に意味が、分からないわ。
そう思った時、イゾウさんが動き出した。それに体は反応してしまう。
「体は素直に堕ちてくれたってのに……その心は、俺を見ない。生きようとしない。ナミ……俺の女になりな」
「っ……!イゾ、さ」
首を横に振り、私は抵抗する。私には、もう存在する理由は無いけど、こんな扱い方される謂れもない。
そう思って睨み付ければ、イゾウさんは切なそうに見詰めてくる。それにより睨み続ける事さえ出来はしない。
理由も分からず、突然襲われる事を繰り返して、私の身と心は多分疲れ果てている。だからいつもの様に、助けを求めて、今日も意識を奪われるのだろう。
そう思って瞳を閉ざそうとしたらイゾウさんの顔が私を覗き込み、弱い所を狙って攻めてくる。それにより体が反応すれば、耳元で俺を見ろと囁かれる。
「ぅ……んゃ!あっ」
「ナミを抱いてるのは、誰だね?」
「イゾウ、さ……も、やァ!そこ、やめっ……!」
「抵抗する事を、許した覚えは無いよ。俺を、求めな、ナミ……」
甘い声が聞こえて、体には刺激が与えられ続けて、私は悲鳴をあげる。その合間にイゾウさんが泣いている事に気付いてしまい、混乱する。
鎖の音が心を押さえ付けて、鎖その物が肉体を押さえて、でも何よりも私を犯しながら泣く姿がどうにもならない程に、心配になる。泣いたり苦しむくらいならば、私なんかに触れなければいいのに……。
閉じ込める事を守る事だと思い、伝えるべき言葉の代わりに犯すばかりの男は、女が他愛ない事で心を開こうとしている事に気付かない。魚人により凍り付いて、頑丈に閉ざされていた心の鍵は、既に破壊されているというのに……。
女が生きるのを拒む理由を知らない男には、自分を拒絶されているようにしか映らない。真実はただ、自分を呪っている女が自分自身を拒絶しているに過ぎないというのに。
この2人がいつか、心を通わせられるのかは、ご想像にお任せしようと思う。